2014年2月23日日曜日

ウォルター・デ・ラ・メア/死者の誘い

イギリスの作家による恐怖小説。
原題は「The Return」で1910年に出版された。エドモン・ポリニャック賞という賞を受賞したとこのこと。本邦では東京創元社から1984年に翻訳の上出版されたが、長らく絶版になっていたのが昨年の復刊フェアの一環で久方ぶりに重版されたそうな。
私は何となく怪奇・恐怖小説のアンソロジーを読んでいてそれの解説や南下で名前は知っていたのだが、作品を読んだことはなかったのでこれは良い機会と思って買ったのだった。ちなみに本書の読みは「ししゃのいざない」である。

1900年頃、イングランドの郊外に住むアーサー・ローフォードは長らく患っていたインフルエンザからようやっと回復しかけたある日、散歩先で出くわしたとある曰く付きの墓の前で意識を失う。目を覚ました彼はなぜか力がわいたような心持ちで帰路につくが、自宅の鏡を見ると自分の相貌が以前のものと全く違っていることに気づき愕然とする。
彼の変身により家庭内では不和が起こり、孤独感を募らせるローフォードは件の墓の近くに住む不思議な男とその妹と出会う。彼らは墓に葬られたフランス人とローフォードの顔の相似を指摘して…

古典的なホラーといえば勿論イギリスなのである。この本には幽霊が出てくるし、主人公の中年男ローフォードは昔の放蕩的な人物が乗り移ったのでは?という話の筋だから幽霊話かと思ってしまうのだが、最後まで読んでみるとこれは一種典型的なゴーストストーリーとは大分趣を異にしている。
まず悪意を持った過去に死んでいる魂が生者に影響を及ぼそうとしていると、とらえることが出来るが、じゃあ十字架や祈祷や怪しい科学装置で除霊をしようということにはならないのである。この本はどちらかというと急に顔が変わってしまった(もしくはそう思っている)男について丁寧に描写するのである。彼の生活もいえるのだが。そう考えるとこれはかなりリアリティをもった作品ともいえる。何しろ外見が全く違ったものになってしまったら、いくら親しい人でもその人だろうと始めに認識するのは不可能だし、その後一応身の証を立てたとて、例えば詐欺師のような人物にたばかられているのではという疑念を打ち消すのはそれなりに難しいのではないだろうか。
主人公ローフォードは結婚していて娘もいるんだけど、やっぱりこの変身に伴って家族との間に軋轢が生じ、孤立感を強めていく。つまり彼は二重の不幸に襲われる訳である。
なんだかこの構図言わずと知れたカフカの名作「変身」を思わせるではないか。姿が変わったばかりに家族から疎まれ(家族は本人だということを認めて入るものの)、次第に孤立していて悲劇を迎えるのである。
本書はシュールさは無縁だが、なんだか霧の中を手探りで歩いているようなそんな頼りのなさ、不安定さに横溢している。
読み手としても当初は悪霊でもってひどい目にあったんだろうと思って読み進める訳であるが、段々とそれがわからなくなってくる。本当は主人公は知らずのうちに狂気に落ちっているのではないかと不安になってくる。いわば主人公の体験をリアルに再体験するような不安感に満ちた読書になってくる訳で、これはなかなか恐い体験である。どんなに恐い物語でも文字とそれの読み手では大変な隔たりがあって、ある意味安心して読めるのだが、この本はページからうっすら手が伸びてきて襟首をぐっとつかまれるような、そんな恐さがある。

地の文はあくまでも丁寧に書かれており、上品ともいえる文体だが特に会話の分ではかなり観念的・抽象的に繰り広げられるものだからなかなか読むのに骨を折った。
恐いのは間違いなく恐い。恐ろしいといっても過言ではない。ただし幽霊がバーン!主人公ドーン!十字架でバーン!という明快さは皆無なので、ご注意を。
マニアックなイギリスの怪談の心髄に触れたいという貴方には文句なしにオススメの一冊。

2014年2月16日日曜日

仁賀克雄編・訳/新・幻想と怪奇

タイトル通り海外の幻想・怪奇小説を集めた本邦オリジナルの短編集。
ページの枠が黄色いことに定評のあるハヤカワ・ミステリ。
元々は1956年に出版された都筑道夫さん編集の「幻想と怪奇」シリーズがあって、その後1975年から「幻想と怪奇」が本書の編集者によって3巻刊行(調べたら現在では絶版のよう。)された。その続き物が今作ということになるようだ。ちなみに紀田順一郎さんと荒俣宏さんの同じ題名の雑誌があったようだが、そちらとの関係は不明です。

全部で264ページに短編が17収められている。平均して16ページ弱だから、短編集といってもショートショートを読んでいるような感じで不思議な話がサクサクでてきて紙芝居を見ているような趣があった。

中でも私が個人的に気に入ったのが、
子供の妄想遊びを見事に怪談にしたゼナ・ヘンダースン「闇が遊びにやってきた」。その怪談への移行ぶりグラデーション状に連続していて大人の立場で余裕かましているとぞっとする恐さがある。アイテムの使い方とかちょっとキングに通じるところがあると思った。
世界に自分しかいないのでは?とたまに思えることがあるけどそのありがちな閃きを巧みに小説にしたリチャード・ウィルソン「ひとけのない道路」。さらにひと味加えて何ともいえない暖かい渋みを加えているところがすごい。
ウィリアム・テン「奇妙なテナント」は明らかに人間じゃない2人組?が存在しない13階を借りにくる話。途中までは喜劇の赴きすらあるが、最後の恐ろしさがよい。
ゴシックの正統を受け継ぐようなマンリー・ウェイド・ウェルマン「悪魔を侮るな」。地元の民が忌避する怪しい洋館にたどり着いたナチの傲慢な将軍が泊まるというのだからただ事ですむはずがない。
ローズマリー・ティンパリーの「レイチェルとサイモン」は何となく恐いというよりは悲しいような作品。淡々とした日常の描写が秀逸。空気感という感じでしょうか。

この間紹介した「シルヴァー・スクリーム」収録のロバート・ブロックの「女優魂」が「スクリーンの陰に」という題名で収録されていてちょっと面白かった。やっぱり名作みたい。この作品以外は全部初めて読む作品でした。

仁賀さんも後書きで書いているし、たしかほかの本でも読んだのだが、ホラーというのはやはりその性質上短編に向くという考え方があって、私も長編のホラーはつまらないとは全然思わないけど、やはりホラーの短編は抜群に面白い。
読んだ後に余韻に浸れるような感じがあると最高だし、ホラーの恐さというのは結構道の恐さに結びついていることが多いから、ツラツラと小説中の謎について思いを馳せるのも良い。

ホラーといっても刃物から血が滴り、内蔵が散乱するような露悪的な描写の作品は恐らく意図的に含まれていない。(何編かグロテスクな描写はありますが。)上品というのではないけど、すっと読めるのに質で勝負するような作品が収められているのでホラーマニアは勿論、短編小説好きの人も是非どうぞ。

下山/DECO-凸-

日本のロックバンドの2ndアルバム。
2014年にツクモガミからリリースされました。

それなりにCDやら何やらを買っていて、気がつくと結果的に苦手なジャンルがある訳です。特に嫌いという訳でないけどちょっと苦手意識があるというか。まあいくら暇人でも世界で今リリースされているすべてのジャンルを聞き通すことは難しいでしょうから、ある種仕方のないことなのでしょうが。
この下山というバンドは今は東京で活動しているそうですが、元は大阪で2009年に結成されたバンドのようです。4人組。
色目が派手で奇抜な格好、大阪出身、若さが爆発したかのような勢いがあるアバンギャルドな音楽性、一つ一つの要素は問題ないのですが全部そろうと、「これはある種のバンドだぞ…」と私の中で警戒心がその鎌首をもたげるのでした。
デーモン小暮閣下も「メタルは様式美!」とおっしゃっておりましたから、日和見で保守的な(←こちらの形容詞は私にかかります。)メタルを好む私としてはちょっとこれは(自分の中での勝手な)抵抗があるわけで。この下山というのもその適当なんだか意味があるんだか分からない奇抜なバンド名とともに以前から目にしていたのですが、恐いもの見たさでとあるサイトのインタビューなんかを読んでみると、最後にやはりyoutubeの動画が埋め込んでいる訳で、それはまあやはり恐いもの見たさで視聴してみる訳です。「ああ、やっぱり苦手だな」という安心感とともにそっとブラウザを閉じるはずでした。

カエルをぎゅっとつぶしたような独特の声、軽いものの良く跳ねるドラム。ぶーぶーわめくようなベース。そして明らかに弾き過ぎでノイジーなギター。
あ、これ結構格好いい。大分長くなる訳ですが、私はそうしてこのCDを買ったのでした。

完全に先入観を持っていたものに逆にやられてしまった訳であります。これは恥ずかしい。けど結構楽しい経験でもあります。私は軽薄な音楽愛好者なので結構恥知らずなもんです。

日本のロックバンドはあまり五月蝿くないなあと思っているいかにも洋楽至上主義者な私ですが、このバンドは兎に角ギターが竜巻のようにやかましく、そいつが曲が始まったとたんに走り出して無理矢理曲を引っ張っていくような、そんなイメージ。
躁病になったブラックメタル然としたトレモロさもちょっとあって、どう考えても憂いのあるブラックゲイザーには聴こえない、いかにもやさぐれた感じが我が道を往く謙虚さのように感じられて個人的にはグッドでした。へ
そしてあくまでもメロディラインはポップといって良いほどのキャッチーさがあるところも逆に好感が持てたり。一秒後には何をしているのか予測つかない暴走するカオスさもあってまあよくもまあキメラのように2つの要素をくっつけたものだと感心。

若さだなと一言で片付けるのはちょっともったいないくらいのエネルギーじゃないでしょうか、これは。歌詞の意味不明さは難解ぶっているというよりは、照れくさいのかな?と感じさせるような、歪めたまっすぐさというのでしょうか。上から目線で申し訳ないのですが、それも何か好感が持ててよし。
前にもどれかの記事で書いたけど、俺たちこう思ってますけどをこうストレートに持ってこられるとこちらとしても居住まいを正してそれじゃあ聴かせていただきます、という(私の勝手な)やり取りがあって、なんだか良いものですね。

というわけで私は完全にやられてしまったCD。
格好いいので視聴位したって良いと思うのよ、私は。

2014年2月11日火曜日

コーマック・マッカーシー/すべての美しい馬

いまやアメリカ文学界の巨匠コーマック・マッカーシーの小説。
原題は「All Pretty Horses」で1992年に発表され全米図書賞、全米批評家協会賞を受賞。どうにもマッカーシーはこの本が一躍ベストセラーになって初めて評価されたような趣もあるそうな。いまでは売れっ子ですけどね。

このブログでも紹介しましたが、私はおなじ著者の「血と暴力の国」と「ザ・ロード」を読んで多いに感銘を受けたものです。自然にじゃあ次も何かということになり、私にマッカーシーをお勧めしてくれた知人のオススメも前述の2冊に本書を加えた3冊でしたし、加えてこの本は著者の国境三部作の始めの1冊ですから、まあこの本だろうということになったのですが、紹介を読むと青春小説と書いてあるので正直ちょっと躊躇したようなところもありました。というのも私はどちらかというとやたらと血が流れるような小説が好きな反面、恋愛小説や青春小説というジャンルに関してはからきしだからで。まあそれでもえいやと場仮に手に取ってみた訳です。

1949年テキサス。実家の農場が人手に渡ることなったジョン・グレイディ・コールは友人のロリンズと一緒に馬に乗ってメキシコに渡る。とある農場で馬の調教師となったコールは牧場主の娘と恋に落ちるが…

今作は主人公は16歳だからおじさんが主人公の前述の2作とはやはり趣がかなり異なる。
マッカーシーのことだから恋と馬の青春小説といってもかなり辛い風味があるのは予想できるのだが、やっぱりちょっと時間の進み方がゆっくりしていると思う。
おじさん2人はともに何かに追われていたり、追われるように移動し続けていたからそこら編もあって読み手側の意識もあると思うんだけど。ジョン・グレイディは要するに家出をしてきた訳だけど、父親は弱っているし母親は別に暮らして兄弟もいない。だから探してくれる人もいない訳で、ただただ馬と暮らしたいという素直な欲求に従って、そういう生活が送れるユートピアとしてメキシコの農場を目指して(命がけではあるんだけど)結構のんびり旅をしていく。
砂漠を馬に乗って進んでいき、夜は満点の星空の下で眠る。この描写の何とすばらしいことか。この本では兎に角マッカーシーの自然の描写が冴えに冴えまくる。決して饒舌な描写ではないし、むしろ句点を極端に省いた独特の書き方でもってちょっと所見では戸惑うくらいなのだが、そのぽつりぽつりと紡がれる言葉たちが頭の中で作り上げる景色のなんと美しいことか。特に最後の方でジョン・グレイディが牝鹿を仕留めるシーンはこの本の中でも個人的には白眉で、あまりのもの凄さに会社に向かうバスの中で震えが走ったほど。人生の美しさや過酷さとそれに翻弄される人間の姿を直接書くことなく、怜悧な自然の描写の中に封じ込めたような、と書けば少しはわかってもらえるだろうか。感動のあまり全くもって私はバスを飛び出し、道行く人々にこの本をぶん投げてやろうかと思った。まさしく読書の醍醐味ですね。

この妙に突き放したような語り口は時に物語そのものからも遊離するように、中盤以降ジョン・グレイディは並々ならぬ危険の渦中に放り込まれたそのときでも、その速度とリズムを変えることなくマイペースに描写し続けるものだから。恐ろしい出来事をすらっと書いてしまう訳だから。この語り口はそうだ。物事をそのまま書き出そうという著者の試みの現れなのかもしれない。
まるでこの人生を本当に一部だけ切り出して本にしたかのような、その重さと凄絶さは一体どうしたことか。言葉にできないのは人生が一言や二言では言い切れないからに他ならない。たった500ページ弱に人生が集約できる訳ではないから、やっぱり多分にデフォルメされているに違いないのに、そんなこと全く感じさせないコーマック・マッカーシーという作家はやはりただ者ではないと思った。

こんなブログを読んでいる場合ではない。早く本屋に行くのです。というくらいに良い本。

Nails/Abandon All Life

アメリカはカリフォルニア州のクラストコアバンドの2ndアルバム。
2013年にSouthern Lordからリリースされた。

この間のライブを見てあまりの格好よさにガツンとやられてアルバムを買いました。
このバンドはドラムがハードコアバンドTwitching Tonguesの兄弟のギターの方。ボーカルはかつてハードコアバンドTerrorに在籍していたとか。やはりハードコアが由来にあるバンドみたいですね。ベースの人はいつも上半身裸なのかな。

「人生全部捨てろ!」という過激なタイトルを関した本作は全10曲を17分(wikiによるとかれらの音源では一番録音時間が長いらしいけど)で駆け抜けるまさに暴力と暴走とノイズに満ちた恐ろしいアルバム。
プロデューサーはConvergeのギタリストKurt Ballouで彼のスタジオGodcity Recording Studioで2012年末から2013年頭にかけて録音されました。
兎に角ざらついた音質で構成された攻撃的な音質で地はクラストコアなんだろうが、ドラムに関しては結構ブラストビートも叩いてます。というか叩きまくりなんだが一撃がおもいのなんの。複雑な叩き方はしてないんですが、単純に叩いているだけでこんなに気持ちよいなんてスゲエな。やっぱり力が強いからだろうか。
ベースはもう顔が恐いという印象しかないんだけど、こっちも音がでかい。音質は粗いんだけど分離が良くて結構ドゥーミーなパートだと微妙に震えている余韻が何ともいえず格好いいぜ。
ギターは選任とボーカルの兼務の2本。なんといっても粒の粗いハードコアな音でバンドの最大の特徴ではないでしょうか。酒ヤケしたようなやけっぱちなざらつき具合で、ライブでは音が分厚くつぶれていてそれはそれですごかったけど、CDだと結構リフの区別がつきますね。タメのあるメタリックなフレーズからの爆速がたまらん。
ボーカルは血管ちぎれそうに叫ぶようなのとメタルいどすの利いた声の2種類を使い分けていますね。CDはライブより叫び声の成分が多めのような気がします。
基本は1分内くらいで突っ走りまくるのでこっちとしてはうぉおおと聴いていれば良いだけの簡単なお仕事なのですが、曲によっては3分とか5分とかで反復するドゥームパートをいれてきてこれが気持ちよい〜。なんというかこのハードコアの枠でくくりきれない嫌らしさがあります。鈍器のように叩き付けるフレーズと被さってくるフィードバックノイズで夢見心地間違いなし。こういうパートでライブで頭を振るのはこの上なく楽しかったですね。

暴力的な音楽性ですが、ストレートな中にも強烈なフックを紛れ込ませた傑作。
これはオススメですよ。

Cynic/Carbon Based Anatomy+Re-Traced

アメリカはフロリダ州のプログレッシブメタルバンドのEPを2つあわせた日本独自の編集版。
2011年にマーキー・インコーポレイティド株式会社からリリースされたようです。

Cynicはシニカルのシニックで意味は皮肉屋という意味だそうな。
その名の通りちょっと変わった経歴を持つバンドで1987年に結成。1993年に出したアルバム「Focus」はプログレッシブかつテクニカルなデスメタルというジャンルでは金字塔のような存在でその後のエクストリームミュージック界に多大な影響を与えたそうです。
その後解散や劇的な再結成(今回紹介するCDのライナーノーツによると離れていたメンバーが同じような夢を見たりしたんだそうです。)がありつつもコンスタントにアルバムを発表し続けております。ちなみに2014年2月中には新しいアルバムが発売予定。名前を聞いたことのある私は気になってとりあえずこの編集版を買ったという訳です。
2枚組で「Re-Traced」の方は彼らの2ndアルバム「Traced in Air」の曲を再構成してさらに新曲を1つ追加したもの。「Carbon Based Anatomy」の方は純粋な新曲を6つ収めたEPです。時期的には前者が2010年、後者が2011年にリリース。

まずかつてはデスメタルバンドでしたが、今作ではほとんどその要素はありません。
かなり透明感のあるプログレッシブなポストロックというのが分かりやすい音楽性の説明になるかも。
例えばブラストビートだったり、デスボイスもありません。基本ギターの音はミドルを強調した聴きやすいもので声はほとんどクリーンが主体。ボコーダーで有名なバンドらしく、結構ぼやぼやした独特のエフェクトはかけてますがメタルの禍々しさはないですね。
ジャズの影響はまだデスメタル前回であったころからあったようなのですが、今作でも結構聴いてとれます。ベースはかなりファットなブォンボコボコとしたような独特の千切れるような間がある弾き方でなるほどジャズっぽいかも?(私ほとんどジャズ知らないので結構間違っているかもしれません。)と思います。メタル基本突き進む音楽ですが、ちょっと独特の間があるんですよね。それもちょっとジャズっぽいと思いました。
アコースティックギターや民族音楽のリズム、女性のボーカルを大胆に取り入れているところはまさにプログレッシブの王道を行く感じで良いですね。とはいえ1曲の尺が長過ぎる訳ではないので難解な印象はあまりないです。すっと耳に入ってくるくせに、よくよく聴くとかなり凝ったことをしているんじゃないでしょうか。
個人的には本当にたまに歪んだギターのリフが挿入されていたりするところにデスメタルの余韻を感じられて面白いと思いましたね。

かつてはデスみたいな過激な音楽をやっていて現在はかなり透明度の高いロックを演奏しているというとAnathemaがぱっと思い浮かぶんですけど、こっちの方が皮肉屋だけあってちょっと一筋縄では行かない学者めいたところがあるという印象。向こうは光に向かっていくようなひたむきさがあるけど、こっちはちょっと謎めいた部分があるというか。
Anathema好きな人には聴き比べてもらいたいところ。

また日本版ということで歌詞の和訳がついているのですが、かなり独特というかこちらも結構難解で詩的なものになっているようです。哲学的というのか。解読するのもの面白いかも。

というわけでいまさら聴いてみたのですが、格好よかった。
もうすぐリリースされる新しいアルバムも買おうと決めたのでした。
まだの人は是非どーぞ。

2014年2月8日土曜日

デヴィッド・J・スカウ編/シルヴァー・スクリーム


映画といえば銀幕、つまりSilver Screenだが、その単語のお尻の2文字をちょこっとかえたのが本作。
映画にまつわるホラー短編小説を集めたアンソロジー。アメリカでは1988年に発表されたものが、2013年に邦訳されて発売された。

ホラー映画といえばそれこそ星の数ほどの作品が撮られ世に発表されてきたが、映画にまつわるホラーってそんなにたくさんありましたっけ?私もそう思ったものですが、それがあったんですね。「悪魔のいけにえ」の監督トビー・フーバーによる気分を盛り上げる前口上からはじまって、編者のスカウによるいたずら心にあふれた解説で終わるまでなんと上下2冊の中に何と19編もの映画にまつわる短編が集められている。
私は中でもクライヴ・バーカーによる「セルロイドの息子」だけは同名の短編集で読んだことがあったのですが、その他の作品についてはこの本が初めて。とはいえ面子的にはかなり豪華でホラー小説好きなら一度は読んだことのある著者も多いはず。
前述のクライヴ・バーカーはスプラッターホラー界の巨匠。「始末屋ジャック」シリーズのF・ポール・ウィルソン。クトゥルーファンには御馴染みロバート・ブロック。映画かもされた「アイ・アム・レジェンド」のリチャード・マシスン。やはりクトゥルーを書いているラムジー・キャンベルなどなど。
面白いのは映画にまつわる恐怖譚といっても結構バリエーションがあること。恐怖映画そのものをテーマにしたものもあれば、映画館で起こる怪異について書いたもの、映画作成を書いたもの。恐ろしいクリーチャーが出てくるもの。幽霊が出てくるもの。悲しい殺人。復讐など。バリエーションがかなり豊かで、飽きずに楽しめるのはやはり、編者スカウの腕によるところが多いと思う。

いくつか私の気に入った短編を紹介。
長い間エキストラをしていた老人の恋を書いた、恐いというよりはちょっと切ないノスタルジーに満ちたロバート・ブロックの「女優魂」。
暇を持て余した学生が巻き込まれた事件を描いたジョー・R・ランズデールの「ミッドナイト・ホラー・ショウ」は兎に角後半の息もつけない展開が恐ろしい。ああこの後とんでもないことが起こるぞ〜という暗い予兆満々で破滅に突き進むラストがすばらしい。
平凡なカップルが選択した非日常を描いたジェイ・シェクリー「バーゲン・シネマ」は恐いんだけどなんだか悲しい。ちょっと彼らの気持ちもわかる。
AからZまでアルファベット順にスプラッタ/ホラー映画の名作をあげながら、(ある種)破滅的な未来を描いたダグラス・E・ウィンターの「危険な話、あるいはスプラッタ小辞典」はディストピアものの趣があってよい。

最後のスカウによる後書きもすばらしい。軽薄かつ遣り過ぎなアメリカンジョークの背後にはホラー映画とホラー小説へのあふれんばかりの愛が見え隠れしていて、彼の実は真摯な人柄が伺える。
たった一つ難点をあげるとすると尾ノ上浩司さんの解説で著者に関連する作品を紹介してくれているのだけど、結構廃盤になっている作品の多いこと!これはまあ仕方ないんだけどさ…みんなもっとホラー小説を読めば良いのにねえ。
上にあげた名前に覚えがある方はきっとホラー小説がお好きでしょうから、そういう方には是非この本を手に取っていただきたいと思います。
また上質なホラーの短編集を探している方にも文句なしにオススメ。

Twitching Tongues/In Love There is No Law

アメリカはカリフォルニア州ロサンゼルスのハードコアバンドの2ndアルバム。
2013年にClosed Casket Activitiesからリリース。
私が買ったのはボーナストラックが2曲追加され、歌詞の和訳がついた日本版で、こちらは日本のAlliance Traxからリリースされています。題を邦訳すると「恋の無法地帯」だろうか…

前にも書いたけど私は彼らの1st「Sleep Therapy」を買って聴いて気に入った割には2ndの発売に気づかずスルー。先日の来日公演はなんとか見に行って、その後注文していたこのアルバムが届きました。

Twitching Tonguesはちょっと変わったバンドで基本はハードコアなんだけど、かなり大胆にメロディアスな曲作りを展開しております。メロディアスなハードコアといったらメロディックハードコア(日本ではメロコアといいますね。)なんじゃ?となる訳なんだけど、彼らはそうじゃない。メロコアというとパンク!という(私の)勝手なイメージだが、彼らはあくまでもハードコア(パンクもハードコアパンクだからちょっとおかしいのは承知なんですけど、ニュアンスの違いと思ってください。)のスタイルで独特なメロディアスさを追求しています。どちらかというと少しドゥームメタルやストーナーメタルに接近した感じというとちょっと想像できるかも。ネットで調べるとオルタナティブロックや(私はあまり納得できないんだけど)ニューメタルの影響も語られているようです。
メタルとハードコアのクロスオーバーというのはもはや当たり前のように(というかもはや一部では判別もつけられないくらい混じり合っちゃっているような気もします。)行われていて、それこそいろんなバンドがいる訳なんだけど、彼らはちょっと変わっている。ちなみにMetallumにも彼らのページがあったりします。

ドラムはメタルほど重くなく、結構ボコボコ叩くような感じでノリが良い。
ベースがギロギロうねうねしたスタイル。余韻が伸びやかでライブで聴くと格好よかった。
ギターはクリアかつ重い。リフはやはりハードコア由来でメタルよりざっくりし、より流れるような変幻自在な印象。
なんといってもボーカルが魅力的で、基本はハードコア特有の吠えるような男らしいスタイル。そこから一転して朗々と歌い上げる歌唱法も堂に入っていてよい。いかにも繊細なメロディと見事にマッチしていると思う。ちょっと特有の若さというかやんちゃさみたいな声質でとても良いね。ささやくようなスタイルも取り入れたりして結構芸達者。
またハードコア特有の男男したコーラスも聞き所の一つ。

各々のパートは文句なしに格好いいが、なんといっても独特の曲作りが最大の魅力。
メランコリックなアコースティックギターや女性のボーカルも取り入れたりしてハードコア精神を保ちつつ新しい要素をどん欲に取り入れている。一言でいうとちょっと憂いのある感じ。陰のあるメロディアスさが明快なブルータリティをもったハードコアの背後に見えるようなイメージだろうか。
ハードコア特有のマッチョさを不器用かつストイックな男性像にきれいに落とし込めていると思います。男らしさはあるけど、なんとなく腕力自慢な押し付けがましい嫌らしい感じはしないんだよね。結構内省的な雰囲気なんだけど、徹頭徹尾陰々滅々とした感じに落ち込まないのは、やはり過剰さを追求するメタルというよりはからりとしたハードコア由来だからでしょう。メランコリックなメロディも激しい曲との一体感があって、わっかりやすいメロディをつけとけば売れんだろ的な違和感はありません。

やっぱり本当格好いいバンドなんだよね。もっといろんな人に聴いてもらいたい。
といわけでとてもオススメなので、ま〜〜〜だまされたと思ってまずは聴いてみてください。

Infernal Revulsion/Infernally Revulsed

日本は東京のデスメタルバンドのEP。
2013年に日本のAlliance Traxからリリースされた。

という訳でNailsとTwitching Tonguesの来日ライブでは残念ながら遅刻して見れなかったバンドのCDを買ってみました。
うーん、なんとも恐ろしげな佇まい。元は神戸のバンドだったそうな。

音はというとこれもう容赦なしのデスメタル。メロディ皆無で重い音でブルドーザーのように突進するタイプ。
ギターはひたすら重い。鈍器かというくらい。ツインギターなのでどっしり構えた低音パートがあって、もう一方は結構にょろにょろうごめくようなフレーズを弾いたりしてとても気持ち悪い。短くキンキンしたギターソロやフィードバックノイズも良い味付け。
ベースはえげつないくらいニチニチしていてたまにひょっと顔を出すフレーズが格好いい。
ドラムはテレテレした重いバスドラの連打にデスメタル然とした軽いタム回しが非常に格好いい。
そこにボーカルが乗っかる訳だがこれがすごい。基本は兎に角低〜いグロウルなんだが、本当にもうちょっと歌ってみるのような安いコマーシャル性が全くない。一体1曲何カロリー消費しているんだというくらいの終始叫びっぱなし。超ストイックなんだが1曲1曲最後まで飽きさせずに聴かせる力を持っている。

スピードは速めが基本だが、ビートダウンというかスラムというか独特のシフトチェンジするような低速性がうまーーーく取り入れられている。ここら辺あまり詳しくないがハードコアの要素を取り入れたデスメタルバンドの系譜を継ぐようなブルータリティを感じます。うまくというのは兎に角バランスが良くてさっささっさと曲を進めていく。始めはその展開のめまぐるしさに面食らうのだが、よくよく何回も聴いていると幕の内弁当のように様々なオカズがぎっしりとつめられていてその技巧と配置のバランス感覚に驚かされる。メタルの信条はやり過ぎに他ならないが、詰め込みすぎて散漫になったら目も当てられない。そこに行くとこのバンドは濃いアイテムだけを組み合わせて統一感のある曲にまとめあげているからすごい。

思わずぐええと声が出そうな呵責のないデスメタル。
如何せん4曲では少なすぎるのでフルアルバムを座して待ちます。
日本とか海外とかでくくるのもアレなもんだけど、本邦でこんなに格好いい音をならしているバンドがいるというのは嬉しいですね。ライブ見たかったなあ。
オススメ!

2014年2月2日日曜日

NAILS/TWITCHING TONGUES/PALM/INFERNAL REVULSION 2014 Japan Tour@新宿Antiknock 1/30

Twitching Tonguesというアメリカのハードコアバンドがありまして、私は彼らの1stアルバム「Sleep Therapy」を結構楽しく聴いたものです。
そろそろニューアルバムでも出さんのかいな、とネットで調べてみるとなんととっくに2013年の暮れ頃に2ndアルバムが出てた訳です。そしてなんとアルバム発売にあわせて来日するのでないですか。それに気づいたのが1月の末。慌ててアルバムを注文したけど待てど暮らせず届かず。仕方ないのでアルバム未聴のままライブに足を運ぶことになりました。
場所は新宿Antiknock。Twitching Tonguesの2ndの日本版をリリースした日本のレーベルAlliance TraxがTwitching Tonguesと同じくアメリカのNailsを招聘し、日本からはPalm、Infernal Revulsion、Blindside、Otusというバンドが迎え撃つという布陣。
18時開演でしたが仕事のできない私が会場に着いたのが20時過ぎでなんと目当てのTwitching Tonguesがちょうど始まった頃でした。
Infernal Revulsion、Blindside、Otusは見れず、非常に残念。
やはりハードコア強めのバンドということで会場にはパーカに帽子というがっちりしたハードコアな人たち多めでビビる私。前の方にはモッシュピットが出来ており、メタルとは全く違う腕をこうぐるぐる振り回すアレや、兎に角蹴って回るようなソレが繰り広げられており恐ろしげながらも面白かったです。(後ろの方で見る私。)

まずはお目当てTwitching Tongues
(多分)初来日ということもありお客さんの入りは結構。
ドラム、ベース、ギター2人にボーカルというスタイルで、ボーカルはガッチリに革ジャンを羽織り佇まいが格好いい。痩せぎす坊主のドラムの人が両手を高く上げて叩くスタイルでなんだか微笑ましい感じ。
とはいえ演奏はタイトそのものでがっつんがっつん来るハードコア特有の演奏スタイルがライブだと映える映える。小走りで汗だくの私もすぐに体が動いちゃう気持ちの良さ。このバンドはボーカルが抜群に良くてハードコアの吠えるような歌い方からパンクバンドのようにメロディアスに疾走するスタイル、それになんといってもちょっとグルーミィに歌い上げるスタイルが見事に混合した独特の歌い方なんだけど、生で聴くとこれが格好よかった。どのスタイルにも偏ることなくオリジナリティを確立しているこの手のバンドというのはなかなかないのではなかろうか。
ちゃんと2ndアルバム聴いてから来たかったなーと思ってたのもライブの楽しさで結構どうでも良い感じ。ライブだとフィードバックノイズも多めで良かった。
アンコールを披露して終了。超絶に憂い感マックスの「Preacher Man」(これはitunesでシングル買ってた。)も聴けたし満足だけどもっと見たかった…あと英語わかればなあ、MCもちゃんとわかるのになーー。

続いては日本のPalm。
名前は知っているんだけど聴いたことなかった。
メンバーが出てきてセッティング。音出しからそのままジャムみたいになって、そこから流れるようにライブが開始。走り出てきたボーカルの人が兎に角動く動く。頭を振るのは勿論、ボーカルもすごい気迫!ステージからおりてきてもみくちゃになりながら叫びまくるその姿はなかなかの圧巻であった。
曲はハードコアをベースにいろいろぶち込んだ感じで曲の展開が滅茶苦茶めまぐるしい(それぞれ別の曲だったかもしれないが…)。疾走というか爆走は勿論、急に速度を落としてサザンロックっぽいドゥームフレーズが挿入されたりで面白かった。ギターは一人なんだけど幅が半端無くてたくさんのバリエーションがあるフレーズがぴょんぴょん飛び出してくる。お客さんも結構暴れて要所要所では一緒に歌ったり(叫んだり)で殺伐とした中にもアットホームな感じがあって楽しいライブでした。終始笑顔で叩きまくるドラムの人がなんだか良かった。

トリはアメリカのNails!
4人組だがみんな背が高い。ステージ映えする!ギターボーカルは悪そうなイケメン。ギターはほっそり長髪のどう見てもメロデスやってそうなメタラー。ベースは短い金髪でがっしり、サッカー選手みたい。ドラムは多分だけどTwitching Tonguesのギターだと思う。
ベースの人が上半身裸になってライブスタート!なんだがこれがすげえ。爆音すぎてもはやリフの区別がつかない位。ドスの利いたちょうどボーカルは金切り声とデス声を織り交ぜるようなスタイルで走りまくる。兎に角ノイジーで勢いが半端無い。かと思えば速度をがっくり落として激重い身に丸なリフを繰り返したりする。ここは流行のビートダウンと違ってもっと陰湿な感じで非常に格好よかった。
途中でギターがトラブル。Palmのギターの人も出てきて調整。ボーカルの人は「ちょっとまってね!ポカリうまいね!」となんだか微笑ましい感じ。アンコールをやって終了。すげえ格好よかった。CD買うぞ!!

というわけで結構勢いでもって未知な感じのライブに足を伸ばした訳なんだけど、楽しかったなあ。耳が痛くなるくらいのでかい音というのは気持ちのよいものですね。
半分しか見れなかったのは非常に残念。
ちなみに本日2014年2月2日が渋谷でツアーの最終日です。私は行けないんだけど、兎に角凶暴な音が聴きたいぞ!という人はいって間違いないです。

Indian/From All Purity

アメリカはイリノイ州シカゴのスラッジメタルバンドの5thアルバム。
2014年にかの有名なRelapse Recordsからリリース。
バンド名を直訳するとインド人!そんな嘘をつかないことに定評のある彼らの3年ぶりのニューアルバムである。
ちなみにギターボーカルのWillはかつてWolves in the Throne Roomにもいたそうな。一見音楽性に大分開きがあるようだけど、よくよく聴いてみるとなるほどギターの演奏方法にちょっと通じるところがあるかも。

音楽性はスラッジメタル。
ドラムはビートはゆっくりなものの結構リズミカルに手数を入れてくるタイプで、ミニマルな中にも結構面白みがある味わい深いタイプ。
ベースはこの手のバンドには多いんだけど、地味にうねるタイプ。技巧自慢で走りすぎないところが良い。
ギターはドゥームメタルというよりはスラッジ特有のリフで、砂利をさらに粉砕したようなざらざらしており密度が濃い。ハードコアというかブラックメタルのトレモロを思い切り重く、そして遅くしたような演奏スタイルでブルドーザーのように進む。
ボーカルがちょっと特徴的でデス声というよりはわめき声なんだが、極端にしゃがれていてぎゅっとつぶれたような声質。頭のおかしい老人が滅茶苦茶にわめいているような独特の不快感があってこれがまたこのバンドの迫力の一つになっている。
個人的に良かったのは兎に角ノイズ分が多め、この手のバンドはフィードバックノイズを多用することもあって、このバンドも勿論ご多分に漏れずに成分多めなのだが、さらに恐らくシンセかなにかを使っているのだと思うのだが、妙にきゅるきゅるした音やちりちりしたノイズを効果的に配置して楽器群の統制と無軌道な混沌をあえて同居させようとする意図が伺える。全7曲中1曲は完全にノイズと言っても良い地獄絵図が4分も続くあたり、にやりとしてしまう。

実は私は2011年に発表された前作「Guiltless」を買って聴いたところ格好いいけどあまり刺さらなかったんだけど、今作にはがつんとやられました。
決して派手なバンドではないんだが、狭くて昏いところに押し込められたような閉鎖性と密度、そして鬼気迫る感じがたまらない。全く光の射さない音楽性だが、地獄のような音楽を聴きたい貴方にはぴったりハマること請け合いの良作。オススメ。

この曲の後半のどっかにいっちゃったっぷりが兎に角格好いいのよ。

2014年2月1日土曜日

Ildjarn・Hate Forest/those once mighty fallen

ノルウェーのIldjarn、ウクライナのHate Forestというプリミティブブラックメタルバンドのスプリットアルバム。
2013年にOsmose Productionsからリリースされた。やけにしっかりとした厚紙のジャケットが如何にも硬派である。(固すぎてCDを出すのがムズイ。)ブラックメタルいタイトルも雰囲気十分。
なんと双方のバンドともに既に解散していて未発表音源をまとめたのがこの音源とのことです。Ildjarn(イルドジャーンと読むのかな?)は94年、Hate Forestは00〜01年くらいの音源だそうな。ちなみに私はどちらのバンドも聴いたことがなかった。

Ildjarnは91年から05年まで活動していた一人バンド。6曲収録。
これぞプリミティブという感じのシンプルながらもブラックメタルの持つ暴力性に満ち満ちたスタイル。
ポコポコ気味のドラムは早すぎずに疾走。ベースはうねるような弾き方だがたまにハードコアのようなベキベキした音を出してきたりして面白い。ギターは粒の粗いかつ密度の濃い音の作り方で兎に角ノイジー。耳に刺さるように弾きまくる。そこに不気味なシンセ音を効果的にかぶせてくる。ボーカルはイーヴィルなブラックメタルの王道スタイルで悲鳴のような声で割れたガラスのような不愉快な感じがとても良い。音質はそこまでひどくないと思う。十分聴けます。
とにかくギターの音が格好いい。ざらつきながらも半端無い密度で畳み掛けるその様はまるでうなりをあげる嵐の様だ。そこに如何にも奥ゆかしいわめき声が乗ってくるこの邪悪さがたまらん。途中で挟まれるインストも雰囲気たっぷり。

Hate Forestは95年から04年まで活動していたバンド。5曲収録。
こちらもプリミティブなブラックメタル。
ドラムは手数が多く疾走するタイプ。パララララというタム回しが気持ちよい。
ベースはぐるるるるると弾きまくりでなかなかの迫力。
ギターはIldjarnに比べるとまろやかな音質だが、やはりプリミティブに尖り、これでもかというくらいに弾きまくる。シンセの不気味な音が良い味付け。
最大の特徴はボーカルで、このバンドのボーカルはとてもドスの利いたグロウルスタイル。ボーカルだけとったらブラックというよりはデスに聴こえるんじゃないかなという堂の入りっぷりが如何にも恐ろしい。曲中にちょっと速度を落とすパートを入れてきたりして曲作りが結構凝っている印象。

ブラックメタルってちょっと久しぶりだったんだけど、やっぱり良いね。私がどちらかというと大仰なブラックよりこういった初期衝動強めの音楽性が好きなこともあると思うけど。
メタルのジャンルはたくさんあるけど、この寒々しさというのはなかなかこのジャンルでないと出せないような感じがある。
個人的には徹底的にコールドなIldjarnが気に入ったかな。
ブラックメタル好きな人には文句なしにオススメのとても良いCDです!

Storm of Void/Storm of Void

日本のインストバンドの1stEP。
2013年にSonzai Recordsからリリースされた。
新人というよりは名のあるバンドからメンバーが集って結成されたようで、メンバーは日本の激情/ポストハードコアバンドenvyのダイロク、日本のお祭りミクスチャーバンドタートルアイランドのジョージ、日本のハードコアバンドFC Fiveのトクとなっている。
どのバンドも有名なので好きな人にはたまらないんだと思うんだが、私は恥ずかしながら上記のバンドの中ではenvyしか音源を持っていないのであった。
とあるサイトで紹介されていたEPの予告動画が格好よかったので購入した次第。

音はというとレーベルの紹介の通りざっくりポストメタルといってしまって問題ないと思います。8弦ギターとベース、それにドラムというシンプルなスリーピースながらも重厚な音空間は作り出している。
envyほどアーティスティックではないが、頭にポストのつかないメタルの過剰な暴力性はない印象。中途半端というよりはバランス感覚に優れていて、気取らない素直な曲展開の中にも喜怒哀楽の一つに偏らないんだけど感情のこもった(ポストメタルというジャンルの面白みの一つにはこういうバランス感覚があると思うんだ。)緊張感を維持している。曲の長さも4分台から7分台とこのジャンルにしたら比較的コンパクトにまとめられている。
比較的手数の多いドラムは音が乾いていてよく響く。
ベースはデロデロした音で前に突出しすぎることなく縦横無尽なスタイル。
ギターは兎に角バンドの顔で変幻自在に動きまくるタイプ。
初め聴いたときはギターの饒舌さと懐の広さにいたく感心したんだけど、よく聴くとベースの音が相当気持ちよい。大人しそうに見えて実際裏の方でぬるんぬるん動いている。ベースに集中すると今度は堅実にリズムをキープしつつも手数の多いドラムが気になってくる。派手さはないのにかなり技巧的な印象でなるほどバンドとはこうあるべきなのかもというくらいのコンビネーションの良さがきらりと光る。
ちょっぴりアングラなメタルというとどうしても先鋭的になる分アクの強さが出てしまうけど、ポストメタルは感情豊かながらも結構伸びやかにジャンルを横断できるような強みがあってそれがこのバンドでは楽しめる。

ポストメタルの良さがぎゅっと濃縮されて詰まったようなとても良い出来。
如何せん3曲収録ではちと物足りないのでフルアルバムに期待。