2017年5月31日水曜日

M・R・ケアリー/パンドラの少女

イギリスの作家によるホラー小説。
単行本で出版されたのは2016年で当時からあらすじを読んで気になっていたのだがなんとなくスルー。映画化に合わせてかはわからないが単行本化したので買ってみた。

正気を失い凶暴になり、肉を求めて人間(以外の動物も)襲う、罹患者に噛まれた人間は同じ病を急速に患ってしまう、そんな奇病が大流行し人類はその数を大幅に減らした。奇病の性格上世界各地の大都市は全滅し、かろうじて郊外の都市でのみ細々と生きる人類は常に奇病の罹患者、通称ハングリーズに怯え生きていた。イギリスの郊外都市ビーコン近郊の軍事基地では罹患したにもかかわらず正気を保っている子供が集められ、病の研究が行われていた。この病を引き起こすのは変異した冬虫夏草、つまりウィルスではなく菌が引き起こすことはわかっている。ただしその治療法や予防法はまだわかっていない。解明のためには菌に脳を乗っ取られているのに正気を保つ子供達が必要なのだ。子供達の教師役を務める心理学者のジャスティノーは子供達の一人、特に聡明な女の子のメラニーと特別な絆を築いていく。

キノコが人を狂わせるという設定は変わっているけど基本的には噛まれたら感染するゾンビものということで大丈夫。大崩壊と呼ばれるカタストロフィは過ぎて人類はもう撤退戦を強いられている状態。Playstationのゲーム「Last of Us」にとてもよく似ている世界観。このゲームはコーマック・マッカーシーの「ザ・ロード」を下敷きにしているらしいんだけど。なんせ文明社会が半ば崩壊しているもので、オーソリティの力も及ばなくて、ジャンカーズと呼ばれるならず者で構成される第三勢力がいる。これがゾンビ、つまりハングリーズと同じくらいもしくはそれ以上に危険という、これも世界的に流行っている「ウォーキング・デッド」のように結局一番怖いのは生きている人間(ノー・ロウな状態なもんでタガが外れた人間の方がケモノ的なゾンビより知恵があるぶん怖いという意味で)的な世界観である。そんな世界に”半分ゾンビ”な無垢な少女と研究対象として扱っているはずがゾンビに愛情が湧いてきてしまった女性教師との絆という新機軸をぶち込んだのがこの小説の味噌だろうか。どこかでみた世界観でユニークな物語が展開される。確かに最後まで面白く読めた。
ハングリーズの設定にも面白いところがあり、普段は休眠状態にあってその場合は著しく視力(と認知力)が制限されているので(一度でかい刺激があると起きて活発になる)、休眠状態のゾンビに遭遇してもゆっくり動けば大丈夫という設定があり、これがだるまさんがころんだ的な独特な緊張感を生み出し、走るゾンビも珍しくない昨今、ただただがむしゃらに逃げ回るという構造からの脱却が計られている。このように練られたよくできた小説、というのが私の読後の印象。
意地悪な言い方をすると優等生的な書き方をされていて(ちなみに著者はアメコミの原作で数々のヒットを生み出した、いわばプロの物語書きである。)、ちょっとよくでき過ぎているなあと思ってしまった。それでたまに物語の筋が最初にあって辻褄を合わせるように設定があるので、ちょっとところどころ強引というか無理があるような気がしてしまう。ご都合主義的というか。ジャンカーズが休眠状態にあるハングリーズを操れるというのはその性質上ちょっと難しくないか?と思うし(火や暴力で制御できないくらい凶暴なのでは?)、なんで胎生時に菌に侵されると(つまり子供のみ)共生できるのかわからないのはどうなのだ?(無作為に耐性がある人がいるではオチが弱くなるからだろ思うけど)とか、あとは使い捨てライターを割って中身の燃料を火種にする場面があるんだけど、(日本のライターともしかして作りが違うのかもだけど)使い捨てライターに入っているのはガスだから割ってもオイルにならない(気化するらしい)のではなかったろうか、確か。(これは会社の上司に聞いた話だから間違っているかもしれません。)
オチについても藤子・F・不二雄の短編漫画(これものちにあるゲームの元ネタになった。きになる人は調べてみてどうぞ)を思わせるもので(別にパクリというわけではない、多分イギリス人の作者は読んだことないだろうし)そこまで衝撃ではなかった。とりあえず話の筋というよりはいかに読者(に衝撃を与えて)楽しませるか、という精神で書かれていてそういう意味ではサービスに溢れているのだけど、こればっかりは好みの問題で私はもっと自分勝手に書いている風のこってりしたのが好きだから、ちょっとあざといなあと思ってしまった。
ただ登場人物が実は自分の(信じる)ことしか喋ってなくて、行動の理由が全部エゴなので基本誰にも感情移入できないんだけど、そんな身勝手で世界がこんなになっちまったんだよ、ということを言っているならそれはそれで皮肉が効いているな、と思った。(多分違うだろうが。)

最後までそれなりに楽しめたけど、個人的にはちょっと好みではなかった。ゾンビものが好きな人はどうぞ。

2017年5月28日日曜日

Woe/Hope Attrition

アメリカ合衆国はニューヨーク州ブルックリンを拠点に活動するブラックメタルバンドの4thアルバム。
2017年にVendetta Recordsからリリースされた。
Woeは2007年にChris Griggのソロプロジェクトとしてスタート。その後バンド編成になり3枚のアルバムをリリース。前作「Withdrawal」が2013年発表なので4年ぶりの新作となる。Griggは中心人物なので不動だが、メンバーの変遷がまたあったようだ。
なんのきっかけが忘れたが私は前作のみ持っていてなかなか好きだったもので今作も買ってみた次第。

黎明期のドラスティックな出来事の多さで持って音楽性以上に”神秘性”(物語性)を獲得してきたのがブラックメタルなのかもしれないが、やはり一つのジャンルにはすぎないわけでプリミティブなそれから多様な変化を遂げてきた。カスカディアンの台頭やシューゲイザーとの交配を経て、「ブラッケンド」ブランドはよそのジャンルに結合し始めた。そんな中でWoeは割とプリミティブなブラックメタルの音楽性を受け継ぎつつ自分たちなりの音楽を模索しているバンドだなと思っていたが、今作を聞いてもやはりその印象。
基本的には前作からの延長線上にある内容で、デスメタル然としたボーカルの登場頻度が増えているので初めは驚くが、バックトラックは明らかにブラックメタルである。つまり基本トレモロが間断なく空間を埋めていくあのスタイル。歌にメロディアス性はほぼないが(たまにクリーンで歌い上げたりはする)、代わりにギターのリフがメロディアスであり、そのメロディというのもコールドで何か身悶えするような退廃的な陰鬱さがある。ギターの音の作り方も輪郭がざらついて毛羽立ったヒリヒリしたもので、重量感に変更していない。さすがにプリミティブブラックに比べると圧倒的に音質はクリアだが、基本はやはり始祖に習っている。曲の長さはだいたい5分から8分なので、少し長めな程度。そこにドラマ性を程よい長さで投入している。真性プリミティブだとミニマルの要素が色濃いが、このバンドはそこまで反復的ではない。緩急をつけた展開がある楽曲を披露するのだが、美学を追求する劇的なカスカディアン勢とは一線を画すスタイル。カスカディアンが冗長というのではないが、このバンドは余計なパートに時間を割かず、またポスト感漂う芸術性もほぼなし。あくまでもブラックメタルの武器を自分たちなりの解釈で曲に打ち込んでいる感じ。何と言ってもこのバンドの売りは惜しみないトレモロの嵐。そして突出したそのメロディセンスなのではなかろうか。本人たちもその自覚はあると思うんだけど、どの曲でもトレモロが楽しめる。速度を落とすパートではざらついたトレモロや怪しいクリーンボーカルを入れたり、雰囲気抜群。モノクロの色彩でなんとも寂寥とした風景画を描いていく。タイトルは「希望の減少」という意味らしく、非常に後ろ向きで正しいブラックメタルな世界観だと思う。

ブラックメタルの良いところが詰まっていていや〜ブラックメタルだな〜という音楽。プリミティブでありながらきちんとモダンでもあってこういう流れがあるということは嬉しい。メロくて陰鬱なトレモロがブラックメタルでしょ、という人は是非どうぞ。おすすめ。

Protester/Hide From Reality

アメリカ合衆国の首都ワシントンD.C.のストレートエッジ・ハードコアバンドの2nd(多分)アルバム。
2017年にTrash King Productionsからリリースされた。
Protesterは2013年にPure Disgust、Red Deathなどのメンバーにより結成された5人組のバンド。活動期間は長いわけではないけどすでに編集版をリリースするなど結構アクティブに活動しているようだ。なんとなく話題に上りがちなバンドっぽくて流行に乗る軽薄なスタイルで購入。

どうもこのバンド、80年代〜90年代のリバイバルな音を鳴らしているらしい。ハードコアに限らず温故知新なバンドはたくさんいるわけで、そんな中でも特に「リバイバル」と称されるからには相当なリバイバル感が必要になってくる。私は昨今ハードコア名盤をポツポツ中古で買ってお勉強をしたりしているので、なんとなく少なくとも表層の音のことはちょっとだけわかるくらいなんだけど、なるほど今風の音とは一線を画すわけで、似てるバンドを挙げるとしたら現行のハードコアバンドというよりも、Agnostic FrontだったりPoison Ideaだったりを例に出した方が音的には近くて説明しやすい。ストレートエッジなのでユース・クルーっぽいかな?と思ったらもっとロウで荒々しい音像。
メタリックに武装したり、プラスオンする凶暴さや多様性をノイズやジャズに求めたりする今風のバンドとは明らかに一線を画す。極端に攻撃的なパワーバイオレンスとも異なる。全体的に抜けの良い明快な音で生々しく、荒々しい。1曲に含まれる、というよりは曲を構成するパターンは非常にシンプルで、テーマを2回3回繰り返して間奏を挟んでまた戻ってくる、このサイクルを勢いで持って突っ走る。派手なテンポチェンジも暴れるモッシュパートもなし。(乗れない音楽ではもちろんないわけで、こうなると暴れるパートはわかりやすく暴れさせているパートと捉えることもできる。どっちが悪いわけではないけど。)ハードコアパンクの初期衝動を改めてそのまま形にして録音したようなイメージだ。ややしゃがれて吐き捨てるボーカルはいかにもハードコアだが、そこはかなとないメロディセンスがあって「Never For Me」なんかはメロディアスと言っても良いかも。ラスト加速するところがめちゃかっこいい。このくらいのバランスがとても好きかも。
今風の音から引き算して作ったんではなくて、これで全部の数が揃った状態なのだ。スタート地点というか視点が今の流行のバンドとは異なる。もちろんそれなら昔のバンドを聞けばいいじゃないってことになるわけだけど、個人的には完全なリバイバル(そんなもん昔のバンドが今の時点で昔の曲を演奏する他ないと思うけど)であったとしても現行のバンドがそれをやることは価値があることだと思う。(自分も含めてなんだかんだたくさんの人は現行のバンドの方をメインに聞くと思うので。)それは流行に対する疑問符だったり、自分たちが好きなもの対する敬愛の念かもしれない。

どうもリバイバルが流行しているような話もあるので突然変異的なバンドではないのかもしれないが、ハードコアの初期衝動が好きな人は是非どうぞ。無骨でシンプルなのがハードコアでしょ、という人なら気にいるはず。

Drawing Last Breath/Final Sacrfice

アメリカはフロリダ州のストレート・エッジハードコアバンドの1stアルバム。
2017年にCarry the Weight Recordsからリリースされた。
バンド名は「息をひきとる」という熟語から。
あまり情報がないバンドだが専任ボーカルにギター二本の5人組のバンドで2015年にデモを、1stEPを2016年にリリースしている。

だいたいどのジャンルでも雰囲気というか全体的な印象というのがあって、例えば音源のアートワークを見ると何かしらのジャンルかな?と想像がつくものなのだけど、この「Final Sacrfice」に関してはハードコアっぽくないな、というのが初めの印象。それで視聴して見ると音の方はもっと変わっていて驚いた。え〜と思ったけど気になって何回か聞いている自分に気がついたので買って見ることにした。
こってりしたジャケットは「メタル的だな〜」と思う人もいるだろうが、音の方もメタル的である。今時ハードコアにメタルの要素を持ち込むのは珍しくもないだろう。例えば重たい音の作り方は昨今のハードコアバンドでも当たり前のように導入されている。Integrityという歴史のあるバンドなんかはかなり大胆にメタルの要素をハードコアに持ち込んで結構びっくりしたものだ。このバンドはそう言った意味ではやり方としては(出来上がった音はあまり似てない)Integrityに似ている。メタル、それもメロディック・デスメタルの要素を大胆にハードコアに持ち込んでいる。普通は別ジャンルの音をいくらか溶かしてある程度時のジャンルの型に再整形するのが王道だろうが、このバンドに関してはメロデス要素をほぼピュアにハードコアのフォーマットに載せている。具体的にはギターで、とにかくクラシカルでメロディアス。いわゆる”クサい”と言われるような荘厳な高音を用いた単音フレーズを大胆に持ち込んでいる。ピロピロしたギターソロもある。ハードコアといえばタフさが売りなのでそう言ったメタルの要素とは水と油じゃないのかな?と思っていた自分にとってはこのバンド相当面白い。思うに変にハードコアにしなかったのが良いのでは。本当に切って貼り付けたみたい。こういうと借り物めいた表現の仕方だが、このバンドはその形式で出音はめちゃかっこいい。結果的に濃ゆいメタル要素を自家薬籠中にしてハードコアと両立させている。メロデス成分を除いて聴いて見るとびっくりするほど地の部分はハードコアである。いわゆるニュースクールなメタリックな音を、ぶっきらぼうな音節に区切って中速でザクザク刻んでいく。音的にはシンプルなのでここにメロデスのフォーマットがすっと載っちゃうのだ。すごい。吐き捨て型のボーカルももちろんハードコアで、知らずに形成された先入観には違和感なのだが、この違和感がクセになる。
調べて見るとDrawing Last Breath以前にもこう言ったスタイルはハードコアの世界でもちゃんとあったらしく、その系譜にあるのがこのバンドみたい。私はこのスタイルにこの音源で出会ったから初体験の面白さがあったわけだ。初めに会えたのがこのバンドでよかったなと思う。非常にカッコ良いから。

ガッチリしたハードコアの屋台骨にメロデスの荘厳さがどっしり構えてさながら堅牢な砦のよう。ハードであるというハードコアの楽しさは少しも減じてない。メロデス好きだけどハードコアはあまり聴いたことがないぞ、という人はこの音源ハマったりするのでは。どうだろ。逆の経路でも大丈夫だと思うんだけど、個人的には。色物なんてとんでもないかっこいいハードコアなんで是非どうぞ。

2017年5月25日木曜日

中村融編/夜の夢見の川 12の奇妙な物語

アンソロジストである中村融さんの編集したアンソロジー。
以前読んだ「街角の書店 18の奇妙な物語」に続く一冊。と言ってもアンソロジーなので直接的なつながりはなくて、同じコンセプトの第二弾。「街角の書店」が面白かったのと、中村融さんのアンソロジーは何冊か読んでいて全て楽しめていたのと、シオドア・スタージョンの作品が選ばれているので買ってみた次第。
収録作品は以下の通り。(版元様のHPよりコピペ)

  • クリストファー・ファウラー「麻酔」
  • ハーヴィー・ジェイコブズ「バラと手袋」
  • キット・リード「お待ち」
  • フィリス・アイゼンシュタイン「終わりの始まり」
  • エドワード・ブライアント「ハイウェイ漂泊」
  • ケイト・ウィルヘルム「銀の猟犬」
  • シオドア・スタージョン「心臓」
  • フィリップ・ホセ・ファーマー「アケロンの大騒動」
  • ロバート・エイクマン「剣」
  • G・K・チェスタトン「怒りの歩道──悪夢」
  • ヒラリー・ベイリー「イズリントンの犬」
  • カール・エドワード・ワグナー「夜の夢見の川」


「奇妙な味」というのは江戸川乱歩の造語で当初英米のミステリーの何編かの物語を評して使った言葉だという。その後微妙にその意味を拡張しつつ文学界で今でもひっそりと使われているようだ。この本ではそんな「奇妙な味」を持つという視点で色々の中短編が集められている。あとがきに書いてあるのだが、この「奇妙な味」というのはここではジャンルを指す言葉ではないので、いろんなジャンルにまたがってお話が集められている。ミステリーもあれば、スプラッター調の物語もあり、良い意味で趣向がバラバラでそこが魅力。ただ読んでいて思ったのは本格的なファンタジーやSFにカテゴライズされる話は一つもない。あんまり現実から離れた世界を舞台にしたり、荒唐無稽な生物やガジェットが出てくるとそれ自体が”異常”になってしまってなかなか微妙なさじ加減である「奇妙さ」が演出しにくいのだと思う。きっともっと大きいツッコミどころができてしまうのだ。そっちに目がいってしまうから、奇妙な味を演出する場合ほとんど日常を描くことになるのではないかと思う。あたかも明るい歩道に仕掛けられた陥穽にふとしたはずみではまり込んでしまうような、気づくと知らない路地に迷い込んでしまったような、街の喧騒がまだ聞こえるけどちょっと雰囲気がおかしい、そんな雰囲気だ。本格ミステリーとは違ってここでの謎は解決策が提示されるわけではないので、謎がそのまま奇妙な形の影になって読者の内側に張り付いていくことになる。謎が面白いのはそれが解けるからだというのはあるが、解けるまでの過程が面白いということもあって人によってはそちらに重きをおく人もいるのかもしれない。なぜなら未解決の謎がもしもとなって自分の中で新しい物語が始まりだすからだ。そういった意味では無味乾燥な人生を彩るちょっとした味付けとして「奇妙な味」があるというのはなかなか良い。

個人的には動物は喋れないから可愛いと思っているので「イズリントンの犬」はよかった。犬つながりで「銀の猟犬」も良い(この本で一番好きだ)。これは解明されない謎がプレッシャーになりそれを打破する。なんとも後味の悪い決断の果てには一抹以上の物悲しさ、そして損なわれた正気(つまり批難)が提示されるのだが、恐れを超越した動きがあるので実は爽快であると思う。この場合は心の状態と動きを描くのが小説の目的であるので、そのための奇妙な道具たちにその素性の胡乱さを問うのはあまり意味がない。この道具のハマり具合というのが個人的にはすっと整頓されているように思えてそこが非常によかった。

「街角の書店」に比べると短編の数が減ってそのぶん一つあたりのページ数が増えている。より濃厚という意味で良い2冊目。気になっている人はやはり1冊目から手に取るのが良いのかもしれない。

2017年5月22日月曜日

Rolling Stoned#8 VVORLD『Highway Shits』Release Party@新代田Fever

日本は東京吉祥寺のハードコアバンドVVORLDが2017年に2ndアルバム「Highway Shits」をリリース。リリースパーティをやるよ、というので行って来た。というのもVVORLD自体がかっこいいのに加えて出演陣がとても豪華なもので。全部で15のバンドが出演。ほとんどがハードコアという大きなジャンルで括られるバンドばかりだけど、中には大阪のスラッジBirushanahや同じく大阪のストーナー・ロックバンドSleepcityなどハードコア以外のバンドも名を連ねていてとても面白いメンツなのだ。
なるべく全部のバンドを見たい派なので私は開演前に行くことにした。会場はFeverでこの日は14時会場だったのだけど、ちょうど一番雨がひどかった時間帯かも。傘をさすけどなぜかいつもびしょ濡れになる男である私はこの日もびしょ濡れで会場に到着。フロアに入るとフロアの左にセットが設けられている。つまりこの日はステージとフロアの2ステージ制で交互にバンドが演奏する。こうすると転換の時間を節約してたくさんのバンドを消化できるというわけ。Feverは広くて綺麗なので物販もバンドぶん対応できていてよかった。
以下感想なんですけどバンドの出演順番間違っている気がしています…。記憶力がなさすぎて違ったら申し訳ないです。

①Self Deconstruction@ステージ
見るのは2回目かな?美少女ボーカル、美人ゴスロリギタリスト、細マッチョドラムとキャッチーかつ情報量が多い見た目と裏腹にステージングと音楽はハード。曲がかなり独特で耳と頭がおかしいので間違っているかもしれないが、あまり反復の要素がない。普通のバンドは激烈でも反復性があるから円を描いて走るんだけどこのバンドの場合は直線で走り抜ける。だから常に今がすごいスピードで過ぎ去って行く。通過している新幹線を呆然と眺めているみたい。グラインドコア/パワーバイオレンスと名乗っているだけあって、たまにくる低速パートがかっこよかった。

②Super Structure@フロア
こちらも2回目。元ネタのFall Silentも聞いたんだけどあまり共通項が見出せない。パワーバイオレンスバンドなのだが、ステージングが凶悪。ただ激しいというか怖い。「パワー”バイオレンス”なんだよ、ふざけんな」という覚悟が滲み出る凶暴性。目出し帽かぶったボーカルもさることながら他のメンバーの動きも切れている。ギター振り回して当たったら危ない、とハラハラするんだけどびっくりするくらいかっこいい。ただただ低速パートのみにフォーカスするようなバンドではなくきっちり速いパートもかっこいいという清く正しい(つまり濁っていて悪い)パワーバイオレンスバンド。

③Enslave@ステージ
見るのは初めて。男女混成ツインボーカルのハードコア/クラストコアバンド。ギタリストも二人なのでメンバーが多い。激しいハードコアを基調に叙情性を取り入れていて、またメッセージ性も強い。日本のハードコアバンドの系譜を感じさせる。男性ボーカルも強いのだが、どちらかというと女性ボーカルの方が鋭く、逆に男性ボーカルは激しい中にも丸みがあってそれが良い対比になっているなと思う。演奏は非常にかっちりしてまっすぐ。見え隠れするメロディラインが高揚感あってかっこよかった。

④Sleepcity@フロア
大阪のストーナーバンド。見るのも聞くのも初めてでドラマーはBirsuhanahでもドラムを担当している。立ち居振る舞いからハードコアとは一線を画す感じでワクワクする。音を出して見ると果たしてかっこいいオルタナティブ・ロックだった。もっと煙たくて怪しげなものかと思っていたのだけど、かなりかっちりしたロック。ファズなのかはわからないけどグシャとした中にもざらついた温かみのある中域が分厚いギターに歌が乗る。歌も歌うと叫ぶの中間で全体的にはかなりエネルギッシュで激しいのだが、どこか気だるい(音楽がとい意味ではないですよ)雰囲気があって、あの頃のオルタナティブを感じさせる。初めて聞いたのになんか胸を締め付けるようなノスタルジーを感じてしまう。モダンなアップデートでオリジナリティのある、単なるリバイバルにならないオルタナティブをプレイするという意味ではSunday Bloody Sundayに通じるものがあると思う。音源が欲しかったけどなかったみたい。

⑤Band of Accuse@ステージ
見るのも聞くのも初めて。福島の4人組のバンドでメッセージ性の強い音楽をやっているとのこと。音楽的にはハードコア/クラストコアという感じ。スラッシーナリフで組み立てられたシンプルながらも力強いコーラスがよく映える男らしい音楽をプレイ。飾らないシンプルなハードコアなんだけど演奏は非常にカッチしていてよかった。やはりソロも入れてくるギターがハードな曲にキャッチーさを付与していると思う。個人的にはドラマーの人がすごくてちょっと独自の癖があるのかわからないけど妙に耳に残る。ヅタヅタ刻むD-ビートも力強くかっこよかった。

⑥System Fucker@フロア
続いてはSystem Fuckerなんだけど個人的にはこのバンドが結構楽しみで。というのもいでたちがすごい。正しいクラストコア(パンク)という感じでボーカルの人は細くそして高いモヒカン頭である。他の人もなんともクラストないでたち。パンクというと一般的なイメージはこうなのかな?この日は異彩を放っていた。メタリックに武装したあくまでもクラストコアという音楽性で、D-ビートに生き急ぐような前のめりの演奏が乗っかる。思っていた通り華のあるボーカリストで、Dis系の男臭いがなり声とはちょっと違うんだけど、無愛想ながなりがかっこいい。この人がフロアを動き回る。上背があり、蹴り上げる踵の高さ!イメージとしてはサメみたい。突進したり、突き飛ばしたりと暴力的なんだけど陽性のエネルギーがあって、(怖いのは怖いけど)なんだか楽しい。フロアにいる人もきっとそう思っていたはず。とても盛り上がっていた。

⑦Fight it Out@ステージ
このバンドも見るのは2回目。今年リリースされた新作がとても良かったのでライブをまた見たかった。ストップ&ゴーを繰り返すショートな楽曲を繰り出すパワーバイオレンスバンドだが、HIp-Hopアーティストをアルバムのゲストに迎えたりと生々しいストリート感を演出した独特の楽曲をプレイする。この日おそらく一番フロアが湧いたバンドだったのではなかろうか。ボーカルの方がフロアに降りてきてからは特に危ないダンスフロアになっていた。ライブで聴く楽曲は改めて肉体的で速度を落とすタイミングが絶妙でみんなが暴れるわけだと思う。鬱屈しているというよりは、断然鬱憤を晴らすかのような爽快感がある。

⑧LAST@フロア
続いては岡山県から車で8時間かけてやってきたLAST。1時間ないステージのために16時間とさらに色々な準備の時間使うのだから本当にすごい。本当ならこっちから行かないと見れないんだもの。ありがたい。専任ボーカルにギター二人の5人組のバンド。日本の伝統を感じさせるメタリックなハードコアをやっている。コーラスワークを大胆に取り入れているという意味ではBand of Accuseに通じるところもあるのだけど、こちらのバンドはもっと曲を凝ったものにしている。装飾性はないのだけど、速度の変更や展開などがあって面白い。最終的にあくまでも肉体的なハードコアであり続けているところにかっこよさがある。ボーカルの人は暑くて前のめりなMCもそうだし、フロアを所狭しと動き回る。ジャンプ力がすごかった。ハードコアの持っている激しくもポジティブな部分が前面に出ていて強いなと思った。(ポジティブでいる方が難しいと思っているので。)

⑨Birushanah@ステージ
続いては大阪の和製トライバル・サイケデリック・スラッジ。Birushanahは大好きなのでこのイベントに名を連ねているのにびっくりしつつも嬉しい。音的には明らかにこの日一番異質でメタルの、それも相当独特なメタルを鳴らしている。この日も特に迎合することなく最新作を中心に毘盧遮那世界を展開していた。メタルパーカッションはさらに楽器が増えて要塞のようになっていた。このバンドは打楽器が二人にギター一人という一見するとアンバランスさなのだけど、ギターが鉄塊のような低音を担当する反面、様々な工業的な廃材で組み上げられたメタルパーカッションがキンキン響く高音でメロディというかその名残のようなフレーズを担当。おまけに最近はボーカルの歌の度合いが強いので見た目よりとっても聴きやすい。やはり最後にプレイした「鏡」にBirushanahの魅力が詰まっていると思う。現実に立脚するのがハードコアならメタルは異世界に連れて行く。この日も短い中でもトリップ感満載だった。
そしてすごいどうでもいいけどボーカル/ギターのIsoさんはとてもお痩せになったのではと思います。

⑩ELMO@フロア
続いて東京のハードコアバンドELMO。もうずっと前になぜか1枚だけCD「Still Remains...」を買って持っている。この日多分一番尖っていたのがこのバンド。低音に特化した極悪なハードコアを鳴らしている。テンポチェンジも多用しているが、基本的には速度は遅め。ボーカルの方はシュッとした人で高い声で絞り出すように叫ぶのが基本だが、たまに這いずり回るような低音も出してくる。この人はひょっとしたらラッパーもやっているのかも。ハードコアでは客に暴れろと煽るバンドは多いのでは。このバンドも煽るのだが、それが変わっていて普通は演者と客の間に共通の連帯感がある場合が多いのだけどこのバンドは観客すら敵くらいのヘイトをぶちまけてくる。非常にヒリついた空気で緊張感が半端ない。ほんのちょこっと見ただけなのでなんとも言えないのだが、そもそもライブってなんでしたっけ?という問題提起にも思えた。

⑪Saigan Terror@ステージ
続いては東京の高円寺のハードコア。見るのは2回目。年季を感じさせるいぶし銀のメタリックなオールドスクール・ハードコアをやっているのだが、とにかく怖い。ボーカルの方の見た目もあるだろうけど音の方も超いかつい。そういった意味では日本のハードコアらしい叙情性というのはそこまでなくて、代わりに攻撃性と速さと重さがある感じ。コーラスワークもシンプルで恐ろしげ。スラッシーなギターはかなり動きの激しいギターソロにも反映されているが、やはり刻みまくるリフがかっこいい。良い感じに音が抜けているのでメタルの重苦しさがほとんどない。どちらかというとロックンロール的だ。このバンドはそのままだと相当怖いのだけど、ギタリストの方のMCでバランスが取れている。よくもあんなに言葉がポンポン飛び出してきて、どれもが面白いものだな〜と思う。

⑫Shut Your Mouth@フロア
続いては昨年1stアルバムをリリースしたShut Your Mouth。こちらも見るのは2回目。こちらも現行型のハードコアを鳴らすバンドで、一気に速度を落とすパートを取り入れた楽曲はハードコア的な踊れるものなのだろうが、それだけではない深みのある独自のセンスがあると思う。叙情的というのは何も装飾的であることでも、わかりやすいメロディがあるわけでもない。このバンドはニュースクールっぽいなと思う。ニュースクールというと激しいハードコアにプラスオンで情報を追加するイメージなんだけど、そこを通過してきているイメージ。2本のギターがリフに加えて奥行きのある要素を曲に持ち込んでいるし、ちょっとFall Silentっぽくもある若さのあるボーカルはとてもエモーショナル。ラストの「Grey World」はかっこよかった!この日一番良かったかも。

⑬SLIGHT SLAPPERS@ステージ
続いてTokyo PowerViolenceスラスラ。今日ボーカリストの方はメガネではなくきらきらひかる眼帯をつけていた。(あとで外してお客さんに優しく(?)かけてあげていた。)前回見たときと同じく妙にポップな前半から後半一気に加速する曲でスタート。このバンドは今風の低速パートをほとんどやらない。音的にもギターは中域を分厚くしたハードコア〜パンクを感じさせるあえて肉抜きした生々しいもの。ショートカットな超特急で突き抜ける。そういった意味ではある種乗りやすいわけではないのだけど、そこをコーラスワークだったり、フリーキーなポップセンスだったりで速いだけでなく曲にフックをつけることで魅力的でステージで映えるもにしている。またボーカリストの人の動きやその他のメンバーのステージング(みんな楽しそう)で明るくて、楽しいものにしている。

⑭Friendship@フロア
フロアのトリはこの夏1stアルバムのリリースがアナウンスされているFriendship。期待値の高さと自分たちの大量の機材を使うことからとりなのだと思う。縦横に2✖️2に積まれたOrangeアンプからとんでもない轟音を鳴らすバンド。(豊富な物販でもSunn O)))のモチーフを拝借したりしている。)超高速と超低速を行き来する楽曲は現行のパワーバイオレンスに括られるバンドだと思う。ひたすら低音に特化した様はELMOに似ているが、あちらはざらついた低音だったのに対してこちらはもっと密度の濃い壁のような低音。また積極的に煽るELMOに対して、こちらはMCなしの楽曲没入型。(要するにもっと無愛想とも言える。)ひたすらブルータルな楽曲を繰り出していく。あえて楽曲に隙間を開けない、また開けても全開でフィードバックノイズを鳴らすやり方で客に拍手や歓声をあげる暇すら与えない無慈悲なストイックさ。ある意味客を置いてけぼりにするようなイメージで、客の方もただ圧倒されて首だけ降っているみたいな状況になっていた。個人的にはやっぱりこのバンドはドラムがすごい。シンプルなセットででかいドラムのパートをでかい音で”一定”のペースで鳴らし続けるのは結構異常事態ではと思う。そういったところも含めて潜行というか窒息感があってすごくかっこいい。

⑮VVORLD@ステージ
イベントのラストはもちろんVVORLD。ライブを見るのは初めて。今年新作された「Highway Shits」のリリースパーティな訳だけどその新作のかっこいいこと。期待度も非常に高かった。改めて生で楽曲を聴くとだいぶ独自の音を鳴らしている。根っこがハードコアだとしても、出ている音はメタルを通過したブルータルなもの。強くデス声めいたボーカルもそうだが、動きの激しいギターもそう。煙たく充満するフィードバックノイズもそうだし、高い音も使ったりしていて相当不穏である。ソリッドというよりはざらついた質感でハードコアのフォーマットでかなり先鋭的で独特な音を鳴らしている。メッセージ性もいわゆるストレートなハードコアのそれとは微妙に異なり毒気のある個性がある。ラストを飾る「Living Hemp」は長丁場のイベントの大団円ということで感動的ですらあった。

全15バンドというとでちょっとしたお祭り状態。ハードコアを基本にしながらも幅広いアーティストを全国津々浦々から一堂に集めるというのは贅沢で非常に楽しかった。こんな機会はそうそうない。まだ知らないかっこいい音楽に出会えたという意味でも非常に良い場所だった。
VVORLDのパーカーとFRIENSHIPのT-シャツを購入。もっと色々欲しかったな〜といつも帰宅してから思う不思議。ライブハウスの外に出てたら豪雨はとっくにやんでいた。雨上がりの濡れた道を気持ちよく帰った。

2017年5月20日土曜日

グレゴリイ・ベンフォード/時空と大河のほとり

アメリカの物理学者兼作家の短編小説集。
こちらも漫画家の弐瓶勉さんが好きな短編集としてあげたもの。わが国では1990年に出版されたのだが、こちらもすでに絶版状態なので古本を購入した。

もう一冊のグレッグ・ベアの「タンジェント」はSFとファンタジーの混ざり合った物語だったのに対してこちらはハードSF。ハードSFというと難解というか専門用語も多くて決して読みやすくはないという印象。この本でいうハードというのはフィクションであるものの科学的な根拠の度合いが強いというもの。実際にはない技術や事象を描いているのはそうなのだが、それが頭の中の想像やひらめきで生まれたものではなくて現状の科学技術とそれを利用した観察から生まれた考察でもって書かれている。何と言っても著者ベンフォードは現役の物理学者なのだ。科学的な知識と考察に関しては他の作家に比較して抜きん出ているだろう。(もちろん科学者が一番面白いSFを書けるわけではない。しかし他の作家には出せない説得力とリアリズム(総合的に見れば虚構であるが)を物語に添えることができる。)
実際の科学が抱える問題や課題を元に物語が始まっているから、そういった意味では物語の組み立て方が違って面白い。どの物語も中心に科学が腰を据えている。確かにハードな内容になっているが決して頭でっかちの小説になっていないのがこの作家のすごいところ。自身をモチーフにしたような科学者だけでなく、自堕落で向こう見ずな若者、恋に悩む女など魅力的なキャラクターを生き生きと描いている。根っからの学者であるとともに根っからの小説家でもあるのだと思う。どれも心の機微を心情をそのまま書き込むのではなく、その些細な身体の動きに託しているような気がして、そういった意味ではアメリカの作家ぽいし、私はそういった書き方が好きなのでハードさも意外にすっと受け入れることができた。思うに科学技術は人間が使うものなので、それ自体を書けば必ず周辺の人間を描くことになる。問題を扱えば人を描くことになる、という小説の基本を実は当たり前のように抑えているなと思う。
描く物語には作者本人によるあとがきが収録されている。どうも読んでみるとなかなか自信たっぷりな人だな!と思ったのだが、そうではない。自分の仕事に誇りがあって、それでいて強烈な負けん気があるのだ。特にアメリカ合衆国における南部人の実態とはかけ離れたイメージに静かな怒りを燃やすあとがきを読むとその情熱家っぷりがよくわかって途端になんとなく好感を持ってしまった。

人間がとんでもない姿になっている未来を各短編もあれば、現代の実はSFじゃなかった!な短編もありバリエーションに富んでいる。とっつきにくさも小説自体の完成度の高さで気にならないはず。SF好きな人は是非どうぞ。弐瓶勉さんオススメなので、「BLAME!」好きな人も気にいると思います。

HEXIS/Tando Ashanti

デンマークはコペンハーゲンのブラッケンド・ハードコアバンドの2ndアルバム。
2017年にHalo of Fliesなどからリリースされた。
2010年に結成されたバンドで日本を含む様々な国でライブをやっている。どうも最近ボーカルのFilip以外のメンバーが全て脱退してしまったようだ。

Celeste系のトレモロギターを壁のように聳え立たせるいわゆるブラッケンド・ハードコアなのだろう。トレモロといっても低音も使う、そして使っている音自体が分厚いということで絶妙なメロディアスさ、退廃的な耽美さ、コールドな儚さといったプリミティブなブラックメタルからの影響は色濃いといっても結構音自体は別物になっているなという印象。異形のハイブリッドといった黎明期は既に過ぎ、なんという名称が正しいのかはわからないがだいたいジャンルとしては確立した感はある。この間来日も果たしたスウェーデンのThis Gift is a Curseともかぶるところはある音なのだけど、結構印象が違う。向こうはあくまでもハードコアを基調としていて同じような音を使っても曲は結構派手で動きがある。テンポチェンジやリフの多様さといった要因が働いているのだと思う。一方このHEXISというのは音は似ているもののそういったハードコア的なカタルシスが意図的に削除されている曲をやっている。一つはテンポが遅い。ギターとベースの音の数は多いので、これでドラムが早いビートを刻めば爽快感が出そうなものなのだが、あいにくとそういった優しは持ち合わせてないらしく遅々としたとまではいかないものの淡々としたリズムでビートを刻んでいく。こうなるとトレモロギターは露骨に重い、重すぎる。速度が遅いという意味ではスラッジ/ドゥームなのだが、ドゥームなら粘りのあるリフを曲の中心に据えたり、スラッジでも鈍足リフの間に息継ぎする暇があるもの。しかしHEXISは神経症的に隙間を丁寧に埋めていくので結果的に非常に息苦しい音の密室が出来上がっている。曲によってはアンビエントパートを入れているが、美麗なアルペジオが出てくるわけでもなく、ひたすら殺伐として不穏。神経症的な音の密度からの解放という意味では不思議に癒される仕組みになっている。
Celesteなんかと違ってギターの音がクリアではなく、輪郭が曖昧に汚されてブワブワしているのでこの密室の壁がどうも伸縮していて狭まっているような感じがする。音で壁は作れないからこれは妄想なのだが、不安は感染するみたいな感じで非常に面白い。音楽的にはDownfall of GaiaやRorcalと似ているのだが、こちらはそれらのバンドにある長い尺を活かしたドラマ性を減退させてより肉体的な印象。こうなるとジャケットの黒と白、ナイフを握りしめた俺とお前の関係性、というアートワークが非常にしっくりくる。

ブラッケンドは音の種類の形容詞に過ぎないが、やっている音楽も呪い属性のようないやらしさがあってそういった意味でも大変に黒い。この手のバンドが好きは人は是非どうぞ。

M.G.T./M to tha G-13

日本は東京のハードコアバンドの2ndアルバム。
2017年にDEATH BLOW MUSICからリリースされた。
印象的なアートワークはイラストレーターのUsugrow氏の手によるもの。
トリプルボーカルが特徴的なバンドで、マイナーリーグ、元YKZ、ジェロニモのメンバーが名を連ねている。1998年に結成し、メンバーチェンジもありながらマイペースに活動。
私はマイナーリーグが好きなのでこのバンドに興味を持った次第。
2004年にリリースされた1stアルバム「9 Songs Terror」とアメリカの二人組ハードコアバンドBattletornとのスプリット音源を持っている。サイドプロジェクト的なバンドなのかなと思っていたが、今回新作が出たのは嬉しい限り。

レイジング・スラッシュ・ハードコア・パンクと称されるようだが、なるほど「レイジング」という形容詞がぴったり来るストレートなハードコア。13曲で23分ないくらい。
ベースの主張が激しくて、重くはないのが印象的な音でガロンガロン弾きまくる。恐らく複数の弦をギターのようにコードで音をだすような弾き方もしている。
レイジングと言ってもいわゆるバーニングスピリッツ的な日本のハードコアとは一線を画す内容で、胸を突くような哀愁のメロディ、高揚させるコーラスワークと言ったものは少なめ。荒々しいオールドスクールなハードコアを日本語で再現したような音楽性。ボーカルが3人在籍しているのが一番特徴的だが、同じ曲の中で掛け合いをするのは意外にもあまりやらなくて、この曲はだれ、あの曲はだれという感じで基本的には住み分けができている。この形式は結構珍しいと思うのだけどアルバムを通して聴くとかなり起伏があって面白い。とっつきの印象は結構ボーカリストによって変わるのだけど、もちろんバックの演奏は共通した世界観なのでコンピレーションを聴いている感覚とも異なる。
攻撃性に満ちているが、徹底的にダウンチューニングを施した今風の壁のようなハードコアとは一線を画した、ざらついたギターの音も生々しい耳元で叫ばれているような、ハードコア。攻撃性はその直接的に中指立てる歌詞にも表れている。曲の方も荒々しいのだが、実は結構フックが効いていて、例えば元YKZのTatsuzoneさんがラップを通過したまくし立てるボーカルを披露しているときはその魅力が伝わるように抑え気味、テンポチェンジも多用しているし、意外にメロディアス(曲というよりはボーカルのメロディラインが映えるパターンが多い。)だったりと結構工夫や配慮が感じられるいぶし銀の作り。
私はなんとなく不穏な感じにトーンダウンしたラストを飾る「Never No More」が良い。この曲は3人のボーカリストが多分そろい踏みでラストっぽい劇的な感じ。

マイナーリーグが好きな人はもちろん、YKZとかジェロニモというバンドに引っ掛かりがある人は是非どうぞ。怒れるハードコア好きな人もぴったりはまるんじゃないかと。

Nekrofilth/Devil's Breath

アメリカ合衆国コロラド州デンバーのデスメタル/パンクバンドの2ndアルバム。
2013年にHells Headbangers Recordsからリリースされた。
Nekrofilthは2008年に結成されたバンドで現在はドラム、ベース、ギターの三人組。
ギター/ボーカルのZack Roseはデスメタル(本人たちは「Devil Metal」を自称している)バンドNunslaughterのメンバー。
Nunslaughterも聞いたことがないのだが、来日するというきっかけで音源を買ってみた。
聴いてみると慌てて来日公演に足を運んだくらいかっこよかった。

ジャケットやマーチャンダイズのアートワークはいかにもデスメタル的だ。
それもオールドスクールなやつ。死体、骸骨、ゾンビ、蛆虫のおどろおどろしさ。
オールドスクールにはそういった”汚さ”(これは決して演奏とはイコールではない)があると思うが、この汚さをハードコアパンクのRawなラフさに結びつけたのがこのバンド。
初っ端はその勢いに圧倒されてパンクだぜ…!になってしまうのだが、何回か聴いてみるとリフの構造的には結構メタルというか、スラッシーであることに気がつく。ミュートを多用しているので流れるように引き倒すパンクとはちょっと異なる。ただしキャッチーであることと、反復性があること。曲の展開がシンプルかつ速度が早くで短い尺でストレートに進行することで”パンキッシュ”になっているのだと思う。スラッシーなパンクである。つたつた刻むドラム(ライブ見たらすごかった。リズムには結構バリエーションがある。)も硬質で前にガツガツ出てくるベースも非常にかっこいい。リフがかっこよいのでメタル的な楽しさに横溢している。そういう意味ではいわゆるMotorhead的なロックンロール要素が強いと思う。やけっぱちなロックンロールはなにかに追われているように前のめりで性急なギターソロにあらわれている。ダミ声というかいい感じにしゃがれた声のボーカルは汚い単語が聞き取れる感じで明らかにデスメタルの歌唱法とは異なる。酔っぱらいのガナリ声という感じで非常に味がある。「まくし立てる」という表現がぴったりで、グラインドコアのマシーン的な正確さとは対極にあるような”生々しさ”がなんといっても魅力。ビールが燃料で、オールドスクールなゾンビ映画について延々と安酒場でまくし立てる、困ったやつだけど一緒にいるとこの上なく楽しい男、そんなイメージ。非常によくキャラクターが立っている。VHSで見るゾンビ映画的な楽しさに満ちている。

Petar Pan SpeedrockとかZekeとか好きな人は意外にハマるかもしれないドライブ感。もちろんオールドスクールなデスメタルが好きな人はその腐臭をやさぐれたハードコア間の中に嗅ぎ取れるだろう。非常にかっこよかった。既に来日公演は終了してしまったが、気になっている人は音源で是非どうぞ。

2017年5月15日月曜日

グレッグ・ベア/グレッグ・ベア傑作選 タンジェント

アメリカの作家による日本オリジナルの短編集。
グレッグ・ベアといえば「ブラッド・ミュージック」が有名なのでは。かくいう私も読んだのはその一冊のみ。なぜこの短編集を手に取ったかというと漫画家の弐瓶勉さんがtwitterで自分が好きなSFの短編集をあげており、そのうちの一冊がこの本だったため。
1993年に出版された本でもうおきまりのコースだが現時点では絶版状態のため古本で購入。

ナノマシンが人体に及ぼす(強烈な)影響を書いた「ブラッド・ミュージック」を読んでいたのでベアというとSF!というイメージでいたのだが、実際にはファンタジーもよく描く人らしい。この短編集には8つの短編が収録されているが、短編によってはなるほどどう考えてもファンタジーだなというものが入っている。科学そのものを描いてその影響を思考実験のように観察、考察して物語を構築するというタイプの作家というよりは、未来的なガジェットというよりは、非現実的な要素を道具(メタファーとよく言われる)のように使って人間の心理状態とそれによって導き出される行動、つまり(規模はあれど)日常や世界を描こうというタイプの作家のようだ。短編「姉妹たち」はSFのアンソロジーで1回読んだことがあったのだが、改めて読むとベアの人類愛に触れることができる。学校を舞台にした青春小説だが、誰もが一度は思春期を過ごすもの。この青さに未だ未完成な人間の気持ちがぎゅっと濃縮されていて胸を締め付けられる。この物語では舞台は未来で遺伝的に設定された子供達が登場人物だが、その科学的な設定の向こう側に普遍的な人類の問題が提示されているわけだ。新奇な設定で人目を引き、それから日常の背後にある問題にハッと気づかせるような、そんな視点がどの物語にも巧妙に仕掛けられている。特にどの物語のも個々人の孤独、というか周囲との断絶が表現されているように思う。これはベアの子供自体が反映されているのかもしれない。その孤独を埋めようとする試みが物語を生んでいる。一度も恋人ができたことのない50歳の女性(これ男性だとちょっと物語の持つ意味が違ってくるというか、相当うまく描かないと違う方向に行ってしまうのだと思う。)が辞書から理想の男性を作り出す「ウェブスター」は現代人の都会の孤独をよく表現している。ラストがなんとも悲しくも美しい。
一方「飛散」はこの本の中で一番SFらしい。謎の異星人の攻撃(?)を受けてバラバラにされた挙句別の宇宙で別の宇宙の人類含む生物と一緒の構造体(いずれかの宇宙の宇宙線などがデタラメにくっついているようだ)に再構成される話だが、これは広大な宇宙と時空で迷子になってしまった人たちが、何千年もかけて自分の宇宙を見つける物語である。喋る熊が出てきたり、ごちゃまぜのカオスが出てきたりとこの話が非常に弐瓶勉さんっぽいし「フニペーロ」(弐瓶勉さんのバイオメガという作品に同名のキャラクターが出てくる)という登場人物が出てくる。

どんな結果が生じようとも試みが肯定的に描かれている(これを描かないと物語が始動しないというのもあると思うけど)ような気がしていてそう意味ではSF的/ファンタジー的であっても優しい物語(群)だと思う。非常に面白かった。弐瓶勉さんが好きな人はきっと気にいるはず。

2017年5月14日日曜日

Yokohama Extreme6 Nekrofilth Japan Tour@横浜El Puente

最近は来日をきっかけに海外のアーティストを聴き始めることが多い。そんな流れでアメリカ合衆国コロラド州デンヴァーのNekrofilthを聴いて見たらこれが非常にかっこいい。デスメタルバンドのNunslaughterのメンバーがやっている別バンドで、デスメタルの要素色濃いのだが、それがハードコアパンクとくっついたクロスオーバーな音楽をやっている。5月12日からツアーがスタートするということなんだけど、ラッキーなことに仕事に都合がついたので横浜まで足を運ぶことに。ライブハウスは西横浜にあるEl Puente。メタル、ハードコアに限らずアンダーグラウンドな音楽御用達のライブハウスなんだけど行ったことがなかったから、これも非常に楽しみだった。
El Puenteは西横浜駅をおりて割とすぐ。お店のそばに行くともういや〜な感じの音が漏れている。(暗いからよくわからなかったけど周りにあまり建物がない。)今まで行ったライブハウス(一応ミュージックバーということらしい)で一番小さいと思う。入場するとすぐ横でバンドがでかい音で演奏しているし(これは本当楽しい)、バンドの正面ちょい横あたりは2列くらいかな、入るのは。距離の近さという意味ではこれ以上はないんじゃないかくらい。
私がつくとすでに1バンド目Filthy Hateのライブは終わっており、続くAnatomiaがプレイしていた。

Anatomia
2002年から活動している日本は東京のデスメタルバンド。ギター、ベース、ドラムの3人組でドラムの人がメインボーカルを取る。びっくりしたのがエフェクターがマルチエフェクターだった。それでもきちんとなっている音はどう聴いてもデスメタル!なんとなくイメージを覆されて痛快だった。デスメタルというのは重たい⇄軽い(重いバンドが多いけど)、遅い⇄速い、などなどその構成要素を取ってもいろいろあるし、構成要素でも表現方法は多様なのだが、個人的にはデスメタルには”邪悪”の要素があってほしい。逆にここを抑えていれば私としては非常に入りやすい。Anatomiaはまさに”邪悪”を音楽にして発信するバンド。とてもスリーピースとは思えない音の壁で、速いパートもあるが基本はドゥーミィな遅いパートが主体。圧殺、窒息系の重苦しい音。例えば同じオールドスクール・デスメタルでもCoffinsはズンズン響くリズムを強調したりと容赦のなさの中にも華(と行っても真っ黒い)があるのに対して、Anatomiaは華がないというよりはそういうとっつきやすさがない。ひたすら地下室。うめきあげるようなボーカルはひたすら低く憎悪に満ちている。リフは黒く鈍く光るデスメタルの結晶のようだ。重苦しいのがたまらないやつ。それでも曲によっては空間系のエフェクトをかけたり、遅すぎて崩壊したアルペジオやその裏でのベースのコードっぽい弾き方など、曲をデスメタルたらしめるための技巧もいろいろと感じた。荒廃した墓場と言った様相のライブ。かっこよかった。
ちなみにギタリストの方は長髪なのだけど激しいプレイでネックに髪の毛が絡まっていた。終演後ベーシストの方が「今までで一番絡まっている」と心配していたくらい。ちゃんとほどけたのかきになる。

Nekrofilth
続いてはNekrofilth。このバンドもギター、ベース、ドラムの3人組。全員上背があり、リズム隊はがっちり巨漢という感じで迫力がある。ギター/ボーカルの人のギターなんだが金属質なピックガードが茶色っぽい赤黒にまだらに染まっている。昔あのギターで誰かを殺してゴミのように埋めてきた、のようなバンド名にちなんだデスメタルストーリーがあるのかもしれない。ギタリストの人はアンプヘッドのつまみを適当にザーッと全部マックスにしていたみたい。大丈夫なの?と思ったけど大丈夫でした!始まってみるとめちゃかっこいい。ギターの音は低音を強調するデスメタルのそれというよりももっと生々しいディストーションがかかった音。エフェクターも少なめ。声質もしゃがれて結構高音が効いている。それで故Lemmyのように高く上げたマイクにしたからかじりつくようにがなりあげる。単語単語(FuckとかFuckingとかよろしくないのばかり)によってたまに聞き取れるくらい。つまりデス声とかそういった歌唱法とは違うわけで、楽器の音と同じでここも生々しい。曲は長くて2分くらいであっという間に駆け抜ける。何かに追われているように性急なギターソロが入ることもある。速いんだけどグラインドコアと違ってもっと軽くてつんのめるようなリズム、そして良い感じに密度が空いているので風通しが良い。リフがかっこよくてメタルのように詰め込むテクニカルのようなものではなく、キャッチーで反復的。ここら辺がハードコア、パンクと称される所以。パンクも然りなのだけどどっちかというとMotorheadのロックンロール〜Rawなグラインドコアよりのハードコアという印象。とにかく痛快。男の子のかっこよさ。もちろんスッキリ通り過ぎるという感じではなく、デスメタルのフレーバーが効いているのでその歌は下品かつ血みどろな雰囲気がする。むせるような暑い風に当てられているみたい。Filthと名乗っているわけだけどデスメタルの汚さがハードコアパンクのRawさにうまくハマって、両者ががっちり握手している。あっという間に終わってしまった。聴いている間ずっと笑顔だったかもしれない、私。

Nekrofilthの物販を除くとそこにはデスメタルの香りがするアイテムがいっぱい。やっぱり出自というかアティチュードはデスメタルなんだな〜と思わせる。かっこよかったので裁縫できないのにバックパッチを買って帰る。
外に出るNekrofilthのドラマーの方が涼んでいらっしゃって、「アリガト〜」と声をかけてくださった。私も「ベリークール、こちらこそサンキュー」とか馬鹿みたいな英語で返答。こういうの非常に嬉しい。アンダーグラウンド音楽のライブの醍醐味の一つだと思います。横浜はさすがに遠くて仕事帰りに行くのは大変だけど行ってよかった。とても楽しかった。半端にしかライブが見れなくて残念。本気で来たいバンドの方々と本気で日本の人たちに聞かせたい主催の方々たちがいてこういう機会があることは非常にありがたいことです。ありがとうございました。

2017年5月7日日曜日

死んだ方がまし/Mensch, achte den Menschen

日本は東京のパンクバンドの1stアルバム。
2017年に自主リリースされた。
発売されるや否やtwitter上で話題を呼んでいたので視聴したところ「えー!」となって買わない。そのあともう何回か聴いてみたところやはり「えー!」となるので買ってみた。自分の中で良いか悪いかわかんなくても何回か視聴している音源があるならそれは買ってみた方が良い。ちなみにうっかりデジタル版を購入して早くも後悔している。歌詞やアートワークがきになるからだ。
死んだ方がましは2012年に結成された5人組のバンドで「Tokyo Blue Days Punk」を自称している。まず多くの人が言っているようにバンド名が良い。「死んだ方がまし」というのは嫌な気持ちになるが、実は臆病で矛盾している。というのも本当に死んだ方がましだと考えているならその人はすでに死んでいるからだ。つまり死んだ方がましだとうそぶいているか、そう思っていても死に切れない状態にいるということになる。もちろん臆病だし決してかっこよくないが、そんな人は沢山いるのでは?デスメタルだって生きている人が演奏している。そんな複雑な気持を孕んでいる短くて良い言葉だ。ちなみに自主企画の名前は「なしくずしの死」だって!サイコーじゃん。(フランスの作家セリーヌの小説のタイトル。私は序盤のとあるフレーズを定期的に読み返しまくるくらい好き。)

ドイツ語のタイトルは「人、8人の人」となるみたい。調べてみるとどうもホロコーストに関わる言葉のようで過去をいたみ、忘れないための碑に刻まれた文字のようだ。
パンク、ハードコアという単語を聞いた時多くの人は速くて激しい音楽を思い浮かべるだろう。思うにハードコアやパンクに関しては強さを志向する音楽だ。だから音がでかいし、低音が強調されている。往往にして演奏している人たちも怖そうだ。ところがこのバンドはそうではない。バンド名もそうだが、あえてその逆を行く。まず聞いてみんな驚くと思うけど声が高い。異常に高い。グロウル、ガテラルなど低音に行きがちなアングラ音楽にNO!を突きつける。鍛錬されたファルセットというよりは裏声を常に出しているみたいな不安定さ。あまりよろしくない例えかもしれないがDangerousというよりSickなヤバいやつ感がある。ちょうど春だし。歌詞も同じフレーズを繰り返しがちで悪夢というか白昼夢感が増す。物理攻撃というよりは呪い的な、いやらしくヒットポイントを削ってくるタイプ。
演奏の方も重たくはなくてギターは生音を割と活かした音で完全に歪んで潰れた音にない繊細さを持っている。コードやフレーズはキャッチーなのだが、2本のギターのうち一本は痙攣的というかせん妄的に単音をなぞっていき、コードもマイナー感というかなんともいやあな感じである。90年代のヴィジュアル系も引き合いに出されているがなんとなく頷ける。日本的な閉塞感とヘヴィネスに頼らないキャッチーさがあってしっとりとしているのだが、何もその艶っぽさをこっちに使わなくても…という不安定さ。(一方ベースだけは変に無関心で冷徹なのが、嫌な運命的な緊張感と予兆を孕んでいてなんとも好感触である。)
何回か聞いてくると「うお〜」という混乱から抜け出せないものの「硬くなって動かない〜」とか思わず口ずさんでしまう、アクが強いのに妙に脳に引っかかる。初めは特徴的な声がクセになるのかなと思ったけど、実は曲がかっこ良い。日本人的な歌謡感というか、聴きやすさに満ちているのではと思ってきた。短くまとめられた曲は例えば「病気X」は爪弾かれるアルペジオから疾走するイントロだけでもうそのかっこよさに引き込まれるくらい、実はソリッドに練られている。

曲を聞き込んでもやっぱりバンド名が素晴らしいと思う。これは死ねなかった人が死ねなかった人たちに歌っている音楽なのだ。だからかっこよさのオーソリティのレールにはないのだけど(もしくはないからこそ)聴く人の胸を打つ。「やり方がうまいよね」なんて軽薄な言葉とても吐くことができなほどの曲と世界の完成度、そして必死さ。なんとかごまかしごまかし日々を生きている私の胸に急に掴みかかってくるヤバいやつ的な必死さ。かっこいい。こっそりエールを送りたい。

SWARRRM・killie/耐え忍び、霞を喰らう

日本で活動するハードコア2バンドのスプリット音源。
2017年にLongLegsLongArms Recordsからリリースされる。私はリリース記念ライブで一足早くにゲットした。12インチ45回転、筆の後も荒々しい白黒のジャケットに透明緑の盤が入っている。音を提供しているのは神戸のSWARRRM、そして東京のkillieである。

誰か、もしくは誰かたちを知りたい場合、その人が何をしているかに注目するのと同じくらい、何をしていないかということも重要ではないかと思う。SWARRRMはSNSに関してあまり注力していなかったり、MCらしいMCがないライブだったりとあまりユーザーフレンドリーとはいえないバンドだと思う。killieに関してはさらにその度合いが強く、音源の枚数をライブ会場のみの販売にほぼ限定しているのは象徴的だと思う。音楽をやっているのに音源を広めたくないというのは矛盾しているようにも思える。ここで何をしているか、何をしていないかという視点で見るとkillieというバンドはどうもライブハウスで演奏するという場所と空間を非常に大切にしている。ひょっとしたらそこで行われることのみがkillieというバンドの音楽なのかもしれない。

SWARRRMは2曲「愛のうた」「あなたにだかれこわれはじめる」。タイトルのらしくなさにも驚くが、歌詞がすごい。「愛のうた」は誰かの日記を読んでいるかのような生々しいものだ。今までにSWARRRMにこんな詩あっただろうか。音源を全部網羅しているわけではないから断言できないが、少なくとも直近ではここまでストレートに心情を吐露している歌詞はないのではと思う。ここで綴られているのは後悔と未練である。先日のライブを見て思ったのだが、SWARRRMは渇望するバンドだ。感情とかをたくさん持っていてそれを見る人に与えるバンドではなく、自分が(持って)ない故に取りに行くバンドで、いわば虚無的な真空が中心にある。そして空気がそこに殺到するように(地球上で真空は非常に存在しにくいのだ!)周辺にいる人(つまり音楽を見て聴いている人)を惹きつける。この感想はこの音源を聞く前になんとなくライブを思ったのだけど、「愛のうた」を聴いてうおおとなってしまった。私の勝手な思い込みではあろうが、なんとなく個人的にはしっくりきたのだった。
音楽的にはやはり目下の最新アルバム「FLOWER」を踏襲する、あえてのヘヴィさからの脱却で、代わりに削ぎ落としたギターで圧倒的な感情を充填している。特にメロディが強調された「愛のうた」は音楽的にも衝撃である。私は「FLOWER」 収録の「幸あれ」がとにかく好きなので、もうすでに何回「愛のうた」をリピートしているかわからない。「あなたにだかれこわれはじめる」の後半「もう二度と 答えを見つける必要のない あの場所へ」からの感情の本流と音的なドラマティックなクライマックス感に感情が揺さぶられる。あえて見せるこの心の内は弱さなのか。それは人を感動させる。劇的な音に別の地平線を見ているバンドだと思う。

killieは1曲「お前は労力」を収録。11分を超える大曲。不穏な人の声のサンプリングからスタートするその暗さに驚くが、演奏は激しいがやはりギターの音はソリッドでそこまで重低音に偏向しているわけではない。生々しい音だと思う。まくし立てるボーカルは怒りに満ちいているが、時たま見せる地声には柔らかさが残る。あくまでもとある個人(達、バンドなので)の意思表明、つまり声であるということだろうか。コラージュ(もしくは連想の飛躍)のような手法でエンコードされているものの歌詞は直接的である。現状への不満、もっというなら社会に対する圧倒的な不信感でほぼ構成されている。個人的な感情の登場する隙はほぼないのだが、前述のように現状を詩に翻訳することで個人的なものにしていると思う。いわば広義の社会を自分の問題として捉える真面目さがあって、真面目すぎてどうかしてしまったというバンドは真っ先に日本のisolateが思い浮かぶが、あちらは個人的な問題(ヒビノコト)を抱えており、こちらはいわば日々そのものに対する違和感、不信感がありそれを咀嚼できない苛立ちと悩みが曲に表れている。どちらのバンドも最終的に自分というフィルターを介しているものの、killieの方が反体制という意味でパンクであるかもしれない。しかし次第に言葉少なくなっていく代わりにうねり出す後半の音楽的なかっこよさは半端ない。個人的にはConvergeの名作「Jane Doe」の「Jane Doe」に通じるところがあるのではと思っている。
どう考えても格好良いのだが、バンドのスタンス的にはあくまでも音源は名詞みたいなものかもしれない。立場が印刷されているが、実態(本人)を全部表現しきってはいない。名刺を見てきになるなら現場に来てくれ、そういった意味だろうか。ああでももっと音源も聞きたい。もっと別の曲も聴きたい!

歌詞が掲載されたインナーが面白くて白と黒でのみ構成されたジャケットに対して、二つ折りのインナーの中身は極彩色といっていいほどの豊かな色彩に溢れている。アンダーグラウンド音楽にありがちな灰色や死をイメージさせるモチーフとは明らかに一線を画す表現技法で、表面的には暗い音楽を演奏しつつも決して暗さのみ志向しているバンドではない、ということの証明だろうか。
「耐え忍び、霞を喰らう」というのがこのスプリットのタイトル。霞というのは霧やもやのこと。霞を食べるのは人間ではない、仙人だ。しかしこのタイトルは「俺たちは超越者だ」ということではないだろう。SWARRRMを聴いて、見て思うのは孤高のバンドだということだ。無愛想なやり方もそうだが、特に昨今の彼らの音楽を聴けばその特殊性がわかると思う。ハードコアの枠組みの中で誰もいない境地に辿り着いている、もしくはたどり着こうとしているように思える。奇をてらった飛び道具ではなくバンドが重ねてきた20年という年月の重みがそのサウンドの変遷を支えているのだろう。一方killieも伝説的なバンドなのだが完全にアンダーグラウンドというよりは徹底的な現場志向であえて聞き手を絞るやり方を続けてきた。いわば大衆に迎合しない姿勢で長いこと活動していたバンドの美学がタイトルの「耐え忍び、霞を喰らう」に表れているのだと思った。孤高の二つバンドのスプリット、つまり邂逅点としても事件であるし、圧倒的に手に入りにくいkillieの音を聞けるという意味でも価値があると思う。尖っている音が好きな人は今すぐ予約で大丈夫です。

2017年5月5日金曜日

犯罪者と同姓同名@新大久保Earthdom

犯罪者と同姓同名、嫌な企画名である。全然関係ないところから来る二次的な被害という感じだし、ともすると本当は本人だけど同姓同名だよ、と嘘ついているみたいに思える。サイコパス。怖い。企画したのは日本のハードコアバンドkillieである。killieはとても有名なバンドで名前を知っている人は多いと思う。私もそれこそ何年か前から気になっているがこのライブまで直接でも音源でも聞いたことがなかった。というのもこのバンドのリリースした音源は全て今や非常に希少なものとなっている。まず枚数が少ないし、ほとんどライブ会場でしか売らない。リリースのやり方も凝っていて非常に凝ったDIYなアートワークを施し、聞いた話だがコンクリートでラッッピングした音源もあるとか。聞くためにはコンクリートを破砕しないといけないのだ。(壊すと果たして音源は無事なのだろうか?)最近はライブの数も多くないみたいで、そう言った意味でも伝説的なバンドなのだ。そんな孤高のバンドがなんとSWARRRMとスプリット、「耐え忍び、霞を喰らう」をリリースして、おまけにリリースパーティもやるというのでこれを逃す手はないとばかりにのそのそアースダムに向かったのである。

Nepenthes
一番手はNepenthes。日本のドゥームメタルバンドで、元Church of Miseryの根岸さんがボーカルをつとめるバンド。このバンドも見るのは初めてだった。全員上背があり、ボーカルとギターの二人はタイトなシャツにベルボドムのパンツをぴっちり来ていてかっこいい。多くの方がNepenthesはロックだ!と賞賛の声をあげるのがこの日分かったと思う。非常にオールドスクールなタイプのビンテージ感溢れるドゥームロックを現代的な轟音でアップデートしているもの。1曲目は隙間の空いたいかにもドゥームなリフをほとんど同じリズムで程よい遅さで延々繰り出していくもの。程よい隙間があるので重たいものの閉塞感がなく気持ちが良い。ロック感溢れるギターソロも非常にきらびやかでここら辺がロックだと言われる由縁の一端か。一発めで持っていかれる。根岸さんはにこやかでユーモアもあるが、ちょっと鬼気迫る感じがしてなんなら怖い。ロックスター的な佇まいを持った人だと思う。2曲目は打って変わってバンドの持つロックンロールのサイドを全開にした曲。ここで気づくのだが、演奏が非常にかっちりしている。1曲めは特に隙間がある分アンサンブルがずれだしたら目も当てられないがそんなことは全然なく終始タイトだった。そして思った、ギターのリフがめちゃかっこいい。確かにロックだというのもわかるが、このリフへのこだわりは(ヘヴィー)メタルかもしれないぞ!とワクワクした。(メタルはリフが凝ったものだと思っている節があるので。)ただメタル特有のこだわりの強すぎる感じはあまりしないので、メタルの技術でロックの鷹揚さの話術で饒舌に語っているのかもしれない。一番手にはもってこいのバンドだと思った。

Wrench
続いてはWrench。前にマイナーリーグとのツーマンを見たから多分2回めだと思う。結成25年を迎えるバンドで調べたらなんとToday is the Dayとスプリットを出したこともあるみたい!中高生くらいの時から知っていてその時はモダンヘヴィネスなバンドかなと思っていたのだが(実際初めはミクスチャーっぽいハードコアだったとのこと)、この間見たらすごい印象の違う音を出していた。今日はじっくり見て見ようという気持ち。まずはメンバー4人どれも機材の量が多い。ギタリスト、ベーシストはどれ踏むのか覚えていられるのか?というくらいのエフェクター類。ドラムの人はThink Tankのメンバーとヒップホップユニットを組んでBlack Smokerからリリースしているくらい幅のある人でやはり通常のドラムセットに電子ドラム?を追加でどんと置いている。ボーカルはシンセサイザー、ボコーダー、(見えないので間違っているかも)サンプラーなどを目の前にセット。声を楽器のように使うという表現は珍しくないが、このバンドは本当にそのように声を使っている。空間的な処理をかけた短い発声をさらにエフェクトかけてダブのように反響させていく。この日聞いて思ったのはテクノ的だ!ということ。基本的にどの楽器陣もミニマルにフレーズを繰り返し、神の手がそれぞれを操作するようにON/OFFを切り替えていく。フレーズの重なりが曲を作り、層が増えたり、減ったりしていく。反復の美学と気持ちよさ。もちろんロックのフォーマットでやるから音の数と曲の展開はテクノ寄りあって面白い。非常にタイト。ドラムの手数が多く、シンプルだがずれないリズムを力強く叩いていくスティックの軌道がとにかく美しかった。

SWARRRM
続いては20年以上の歳月をChaos&Grindを掲げ独自の道を模索し続けるこの日もう一つの孤高のバンドでスプリット音源リリースパーティの主役の一人。
ほぼ最低限の4人、機材も少なくアンプも壁際に据えているため急にステージが広く見える。照明もつけっぱなしの飾りっ気のなさ。上半身を脱いだボーカリスト司さんの恐ろしさ。混沌とグラインド、この二つの要素を使うバンドのほとんどが重さと速さの泥沼にはまり込んでいく(もちろんこういった音楽も大好きです)。そんな麻薬的な、つまり強すぎる要素をこのバンドは全く異なるように使っている。目下の最新作Flowerや昨今の各種バンドとのスプリット音源(充実した活動ありがたい)では、叙情的なハードコアというある意味陳腐なフレーズを全く別のアプローチから実現している。その感情の豊かさ、そしてエクストリームな音楽に求められる”凶暴さ”がちっとも損なわれていない凄みを見せつけ、もう全く全く違う場所にバンドが脇目も振らず到達しつつあることを証明しているバンド。ただその音楽だけで20年の重みを見せつけるまさしく孤高のバンド。
重さで塗りつぶさない6本の弦の振動が分離して聞こえるような生々しいギターの音がコード感に溢れるフレーズを奏でる。ドラムはタイトで曲に必ずブラストビートを導入、という厳格なルールを黙々とこなしていく。ベースは本当に驚くのだが、音の数の多さ。それもトレモロ的な秩序立った連符ではなく、空間を時に伸びやかに使って縦横無尽。司さんのボーカルは恐ろしい。前のめりに客席に乗り出して絶叫し、曲によってはそれはただ絶叫にしか聞こえない。言葉がない。感情の塊を吐き出していく。手に巻いたマイクのコードの束が古の剣闘士のように見える。激烈な感情の中心にはでっかい空虚があるような気がする。それが強烈な感情を放射している。感情豊かに見えるのはたくさん持っているのではなく、それが無いから渇望し希求しているからでは、と思った。だから聞いていると感情が高まり、しかし体は透明になってくる気がする。轟音が軽くなった体を突き抜けて揺らしているように思える。この日SWARRRMはアンコールに応え、そういうのは初めて見た。「幸あれ」は本当に阿呆ほど聞いた曲だけど演奏してくれて泣きそうになった。(誇張ではない。)ちなみにフロアの盛り上がりも相当半端なく、アンコールではお祭り状態でした。

killie
いやもうSWARRRMだな、と思っているところにラストkillie。専任ボーカルにギターが二人、ベース、ドラムの5人編成。メンバーはそれぞれラフな格好をしていて自然体。ステージに強烈な光を放つ蛍光灯を5つ壁に沿って設置し、演奏中は他の照明は一切使わない。
意外にも(そういうことは一切しないバンドかと勝手に思っていた)MCから始まり、演奏スタート。出音で持っていくバンドは少ないが、このバンドはそう。ぐえええ、と思わず口走る。ところが何をやっているのかよくわからない。ギュウギュウのおしくらまんじゅうの中で思ったのは「暗い」。この圧倒的な暗さはなんだ。
おそらく曲はなるほど激情と呼ばれる音楽の範疇に入ることはわかる。曲の尺が長く、その中で複雑に展開が変わる(もしかしたら別の曲になっているのかもだが)。ボーカルの頻度はそんな演奏の中で高いわけではなく、高音を利かした絶叫を主体に、ポエトリーリーディングのような歌唱法も取り入れてる。ギターは低音に偏向するのではなく、生音をそれなりに活かしたソリッドな音でそこに空間的なエフェクトを追加している。ソリッドだが後を引くので、そう言った意味ではブラッケンド・ハードコア的な何をしているのかちょっとわかりにくい音像ではあるかもしれない。それでもメタル的なやりすぎ感はなくあくまでもハードコアのフォーマットでやっている。
そしてこのバンドの場合、そのフォーマットで全く明るさや美しさがない。日本の激情お家芸のポストロック的な美麗なアルペジオのアンサンブルや、アンビエントなパートもない。このバンドの静のパートはボーカルがボソボソ喋り続ける中に、楽器陣が思い出したように鉄の塊のような音の塊をゴンゴンぶっこんでくる時間のことだった。いわば(激情的な)華が全くない!その空隙を勢いで埋めてくる。勢いというと言葉は悪いが演奏は非常にソリッドかつタイト。片方のギタリストの人はどうかしている動きをしているのだが、めちゃくちゃミニマルにリフを繰り返して弾きまくっていて怖かった。だるいパートがないので常に何かに急かされているような異常な緊張感、ひりつくような焦燥感がある。呪いで突き動かされているような音楽。照明の照り返しのない真っ暗なフロアも異常な盛り上がりできっと呪いが感染したのだろう(もしくは自らの呪いを認識したのかもしれない)。
MCでは簡潔にしかし力強く自分たちのスタンスを述べた。この地下の密室に何かあると信じている人がいて、その言(これは主に大半が音楽という形でその場にいる人々に流布される)は全く信憑性のあるものだと思った。フラフラで「耐え忍び、霞を喰らう」を買う。killieに関しては特にもう一度以上はライブを見ないといけない気がしている。

この日特に思ったのは音楽はやはり抽象的でそれゆえ感情を表現することに長けている。そしてそれを言語化するのは難しい。この困難はこうやってブログに感想を書くということだけではなく、その場のフロアで突っ立っている時からそう思っていた。特に主役の二つのバンドは色々はみ出しているバンド(孤高と称されることもある)なので特にその傾向は強く、そしてそれゆえ非常に面白かった。4つのバンドで出している音は全部違って、どれも一筋縄ではいかない。とっても楽しかった。

2017年5月4日木曜日

ケン・リュウ/ケン・リュウ短編傑作集1 紙の動物園

中国出身アメリカ在住のプログラマー兼弁護士兼作家の短編小説集。
日本オリジナルの短編集で単行本として2015年に発表されるや否や結構な話題を読んだ本。芸人で最近は作家としても活躍する又吉直樹さんが紹介したことで有名になったみたい。(私は又吉さんがNHKでやっているオイコノミアという番組をたまにみる。)Amazonがオススメしてくるので気になっていたけど、最近文庫本になったのでこのタイミングで買った。どうも文庫本を二つに分割しているようだ。
作者ケン・リュウは中国からアメリカへの移民でハーヴァード大学を卒業したのちマイクロソフトに入社、プログラマーとして独立した後弁護士になったりと、知性とそれを活かす行動力を持った人のようだ。今は作家がメインだと思うがアプリを作ったりもしているみたい。

表題作の「紙の動物園」はヒューゴー賞とネビュラ賞、それから世界幻想文学大賞というアメリカの優れた文学作品に送られる賞を三つ獲得したという。これはなんとそれらの賞が始まって以来の快挙だとか。
あとがきによるとこの分冊本に関してはファンタジー寄りの作品を選んで集めているというからなんとも言えないが、この本を読む限りSFらしい”もしも”の世界での至極個人的な出来事を物語にする作風であって、登場人物があえて限られていること。彼らの行動や心中の動きが物語の主題というか原動力になっていることなどが結果作品の間口を広げ読みやすさを生んでいると思う。なるほど日本でも重版になるのが理解できる。その近しい世界でしかし、絵画に例えると遠景に書き込まれている景色が異様なのである。異様というほど異様ではないのだが(これは作者の柔らかいタッチの文体が大きく影響していそうだ)、やはりちょっとSF好きの心をくすぐる設定が垣間見える。日本とアメリカを結ぶトンネルだったり、緻密なプログラミングがAIを思考するとそこに生まれるのは知性なのか?という問題、あるいはもっとわかりやすく宇宙漂流者と原住民のふれあいだったりと。これらの書き方がSF作家にありがちな大仰なもの(これは個人的には好きなんだけど)ではなく、あるものないものにもかかわらず技術の説明は読者がわかる程度であくまでも簡潔に留められている。
自身の出自を生かした中国、もう少し広げてアジア的な観点をたい程度の物語にも入れており、アメリカン人からすると異国情緒というのが感じられるのかもしれない。私からすると日本の描写もあまり違和感がないし、日本以外のアジアの国の描写も新鮮であった。要するにケン・リュウは異なる二つの事柄(文化というのが大きいが、「愛のアルゴリズム」は文系と理系、父性と母性だったり、「心智五行」は文化にプラスして未来人と原人を対比させていたり)を一つの短い物語の中でぶっつけてそこに生じる衝撃や波紋を描いている。しょっぱなに置かれた「紙の動物園」でうお〜となったが、その他の短編は非常によくできているけど、ちょっとよく出来すぎかなと思ってしまった。私はたとえ間違っていても、多少読みにくくても作者の思い入れが詰まっている作品が好きなので、ケン・リュウの巧みだがあまりに綺麗にまとまりすぎている感のある小説群は、もちろん楽しめるし嫌いというのではないけどそこまでかな…と思っていた。ところが最後にくる「文字占い師」では今までの綺麗な作風を維持しつつもかなり苛烈な領域に子供の目を通して踏み込んでいく。しかも史実(そんな昔ではない)がその底にあるという。ケン・リュウの激しい怒りのようなものを垣間見れて非常に面白かった。SFというと私はとにかくアメリカ、欧州の作家の手によるものを読むのがほとんどだ。ケン・リュウは巧すぎて少し物足りないかなと思ったのは、ひょっとしてアメリカ、ヨーロッパにはないアジア的な慎みの文化がその作品にも滲み出ているのかもしれないと思った。

というわけで中盤合わないかと思ったがラストで引き込まれた。分冊ということもあるしもう一冊の方も読んでみようと思う。巧みなSF、ファンタジーが読みたい人は手に取ってみると良いと思う。非常に読みやすい。

Stimulant/Stimulant

アメリカはニューヨーク州ニューヨークのグラインドコア/パワーバイオレンスバンドの1stアルバム。
2017年にNerve Altarからリリースされた。
あまり情報がないバンドだが、それぞれボーカルも兼務するギタリストとドラマーの二人組のバンド。メンバーの名前で検索するとどうやら二人ともタトゥーアーティストの人みたい。(ひょっとして同姓同名の別人だったら申し訳ないです。)
全然知らなかったのだけれどtwitterでオススメされていたのを聞いたらかっこよかったので購入した次第。

「刺激」というバンド名、不穏と悪ふざけの中間のなんとも言えないジャケットアート。なんともつかみどころのないバンドだが、鳴らしている音自体はパワーバイオレンスということになると思う。全部で21曲で29分ほど。ブラストビートを使った早い楽曲はグラインドコアと言っても遜色ないと思うが、楽器の音の作り方がメタル的ではなく軽さを意識していること、それからマッチョなボーカルスタイルは伝統的なハードコア要素が強い。ギャーギャー喚くタイプと野太いクラストタイプ、混合するボーカルの掛け合いなんかもSpazzからの流れを感じさせるし、ストップアンドゴーを短い尺の中で繰り返していくのも昨今隆盛を見せる(?)パワーバイオレンス的なアプローチが感じられる。
面白いのはノイズを使ったアプローチで、Full of HellだったりCode Orangeがハードコアの激しさの一歩先をいくためにノイズを足がかりに使っているのが記憶に新しいけどこのバンドもそれを取り入れている。使い方的にはCode Orange的というか不穏さを不可するためにこっそりノイズを底流に忍ばせる使い方がメインで、よくよく聞いてみるとSpazz的なパワーバイオレンスの背後でキュルキュルノイズが這い回っているのは面白い。ノイズの不穏さを前面に出したインタールードも挟んでくるし結構使い方に思い入れを感じる。ハードコア成分強めなので頭というよりは肉体に聞いてくるような気持ちのよい流れかと思いきや、後半終盤に向けてスラッジ成分を強めに出してくるあたりも個人的には好きだ。このスラッジパートに関してもあくまでもハードコアの音で表現しているのがよいみたい。メタリックなスラッジとは明らかに一線を画す。ラストの手前の曲ではスラッジ成分とともに貼っていた蛇が鎌首をもたげたように存在感をあらわにするノイズ成分が合間って途方にくれるような荒廃が展開されている。

そこまでメタリックではないけど、ノイズを取り入れた今風のパワーバイオレンス。絶妙な温故知新感で結構リピートしている。伝統的なパワーバイオレンスの潮流感じられるので伝統的なマニアの人もどうぞ。