2017年1月29日日曜日

ダフネ・デュ・モーリア/人形 デュ・モーリア傑作集

イギリスの女性作家の作品を集めた短編集。
ヒッチコック監督により映画化された「鳥」を書いた人で、同じく東京創元社から出た一つ前の短編集「今見てはいけない」が非常に面白かったので、続くこちらの短編集も発売と同時にゲット。

後味の悪〜い短編を書くのがこの人なんだけど、そういった作風だとやはり最近読んだ「くじ」で有名なシャーリイ・ジャクスンが思い浮かぶ。両者の違うところってなんだろう?と思いながら楽しく読めた。まずデュ・モーリアは超自然的な要素はほとんど(というのも全部押さえたわけではないので)書かない。現実的というのもそうなんだけど、人の内面にフォーカスして、人との繋がりや対話の中でそのいやらしさというのが滲み出てくる。ジャクスンの方はダメになっていく動き(正常から狂気への)があるけど、モーリアはある意味持って悪い、すでによろしくない何かの一部分を切り取っていて、つまり最初から最後までずっと悪い。(もちろん最初はわからなかった”悪さ”が露呈していく過程を描いている物語も多いので、そういった意味ではきちんと小説という形式的には十二分面白い。わからなかったものの正体が読み進めることでわかってくるという楽しみがあるので。)ジャクスンが神経症的な怖さがあるのに対して、モーリアははなからどうかしている。調子が狂っている。どちらも魅力があり、甲乙つけがたいのはもちろんだが、モーリアには諦観めいた絶望感があって読むとゾクゾクするいやらしさがある。同時に弱いものに対する同情、そして愛情があると思う。この短編にも娼婦であるメイジーを主人公に据えた物語が二つあるのだが、メイジーは学がなく、見た目も貧相で、自業自得で悪の道に落ちたわけだが、読むと何かしら存在しない彼女に対して複雑な思いが浮かび上がってくるのはきっと私だけではないのではなかろうか。一度失敗したらもう取り戻せないのだろうか。無知でい続けることは罪だが、最初の決断の時に無知なのは罪なのだろうか。自業自得という言葉を使うのは、私は最近特にそう思うのだが、実力があるというよりは今までずっと幸運だったものなのではないだろうか。私の、そしてあなたの人生がとてつもない災厄に見舞われて嵐のように落ち込んでいくこともあるのかもしれない。安全な位置にいるものが「しょーがないでしょ」と言い切ってしまう残酷さに歯止めをかけるような、そんな優しさが、モーリアの小説にはあるような気がしてならない。
モーリアの小説を読んだ時のなんとも言えない嫌な気持ち、居心地の悪さは、行間に潜む「しょーがない」の背後に潜む弱いものたちの声なき叫びが読み終わった後も安穏な人生を送る私たちの耳に残り続けるからなのかもしれない。私たちは生きているだけで誰かの人生を踏みつけているのかもしれない。

読んで気持ちの良くなる本ではないけど非常に面白い。ホラーがファンタジーとして機能するなら、ホラーですらないのかもしれない。ただ怖い、そして嫌な感じだ。

Recluse/Stillbirth in Bethlehem

アメリカとフランスの混成ブラックメタルバンドの1stアルバム。
2016年にカナダのVault of Dried Bones Recordsからリリースされた。
Recluseは2013年に結成されたバンドで今までにデモなどの複数の音源をリリース。その後メンバーを一人加え既存の楽曲を録音し直し、新曲を追加したのがこの音源。
バンドはPhil McSorleyによって始められた。彼は元Cobaltのボーカリストである。Cobalt結成後彼はアメリカ軍(陸軍だったかな?)に従軍、おそらくその後除隊したのだろうが(音楽活動を再開しているので少なくとも外国にはいないはず)、FBで人種差別的な発言(Ericの言。私はこの発言を読んでいない)を繰り返しCobaltのもう一人のメンバーEric Wunderと決別。McSorleyはCobaltを脱退。Ericは元Lord MantisのCharlie Fellを新ボーカリストに迎えて昨年新作「Slow Forever」をドロップした。一方のMcSorleyが始めたのがこのRecluse。バンド名は「隠者、世捨て人」を意味し、当初は彼一人でやっていたから彼の荒んだ心中がなんとなく察せられる。その後もとVlad TepesのWlad(この人はフランス在住)をボーカルに迎えた。このVlad Tepes(いうまでもなくドラキュラ公から取ったのだろう)はブラックメタル界隈では伝説的なバンド(インナーサークルに呼応するようなよろしくない活動がフランスであった)らしいが私は聴いたことがない。
「Slow Forever」はベストアルバムにあげられることもあり、確かに良いアルバムだったが個人的には正直バンドの前作「Gin」には及ばなかった。どうも私はCobaltのブラックメタルの枠を飛び出す楽曲とそれに乗っかるMcSorleyの声に魅力を覚えていたらしい。どうしてもMcSorleyの声が聴きたくなってRecluseの音源を入手することにした。「世捨て人」というバンド名通りとにかくアングラな活動しかしていないようだが、この音源はレーベルの流通に乗るようでネットを介して楽に購入できた。

悪趣味なライナーにはほぼ情報のないインナー、全部で12曲あるはずがまとめて1曲になっているトラック(分割して曲名つけるのがクソめんどい)という地獄仕様で嫌な予感しかないのだが、再生すると果たしてその思いは見事に裏切られない。「ベツレヘムの死産」という冒涜的なアルバムタイトル、そして「殺人聖歌」から始まる口に出すのも憚れる曲名が続く。だいたいわかると思うが、これ世に出しちゃいけない系のやつです。ブラックメタルの悪いところ全部集めました!っていう、あれです。ブラッケンド、そしてシューゲイザーへの接近、それらオーバーグランド化するブラックメタルに唾を吐きかける、唾どころかまさに「精液と血」(2曲めのタイトル)なのがRecluse。
こもって地下の小部屋で録音したような劣悪な音質。ボコボコ輪郭が曖昧なドラムがどたどたリズムを刻み、音圧のあまりないギターが汚いトレモロを奏ででいく。そこにエフェクト(低音とリバーブ、時にやまびこ的なエコー)を過剰にかけた忌まわしいボーカルが乗るスタイル。爽快感のあるブラストビートがあるわけでも、美麗なメロディがあるわけでもない真性ロウ・ブラックメタル。もちろん企図された汚さではあるわけだが、汚いことが美学であって、うまく生きられないおっさんの恨みで作られており、いわば恨み節であって破滅の美学なんて耽美なものは一切感じられない地獄仕様。ブラックメタルはブラックメタルなのでトレモロの中にメロディ性が感じられるのだが、それをかき消してあまりある汚濁がひどい。
まだロウ・ブラックメタルの体裁をとっていた前半から後半はさらにいやらしいことにノイズ成分が色濃くなっていく。もはや嫌がらせなのかというくらい。ボーカルも重ねてきたり、放心したような「うえええ〜」という高音を混ぜてきたり、ボーカルなのかノイズなのかわからないくらい混沌としてくる。
拡散していくブラックメタル界隈に本質を提示する、という高邁な精神を感じ取れるというよりも好き勝手に”俺ら”のブラックメタルやったらこうなってしまいました、という感じで非常に素晴らしい。

正直人にオススメできるものではないのだが、ロウなブラックメタルが好きなんだという人、ブラックメタルにはアングラ臭をひたすら求める人、世界に拒絶されていると思う人はどハマりするのではなかろうか。Cobaltの新作に興味を持った人にはオススメできない。視聴して気になったら買ってみるのも良いかもしれない。私は大好き。

Scour/Scour

アメリカのデスメタル/ブラックメタルバンドの1stEP。
2016年にHousecore Recordsからリリースされた。

メタル界隈のお騒がせキャラ(最近はライブでの問題発言でレイシストだとミュージシャンからも激しくバッシングされたり)こと元Pantera、現DownのPhil Anselmoが新しいバンドを組んだということでそんなら聴いてみようかなと思ってデビューEPを買ってみた。
メンバーはアーティスト写真を見ると嫌になるくらいのむささでPhilの他にはPig Dstroyer、Cattle Decapitation、Confluxなどから召集されたツワモノ揃いといった様子。

Philが音頭を取っているならまあDownのようないわゆるNOLAスタイルのスラッジ系の音なんだろうなとたかをくくっていたのだが、再生すると全然違ったので驚いた。
音で言えばブラックメタルかブラッケンド・デスメタルだろう。音の数がとにかく多いし、曲の速度も速い。何より驚くのがシリアスなPhilのボーカル。私はPanteraは「脳殺」しか聴いていないし熱心なファンというのではないけど、Downでのイメージが頭の中にあったからかっこいいのもちろんだけど張り詰めたと同時にどこかゆったりしたところのある伸びやかなボーカルというイメージがあった。ところがこの音源ではPanteraの時でもこんな歌い方してたっけ?と思うくらいの暗黒っぷり。この人こんな歌い方できたのかと思ってしまった。吐き出すというより吸い込むような悪魔的なボーカルは煙たいをはるか通り越した暗黒さ。低音デスから高音ブラックシャウトまでどれも堂に入ったものでさすがにこれは王者の風格か…とちょっと唖然とする。
Philと相対するバンドメンバーも何かに取り憑かれているのではというくらい、鬼気迫る演奏で一切速度を落とすことなく嵐のようなエクストリーム・メタルを披露している。ツーバスは踏みまくり、リフはほぼほぼトレモロが鳴り止まない疾走ぶり。明らかにためのあるサザン感のグルーヴィさは撤廃・排除され、代わりに高速で落下していくような速度が充填されている。いわゆるブラックメタルスタイルなのだろうが、コールドな感じは納め目であること、重厚で良質な音質が迫力があること、リフのメロディ性が希薄であることを考えると真性ブラックメタルというよりはブラッケンド・デスメタルといってもいいかもしれない。全6曲でラスト前にアンビエントなインストを挟むものの、その他一切呵責するところなし。

事前情報も特にない状態で買って聴いたものだから思わずゲエーとなってしまったくらいの衝撃だった。すごい楽しいギャップだった。Downも好きだけどこっちも非常にかっこいいな。Philはいろんなプロジェクトを動かしている人だと思うけどぜひScourはコンスタントに動くバンドにしてほしいと思う。エクストリームなメタルが好きな人は迷わずどうぞ。洒落乙で形骸化する(ブラックメタルが過激な音楽を信条とするとしたら)なブラッケンドに反吐を叩きつける苛烈さ。やっぱPhil Anselmoはすげえなあと思わされる。おすすめ。
ちなみにジャケ裏に非公式なダウンロードは音楽を殺す!と書かれています。いうまでもなく至極当たり前の話ですが買って聴きましょうね。

Harm Done/The First 3 Years

フランスはナントのパワーバイオレンスバンドのディスコグラフィー。
2016年に日本のStand For Unityからリリースされた。2016年には来日しており、おそらく連動して作られた音源かなと思う。私は来日ライブに入っていないのだが音源だけ購入してみた。
2013年にSex Prisonerを聴いて衝撃を受けたメンバーを受けた比較的新しいバンドでメンバーチェンジがありつつも(現在は4人体制とのこと。)いくつかの音源をリリースしている。それらの音源をまとめたのがこの音源。

28曲で28分ということで1曲ほぼ平均1分という清く正しいパワーバイオレンスバンド。
目まぐるしく嵐のように暴走してあっけにとられているとあっという間に通り過ぎていくのはパワーバイオレンスなのだが、よくよく聴いてみると結構変わった音楽性をしている。
私高校生くらいの時にミクスチャーという音楽があって、それは過去にもあったのだろうけど(Red Hot Chili Peppersとかを指していたのかな?)、改めてニューメタルというフォーマットでヒップホップとラウドロックを混ぜたりしてミクスチャーなんて言葉がまた使われだしたのだろうと思う。あの頃のミクスチャーとは全く異なった音楽をやっているHarm Doneだが聴いているとなぜかミクスチャー感があるなと思ってしまう。
ボーカルはハリのあるハードコアスタイルで個人的にはこの人は徹頭徹尾ハードコア。かなりマッチョい。こういうタイプは結構高音が出ているのだが強そうで一体それが発声の仕方なのか、勢いなのかはわからない。曲が早いからまくし立てるようなスタイルで普通に考えると単語ごとの力はそんなにかからない(かけられない)と思うのだが、この人の場合はどの言葉も力強い。
がっちり硬質なソリッド(とんがっていて鈍器というよりは刃物のような)な音が特徴的なベースも確かにハードコア。この人はなぜか中速くらいの時に音の数が多くて低速、もしくは高速にしのぎを削るパワーバイオレンスに合間(中間の速度)のかっこよさを投入しているHarm Doneの結構なキーマン的な存在かなと思う。
パワーバイオレンスなのでもちろん速いパートはあるし、それはそれでかっこいいのだがとにかく中速以下にフォーカスしたバンドで被せていくように刻んでいくパートはかなりモッシュに適しているのではと思わせる気持ち良さがある。いい感じにあったまってきたところに(といっても時間的には10秒くらいなんじゃないのかという気がしてきた)満をじして低音パートに移行していく様はもはやあざとい。体感速度という意味で低音を、ダウンテンポを意識させる対象物として高速パートを入れているのではと思うくらい。

パワーバイオレンスというと曲が短いことが多いので当然制限も多いのだが、意外にその中でもできることはたくさんあるなと思う。このHarm Doneというバンドはハードコアの正当進化系というよりは結構いろんな音楽の面白いところを持ってきてハードコアを接着剤に固めましたという感じ。もちろんハリボテ感はなくて鵺みたいな異形のかっこよさ。ミクスチャー世代だった私にはかなりいい感じに突き刺さっている。ライブ行けばよかったなーと思ってしまう。ミクスチャー世代(そんなのあったのか自信なくなってきたけど)の人はぜひどうぞ。オススメっす。

ERODED/IN

日本は岡山県のグラインドコア/デスメタルバンドの再発盤。
2016年にRitual Recordsからリリースされた。1994年に発表された唯一のアルバムである「IN」(再発にあたりリマスタリングをかけている)を母体にデモ音源やコンピレーションに提供した曲を網羅したものでほぼディスコグラフィーといってもいいのかもしれない。Erodedは4人組のバンドでそれぞれの音源で若干の変遷があるようだが、基本的にはボーカリスト(時にベーシストも兼務)、ギタリスト、ドラマーの3人は不動で中核を担っていたようだ。ボーカリストの山本さんはこのバンドの解散の後、状況しグラインドコアバンド324を結成することになる。
私はそんな情報全く知らずふらりと入ったdiskunionでこの音源が流れているのを「かっこいいな」と思って購入した。やはり実店舗のCD屋さんは良いものですね。

今から20年以上前の作品ということになるのだが(再発前の音源を聴いていないので推測だが)しっかりとしたリマスタリングにより音質は全く古びて聞こえない。重厚なメタリックサウンドが聞ける。重々しいドラム、模糊とした低音で唸る力強いベース、そして重厚な音色の金属質なギターは鋭さとほんのかすかに意図的な暴れが音作りに意識されていてスウェディッシュとまではいかないもののやや糜爛な雰囲気をたたえていて非常にかっこいい。ボーカルは完全にデス声というよりはややパンキッシュな響きが残る力強いもので、ハードコアな荒々しさに無骨な華がある。
音に重厚さがあるので中速以下でもかっこいい。バンド側もそんなことをわかっていたのか同一の曲の中でもかなりのテンポチェンジが挟まれていてブラストする疾走するもさることながら、ややドゥーミィなパートも魅力的。ピュアなグラインドコアにしては長めの曲も凝った展開と演出(例えばギターソロにこだわりがあるみたいで非常に叙情的なものをが結構な頻度で登場する)で薄めることなく濃密かつ重厚に尺を埋めている。ボーカルに一切メロディを入れない潔さだが、ギターがそれを補ってあまりあるほどデスメタルの枠の中で(時にそれをはみ出すのでというくらい)縦横に弾きまくる。前述のギターソロもそうだが、リフ一つとっても漆黒のメタルリフ以外にも中音〜高音まで贅沢にぶち込んだ色彩豊かなリフを披露する。インスト曲である「IN」を聞けばその豊かさがわかる。私はメロデスをほぼ聞かないから別物として考えて欲しいのだが、Erodedは非常にメロディックなデスメタルだなと思った。
そんな要素がありつつもこのバンドの中核は何と言ってもグラインドコアといって間違いのない重さと速さを伴った音の塊だろう。再発にあたってのメンバーがコメントを寄せているのだが、ドラマーの武田さんの言によるとブラストビート(この言葉も当時はなかったみたい。)を叩くにあたり相当なご苦労をされたようで、挫けそうになりながらもなんとか片足ブラストを体得されたようだ。武田さんも書いているように20年経ったいまではグラインドの命だったブラストビートはグラインドコアというジャンルの外でも活躍して結果珍しくはないものになっているわけだけど、黎明期に見よう見まねで挑戦した人がいるからこそだなと本当に思う。いわば一歩以上先を行く海外のグラインドコアに日本の岡山(という東京以外)のバンドが挑戦状を叩きつけたようなもので、そんな気持ちがドラムだけじゃない他のパートにも表れているよう。そういった意味でもグラインドコア/デスメタルの枠をはみ出すオリジナリティ、それも珍奇なものという以上にグラインド/デスの精神に敬意を払った音楽で20年以上たったいまでも聴き手を感動させるそのアツさにただただ平伏するばかり。

爆音で聴くのが最高な音楽。血の通いまくった熱血グラインドコア。聴き手の血も湧き立たせる。ぜひどうぞ。

2017年1月22日日曜日

Ben Frost/The Wasp Factory

オーストラリア出身で今はアイスランドのレイキャビックで活動するミュージシャンのアルバム。(何枚目なのかわからない。)
2016年にBedroom Communityからリリースされた。
Vampillia経由で確かその名前を知って2014年作「A U R O R A」で衝撃を受け、その前作に当たる「By The Throat」を買って聞いたりしていた。美麗な轟音ノイズというとわりとありふれた表現でともすると陳腐だが、見事にその言葉に叶う音楽を演奏している。

Ben Frostの新作!ということで特に視聴せずに買ったのだけど結構内容がびっくり。
まずタイトルの「The Wasp Factory」だが、これはもともとイアン・バンクスという人の小説で1984年に同じタイトルで発表された。どうもサイコパス気質の少年を主人公に据えた物語らしく大変興味をそそらられる。日本でも「蜂工場」というタイトルで邦訳出版されているが、残念ながら絶版状態。ちなみにイアン・バンクスは「フィアサム・エンジン」というSFも書いていてこちらは漫画「BLAME!」の元ネタの一つになっているとか。こちらも読みたいが絶版。
おそらくBen Frostはこの物語に影響を受けて公式か非公式なのかはわからないが(ちなみに作者イアン・バンクスはすでに逝去。)、コンセプチュアルに作ったのが、もしくは架空のサウンドトラックとしてかもしれないが作ったのがこの作品ということになる。
Ben Frostといえば(少なくとも最近の2枚では)一聴したところ全く取りつく島もない(よく聞いてみると実はそんなことないんだけど)轟音で暴力的なのはもちろん、不穏な心の機微を保涌現したかのような不思議な繊細さを持ったノイズを作り出している人なんだが、今作はそんなノイズ成分・インダストリアル要素はなりを潜めている。そしてその主役たるノイズの代わりに女性ボーカルが大胆にフィーチャーされている。つまり歌詞があり、これはイギリスのプロの劇作家であるDave Pountenoyという人に依頼したらしい。つまりサントラというより声のみで構成された劇、ということになるのだろうか?
ほぼ全編女性ボーカル(二人の女性と一人の男性のようだ)が、どうも主人公による一人称で書かれている(らしい)小説に則り、主人公の少年の視点で歌っているようだ。
いわゆるポップソングのそれとは違う歌唱法、おそらくオペラの形式で歌っている。まずは声量がとんでもない。そして伴奏が非常にシンプルだ。シンプルというのは簡単というのではなく、レイキャビックのオーケストラを持ち込んでいるが、削ぎ落とされた演奏はほぼ小節や節なんかが判別できず、散発的なストリングス、そして地を這うようなドローン要素のみ。よくこんな無愛想な伴奏でこうも伸びやかに歌えるものだと感心する。
大仰だが、バックトラックは不穏でむしろ寂しい、空虚な感じがする。ボーカルはひたすら感情的だが、やはりどこかおかしい。言葉がわからないのにどこかおかしいと感じさせるのだからすごいものだ。筋はわからないがよくないことが起こっているのだということはわかる。主に独白、そして時に二つの声が葛藤するような喧嘩調になったりする。不気味で怖い。ねっとりとした暗い闇をモタモタ溺れているような魅力を備えている。全編を通して表現されているのは、発生された力強い声が漆黒の無辺の闇に吸い取られていくような寄る辺のなさ、虚無さ。

私は古本苦手なんだけどさすがに内容がきになるので「蜂工場」買ってみようかと。内容としては昨今のBen Frostを期待すると(ただ私は彼の古い音源を聴いていない。どうも音楽だけでなく劇の方にも接近している人のようだからちゃんと彼を追っている人からしたら別にこの作風驚くに当たらないのかもしれぬ。)、ちょっとビックリするだろうが、私はむしろ言語化されて(彼自身の言葉ではないのだが)わかりやすくなったBen Frostの音楽性が感じ取れて大変気に入った。そういった意味では前作が気に入っている人なら違和感なく聞けるのではないだろうか。音楽に暗さを求める人は是非どうぞ。音楽性は違うがドゥームバンドのSubrosa好きな人なんかもバッチリ刺さるのではと!非常にオススメです。

A Tribe Called Quest/We Got It From Here...Thank You 4 Your Service

アメリカはニューヨーク州クイーンズのヒップホップグループの6thアルバム。
2016年にEpic Recordsからリリースされた。
A Tribe Called Questは1985年に結成され5枚目のアルバムを1998年にリリースしたのち解散。その後も何度かの再結成はあったものの新作の制作はなかった。2015年に作成が開始され、翌2016年に18年ぶりの新作としてリリースされた。制作開始からリリースするまでの間にメンバーの一人、Phife Dawgが逝去。メンバーらはこのアルバムをA Tribe Called Questの最終作としている。ビルボードのチャートで1位を獲得した。
Kanye Wast、Kendrick Lammarをはじめとしてこのアルバムには多数のアーティストが参加している。
私は大学生の時に友達にアルバムを貸してもらってたまにきいてるくらいだけど新作ということで買ってみた。

基本的にジャズを元ネタにしたような生き生きとしたバックトラックがゆったり流れ、そこに自由奔放なラップが乗る。音楽的にはゆったりしてもそこはもちろんヒップホップ。歌詞の内容はメッセージ性に富んでいるし、アルバムを通して聞いてみれば温かい雰囲気の中にも緊張感が感じ取れるだろう。
今作でもそんな雰囲気を継承している。サンプリングと生音両方利用している(参加ミュージシャン達には楽器演奏者もいるので少なくとも完全サンプリングではないはず。)トラックは非常に有機的で耳元で演奏されているように生々しい。どれも素材の音を活かして特徴的だが全体的なトラックは抑えられたトーンで構成されている。さすがの熟練といった感じでソリッドかつシンプルだが、実は同じ曲の中でも結構展開があってラップとともに盛り上げているのがわかる。またラップに変わってバックで非常にエモーショナルなメロディをやはり抑え気味で流したりする。「The Killing Season」はストリングスが非常にメロく、そしてエモい。他にもピアノはもちろん、ブルージィナギターをかなり大胆に使ったりと非常に多彩。そういった意味でもきっと集大成的な作品なのだろう。
何と言ってもQ-tipの声質はちょっと独特でバックトラックもそうだけど聞いたらすぐわかる。鼻にかかった声はやんちゃな子供のようで(Q-tipは46歳)、あたたくちょっと湿っていて、そしてバネが仕込まれているように自由で伸びやかだ。ちょっと悪っぽいけど、すっとこっちの内側に入り込んでしまうような魅力がある。もちろん他のメンバーも負けじと前に出てくるし、客演も豪華でどんどん出てきては曲に花を添えていく。

リズムと呼吸で構成されたこのアルバムは非常に”リアル”だ。これはヒップホップでは重要な要素で、銃で撃ち合うような日常も実際にはストリートで起きているのだからギャングスタラップだってリアルだろう。しかし一般的な日本人の聞き手にとってはちょっと非日常かもしれない。(そしてそこがまた日本人にとっての魅力の一つでもある。私は創作物に非日常性を求めるのでそこはよくわかる。)A Tribe Called Questは日常の華やかさに気づかせてくれるという意味で優しく聴きやすい。アルバムを聞けば切磋琢磨するスキルがその優しさの背後にきっと見て取れるはず。そういった意味では武士的な意味で非常にストイックでかっこいい。気になった人は是非どうぞ。

コードウェイナー・スミス/アルファ・ラルファ大通り<人類補完機構全短編②>

アメリカの作家によるSF小説。
人類補完機構シリーズという作者が考えた未来史に属する作品群を集めた連作短編集。一冊め「スキャナーに生きがいはない」が面白かったので(だいぶ時間が経ってしまったが)二冊目も手に取って見た。
このハヤカワ文庫から出ている人類補完機構シリーズは未来史の年代順に並んでいるから前作からだいぶ時間が進んでおり、安定した時代を経て人間の再発見という大きなイベントを含んだ動きのあるセンセーショナルな内容になっている。
遥か未来繁栄を極めた人類が一度最終戦争によって壊滅的なダメージを受けた後、人類を保護すべく立ち上がった団代が人類補完機構。これが不思議な組織でスローガンがこちら。
「監視せよ、しかし統治するな。戦争を止めよ、しかし戦争をするな。保護せよ、しかし管理するな。そしてなによりも、生き残れ!」
未来における統合統治組織と言ったら大抵ディストピアを作り出すものだがこの人類補完機構というのはそうでは無い。個人的には独善的でお節介な母親と言った感じ。人類をその危機的状態から救済することに成功し、また銀河の覇権を取り戻し、異星由来の薬物で人類の寿命を飛躍的に(400年と決められているが実際には制限がない模様)伸ばすことに成功した。圧政を敷くことも、搾取することもないが代わりに差別と人類全体の緩慢な停滞(もしくは衰退)を結果的にもたらしてしまった。今回はそんな人類補完機構に変革が訪れる時期を書いている。
テーマとしては二つあって、「差別へ撤廃への道のり」、「人間の自由の回復」がそれぞれ芽生えてこれから大きく育っていく予感を書いている。
後者については徹底的に管理されているため通常危険はない人類に対して、”不安定”という状況を変換するという内容。古の言語(劇中ではフランス語)が回復され、無意味な名前(今の私たちのような。未来では名前は記号で代用される。)、恋愛、嫉妬などの感情も復活された。人間は事故があれば(そして機構の保護が届かない場所であれば)死ぬこともできるようになった。スミスの未来では人類はその姿を大きく変えている。面白いのは良いことも(とにかく不安なく長生きできる)、悪いこと(概ね400年の生涯で起こることが事前に分かってしまう)も両方分け隔てなく書いていること。人類はちょっとずつその意識、生き方、そしてそのものを変えていき結果現代人と大きく隔たっている。
もう一つのテーマはもっと普遍的で作者のメッセージが明確に感じられる。この世界では下級民という存在があり、彼らというのは基本的にはもともと犬猫、蛇、牛などの人間以外の動物であり、単純な作業(もしくは危険な作業)に従事するために姿形を人間に(見た目には結構ばらつきがあるようだが概ね特徴を残しつつも人間に見えるようだ)、知能を人間以下(と人間は思っている)に改造されている。人権はもちろんなく、嫌悪されている、というよりは人類はこれを道具としてしか見ていない。だから壊れて治す手間が面倒な場合は殺して処分としてしまう。スミスはそんな下級民を行き来とかく。まるで人間のように。いやはっきりと姿を変えてしまった人間以上に人間らしく、生き生きと暖かく書いている。人間は猿から進化した生き物だという。ならば下級民と人間の違いは何か?猿が人になったのは進化論、もしくは神の仕業なら、人間が動物を人間にしたのが下級民に他ならぬ。つまりは彼らは人間である、と私は思っている。
スミスの意図はわからないが(スミスは作品が積極臭くならないように徹底して表面的な感情を抜きにしてその作品を書いている。)、この完璧な未来の唯一の、そして決定的な汚さがここに現れている。
個人的には人権の蹂躙というテーマを下級民ではなく、人類に向けた異色の短編「ショイエルという名の星」が面白かった。グロテスクに書かれた死ねない監獄はどう見ても地獄絵図だ。地獄は人間が作ったという人はよくいるが、少なくとも地獄絵図は人が書いたものだ。スミスの筆致には人を人たらしめるものは何か、そしてそれらを持った生き物に対する重大な侵略こそ、悪であると非常に冷静に書いているように思った。

夢のような世界だった前作に比べるとその夢の抱える問題がクローズアップされように感じさせる今作。とても楽しめた。気になった人は是非前作からどうぞ。

Struggle for Pride/FIGHT IT OUT/Friendship/Shut Your Mouth/Dreadeye@小岩Bushbash

最近興味のあるハードコアというジャンルでいくつも気になるバンドが出演するバンドがあるので小岩まで行ってみることに。
アンプタワーを積み上げる暗黒ハードコアFriendshipは前見たライブが良かったし、昨年アルバムをリリースしてTLでも話題になっていたShut Your Mouthも気になる。そして最近活動を再開したStruggle for Prideによる東京でのライブということでおっかなびっくり行って見た。私は完全にハードコアなイベントに入ったことがない。なんか超怖そうじゃないですか。しかしマジで恐ろしいと評判のFIGHT IT OUTのインタビューではボーカルの方が「ハードコアじゃない人も来て、もやしなんて思わんよ」と仰っていたので勇気を鼓舞して行ってみることに。(私はもやしどころか微笑みデブと言った容姿なんだが。)
小岩Bushbashは初めて言ったけど変わったところでフロアと同じ奥行きの広めのスペースがあって物販、バーはもちろん椅子とテーブルもある。カレーが有名なのかな?食べている人もいました。フロアはステージと高さが一緒。コンクリ打ちっぱなしのような無骨なもの。
そしてハードコアのライブに来る人は皆さんおしゃれ。体格もいいし、格好もかっこいい。大抵フードをかぶるか帽子をかぶっている。可愛い女の子もおりました。怖そうな人たちもいっぱいいて「おまえ、ハードコアじゃねえな」と身元がバレてボコボコにされた挙句つまみ出されるかヒヤヒヤもんでした。客の入りは相当でチケットはソールドアウトになったとのこと。

Friendship
トップバッターはFriendship。ライブを見るのは2回目。Orangeのみで構成されたアンプがタワーをなしている。まだお若いというのに完全にアウトロー系のメンバーが音を出し始めると、デケエ。マーチでもネタにしているがギターは完全にSunn O)))を意識しているのか「ぐもー」とした残響(これは残響と言っていいのか?いい意味で余韻なんて皆無だ。)の伸びが半端無い。面白いのはアタック音は強烈でソリッドだが、鉄の塊のような音の隙間にフィードバックノイズやドローン要素を打ち出して来る。何より印象的なのはドラム。バスドラムの中速くらいの連打が打ち出される軽機関銃のようだ。ドスドスドスかなりの長さで感覚を正確に打ち出していく様はまさに大口径の銃弾がそれなりの速度で持って打ち出されていくイメージ。大量虐殺だ。顔を真っ赤にして喉から絶叫を振り絞るボーカル。フロアの全面真ん中が開けられているのはこういうことか、というくらいボーカルはほぼフロアでパフォーマンス。ハードコアなのにとにかく黒い。物理的な轟音で溺死させられる。米軍でヘヴィメタルを大音量で流す拷問がなされたということなのだが、一部のマニアは金を払ってそれ以上の拷問を嬉々として受けるから不思議だ。超楽しい。ラストに彼らの曲で一番好きな「R」をやってくれた。最高だ。

Dreadeye
続いてはDreadeye。いくつかのフライヤーやインターネットでその名を見たことがあるが見るのは初めて。音源も持っておらず。どうしてこうハードコアに関わる人はこう強面なのか。メンバーが怖い。ハードコア好きな人は自分の強さの延長線上にハードコアの表現する強さを見ているのかもしれない。
調べて見ると自らの音楽性をTokyo Power Violence、Hate Coreと称しており、Friendshipに比べると圧倒的にストップ&ゴーが特徴的で明確で曲は(おそらく)かなり短い。特徴的なのはボーカルがハードコア的なシャウトに加えて超低音のグロウルを用いる。これをここぞって時、つまり曲が一気にスピードアップするときに使うのだけどこれがかっこいい。うおおおってなると一気にバン!!!って叩きつけるようにスローになる。間にフィードバックノイズを満載にしつつ、叩きつけるようなリフが続いていく。いわゆるモッシュパートなのかとも思ったけど、もうちょっと無愛想で無骨なイメージ。あっという間に終わってしまった。これがパワーバイオレンス…と茫然とした。Powerで「力」のところなぜさらにViolenceってつけるのかと思っていたが、聞いているお前も安全じゃ無いぜという危険さから来ているのかもしれない。

Shut Your Mouth
続いてはShut Your Mouth。去年の暮れごろにアルバムをリリースして話題になっておりました。密かに楽しみしていた。ギターが2本。狭いステージに入るものだ。ここら辺からフロアの人がもうすごい過密状態。
始まって見るとまぎれもないハードコアなのだが、自分的にはかなり新しかった。ブルータルでシンプルな楽曲をベースに高音シャウトのボーカルが乗っかる。ここまではストレートなハードコアというイメージだが、2本いるギターの片方がガツンガツンとしたリフを担当し、もう一方がときにかなりメロディアスなフレーズを中音〜高音で入れて来る。確かソロもあったと思う。この要素で感情的に共感しやすくなっている。やりすぎるとせっかくのハードコアさが薄れてしまう(エモすぎになってしまう)のかもしれないが、Shut Your Mouthはあくまでも効果的なフレーバーとしてそれらを使いつつ、キッチハードコア。ベース(むきむき上半身裸)とギターの一人が一部ボーカルを担当するのだが、これがボーカルにない低音を補っておりブルータルこの上ない。初めて聞くバンドだったのだけど、前述のちょっと激情というか叙情的なところがあってかなりしっくり来た。終演後音源を購入。ちなみにこの日唯一MCらしいMCをした。ボーカルの方はなんとも柔和な雰囲気を持っており(ボーカルは半端無いよ)この殺伐とした日唯一の癒しと言っても良かったのでは。

FIGHT IT OUT
とにかく恐ろしいライブをすると評判のバンドでビビりまくっていたのだが、果たしてライブが始まるとピットができる、クラウドサーフが始まる、腕をブンブンする、足を高く上げる、とまさにハードコア祭りの様相を呈して来た。ピット外もおしくらまんじゅう状態で暑い!
音楽的にはピュアなハードコアの伝統を受け継ぎつつモダンにアップデートしたと言ったイメージでもっとモッシュパート、スローになるビートダウンパートが下品にゴリゴリ押し出されているのかと勝手に思っていたのだが、それらがありつつももっと突き抜けるような爽快感を持ったハードコアだった。このバンドもとにかく音がでかくて細かいところは結構判別できなかったりだったんだけど、やはりドラムが強いバンドでタイトに曲を引き締めていた。ボーカルは絶叫なんだけど轟音に負けないくらいの存在感がある。ハードコアというのは没入させ煽る音楽だ、という感じで、ボーカルの人は熱い想いを短い言葉で吐き出し、自分もすごく楽しそうだった。フロアもそんな熱に浮かされてどんどんヒートアップして行った。曲を覚えている人が多くて一緒に盛り上がっていた。

Struggle for Pride
トリはStruggle for Pride。このバンドはしばらく活動休止中だったけど最近再始動をしたようだ。極端に音がでかい演奏に反面ボリュームを下げたボーカルが乗るという特異なスタイルでハードコア・シーンだけでなくクラブ・シーンにも接近してカヒミ・カリイと共演したり、クラブ・イベントにも出たそうな。私は完全に乗り遅れたファンでいくつか音源を持っている。中でもGuitar Wolfとのスプリットが大好きで結構事あるごとに聞いている。暴力的なノイズで体の中のフラストレーションが一気に曲によって引っ張り出されて消化されるような気持ち良さがある。
フロアは本当に超満員。例えるなら朝の田園都市線くらいの乗車率。ぎゅーぎゅー。私は背が低いこともあってほぼほぼステージが見えない。曲が始まると、ウルセーーー。音がでかい上にFriendshipと違ってこちらは高音もカバーしているために耳にもろに突き刺さって来る。初めてライブで耳栓買わないとダメだ、と思った。耳が壊れちまう。ギター・ベースはほぼハーシュノイズで常に(最後演奏終わるまで一度もこの音が止むことはなかった。)音が全開状態でなっている。フィードバックノイズではないと思う、音の主体がノイズなんだもん。自分がいた位置の関係かもしれないが曲の区別もほぼつかず、ドラムが一度鳴り止んだから次の曲に行ったかな?と思うくらい。で人の頭(もしくは飛んでいる体)の間からボーカルの今里さんが見える。めっちゃ叫んでいる。お???そういえば強烈なノイズの隙間に今里さんの声が聴こえるような??気のせいか???そんな感じ。(私の耳がバカなせいかもしれない。)フロアはというと盛り上がりが半端無い。FIGHT iT OUTもすごかったがそれ以上。人がどんどん飛んで来る。人満載した朝の田園都市線がたまに急停車するじゃないですか、人がグワーッと動きますよね?あれがずっと続くのがSFPのライブです。寄せる波、返す波のように人の流れがぶつかってひどいことに。私も始めいた位置からかなり動いていた。とにかくこのハーシュノイズのようなハードコアは不思議に人の気持ちを引っ張り出す力を持っていてそれが集団で炸裂する。小規模な暴動化。言葉でなく(ボーカル小さいので)、音で持って人をアジテートする。暴力的だがみんなすごい笑顔。すごかった。

ハードコアのライブって怖そうだな、と思っていたけど実際行ってみたらやっぱり怖かった。楽しかったけど。殴られないで良かったです。DreadeyeとFIGHT IT OUTは音源欲しかったけど残念ながらなかった。(売り切れてたのかも)
個人的に思ったのはハードコアは速度の変更・調整が超重要。お酒は飲まなかったがふらふら帰宅。

2017年1月15日日曜日

京極夏彦/書楼弔堂 破曉

日本の作家によるミステリー小説。
京極夏彦さんの新シリーズということで久しぶりに読んでみることに。

文明開化後の明治20年ごろ元士族の主人公は勤め先から長期休暇をもらって家を出、郊外に一軒家を借りて悠々自適に過ごしていた。妻子とは離れてしまったが、元士族ということである程度の蓄えはあってこんなダラダラしていいものかな?と思いつつも無為に日々を過ごしていた。ある日偶然一風変わった本屋に出会う。灯台のような形をした店には書架、そしてその中には本がびっしりと詰まっている。店名は「弔堂」と言い、元僧侶という白装束の店主は全ての本は墓場のようなものという。この弔堂で主人公は様々な人々に出会う。

基本的に連作小説になっていて基本的な登場人物は一緒、主人公と本屋さんとその店員がいろんな人に出会っていくという体裁。ミステリー要素というのはこの主人公サイドの3人が出会っていくのが結構有名な人でなかなかその名前が明らかにされない。で読書としては誰かな?この人かな?なんて読んでいくわけでこれは結構楽しかった。ちなみに私は一人もわからなかった。名前すら初めて知った人もいたが。
京極夏彦さんというと妖怪の人というイメージ、本を読んでみると凄惨な描写も結構出てくるわけ。この本でも妖怪や幽霊は出てくるのだけど、人殺しは発生しない。謎というのは前述の客は誰か?ってことになるからいわゆる人が殺されて犯人が誰?という王道のミステリーではない。京極堂は理屈っぽい人だったけど、形としてはその理屈っぽさがもっと前面に押し出されている。弔堂を訪れる客たちは何かしらの悩みを抱えているのだけど、その正体がよくわからない。店主がまずその悩みを整理してこういうものだと説明する。それからこういった解決策もあるかもしれません、といって一冊の本を提示する。いわば精神科の先生か、カウンセラーのようなもの。この一連の解決までの流れは基本的に本屋の中で進行する。客も本屋だから「悩みがあります」とは来ないわけで、普通に本を求めてやってきた彼らの心の内を店主が見抜く、ということになる。ここれへんは直接現場に赴かないで伝聞や、その人の態度、言葉から人となりを見抜く安楽椅子探偵やホームズのような鋭い観察眼が生かされたミステリーとして読むことができる。殺人という大きな動きがないので結構落ち着いて読めるが、個人的にはもっと動きがあってもよかったかなと思った。店主が絶対的に正しすぎるきらいがある。店主が言っている内容に関しては基本的に同意できるのだけど、人間正しい理屈だからと言っても納得できるものではないので、結果同じところに着地するにしてももうちょっと議論があってもよかったかなと思った。(ただそうなると物語がわかりにくく、ページは増えるのかもしれないが。)

軽く調べてみると京極堂シリーズをはじめとしていくつかの筆者の作品とリンクしているようだし(私はわかる人もいればわからない人もいた)、京極夏彦さんが好きな人は是非どうぞ。京極夏彦は気になっているが分厚いのが気になる、という人はまずこの本を読んでみると、(現代を舞台にした作品ももちろん良いけど)時代もので存分に発揮される作者の魅力を味わうことができるのではと。

Harley Flanagan/Cro-Mags

アメリカはニューヨーク州ニューヨークのアーティストによるソロ1stアルバム。
2016年に171-A Records/MVD Audioからリリースされた。私が買ったCDには日本語の帯がついている。ライナーとかはなし、帯だけ。
ハーレイ・フラナガンはニューヨークのハードコアバンドCro-Magsの創始メンバーだっった。NYHC、つまりニューヨーク・ハードコアというジャンルでは伝説的なバンドだそうだ。過激な音楽性はもとより色々と話題性のあるバンドで興味のある人は調べて見ると良いかもしれない。ハーレイ・フラナガンは創始者だが今は袂を分かって活動している。ただこのソロアルバムのタイトルは「Cro-Mags」である。相当曰くがあるだろうな、ということがわかる。
アートワークは汚くペイントされた地下鉄の窓からナイフを持った腕が見えている不穏なもの。かつてニューヨークの地下鉄は危険地帯だったときいたことがある。興味深いのは写真は地下鉄の中から取られていて、ナイフを持った男は地下鉄内に侵入しようとしている。「お前が安全だと思っている場所もそうじゃないぜ」という危ない意図を感じた。

調べてもらえればわかるがハーレイ・フラナガンはマッチョな男性だ。めちゃくちゃ強面だ。格闘技の師範もやっている。どうも相当危ないこともやっているし、それを隠そうとしない人だ。もちろん彼の演奏する音楽もそんな危険に満ちている。
ハードコアはメタルと何が違うか?これは深い問いだ。深いというか多分本当にハードコアという生き方をしている人、またはメタルという生き方をしている人にしか答えられないんではと思う。門外漢の私が最近思うのはハードコアはリアルであることがとても重要だ。ハードコアの闘争というのは(例外はもちろんあるのだろうが)リアルで起こっているものでなくてはならないのではなかろうか。メタル・ハードコアでは恐ろしそうな、強そうな音楽を演奏するバンドが多いが、ハーレイ・フラナガンは究極的な握った拳(時にはナイフを握っているのだが)の恐ろしさ、根源的な暴力に裏打ちされた音楽をやっている。
ジャンルとしてはハードコアだろう。ピュアなハードコアだ。自信がベーシストということもあって異常に歪ませた硬質なベースがガロンガロンリフを引っ張っていく。つんのめるようにリズムを刻んでいくドラム。程よくスラッシーでワウを噛ませたソロも披露するがあくまでもハードコアであること、を命題にしたギター。そしてハーレイのボーカル。ハードコア特有の野太い吐き捨て型のボーカルは排他的なマッチョイズムとして敬遠されがちな”強さ”を隠すことなく披露している。やや滑舌が悪く、時に荒々しい(粗い)が、彼は上手い歌を目指しているわけではない。自分の闘争、それを支えた力、そしてこの先の闘争からも逃げるつもりはないぜ、という意思表明に他ならない。そういった意味ではアメリカン・インディアンのウォーペイントのようだ。

強烈なオールドスクール・ハードコアを楽しみたい人は是非どうぞ。善悪考慮なしの(というか悪い方は確実にあるのかね。)純粋な力の危うさを感じることができるかと。私は結構色々な話を聞くと影響されるけど、そういったこと関係なしにただ純粋に音楽として聞ける人の感想も聞いてみたいところ。

Ansome/Atowaway

イギリスは南ロンドンのテクノプロデューサーによる1stアルバム。
2016年にPerc Traxからリリースされた。
AnsomeはKieran Whitefieldによる一人ユニット。このフルアルバムをリリースする前に発表した音源ですでにクラブシーン、それからネットで注目されていたようだ。

ノイジーでダブ要素のあるテクノといったら珍しくないどころか割と世に溢れているジャンルなのかもしれない。しかしこのノイジーでダブ要素のあるテクノを徹底的に無愛想にやった結果特徴的になっているのがこのAnsomeという人。
ぶっといリズムが主役であとは脇役と言わんばかりの曲作りで、ガムガムタイトかつミニマルにビートを刻みまくる強烈なマシンビートが異常な存在感を放っている。徹底的なミニマリズム(もはや絶対、テコでもペースは変えないという我慢比べのような)はインダストリアル詰まる所無慈悲に一片の狂いもなく動き続ける巨大な工場を連想させる。機械に巻き込まれれば待っているのは四肢の欠損、もしくは死だ。そんな無情さがこもっているビートはクラブミュージックでは無骨すぎやしないかと聞き手が危ぶんでしまう。間に挟まれるこれまた金属質なシンバル、ハイハットの刻みもマシン感助長しているにすぎない。極限的に言えば心臓の鼓動なのだが、非人間的にすることで安心感というよりは落ち着きのなさを聞き手に与える底意地の悪さ。
上に乗っかるのも旋盤のような何か機械の歯が猛スピードで回転しているようなものや、何かの手違いで工具が床に落ちたようなガチャガチャ音、巨大な吹き抜けの向上に虚ろに反響するサイレンなどなど、まさに逃げ場はない。
不思議なもので毎秒同じ動きを繰り返していく機械を見ていると次第に催眠にかけられたようにトロンとしてくる。雪山ばりに眠ると死ぬぞ的な修羅場が展開されているのだが、許田きな機械に巻き込まれるという幻想がそこまで悪いものでは思えなくなってくるから不思議だ。脅すような描き方をしてしまったが、実際には結構高揚感を煽ってくる音楽であって(つまりクラブでなってかっこいい音楽である)ここがAnsomeの狙いなのだろうと思う。不快さを催す機械音のみで踊れる音楽の限界にチャレンジした、のようなストイックさも感じれらる、かもしれない。

まさに社会/会社の歯車として日々回転している諸賢に関しては是非またこの音楽を聴くことで自分の境遇を再認識して見てはいかがだろうか。原始的な工場で歯車になる夢をどうぞ。それは快感だ。(少なくとも快感と思う人もいる。)

Nothing/Joy Opposites Japan Tour2017@渋谷The Game

アメリカはペンシルバニア州フィラデルフィアのロックバンドnothingが来日するというのでライブに行ってきた。
Nothingは音楽的にはシューゲイザー/インディーロックのカテゴリに括られるのだろうが、レーベルはアメリカのエキストリームメタルをメインに取り扱う(それ以外にも幅広いけど)Relapse Records(その前はさらにハードコアなA389からも音源を出している。)というちょっと変わったバンド。もともとカオティック・ハードコアの巨星ConvergeのフロントマンJacobが主催するDeathwishからも音源をリリースしたことのあるハードコア界隈出身のDomenic Palermoが始めたバンドでハードコアを経由したうるさいシューゲイザーをプレイしている。今までに2枚のアルバムをリリースしており、私は両方のアルバムを大変愛聴している。ライブが見たいバンドだったのでこの来日公演は非常に楽しみだった。
場所は渋谷The Game。初めて行ったが比較的新しいライブハウスだと思う。2階にあるし、全面禁煙で綺麗。奥行きはそこまでないがステージも含めて横に広い感じ。18時過ぎごろに到着。ちなみにNothing以外には3バンド出るのだが一つも知らないし、予習もしなかった。

December
1番手は日本人3人組のポストロック。ボーカルレスのインストバンドでギターは椅子に座っているし、ベースの前にあるのはシンセサイザーかと思ったら(多分)鉄琴、ドラムは先端に丸ぽちゃのついたスティックを使ったりと色々とこだわりの感じられるバンド。
始まってみると堅実なリズム隊が土台を作り、その上にまさにシューゲイズなギター(エフェクターの量が結構えげつないことになっていた)が乗っかる。このギターは様々なエフェクトを駆使するのだが、基本的にリバーブがかかって奥行きのある音作りがされており、それが細かいトレモロを奏でていく。リフを反復的に繰り返していくわけではなく、もっと自由にメロディを奏でていく。そういった意味では非常に饒舌でメロディアス。同じく日本のArchaique Smileに通じるところがある。高音主体のトレモロが奏でる音は非常に美麗で温かみがあり、シューゲイザーでありながらポストロックの影響色濃い。
最後はギタリストが立ち上がってちょっとMogwaiの「Glasgow Mega-Snake」っぽい低音を押し出した激しい曲で締め。

The Florist
続いてオシャレで若いメンバーによる4人編成のロックバンド、The Florist。
FloristというとAnal Cuntが思い浮かぶのは会場で私一人だけだったのではなかろうか(というくらいの雰囲気でした)。
何と言っても透明感がありつつも甘いボーカルが特徴的な王道シューゲイザーを演奏するロックバンド。単音が意識されたギターがとにかくキラキラしている。ドリーミィかつ爽やかでまさに陽性のたたずまい。光がブワーってなるような光というよりはきらめき感のある感じ。インディーロックよりはうるさ目の音像で音の数はもっと多めだが、音でか目のライブということを考慮しても暴力的なところは皆無。シューゲイザーというと内省的でオタクっぽいから、結構そう言った意味では独自の世界観を構築しているバンドだなと。

Joy Opposites
転換の時にメンバーをみると明らかにいかつい。メンバーの一人は顎髭も逞しい外国の方でAlice in Chainsのシャツを着たドラマーには刺青入っている。「これはちょっと違う感じ」と思っていたけど、演奏が始まると果たしてシューゲイザー感はほぼ全くない。日本側のヘッドライナーなので予想を裏切られる感じ。とにかくオルタナティブっぽい。ほとんど装飾性のないギター、ベース、ドラム。リズム感が強烈に意識されたざらついた音質のギターが無愛想に重ねていくリフなんかはあの頃のオルタナ感がある。顎髭の方がメインボーカルなのだが、見た目に反して声が透き通っていて若い。ちょっと少年ぽさもあってそれが大変魅力になっていると思う。少年ぽいと言ってもシューゲイザーバンドのそれのようなあざとさはなくて、まさにオルタナといった風の無骨な中にもメロディーが溶け込んだ”歌”を軽快に飛ばしていく。2本のギターとベースの3人のフロントがみんな声を出していってここから生まれるコーラスはなかなか迫力がある。

Nothing
トリはNothing。写真で見てたからある程度は分かっていたけど実際にメンバーを見ると刺青もがっつり入っているしかなりいかつい。結構リラックスした様子でほとんどの機材を総とっかえしていた。ギターの二人はアンプが小さくてびっくり。こういったバンドのアンプは大きくなっていくものだと思っていた。二人いるギタリストは片方エフェクター少なめ(3つかな?)、もう一方多め。
転換終わって一度引っ込んだメンバーがのらーっと出てくる。ベースの人はT-シャツがDropdeadだ!彼は動きも一番ハードコアしてた。
音が出てくるとNothingだ。この日のイベントに出てたどのバンドとも確実に種類が違う。結構シューゲイザーの要素は強くて特に中音域に反響を伴って伸びていく音なんかはMy Bloody Valentineからのこの手の音の影響を感じさせた。何より”気怠さ”に溢れている。ただこの気怠さが曲者で例えば前述のMy Bloody Valentineの文学的・耽美的なそれとは違う。もっと俗っぽい「飽きちまったな」という感じ。それもむさい男の「飽きた」なのである。フロントマンDomenicはどうやら前科もあるらしいし、そういった意味ではマジでダメ男だ。そして去年出た新作のタイトルは「明日に飽きちまった」だ。連綿と続く毎日が明日も来ることに嫌気がさしている。差し迫った退屈と厭世観、それがハードコアを経由した暴力的なノイズに現れている。どちらかというと複雑さというよりは勢いと音のデカさで表現されたような強烈なノイズはやはり独特だ。シューゲイザーのオルタナティブではあっても往年のオルタナティブ・ロック(メタル)感はあまり感じられない。そこはやはりハードコアの影響色濃いのでは。冗長なポスト感も一切なし。実際目の前で見て聴いていて懐が広いというか、結構形容しがたいバンドだと思った。ただやはり俗っぽいというのが一つのキーワードで、天上の音のように形容されることもあるシューゲイザー/ポストロックに唾を吐きかけるような生活感があって、それがむしろ私のように「妙なる調べ」に勝手に拒絶されているように感じる卑屈な男にとっては救いになるのだ。憂さ晴らしだと言わんばかりに暴れるノイズが本当に胸に染み込むのだ。
セットリストは2つのアルバムから満遍なくで初めは戸惑った「Vertigo Flower」もライブで聴くとあれれ?と思うほどよかった。「Dig」、「Eaten By Worms」などNothingの暗さを感じさせる激しめの曲もやってくれたので嬉しかった。(個人的にはやっぱり「guilty of Everything」も聴きたかったな。)
1曲終わると間を挟んでいくスタイルでとにかくマイペース。フロントマンDomenic以外はほぼ喋らないのだが、当のDomenicも饒舌ではないし、喋っても「アリガトゥ」以外はほぼ英語。ウーロンハイやストロングゼロに拍手させたり、「飽きたな…」といったり(新作と絡めてのことだと思うけど)、メンバーと英語で会話し出したり。フロアに降りて座ってギターを弾いたりで自由で飄々としている。極め付けは最前の客をステージにあげてスマホで動画を撮らせ出した。これは面白かったな。ちなみに取り終わった後スマホをぞんざいに放り投げてた。
しかし演奏はやはり暴力的。ドラムのペダルが壊れ(ちなみに転換の時もそうだったがドラマーはスタッフから機材を受け取るごとにぺこりとお礼をして礼儀正しい人でした。)、ベースのストラップが切れるくらい。ほぼ音源に忠実な演奏だったがノイズは多めで単純に音がでかくて本当かっこよかった。バカみたいな感想だが、家帰って音源聴くと迫力が違った。ただ暴力的といってもそれ完全に表現の中だけであって、元ハードコアということで元ヤンキーみたいな怖さがあるかなと思ったら、完全にもうその過去は清濁合わせて飲み込んだという余裕が感じられた。完全に過去を消化しきって新しい音の模索を始めているのがNothingなのだなと。

新作に関連したマーチはかっこいいのが多かったので期待していたのだが、売れてしまったのかこの日はそんなに種類がなかった。クソカッコイイロングT-シャツを買って帰る。

Nothingは本当にかっこよかった。とにかくずっと見たかったから招聘してくれたIce Grillsさんには感謝しかない。ありがとうございました。

2017年1月9日月曜日

Kamaiyah/A Good Night in the Ghetto

アメリカはカリフォルニア州オークランドのラッパーの1stアルバム。(正確にはミックステープということらしい。)
2016年に自主リリースされた。この音源は彼女のホームページで無料でDLできる。
1995年生まれ若干21歳の女性ラッパーでDrakeと共演したりして知名度を上げているそうな。

私は女性ラッパーというとぱっと思いつくのはApaniくらい。学生の時に友達が貸してくれたnujabesの音源に客演していてその流れで聴いてた。それはもう10年以上前だからそれ以来きちんんと女性ラッパーというのを聴いていなかった。
別に女性ラッパーに苦手意識があるわけではないのだが、このカマイヤー(と読む)さんに関しては結構女性っぽくないラップを披露している。まずは声質が女性にしては低くてラップの方もどっしりかまえている。トラックメイカーは自身ではないようだが(プロデューサー=トラックメイカーなのか判然としないので間違っているかも)、声と同じく硬質にかっちり作られたタイトな楽曲はジェンダーレスだ。(もしかしてラップが男性優位の世界だとしたら男性的ということになるのかもしれないが。)女性らしいしっとりした、悩ましい(本人に悩みがある、もしくは逆に男性にとって扇情的であるという意味で)要素はほぼ感じられない。タイトルに「ゲットー」とある通り、いわゆるギャングスタ要素のあるタフなラップを披露しているのだろう。とにかく全体的なイメージは”強靭さ”だ。やはり貧困とそこから抜け出す(=リッチになる)手段としてビジネス(=ラップ)があるという、成り上がりの構図があるような気がする。ただインタールードに女友達との電話風の楽曲を挟んできたりと、ちょっとした小ネタで女性の持ち味を出しているのは面白いし、したたかだと思う。誰も彼女のラップを聴いて女々しいとは言わないだろう。(メロウな楽曲はいくつかあるし、どれも素晴らしい。)
どうも90年代を強くリスペクトしているらしく(MVにもそのセンスが現れているとか)音使いは今風のものとは一線を画す、結構それらしいサウンドだ。それらしいとはつまり少しチープに感じられるくらいテクノ感がある。最近よく聴いているRTJに比べるとただしトラックはかなり音の数が少ない。ぶっといマシンメイドなビートに薄い上物がふわっと乗っているだけで、あとはKamaiyahのラップが取り仕切っていく。彼女のラップはとにかく硬質で、最近はやり(だと思うのだが)ややオフビートな発声の仕方もあり、派手な飛び道具は用いず、ただただスキルのみで安定したラップを途切れることなく飄々と披露する。小節を抑えつつ、縛りのあるルールを飛び出して聞こえるくらい自由だ。この二律背反はヒップホップの醍醐味の一つではなかろうか。

強さが声に滲み出て空間を支配するくらい凄みがある。ただ全体的にはゆったり、飄々としているこのちょっとしたしなやかな複雑さはひょっとしたら女性らしさゆえなのかもしれない。文句なしにかっこいい。ヒップホップ聴きたいという人は是非どうぞ。非常にオススメ。

チャイナ・ミエヴィル/爆発の三つの欠片

アメリカの作家による短編集。
チャイナ・ミエヴィルの新作ということで買って見た。そもそもミエヴィルを読み始めたのが前回の短編集「ジェイクを探して」だった。表紙が私の好きな漫画家の弐瓶勉さんぽくてかっこよかったから買ったのだ。要するにジャケ買いだったんだけどその中身がよくわからないんだけど面白かった。そこから全部を読み切ったわけではないがミエヴィルは好きな作家の一人になった。

今回の短編には28つの短編が収録されている。数は多いから一つ一つは短いが結構読むのに時間がかかってしまった。ミエヴィルは決して読みやすい作家ではない。特に短編では彼のぶっきらぼうなところと、やや天邪鬼なところ(あえてわかりにくい書き方をするところがあるかなと、後述)が出ている。具体的には状況の説明があまりない。SF作家には結構ありがちだが、マクロな視点ではなくミクロな視点でも圧倒的に説明が不足しており、これはあえて書かれていないので「なんだなんだ」と思って読み進めないと状況が把握できないような作りになっている短編もいくつかあった。これはもちろんあえてこう書いているのであって、「暗闇を歩いているような不安な気分を味わってね」という作者の配慮に他ならない。いわば書かれた文字ではなく、そこから生まれる体験(よくUXとか言われるのと近いかなと個人的には思った。)もプロデュースしちゃうよ、というのがミエヴィルなのかもしれない。読みやすいわけではないが、代わりに他では得難い独自の雰囲気を獲得している作家だと思う。その持ち味が短編になるとギュッと凝縮されていて個人的には大変面白かった。読み解くような読書の遅さも楽しみの一つになったと言える。
自作を怪奇小説と称しているらしく(wikiより) その言葉通り、SF、幻想小説の垣根なく不思議な作品を書いている。(その世界観が遺憾無く発揮されているのが長編「ペルディード・ストリート・ステーションだろうか)ジャンルレスというより描きたいものが既存の枠に収まりきらないのかもしれない。相当頭のキレそうな人だからもちろんその創作物も複雑な意図に満ちているのだろうが、わかりやすいメタファーというよりは不思議そのものを描いているように思えるし、それが本書の帯の「シュール」という言葉に結実しているようにも思う。短編によっては異世界のことが異世界の言葉で書かれているように愛想がなく、異世界の説明不足のまま終わってしまうこともあり、ページを通して異世界を垣間見た読書はポンとそこから放り出されてしまうようなこともある。ミエヴィルのニヤリと笑う顔が見えるようである。(ミエヴィルは作家にしては(という言い方も変だが)強面のほうだ。)
個人的に気に入ったのは下記二つの短編。
「ゼッケン」これはチャイナ・ミエヴィル流の怪談と捉えた。ドイツを訪れた若い女性のカップルが幽霊にとりつかれる話。外国の幽霊譚というとびっくり箱的な恐ろしさがあるものだが、これはかなり和風ではないだろうか。因果がありそしてそれが結局生身の人間には理解できない、という作りがただただ恐ろしい。
「九番目のテクニック」これは魔術、もっというと呪いを現代的に書いた作品。これも方程式めいた独自の言語で書かれており、読み手は魔術師ではないので(私が愚かな性というのも大いにある)全てをはっきり理解できることができないのだが、現代に生きる黒魔術の世界を垣間見ることができる。ミエヴィルはトールキンを毛嫌いしているらしいが、未だに骸骨、蝋燭、反キリスト的な文言など旧態然とした魔術の要素・モチーフを使い続ける小説群に対しての強烈な反旗のようにも感じれらた。この本の中ではこれが一番面白かった。ぞわぞわきてしまうくらい面白かった。

個人的には大変面白かったのでいろんな人にも読んでもらいたい。読みやすいわけではないが、不思議な話(SFでも怪奇でも)に興味がある人ならすらっと楽しめてしまうと思う。是非是非どうぞ。
wikiを見るとまだまだ訳されていない作品があるみたい。新作も楽しみだがまずは既存の本を翻訳してほしいなと思う。とりあえずまだ読んでない作品を買ってみようと思っている。

THINK AGAIN/EVOLUTION

日本は東京のハードコアバンドの2ndミニアルバム。
2012年にBreak the Recordsからリリースされた。
3人組のバンドで残念ながらすでに解散してしまっているが、名だたるハードコアバンドとの共演や横山健さん主催のイベントへの出演など地上地下問わず”クロスオーバー”(調べてみるとこの単語で表現されていた)に活躍したバンドだったようだ。激しいライブはもちろん、被災地への支援活動などその活動は音楽を起点としたながらも縦横に広がっていたようだ。
名前しか知らなかったがディストロで売っていたのでなんとなく買ってみた次第。ドラムのチンウィルさんがやっている新バンドWWORLDの音源だけはもっているくらい。

パッケージ全体を通して赤と黒と白のみで構成されたアートワークが象徴するように地の通いまくったハードコアを演奏している。
ここでいうハードコアというのは速い、重たい、何より余計な装飾の一切ないいさぎの良い音楽のこと。どうしても速い、重たいとなると力強さによって支えられることになり、そこがともすると前面に出てくるものだが、このバンドに関してはこの力強さが男らしさ、にとどまり暴力礼賛になっていないのが非常にかっこいい。ストレートな日本語で綴られた歌詞にしてもまさにハードコアパンクだが、よく読んでみると執拗は他者批判(他者への責任転嫁)ではなく、俺からお前への激励とばかりに叱咤鼓舞する熱いもの。おそらく3人のメンバーがそれぞれボーカルをとるスタイルで野太いボーカル、かすれて甲高いボーカルとメリハリがあって良い。何よりこれがハードコアだ!と言わんばかりのコーラスワークが熱い、熱すぎる。これが前述の歌詞と合わさってまっすぐに放たれた矢の鋭さでもって聞き手の胸に突き刺さってくる。これが機関銃やレーザービームではないわけです。あくまでも筋肉はちきれそうになって振り絞って、放たれた矢の速さ。ファストコアやグラインドコアじゃない、しっかり地に足のついたハードコアの強靭さ、しなやかさを感じさせる。乱れた呼吸の荒々しさ、打ち付け、振り下ろすその筋肉の動きまで伝わって来そうな生々しさ。

調べてみるとハードコアのシーンでとんでもない輝きを放っていたバンドのようで私は本当に今更聴いたわけだけど、この音源1枚でその凄さの一端を垣間見ることができた。ハードコアが好きな人でまだこのバンドを聴いたことがない人は是非どうぞ。

2017年1月7日土曜日

Black Daydream@下北沢Shelter

今年のライブ初めは下北沢Shelterから。
ということで日本のブラッケンド・ハードコアバンドisolateと東京オールドスクールデスメタルバンドCoffinsの2マンライブが真昼間から開催されるということで行ってきた。
両バンドともにライブを見たことがあるのだけど今回は両バンド60分、合計120分という長い尺でのライブなのでじっくりその音楽を堪能できるということで期待に胸が膨らむ。
音楽性は違うのだけれど仲良しということで実現した今回のライブ。この日のためにT-シャツも作ったというバンドの気合の入れよう。

思えばShelterに前に来たのはマイナーリーグの昼ライブだったからまたお昼に来たことになるね。あまり奥行きがないんだけど、ステージが横に広くて結構好き。
今日は遅刻しないで11時40分くらいに到着。お昼だけどお客さんは結構入っている。Neurosisの「Sun That Never Sets」がSEでテンション上がる。

isolate
1番手は東京ブラッケンド・ハードコアバンドisolate。今年で結成10周年!
激情ハードコアをブラッケンドさせた強烈な音楽を演奏しているバンドで私は目下最新音源「ホームシック」、アルバム「ヒビノコト」、「Limitation」を持っている。前回目にしたライブは圧倒されて終わってしまったので今日はじっくり見てやろうと。
テレビの砂嵐を思わせる壁のようなノイズから幕を開け、一転雪崩のように曲が展開されていく。叩きまくるドラム。途切れることなくトレモロリフを奏でる2本のギター。音はもちろん動きも常軌を逸しているベース。そして手話のような身振り、派手なアクションを伴う絶叫ボーカル。音源に比べて圧倒的にハードコアだ。ブラッケンドという形容詞が吹き飛ぶくらいのハードコアだ。まずブラックというには音が強烈すぎる。真性ブラックに見られる退廃的な美しさ、儚さは壁のように塗り込められたノイジーなリフにかき消されている。音的には真っ黒だがメタルの金属質さはほぼなく、ささくれた音が大音量で耳に突き刺さってくる。音を放射しつつも反対にぐうううーーっと内向きに巻き込んで落ち込んでいくような、そんな暗い属性を持っている。ボーカルは日本語で歌っているのだが、バックの演奏がうるさくて歌詞がほとんど断片的にしか聞き取れない。血管がブチ切れそうな形相で演奏に負けじと絶叫している。本当ならこんなことしなくて良いのだ。アコースティックギターに合わせて普通に歌えば良いのだから。それを大出力のアンプでこうもノイズの洪水のようにしてしまうのだから完全にどうかしている。だがそのたまに聞こえてくる絶叫が胸に突き刺さってくる。思い出して欲しいのだが彼らの最新アルバムのタイトルは「ヒビノコト」なのだ。少なくとも私の日常はこの音楽のように劇的ではないが、それでも灰色の日常の中で浮かび上がってくる感情の色がある。それがisolateの異常に激しく、荒涼とした曲の中にビビッドに感じられる。胸に湧き上がってくるのは高揚とそしてジンと沁みる感動だ。この感覚はRedsheerを観るときにも感じる。自分が言葉にできなかった、形にできなかった様々な感情とそれにひもづく出来事が胸に去来してくる。最高だ。私はもう憧れを持ってステージを呆然と見ていた。素晴らしかった。
isolateが激情ハードコアなのかはわからないが、もしそうなら激情というのは内省とそれが導く日常からの逸脱だ。ここにはFromとToの動きがある。(逆にハナから完全に異界的な情景を作り出す世界観のはっきりしたメタルはある意味安定していると言える。)目的地が完全な異界だったとしても、出発点は紛れもなく日常である。よく「〜の向こう側」というがisolateはハードコアの向こう側に行ききってはいない。異常に激しく、病的だが、常に葛藤がある。片足は現実に踏みとどまっている。いわば正気と狂気への逸脱の相克(=移動がある)が曲にあって私はとにかくこのせめぎ合いに心が震える。灰色の日常を過ごす私は、そして逸脱としての狂気に憧憬を感じる私は「わかる」と思ってしまう。isolateには特にそう感じてしまう。真面目故に(私は不真面目極まりないんだけど)悩み、揺れる感情が見て取れる。
楽しいのは楽しいけど、それよりもっと心が動かされた。実はなかなかこういうのはないんだ。

Coffins
2番手はオールドスクールデスメタルを20年鳴らし続けるCoffins。
isolateとは全く違う音楽性でこちらはもう完全に異常者の地獄風景である。(各音源のアート枠のような病的で恐ろしい異世界。)
ところが曲が始まると本当に楽しい。明らかにフロアの盛り上がりが凄まじい。もはやデスメタル界のアイドルか!と感じてしまう。もう曲が止まらない限り無限に首が振れる、体を揺らせる。音的には完全にドロドロしたデスメタルだ。isolateより黒さで言ったら黒い。まさにデスメタルなのだが、なぜこうも乗れるのか?楽しい雰囲気の中で必死こいて考えて見た。
まず圧倒的にリズムがかっちりしている。ドラムのSatoshiさんはタッパを生かした剛腕ドラムでしっかりビートを刻んでいく。曲のスピードもあって手数は多くないが一音一音がでかくて(他の演奏陣が黙っている時のドラムの一撃の衝撃たるや)、くっきりしている。前面にズラッと並べられたシンバルのクラッシュが印象的で、バスドラとクラッシュに合わせて体を振れば良いのだ!また基本的にはこのドラム、つまりビートが安定している(つまりカオティックに目まぐるしく展開を変えていかない)のですごく乗りやすい!とはいえ曲中ここぞというときにはテンポチェンジや転調をしてくるし、何よりドラムの叩き方に曲ごとにバリエーションがあってマンネリさは皆無。個人的には中盤の3拍子(だと思うんだけど違ったらすみません)の曲はカッコよかったな。頭で3拍子取っていると曲も裏切らずにひたすら気持ち良かった。
この精緻なビートにデスメタリックなリフが乗るんだけど60分聞いていると実は刻みまくるメタリックなリフの他にも中音での気持ち悪いデスなトレモロフレーズや、ハードコアばりに引き倒していくようなリフもあることに気づく。バリエーションがすごい。ソロやワウ(ワウはひょっとしてベースかも)もあるし、ボーカルが乗らないパートは扇情的で高揚感が半端ない。
いかつい音楽性だがここまでキャッチーなのはただただすごい。キャッチーといっても歌メロや日和ったわかりやすさがあるわけじゃない。徹頭徹尾真面目にオールドスクールデスメタルを追求し続けた20年の成果が曲に表れているんだと思う。贅沢な60分間でした。

終演後予約者限定受付だったT-シャツが解放されたのでちゃっかりゲット。
Coffinsのベースのあたけさんが「気軽に(ライブに)遊びに来てね」といっていたのが印象的だった。今年はもっとライブに遊びに行こう。

2017年1月2日月曜日

Run the Jewels/Run the Jewels 3

アメリカはニューヨーク州ニューヨーク/ジョージア州アトランタ出身のヒップホップユニットの3rdアルバム。
2016年にRun the Jewels Inc.よりリリースされた。現状のところオフィシャルによるデジタル形式のみのリリースでフィジカルは年が変わって2017年にリリースされる予定。
Run the JewelsはMC兼プロデューサーのKiller MikeとEl-Pの二人によって2013年に結成された。今作を含めて3枚のアルバムをリリースしているが、ネットに接続できるなら全てフリーでDLできる。私はKiller MikeもEl-Pも知らなかったのだが、一昨年(2015年)一個前のアルバム「Run the Jewels 2」をなんとなく買ったらとても気に入っており今でもよく聴く。新作ということでフィジカル待つには時間空きすぎて耐えられないので、繋がらないオフィシャルサイトに躍起になってアクセスしてDLした。
今作では前作でも参加していたBOOTSなどいくつかのアーティストが参加している。ftと表記されるMCとして客演するのはもちろん、曲作りにもメンバーの二人以外が関わっているようだ。私が知っているのはKamashi WashingtonとZack De La Rochaの二人。ニューメタル世代としてはやはりザックというとテンションが上がってしまう。(ninのトレントさんとアルバム作るって言ってたのはどうなったんかね。)

このユニットはサンプリング主体の伝統あるヒップホップというよりはデジタル技術を駆使したオルタナティブなヒップホップ(実際サンプリングが使われているのか否か、使われているとしたらその頻度はわからないのだが)をプレイしている。そのためいわゆるジャジーな元ネタを使ったヒップホップとは一線を画す作りになっており、未来的(決して前衛的では無い)な音作りになっている。それが私のような普段はヒップホップをあまり聞かない人たちにも刺さっているのかもしれない。
ビートはさすがにヒップホップだけあって重たくまた数の少ないしっかりしたものだが、テクノとまではいかないもののマシンメイドの無機質さを感じさせる。
ぶっといビートに乗っかる上物に関しても空電ノイズのようなヒョロヒョロしたもの、工業機械を思わせるインダストリアルなものなど、色彩豊かな”ノイズ”たちが飛び回る。これが面白くてまずバランスが良くて全体的に抑えられている。ロクでもないメタラー/パンクスだとこってりした顔でノイズもマシマシで!となりがちだが、さすがはヒップホップどれも邪魔にならないくらいに、もっというと耳に入るけど意識しないくらいにコントロールされている。もちろんラップを生かすヒップホップの黄金律に沿ったもので、ラップを抜かしたら結構ソリッドかつストイックなトラックになるのだろうと思う。全体的に音にはフィルタとエフェクトがかけられていて余韻がもたっと残るように調整されているので、冷徹なマシンビートが空間的/眩惑的な(それこそ煙たい照明が抑えられた地下のクラブのような)雰囲気を作り出している。
そこに二人のラップが乗るのだが、やはり声質の違いがはっきり出て良い。El-Pのパートだと「やっぱEl-Pかな」となるのだが、Killer Mikeがラップしだすと「うん、Killer Mikeだな」と思うくらい。単語単語がくっきり分かれてそれぞれが跳ねるように明快、乾いており明るいのがEl-P、単語が小節ごとにくっついてその小節の中でウネリがあり滑らか、ちょっと湿ってこもっているのがKiller Mike。見当違いだったら申し訳ないのだけど人種が違うと結構ラップには違いが出るのでは…と思う。
青を基調としたグラデーションが美しいアートワーク通り、真っ赤だった前作と比べると音の種類的にはやや大人しくなったと思う。初め聴いたときは「むむ」と正直思ってしまったのだが、ところがどっこい聴いてみると前作に一歩も引けを取らないくらいかっこいい。一つはトラックが大人しくなり、ラップがさらに曲の中心に据えられていること。抑え気味のBPMの中を緩急自在に(ラップの速度が一定ではない!)自由に泳ぎ回る二人のラップがとにかく映える。落ち着いて持ったりした靄の中、チラチラっと鱗が光るようなEl-P、ゆったり這い回る蛇のようなKiller Mike。どちらもやはり”危険さ”があると思う。いわゆるギャングスタとは異なるのだろうが、スキルのやばさ、そして「Bitch!」に代表されるよろしくない言葉たちがちりばめられた危険さが非常にかっこいい。トラックも枠から出ないくらいに実は展開が変わったりしているが、全体的にはよりヒップホップ成分が増しているのではなかろうか。(そういえばスクラッチの登場頻度は増えているようだ。)

というわけで前作に引き続き今作もやばいかっこよさ。これはもう音楽好きな人はもちろん、ヒップホップが苦手なんよ…という人でも一旦聴いてみていただきたいくらい。めちゃかっこいいので是非聴いてみてね。オフィシャルでフリーDLできますので。非常におすすめ。

2016ベスト音楽

Anaal Nathrakh/The Whole of the Law
エクストリームブラック。圧倒的なパワーにメロディアスなコーラスというずるさ。とにかく力強く、やっていることはアングラでも卑屈なところがない。熱風に当てられたように高揚する。

The Body+Full of Hell/One Day You Will Ache Like I Ache
ノイズ倍加されたインダストリアルスラッジ。「いつかお前らも俺と同じように苦しむぞ」というタイトルが良い。とにかく良い。じめっとした陰湿なイヤらしさを感じる。タイトルトラックと続く「Fleshworks」は今年一番聴いたかも。

The Dillinger Escape Plan/Dissociation
マスコア暴風雨バンドの最終作。激しい音楽の応酬だが思い入れありすぎてまるで走馬灯のように思い出が巡り巡ってくる彼らなりのグッド・バイ。湿っぽいのはごめんだぜって感じ。ありがとう。

Khmer & Livstid/Khmer & Livstid split
ネオクラスト&ハードコアスプリット。両バンドともハードコアの中に明るい希望というか、暗いトンネルの先に白く光る出口を感じさせる。Khmerはライブを見てとにかく楽しくてびっくりした。こんなライブあるのか!と思ったわけです。

nothing/Tired of Tomorrow
ハードコア経由のシューゲイザー。個人的にはトータルで見ると前作の方が好きかもなんだが、「ACD」とそして何より「Eaten By Worms」がアホほどカッコ良い。暴力的で内省的。妙に明るいから逆に危険な厭世観。


Run the Jewels/Run the Jewels 3
アメリカのオルタネイティブ・ヒップホップの3作目。前作より抑えた音使いでヤバみが上昇。煙たい地下クラブで危険なラップが光りまくる1枚。Zack De La Rochaも参加しているのでメタラーも大手を振って聴けますで!今すぐDL!(テキトーです)

Vatican Shadow/Media in the Service of Terror
無愛想ミニマル。聴いているとまるで自分がデフラグされているような気分になってくるから電子音というやつは好きなんだ。これはその極北みたいな感じ。

UXO/UXO
Today is the Day+Unsaneのノイズロック。頭抜けて暗いわけでも重たいわけでもない、むしろざらついたギターの音がカッコ良いのだが妙に怖い。こいつら何処か正気じゃ無いと感じさせる歪な感じ。異常に歪んだ角度が内包されている。すでに攻撃されている。

裸絵札/Selfish
大阪発低俗テクノヒップホップ。とにかくトラックの出来が格段にレベルアップしている新作。ゴリゴリくるヤンキー的なビートに思わずオタクの私も「オラー」と叫びたくなる。




以下は編集版。
Mortalized/呪われた…Complete Mortality
解散済みの京都グラインドバンドのディスコグラフィー。グラインドコアというとんがった故に差異を産みにくいジャンルでこうも感情を込めたバンドがいるだろうか。超高速ブラストビートとギターリフの隙間に激動するエモーションが詰め込まれている。

SWARRRM/20Year chaos
カオティックグラインド20年の歴史。個人的には最新音源との違いが面白かった。ギタリストのkapoさんはライブではステージ降りると優しげな人に見えたが、インタビュー読むと覚悟がすごい。そんな真剣さのみで構成された自伝のようアルバム。




以下は旧譜でよく聴いたもの。
Petar Pan Speedrockはさよならライブに行けばよかったと後悔。
  • Banane Metalik/The Gorefather
  • Peter Pan Speedrock/Fiftysomesuperhits
  • Regis/Manbait
  • Slamcoke/Des Flis De Pute
  • 細胞彼女/細胞宣戦


相変わらず気になったものをなんでもって感じでバラついた感じに。自分の中ではやはり感情的な音楽が好きだな〜と思っております。
2017年は

  1. もっと自分の手と耳と目で音楽を探す。(去年も同じこと言ってました!)
  2. もっと聴く音源の数を増やす。

という感じでどうかひとつよろしくお願いいたします。