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2018年8月18日土曜日

Sonic Mania2018@幕張メッセ

誰にでも特別なバンドやミュージシャンがいるものだ。新旧とかジャンルとかは一切関係ない。ただ自分にとって格別な思い入れのあるバンドが。私にとってはnine inch nailsがそれだ。中学生の頃に「The Fragile」を手に取ってからずっとそうだ。

仕事がまたもや忙しくなっていた。私たちがトラブルに遭うのではない。トラブルが私たちを見つけるのだ。仕事が阿呆ほどあって、つまりそれは概ね悪いことであるが、さらにいいことと悪いことがあった。悪いのはQueens of the Stoneageのライブに行けなかったこと。良いことはこんな状態を見越してチケットを買わなかったが、結果的には買っても行けなかったから良い判断だった。炎上中の案件を会議室にこもって対応中に別の案件をやってのけるという図太さを見せつつある私は、8月17日しかつめらしい顔で何かをすごく私にいっている会社の違う部署の人に「大丈夫ですんで」と呟いて会社を立ち去った。(経験のある人ならわかるだろうが全く大丈夫ではない。私を見つめる上司の顔には独特の哀愁がある。)向かうは幕張メッセである。nine inch nailsが私を待っている。Trent Reznorは比較的よくいう。曰く「Nothing can stop me now」

いわゆるフェスに来たのは高校2年生以来ぶりだろうか。そういえばSummer Sonicだった。Marilyn MansonをヘッドライナーにSlipknotも帯同する。日本からはMad Capsule Marketsが堂々と向かい打つ。今思うと隔世の感があるラインナップだ。元気だったから朝一からスタジアムに行って最後までいた。
あれから20年くらい。着いた時点で既にしんどい。22時過ぎ。体が重たい。(会社のPCが入っているリュックを背負っているから。)そしてフェス慣れした元気そうな人々がなんとなくしんどい。普段は小さいライブハウスにばかり行っているから異なるレベルで人が多いのもしんどい。金には常に苦しまされているが、優れた解決方法でもある。私はプラチナチケットなるものを購入してなるべく列に並ぶという行為を排除することにしていた。物販でninのグッズを購入し、実際の重量以上にクソ重たい社会性(会社のPC)をクロークに預けて、とりあえずビールを飲み、軽くご飯を食べる。マウンテンステージという4つあるステージで一番大きいものに向かう。コーネリアスというバンドがやっている。申し訳ないが耳に入ってはくるもののあまり印象がない。ninのことを考えていたから。プラチナチケットだと専用のエリアがあるが、正面から外れている。私は普通のエリアの比較的前の方に陣取った。コーネリアスがはけ、転換が始まる。薄汚い巨大な布状のものが下げられ、いくつもの照明がステージの脇にセットされる。私の興奮は静かに確実に高まっていた。労働で濁った目でステージを見上げる。腫れたように重たい脳で祈るように思う。どこか別の場所に連れて行ってくれ。転換が完了し、大量のスモークが噴射された。いよいよだった。スモークの向こうには別世界がある。

nine inch nails
三部作の1本目Not Actual Eventsから「Branches/Bones」を冒頭に持って来て巨大な地響きのような衝撃を巻き起こし、浮いた観客の体を間髪を容れずに「Wish」「Less Than」「March of the Pigs」で強烈に揺さぶる。隙間なく埋まったステージ前方はここの力が好き勝手に暴れて分子のようにそれぞれがいろんな方向からシェイクされる様相。こりゃやべえな、と笑いがとまらない浮かれた頭のなかに意味のない風のような思考が流れていく。とすると「Piggy」でトーンダウン。基本的に観客はみんなすごく歌う。
そこからは最近の作品からを中心にした曲を続けて披露。いいね、すごくいいね。私はninには単純な暴力性を求めてはいないのだ。激しい曲は素晴らしいが、そうでない曲だって全く同じに素晴らしい。Trentの声をききながら思った。人間が砂のように分子でできているなら一旦崩して再構築できれば良いのに。気持ち良い音が耳からだけでなく全身から入ってそんな原子を揺らしているような感じがして来た。「死と破壊」なんて形容されることもあったけど、nine inch nailsはそんな感じでもない。もっ違う何かだ。なんだか勝手に荒んでた心が、全く違う衝撃で揺らされてめちゃくちゃ感動した。
中盤で「Closer」が披露される。冷静になって思うとやっぱり最近のninはすごい。結構この頃とは曲のつくりが異なる。ロックを電子音で補強したり、一部を入れ替えたりしていた初期に比べると、今は電子音で曲を作ってそこにロック的なアプローチを作り上げている。出来上がった音楽は有機的だが、底流と表層という意味でも多層的な構造になっている。あくまでも歌が中心になっているからすっと受け入れちゃうけど、こうやって新旧の曲を織り交ぜて、そして今の体で再現するライブを体験すると曲の違いが明確に意識される。「Copy of A」もすごく盛り上がる。曲はシンプルといっていいほど音を削ぎ落としたデジタル的な音像だが、リズムが明確だしとても肉体的だ。明るいとは言えない曲だが、実は過去作からすると風通しはとんでもなく良いし抜群に気持ち良い。鬱屈してないわけではないのだが、それを飲み込んで全身する動きがあるよな、とつくづく思う、最近のTrentには。敬愛するDavid Bowieのカバー(Trentがストーカー役でPVに出ている曲)を披露。その後The Fragile大好きマンなので「Even Deeper」で私が発火。こんなの余裕で歌えるぜ!音が持ったりしていてこれはこれでやはり最高。ケタケタ笑っていると次は「Gave Up」じゃん。高校生の頃この歌詞を事業中にノートに書き付けていた私に死角はない。全部歌える。(My Steady Sysmatic Diclineって一番かっこいい英語じゃんって思ってた。今でもそう。)この曲は音源もいいけど、ライブでも後半また別の良さがある。その後「The Hands That Feeds」から「Head Like a Hole」、そしてラスト「Hurt」でしめ。
どの楽器も非常にバランスが良く、曲によってはギターに関しては本当に抑えられているというかロック的なダイナミズムが潔くカットされている。電子音に関しても例えば異常な存在感があるノイズ、とかでもなく全体の統制が意識されている。ただし「Hurt」のギターの音、それから最後の最後のドラム(ここが好きすぎる)などでは音の少ない分存在感がある。相対的な音作りがされているように感じた。
言われているように音は小さめだった。確かに個人的にはもっともっと大きい音で出して欲しかったな、という気持ちもある。だが曲の良さは全く減じられていなかった。オーディエンスのリアクションにもTrentは満足だったらしい(MCは結構してました。)し、またすぐ来て欲しいな。
お客さんは外国の方も非常に多く、私のように人生に忸怩たる思いを抱えていそうな中年男性もふんだんにいたが女性も非常に多かった。

演奏中に日付が変わっていたが、昨日もそしてもう今日も終了だ。私の目的は果たされた。情報量と思い入れが強すぎて完全にハングアップしている。この後は続けてマウンテンステージでMy Bloody Valentineだったが離脱。服がびちゃびちゃだったのでクロークで荷物をうけとり(プラチナだと出し入れ何回でもOK、利用自体も無料)、着替える。飲み物を買ってSpace RainbowまでThudercatを見に。

Thundercat
途中からだし、かなり放心状態だったので全然ちゃんと見れてない。6弦ベースを抱えたフロントマン(Thundercatさん)と鍵盤、ドラムの編成。かなりフリーキーな歌ありなジャズ。超絶技巧で歌があれば結構ダンサブルに聞けちゃうのだが、途中の掛け合いではかなりエグいことに。特にドラムはもはや手数が多くて拍子が把握できない。これはもうジャズを通り越して踊れないのではと心配になる程。私はドラムの連打は超好きなのですごく気持ちよきけた。ベースはいわゆるベースの音ではなくてほぼギター。リズムからメロディから全部自分でやっちゃう多才ぶりで、オルガンみたいに丸っこい音であっちいったりこっちいったりする。詳しくなので印象だけど曲によっては音の感じからもフュージョンっぽいなと思う。技巧を売りにすごくてもどうしてもハードルが高くなってしまうこともあると思うのだけど、Thundercatの場合はここでまるやかな歌が入るので印象が全然違う。格式高いジャズというよりももっと愛嬌のあるやつで、ベースだけでなくこちらの方も丸っこい。音源買ってないけどちゃんと聞いてみよう。

Flying Lotus
そのままSpace rainbowに居座り、次のFLYLOに。事前に3Dメガネが配られる。どうも視覚効果をかなり使うらしい。そう言えば初監督作品がしばらく前から日本でも公開されている。その名も「KUSO」。これは否が応でも期待値が上がらざるを得ない。
「 3Dグラスをつけろ!」というアナウンスがあってからライブがスタート。ステージ中央にセットされたShit(いうまでもなくKUSOのことだ)を模した卓でおそらく音と映像をコントロールしているのだろう。暗くてよく見えなかったが、ドラゴンボールのサイヤ人の戦闘服を着ていたようだ。(ちなみにThundecatも同じで、確かに「Gokuu」とかすごくいっていた。「俺はドラゴンボールが好きなんだ!」ともたしか。)
とにかくサイケデリックな視覚効果に目が奪われる。風邪をひいて熱を出した時に見る抽象的な悪夢のようだ。幾何学模様が姿をぐにゃぐにゃ変えていく。球体関節人形が出てくる。妙に日本的な動物たちがその姿を変えていく。クラゲのような生物。人間のスケルトン、などなど。さすが映画も取る人物だなー、こりゃ見るドラッグだーと感動しているのだが、ふと気が付いた。音がやばい。音量もでかかったが、問題はそこじゃない。映像は非常にアバンギャルドだし、恍惚感を催すが音はバリバリにソリッドだ。わかりやすい酩酊感は全然ないぞ?ハーシュノイズも少なめ(1曲あった)だし、ドローン的な音づかいはほぼ皆無。全編ほぼバッキバッキの金属質なビートで曲を作っていく。リズムが明確だし、非常にリアルだ。この目がさめるような鋭い音でトリップ感を演出するなんて一体何事だろうか。澁澤龍彦さんが幻想文学は朦朧とした文体で書いたらダメよといっていたのを何と無く思い出した。FLYLOはソリッドな音を使って全くの異空間を深夜の幕張に現出させた。
Kendrick Lammarネタで客席を大いに沸かせつつ、Twin Peaksのメインテーマから間断なく攻殻機動隊イノセンスネタを挟んでくる。マニアックさとか日本びいきというより単にてらいなく好きなものを取り込んでいるという感じで面白かった。

電気グルーヴもみようと思っていたが疲労感と虚脱感が半端なかったので帰宅。プラチナチケットは入場、物販、クロークが別列(ほぼ並んでいない)で使えるので快適だった。
フェスといえばご飯なので色々食べるぞ!と思ったけど結果的にほとんど食べてなかった…。フェスの雰囲気は楽しいけど、やっぱりある程度小さいライブハウスの方が自分にはあっているような気もした。人とくればまたちがうのだろう。
とにかくNINを見ることができて私は完全に満足である。ありがとうございました。

2018年8月11日土曜日

nine inch nails/Bad Witch

アメリカ合衆国のインダストリアル・ロックバンドの9枚目のアルバム。
2018年にThe Null Corporationz/Capital Recordsからリリースされた。
「Not the Actual Events」(2016)、「Add Violence」(2017)に続く三部作のラスト。いつの間にかアルバム扱いになっていた。公式では何故かメッセンジャーバッグが付いたセットが販売されていて、謎の黒い粉なら雰囲気あるけど、自転車とninには全く関連性が感じられず流石にこれは正直誰が買うんだと思った。ちなみに私は買った。(信者だから。メッセンジャーバッグは最高にカッコ良かった。)

今回も相棒はAtticus Ross。近年の数々の映画(余談だけど全く予備知識なく「パトリオット・デイ」という映画を見て音楽がninっぽいなと思ったら果たしてTrentの手によるものだった。)のサウンドトラックも彼とタッグを組んでいる。波長が合うのかな?基本的には二人で作ったのだろう。全部で6曲で30分ちょっと。長さ的にはアルバムでもEPでもいけるけど、そこは音楽の聴き方に非常に敏感な(ネットで売ったり、投げ銭で売ったり、自身が海賊サイトを愛用したりと色々自分でもやっている人)Trentのことなので、CDという過去のフォーマットへの拘りを捨てて、今の音楽の聞かれかたを意識したのだろう。昔は良かったというでもなく、今におもねる訳でもなく、聞き手を意識して出し方を変えていくのは個人的には良いと思う。(ドゥームメタルなど特定のジャンルを除けば)音楽の良し悪しは音源の尺の長さに依存しないはず。もっと聴きたいな、という要望にはそれこそEPで対応してきた訳だし。
復帰作「Hesitation Marks」からの延長線上、つまりミニマルかつ音のレベルの小さいビートをかっちり作っていき、その上に歌を乗せるタイプ。歌とビートどちらが先行しているのかはわからないが、バンドサウンドの使用量の減退もあってか今風の音にアップデートされていると個人的には思っている。ただ中身の歌は昔からずっと変わってない。流石に「Downward Spiral」の頃のような自己破壊志向の耽美さはもはや霧散しているが。(かといってTrentの肉体改造と合わせてninが健全になったとは思わない。全アルバムのタイトルも「ためらい傷」だとか。)いわば表現方法が変遷しているのだ、ninは。
色々調べてみると「以前の作品のように攻撃性を取り戻し」たと評されていることが多いようだ。昨年から会社の上司の強い勧めでデヴィッド・リンチとマーク・フロストの「ツイン・ピークス」にハマった。最新作「The Retuen」ではninが作中で「She's Gone Away」を披露した。前述のEP収録の曲だが、これはこの作品のために書き下ろしたのだという。なんとなく昨今のninというとこの曲のイメージがあったけど、暗くて非常にノイジーだった二つのEPと比べると確かに趣が異なる。流石にEPつながりでバリバリバンドサウンドだった「Broken」とは流石に全然似ていない。(調べたら26年前だ。とはいえ曲をコンパクトにまとめるというのはずっと共通している。)1曲め「Shit Mirror」続く「Ahed of Ourselves」を聞くと確かに攻撃的だなと思う。前者はなんとなく「Hands That Feeds」を連想した。音の使い方とポップさに共通性を見出したのだ。でも3曲め以降はこのアルバムのリメイク(一度既存の曲を全部ボツにして作り直したそうだ)のきっかけになったTrentによるサックス(何気なく吹いたらおもしろくてアイディアが湧いてきたらしい)が入ってきたりして、単純に攻撃的というのではない気もする。割と実験的なアプローチをしていた前作の経験を振り返って見て、ninの基本に立ち返って彼ら流の歌に再構築した、というのが私の印象。この作品をEPではなくてアルバムというフォーマットにしたのもそこらへんが理由なのかなと思う。
嬉しいのはインストが2曲収録されていること。私は「The Fragile」至上主義者なのだが、何と言ってもあのアルバムはインストも格好良い。このアルバムのインストも不穏のベールの向こう側で色々な楽器が唸りを上げていて、あの頃を彷彿とさせる。胸が熱くなる。
先日Croosbeatからninのムック本が出版され、まだ全部読めていないのだけど面白かったのは、Trentはバンドをスタートさせる時から人に聞かせることを意識していたこと。なんとなくマニアックなイメージがあるのだけど実際世界で売れてもいるわけで、そういった意味では今作の”らしさ”、つまり使っている音はアップデートしつつ(ムック本を見るとTrentの外見の変遷も面白い)も、核となる曲というか歌はずっとぶれていないところ、も非常に納得感がある。

2017年6月25日日曜日

khost/Governance

イギリスはイングランド、バーミンガムのインダストリアル/ドゥームメタルユニットの3rdアルバム。
2017年にCold Spring Recordsからリリースされた。
khostは2013年にJustin K BroadrickといくつかのpロジェクトをやったこともあるAndy SwanとDamian Bennettによって結成されたバンド。最近では日本の林田球さんの漫画「ドロヘドロ」のコンピレーションにも参加している。私はこのコンピレーションから興味を持って2nd「Corrosive Shroud」を購入した次第。
Sunn O)))に影響を受けたような垂れ流しの重低音に、エクスペリメンタルなインダストリアル要素とある意味よりとっつきの良いドゥームメタル要素をぶち込んだ楽曲を披露しており、モダンにアップデートしたGodfleshとも例えられるようなどっしりとした音楽だった。とても気に入ったので今回の新作も購入。

基本的な路線というか土台は同じで、一撃の重たい重低音を引きずるように垂れ流す。すでにリフは溶解しており、パワードローンといった趣すらある。そこにやけに金属的なドラムを絡めてくる。金属板をぶっ叩いて出しているかのようなキンキンした音は無人で動き続ける非人間的かつディストピア的な未来の工場で録音された騒音のようだ。ギターが奏でる重低音の響と、重低音〜金属的な高音まで抑えたドラムの相性はあいも変わらずバッチリ。そこに乗るボーカルはしゃがれたデス声でこれは妙に感情が抜けていて、明らかに焦点の合わない目で空虚にボソボソと呟かれている。デスメタルなんかは非常に感情的な音楽であるのに、激烈な音楽性を保ちつつそこを放棄しているのが面白い。一方妙に怪しい節のある「のわ〜〜」とした詠唱のような歌声も頻繁に使ってきてひじょに”リチュアル感”がある怪しい世界を構築している。ここまでは基本的に前回と同じ世界観であり、「ドロヘドロ」コンピレーションに提供した1曲目「Redacted Repressed Recalcitant」何はそのkhostの要素がぎゅっと詰まったキラーチューンと言える。ところが2曲目「Subliminal Chloroform Violation」では大胆に我が国の民謡「さくらさくら」をフィーチャー。khost流のインダストリアルに侵されて感情が抜けて腐敗している歌声が何とも恐ろしくそして虚無的で、退廃的である。いわば攻撃性から軸をずらしてもう少し別の地平を目指した音を作り出そうとしている姿勢が見られる。この曲以外でも「Low Oxygen Silo」では管楽器(トランペットかサックスかと思うが)がメインを張っているし、その他の曲でもアンビエント、女性ボーカルの導入(どれも感情が抜けている)、アコースティックギターなどなど、いわゆるヘヴィと称される音楽性では通常用いない要素、アイテムを大胆に取り込んで唯一無二の音楽を構築している。いわばデスメタル的な力自慢から明確に一歩退いて独自の音楽性を模索しているわけだけど、もともとインダストリアル成分と、程よく隙間の空いたドゥームメタルのフォーマットは新要素を持ち込むのは適していたのだろう。また過去作品でkhostの重低音は完成されていたわけだから、それを土台に次の武器を探しにいった過程がこのアルバム、といっても良いかもしれない。
「エクスペリメンタル」というのは今結構曖昧な意味でメタル界隈では使われているが、このように多様な音楽性を取り込みながらも唯一無二音を鳴らしているバンドには非常にしっくりくる形容詞だと思う。「Governance」では”非人間的な虚無さ”という統一されたテーマでまとめ上げられているため、異なる角度が全て円の中に収まっているように感じる。

2ndから大きく化けたんだけどこれが非常にかっこいいわ。こうなるために前作があったのかというようなぢ続き感もあってあるべきところにきっちりはまった感じ。インダストリアル好きは人は是非どうぞ。徹頭徹尾不穏で楽しい。金属的な響きにはその余韻に妙に寂しさがあると思うが、その余韻をひしひしと感じられるとても良いアルバム。非常におすすめ。

2017年1月15日日曜日

Ansome/Atowaway

イギリスは南ロンドンのテクノプロデューサーによる1stアルバム。
2016年にPerc Traxからリリースされた。
AnsomeはKieran Whitefieldによる一人ユニット。このフルアルバムをリリースする前に発表した音源ですでにクラブシーン、それからネットで注目されていたようだ。

ノイジーでダブ要素のあるテクノといったら珍しくないどころか割と世に溢れているジャンルなのかもしれない。しかしこのノイジーでダブ要素のあるテクノを徹底的に無愛想にやった結果特徴的になっているのがこのAnsomeという人。
ぶっといリズムが主役であとは脇役と言わんばかりの曲作りで、ガムガムタイトかつミニマルにビートを刻みまくる強烈なマシンビートが異常な存在感を放っている。徹底的なミニマリズム(もはや絶対、テコでもペースは変えないという我慢比べのような)はインダストリアル詰まる所無慈悲に一片の狂いもなく動き続ける巨大な工場を連想させる。機械に巻き込まれれば待っているのは四肢の欠損、もしくは死だ。そんな無情さがこもっているビートはクラブミュージックでは無骨すぎやしないかと聞き手が危ぶんでしまう。間に挟まれるこれまた金属質なシンバル、ハイハットの刻みもマシン感助長しているにすぎない。極限的に言えば心臓の鼓動なのだが、非人間的にすることで安心感というよりは落ち着きのなさを聞き手に与える底意地の悪さ。
上に乗っかるのも旋盤のような何か機械の歯が猛スピードで回転しているようなものや、何かの手違いで工具が床に落ちたようなガチャガチャ音、巨大な吹き抜けの向上に虚ろに反響するサイレンなどなど、まさに逃げ場はない。
不思議なもので毎秒同じ動きを繰り返していく機械を見ていると次第に催眠にかけられたようにトロンとしてくる。雪山ばりに眠ると死ぬぞ的な修羅場が展開されているのだが、許田きな機械に巻き込まれるという幻想がそこまで悪いものでは思えなくなってくるから不思議だ。脅すような描き方をしてしまったが、実際には結構高揚感を煽ってくる音楽であって(つまりクラブでなってかっこいい音楽である)ここがAnsomeの狙いなのだろうと思う。不快さを催す機械音のみで踊れる音楽の限界にチャレンジした、のようなストイックさも感じれらる、かもしれない。

まさに社会/会社の歯車として日々回転している諸賢に関しては是非またこの音楽を聴くことで自分の境遇を再認識して見てはいかがだろうか。原始的な工場で歯車になる夢をどうぞ。それは快感だ。(少なくとも快感と思う人もいる。)

2016年11月17日木曜日

VMO/Catastrophic Anonymous

日本は大阪を中心に活動するブラックメタルバンドの1stアルバム。
2016年に日本のVirgin Babylon Recordsからリリースされた。
私はオフィシャルでカセットとCDがバンドルされたセットを購入。
VMOとはViolent Magic Orchestraの略。大阪の音楽集団Vampilliaのメンバーを中心に、
エレクトロニクス担当としてPete Swanson、MIX、シンセ、ビート担当としてExtreme Precautionsを迎え、さらにライブヴィジュアル担当のkezzardrixで構成されたバンド。
もともとVampilliaのリーダーであるStartracks for Streetdreamsさん(ちなみに楽器は全然弾けないんだそうだ、本当面白いしすごい)はブラックメタルに強い思い入れがあってそれがVampilliaの音にも色濃く現れていた。Vampilliaはブラックメタルプラスポストロックトいうコンセプトだが、VMOはブラックメタルは同じでもそこにテクノ・インダストリアルの要素を加えているそうだ。アートもコンセプトの一つであってそれゆえライブでのビジュアル担当や3台のストロボライトを用いているのだと思う。

なんとなくブラックメタル成分が濃いVampilliaかと思っていたのだが、実際の音を聞いてみると結構印象が違う。本当にVampilliaからポスト感を引いて、代わりにインダストリアル成分を足したというのがうまい説明だと思う。ポスト感にも色々あると思うが例えばブラックメタルだったらAlcest、激情ハードコアならenvyみたいにある種の(芸術的な)美しさみたいなのが自分のイメージ。確かにおふざけもするVampilliaだが「Endless Summer」に代表されるように激しさと切ない美しさが同居する曲をいくつも作っている。VMOではある種の余裕すら感じさせる贅沢なポスト感はなりを潜めている。全10曲で34分、コンパクトにまとめられた曲はどれも割れるような轟音で埋め尽くされている。嵐のようなトレモロリフはまさしくブラックメタルからの影響色濃いがプリミティブな儚さを感じさせるそれではなく、強靭で硬質な金属を生成したような主張の強い重たい存在感を放っている。そもそも空隙など見当たらないところに重たいドラムがさらに隙間なく並べられ、モコモコしたベースがみっちりと空間を黒く埋めていく。そこに金属質な高温のパーカッションが加わる。エレクトロニックと言わずに、テクノもしくはインダストリアルというのも、またなるほどと思わせる。力技である。
結果的に出来上がった音はAlcestなどに代表されるポストブラックメタル達に比べるとあからさまに主張が強すぎるしうるさすぎるし、かといってブルータルかつモダンなブラックメタルに比べると今度はやはりキラキラしている。バランス感覚が絶妙というのもあるだろうが、ありそうでなかったこの音の秘密はやはり”アート”なのかもしれない。というのも結構音を聴いていると面白いことに気づく。まず2曲目「Acts of Charity」に代表されるように轟音インダストリアルに半ば塗りつぶされているが、それでもやはりトレモロリフの言いようもないメロディアスさは隠しきれない。このメロディセンスはVampilliaで培った経験が活かされていると思う。そういった意味ではピアノの使用頻度もそれなりにあり、またそれらが硬質で容赦のない轟音に程よくセンチメンタリズムを持ちむことに一役買っている。またボーカルの登場頻度が実はあまり多くない。ボーカルはThe BodyのChip KingやMayhemのAttilaという強烈なゲストに加え、Vampilliaの面々が強烈な叫び声を披露している。クリーンはほぼ皆無でのどの枯れるような絶叫のオンパレードだが、実は終始それらが登場しているわけではない。むしろ結構演奏に力を入れていて、それを効果的に披露することを念頭に置いているような印象がある。ピアノだったり、演奏を前面に押し出すのはポスト感なんじゃねえの?という意見もあるだろうが、やはり個人的にはポスト感というにはそれらに特有の美しさが顧みられていない。美しさを凶暴さに無理やり覆い被せたような趣があって、所々不器用なアンドロイドのようになっているのだが、はっきり言えばそれが魅力なのだ。その言いようのない不恰好さがVMOの”アート”ではなかろうか。まだ名前のつかない不恰好さ、私はこの音源がかなり気に入っている。ひょっとして広く受け入れられたこのスタイルに名前をつけられ、新しいかっこよさになったらとても面白いなと思う。

コンパクトだが非常に挑戦的な音楽だと思う。軸になるブラックメタルに期待しているところがぶれていないからだろうと思うが、凶暴かつメロディアスでVampilliaが好きな人ならこのプロジェクトも楽しく聴けると思う。おすすめ。

2016年9月10日土曜日

khost/Corrosive Shroud

イギリスはバーミンガムのドゥームメタルバンドの2ndアルバム。
2014年に同郷のレーベルCold Springからリリースされた。
この間買った漫画ドロヘドロのサウンドトラックのDisc1の1曲目を飾ったのがこちらのバンド。独特でとてもかっこ良かったのでフルアルバムをBandcampで購入。
2013年に結成されたバンドで、バンド名はすべて小文字。アフガニスタンにそういった州があるらしいが、もしかしたらghostのスペルをもじったのではと。前者なら「ホウスト」、後者なら「コースト」と読むのかもしれない。Andy SwanとDamian Bannettからなる2人組で結成は最近だが、2人とも色々なバンドを経験して来たベテラン。AndyはJesu、GODFLESHのJustin K. Broadrickとバンドを組んでいた事もあるそうな。私は多分Andyが参加しているIrohaというバンドの音源を持っていると思う。Damianの方もTechno Animaslに参加していた事もあるという事でJustin繋がり。

「腐食性の覆い」と銘打たれたこのアルバムは既存のいくつかの音楽的要素を組み合わせて全く新しい音楽を想像している。音的にはとてつもなくヘヴィなインダストリアル・ドゥームという事になると思う。自分達自身ではその音楽性を「Experimental Metal」という言葉で表現している。
激烈にダウンチューニングされた7弦ギターが重苦しいリフを牛歩で引きずり回し、ソリッドなドラムが金属的な響きを牛歩でもって響かせる。そこにお経の様な陰鬱なボーカルが妙な節で歌をのせる。
これだけ書くと相当五月蝿く、相当音の数が多いメタルという結果に陥りそうだが、そこは引き算の美学で持ってまずドゥームという様式をとる事、それから意図的にそれぞれの個性が引き立つように余計な教唆物をがっつり減らしている。音に広がりがあるので圧倒されるのだが、よくよく聴いてみると使われている音の数はそこまで多くない。ただし一番強烈なのはやはりギターとベースだが、一つ一つの音がとんでもなくでかい。本人も「ほぼベース」というギターはあまりに低音でノイズで輪郭がぶわぶわ撓んでいる。確かにドローン要素も多分にあって例えばSunn o)))みたいにがろーっと空間的に広げる感じは確かに似ているのだが、あちらが圧倒的な重量を持ちながらも拡散していくのに対し、こちらはもう少しソリッドで金属的。拡散しがちな奔放さをぎゅっと引き締めてまとめあげる力が働いている。要するにそこを担当しているのがインダストリアル成分ってことなのだろうが、ここら辺の音もよくコントロールされている印象で凶暴で退廃的な景色の背景に冷静な知性を感じさせる。
厚い雲に覆われた空の下で油に覆われた海をその背に訳の分からない機械をのせた巨大な無人のタンカーがのったりこちらに向かってくる様な、そんな雰囲気がある。無機質なビートに(負の)感情的なボーカルを乗せる事で剛と柔をうまく融合させたありそうでないとても良いバランスを完成させている。

荒廃しまくった音にビックリする事請け合いなんだが、よくよく聴くとそれらは大変よく練られたものだと分かる。ベテランらしいいろいろな音楽的背景の遍歴が垣間見えるようだ。とてもかっこ良い。幅の広いJustinの音が好きな人ならきっと気に入ると思う。
ドロヘドロのサントラのリリース元のインタビューは大変有益なので合わせて是非どうぞ。

2016年6月18日土曜日

PRURIENT/Unknown Rains

アメリカはニューヨーク州ニューヨークで活動するアーティストのアルバム。何枚目なのかは分からないです、申し訳なす。(リリース多過ぎ問題)
2016年にHospital Productions(なんちゅうレーベル名なんだ)からリリースされた。
言わずと知れた色んな名義で活躍するDominick Fernow氏による一人ノイズ/パワーエレクトロプロジェクトの新作。恥ずかしながら(もう恒例と言っても良いが)リリース自体に気づいていなかったのだが、ぺちゃさんの2016年上半期ベストに入っているのを見てあわてて買った次第。

2015年にリリースされた「Frozen Niagara Falls」は何人の方のその年のベストに入っていた傑作で、私も遅ればせながらデジタル版を購入しその圧倒的な荒廃した風景に圧倒されたものだ。CDだと3枚組トータル90分以上という圧倒的なボリュームだったが、新作である今回の音源は全4曲トータル33分というコンパクトな仕上がり。
音の方も前作とはちょっと印象が違うかなと。大分取っ付きやすい印象。キャッチーと言って良いかもしれない。勿論分かりやすい歌ものになりました!って訳では全然ないのですが。PRURIENTというと非情なインダストリアル/パワーエレクトロ成分とセンチメンタルといってもいい程のドローン/アンビエント成分が融合(曲によってどちらかの局面に大きく振っている事もしばしばだが、アーティストとして振り幅があるという意味でも)しているプロジェクトだと思うのだが、今回は前者のパワーエレクトロ方面が減退し、後者のアンビエント成分が強めに押し出されている。どちらの成分も多分に感情的なのでがらりと印象が変わるというよりは、今回はこっちで振ったのか!という感じ。
ビートのない曲はいわゆるほぼノイズで構成されているのは相変わらずだし、音の方もパワーエレクトロを彷彿とさせるがっつりうるせー系。ただし全体的に見るとどうしようもないノイズの垂れ流しというよりは、ある程度秩序めいたものを志向する作意を感じ取れる。ノイズの音は中音から高音に特化した湿度のあるしっとりとしたものが、渦を巻くように、つまりある程度のミニマル性をこちらが認識できる程度に流れている。雲を見ているとその形が次第に変わっていくように、ずっと見続けていると次第にぼんやりしていくように、まさにそういった幻惑を誘発させる何かを備えている。ただこの雲というのが青空にぽっかり浮かぶそれではなく、点を覆い尽くした分厚い雲の海と言った様相でとにかくに陰鬱な気分にさせる。そこに有るか無きかのメロディめいたものをのせてくる。このメロディも崩壊しつつある美音みたいな使い方でやたらとぼろぼろしていて、それがまた何とも言えない切ない気分にさせてくる。そういえばいつものヤバい叫び声も今回は封印されている。(ぼそぼそつぶやきは入る。)私が持っている音源だとSecret Abuseのノイズと叙情的なメロディのクロスオーバーという観点で似通っている。こちらの方がノイズが本気なのだが。
正しく曇天という感じの音楽で、個人的には特に2曲目「Before Rain Becomes Snow」は本当良いすね。激センチメンタル。

前作がちょっとこってりすぎたな…というかたでも楽しめるのではないでしょうか。切ないノイズが好きな人は是非どうぞ。
ちなみにデジタル版はBoomkatで購入できます。私もこちらで買いました。凝った装丁のカセットは売り切れ状態。(カセットプレイヤーそろそろ欲しい)

2016年3月12日土曜日

The Black Queen/Fever Daydream

アメリカはカリフォルニア州ロサンゼルスのエレクトロ/オルタナティブバンドの1stアルバム。
2016年に恐らく自主リリースされた。
The Black Queenはマスコア/カオティックハードコアバンドThe Dillinger Escape PlanのボーカリストGreg Puciatoを中心に結成されたバンド。オフィシャルのバイオを見ると2011年に同バンドやNine Inch Nailsのテクニカル担当を勤めるSteven Alexanderと曲を作り始めたとの事。その後Telefon Tel AvivのメンバーでNine Inch NailsやPuciferと働いた事もあるJoshua Eustisが参加し、バンドの活動が加速。今回目出たくアルバム発表の運びとなったそうな。ゴリマッチョなGreg(TDEP加入直後はほっそかったと思うんだけど)は前からNine Inch Nailsのファンということをいっていたと思うし(加入後のアルバムで歌い方がTrentっぽいなーとNINファンの私は嬉しかった思い出が)、PortisheadのTシャツをMax CavarleraらとのスーパーバンドKiller Be Killedのアーティスト写真で着ていた様な気がするから、今回このような音のプロジェクトと行っても実はそんなに意外でもないでした。という事で購入。

ギターの音も入っているし完全にという訳でもないのだろうが、それでもほぼエレクトロに舵を切ったサウンド。レビューでも書かれているが全体的に懐古的というかノスタルジックな電子音で構成されているように感じる。私はそちら方面全く詳しくないので、例えば何年代のディスコサウンド!のように具体的に指摘できないのだが…例えば意図的なレトロ/チープさとも明らかに一線を画すわけで、例えるならば昔一世風靡をしたサウンドがその後あたらな流行に押され消えてしまった、ところがそのサウンドが今もそのまま進化したとしたら…そんな音である。つまり原題で通じるほどに重厚だし、往時そのままの音でももちろん無い。ただ所謂流行とは結構無縁の独自の道を突き進む音である。
シャウトからメロディアスなクリーンパートまでこなす万能ボーカリストGregもこのバンドではシャウトを完全に封印、息づかいまで伝わっているしっとりとした艶のあるボーカルでウィスパーから伸びやかでねっとりとした全く違った局面でもその才能を遺憾なく発揮している。歌うまいと思うけど私はそこら辺の判断がちゃんと出来る訳ではないのだが、やっぱり魅力的な声だなーと思います。
単にGregのサイドプロジェクトに収まらないこのバンドはバックをガッチリ固める。ダンサブルかつムーディで妖しい魅力にあふれている。レトロなシンセ音も、例えば飛び道具的に使う流行のバンドとは全く異なる。曲の細部まですべてコントロールされているので、一見時代とかけ離れたその独特な音もごくごく自然に聴こえるからさすがの一言。全体的には暗い雰囲気だが、例えばトリップホップのような模糊とした要素はほぼ皆無で全編かなりソリッドに作られている。分かりやすいリズムは確かにノスタルジック。脇を固める細かい音は、例えばNINを思わせるちょっとしたインダストリアル性、それから忍び寄る様なシンセ音や単音の奇抜なおとはウィッチハウスを通過し、飲み込んだ様な変遷を感じさせる。

正直どんなもんかな?という気持ちも無くはなかったのだけど、聴いてみたらこの作り込みに嬉しい驚き。これはカッコいいですよ。Greg(TDEP)のファンは勿論、インダストリアル野郎も結構自然に受け入れられるのではないでしょうか。オススメ。

2016年2月7日日曜日

Prurient/Frozen Niagara Falls

アメリカはニューヨーク州ニューヨークを活動の拠点とするアーティストのアルバム。
2015年にProfound Lore Recordsからリリースされた。
一個前のアルバム「Bermuda Drain」を持っていてこちらも買わないとなと思っているうちに時間が経ってしまった。複数の人が2015年ベストに入れてもいたし、遅まきながら購入した次第。私が買ったのはデジタル版だがCDだと2枚組、全16曲で1時間半というなかなかの大作である。

Prurientは様々な変名やプロジェクトで活動する(私が音源を持っているのは多分Vatican Shadowくらいだと思う)Ian Dominick Fernowという人物(どうももの凄い多作なひとらしい。)がソロでやっているユニット。ジャンルとしてはパワーエレクトロ/ノイズなのだろうが、この人は独特の美学を持っているらしく、私もこのジャンルに明るい訳ではないがそれでも分かるくらい尖った音楽を作っている。
まずはその幅の広さ、凶悪なノイズを披露する事もあれば、ドローンめいたアンビエントなもの、アコースティックギターやピアノを取り入れた美麗なものなど。音数自体は決して多くない(ノイズの場合は音数分からないし、勿論音数が少なくても超五月蝿い曲も沢山あるのだ)がそのバリエーションは豊富だ。どれも質は高く、しかも散漫な印象は無い。Pruirientというのは懐の広さに共通して名状しがたい”暗さ”という太い軸を一本通す事で、完全にその楽曲群を統制している印象がある。後述する特徴もあってPrurient節みたいなのが全編を陰鬱に覆っている。いわば表現すべき風景があって、様々な道具や演奏法でもってその世界を構築しようと言う試みである、という姿勢を何となく感じさせる。虚無的な美というものがあって、ノイズの使い方もただ五月蝿いというのはほぼ無い。特にこのアルバムに関しては強くそう思った。垂れ流し感は皆無で全編に渡って良くコントロールされている印象。ノイズと対をなす様な浮遊感のあるアンビエントなシンセ音の使い方は堂に入ったもので、足下を這う霧のように聴いている人を異界に迷い込ませる作用がある。その静寂にノイズを忍ばせてくるあたりはコントラストが利いていて個人的には好きな手法である。
さてそんな五月蝿くも美しい世界をぶちこわさんばかりに本人の絶叫をいれてくるのがPrurientのやり方でこれがもの凄く怖い。バンドのボーカリストとはやはり違うのかよくも悪くも不安定で、極限にまで追いつめられた男の絶叫に他ならない。ある意味凶暴性のなかの美を一切取り去ったような原始的なもので、曲によっては演奏の対極にあるものである。いわば折角作った美というものをこの絶叫で持って台無しにぶっ壊してやろう、というもう歪みまくった底意地の悪さが感じられて、奇麗な曲が続いたりするとそろそろ包んじゃないかとドキドキしたりして、すっかりこの要素に見せられている自分を発見するのである。
一癖も二癖もある音楽性だが、今作は前述の通り、激しさは引き続き存在しつつも一枚ベールを噛ませた様なアンビエント性が全体を覆っている様な印象。より不穏になったというイメージで個人的には前作寄りはこちらの方が好きだと思う。より潜行し、内省的になっている。捻くれた音楽が好きな人は是非どうぞ。オススメ。

2016年1月23日土曜日

Regis/Manbait

イギリスのテクノミュージシャンのベストアルバム。
2015年にBlackest Ever Blackからリリースされた。
私が購入したのは12曲収録されたデジタル版。(8曲収録のレコードもあるそうな。)よそ様の2015年ベストに入っていたのを切っ掛けに購入。
RegisことKarl O'Connorは1990年代初頭から活動しているミュージシャン/プロデューサーでレーベルを運営していたりもするようだ。私はこの音源で初めて彼の音楽を聴いた。色の濃すぎる赤と青が印象的なジャケットだ。

ベストアルバムだが次作の曲は勿論他のミュージシャンの曲のリミックスも収録されている。私は唯一Vatican Shadowだけは名前を知っていて音源を持っている。(Prurientの別名義である。)
私は機械っぽい音は何でもテクノだな、とひとくくりしまうくらいの人間だが、勿論(往々にして間違っている事も考慮に入れても)その範疇には色んな音楽があるものだ。このRegisという男がならすのは流行とは無縁の無骨で暗いものである。基本はビート主体なのだが、例えばなぞりやすいメロディや突出した音使いなどの派手さはない。
金属質的な硬質さが全体を覆っていて、たとえばドローンなどの模糊とした芸術性とは明確に一線を画す。徹底的にミニマルで音の数もそこまで多くないから、極端な言い方をすれば地味という形容詞もある程度当てはまるかもしれない。もっと言えば暗い、潜行する様な内省的な雰囲気をたたえている。ノイズを効果的に用いているが、その使い方はとても繊細で、目を引く分ともすれば曲自体をただの”ノイズ”でしかないものに落とさない。しっかりとその手綱を握って精緻でカッチリした曲作りをする印象。細かい音使いがキラリと光り、例えばミニマルな曲でも後ろの方で儚い追加の音が次第にその勢力を拡大していく事で、微妙に曲が進行するに従いその形を変えていく。あれ?と思うと曲が終わってしまったりして、中々どうして天の邪鬼めいた印象もある。
幻想譚を書くなら確固たる言葉で書かねばとかの澁澤龍彦さんはおっしゃったそうだが、このアルバムに収録されている音はどれも硬質でハードな音、現実的に力を持っている音で構成されているが、ミニマルさもあって暗いトンネルとなってとても不思議な世界に導いてくれるようだ。
とにかく「Blood Witness」がカッコいい。バージョン違いで2曲分収録されているがどちらも甲乙付けがたくかっこいい。ということは曲は勿論、その素材となる音の作り自体が良いのだろうと思う。
一見すると異様さに驚愕する様な無愛想さだが、よくよく聴いてみるとその精緻さに驚くアルバム。ベストってこともあってきっと入門編にも良いのではと。

2015年12月31日木曜日

JK FLESH/Nothing is Free

イギリスのミュージシャンJustin K Broadrickによる電子音楽プロジェクトのEP。
2015年にAvalanche Recordingsからリリースされた。
「タダより高い物はない」というタイトルでBandcampでNYPで公開されている。
なんだかおっかないので幾らか払って購入。(基本NYPは払っていくスタイル)EPながらも9曲も入っている。(ので感想かいてみる)
しかしJKでFLESHときたもんだ。フヒヒさすが先生分かってらっしゃる!というクソみたいなネタを挟みつつ(盗んだ制服に身を包みながら)、このプロジェクトはHydra HeadからリリースされたPurientとのスプリットしか持っていない。本当は一個前に「Posthuman」というアルバムをリリースしているがこちらは未聴。

インダストリアルなノイズにまみれた硬質なダブというのが第一印象。さすがにもう元Napalm Deathという形容詞も微妙だが、メタル/ハードコアの轟音からjesuの美シューゲイザーやら、The Blood of Herosのダブヒップホップ、Grey Machineのノイズメタルなど五月蝿いという共通項でもって多彩なジャンルで八面六臂の活躍を見せる先生。そのノイズ才能を活かしたのがこのJK FLESH。御馴染みの地鳴りの様なノイズもキッチリ収録されていてニヤリ。(2曲目の冒頭など)
容赦のないインダストリアルな音にうおおと我が身をのけぞらせる事請け合いなのだが、この音源第一印象より大分聴きやすいから驚き。というのもリズムの概念が楽曲にかなりキッチリ組み込まれているので大変聴きやすい。分かりやすいメロディがある訳ではないので一般に言うところの聴きやすい殻は大分隔たっているものの、このバンドに興味を持たれている方ならすんなりと受け入れられると思う。
ぶわんぶわん振動しているようなダブ特有のキックを軸にブレイクビート風の硬質なマシンビートを合わせて来たりとかなり手の込んだ事をやっている。一方うわものは非常にシンプルで不穏なインダストリアルノイズが不穏さを煽る。だいたいがミニマルな展開だが、間とたまに展開を見せることもあって、そこらへんも聴きやすさに一役買っている。そんな構成だから基本的には無骨なビートが主役のプロジェクトだと思う。同じくNapalm Death繋がりのMick HarrisのScornというプロジェクトに相通じるところがあると思った。ビート主体だが、寡黙で流行とは無縁なところは特にそうだ。ただしこちらの方がダンサブルというかもう少し開けている感じだろうか。(特に4曲目なんかはビートが饒舌だからかなりカッコいい。踊れるダブ。)

一見無骨ながらもバランスがとれた良質なダブ。気になっているなら聴いてしまうのが良しと思います。

2015年12月28日月曜日

Shapednoise/Different Selves

イタリアはパレルモ出身、今はドイツのベルリンを中心に活動しているアーティストNino Pedoneによるノイズユニットの恐らく2ndアルバム。
2015年にType Recordsからリリースされた。
かのJustin K Broadrickが参加しているという事で興味を持ち買ってみた。アナログもあるらしいが私はデジタル形式で購入。

Ninoさんは若干20代ながらもレーベルを2つ立ち上げたり変名でリリースしたりと精力的に活動している人のようだ。2013年には来日経験もあるという。
ハーシュノイズを使ったハードな音楽を演奏しているが、テクノ的なアプローチによって聴きやすさを獲得しているというまさに私好みのスタイル。
その手法と言えばドラムとベースのリズムパターンを組み込む事でノイズがもたらすカオスに法則性を与える試みが一つと、さらにノイズ自体を切り刻むなどの処理を加えて制御しようという試み。さらにはともすると放っておくとどこまでも五月蝿くなろうとするノイズをうまくしぼる(音の数的にも、質的にも)ことで聴きやすさと面白さを、ノイズ自体の魅力を失う事無く獲得している。
例えば2曲目は歪みまくったキックを派手に導入することでダブ感のあるトラックを作り出し、そこに飛び交う妙に浮遊感のあるノイズを貼付ける事で、荒廃しきったSF的な音風景を現出させる事に成功している。妙に退廃的でロボットが人類を抹殺しきった後のような世紀末感がたまらん。
一方8分ある8曲目や続くラストを飾る9曲目なんかはリズムトラックは一切登場しないが、強力なハーシュノイズが刻一刻とその姿を変えていく。低音、中音、グリッチな高音を混ぜる事で多彩でありつつも、それぞれが非常に上手く音数がしぼられていてドローン的な側面が強い。ノイズの魅力の一つにはミニマルさとそれに相反するように形を変えていく不定形さがあると思うけど、そんなジャンルを非常に上手く深堀していると思う。
ノイズを軸にジャケットが表現する様な灰色の世界観を構築しているのだが、曲単位で結構バリエーションがあり聴いていて飽きない。
個人的にはノイズの使い方すごく上手くてかなり好きです。
まさに「整形されたノイズ」というユニット名にぴったりの音楽。変名も含めて他の音源が気になるところです。
インダストリアルなノイズにがつんとやられたい人は是非どうぞ。

2015年12月13日日曜日

Corrections House/Know How to Carry a Whip

アメリカのスラッジ/インダストリアルスーパーグループの2ndアルバム。
2015年にNeurot Recordingsからリリースされた。
2012年にEyehategodのMike、NeurosisのScott、YakuzaのBruce、MinskのSanfordによって結成された。どう考えてもスラッジ臭が漂ってきそうな面子でその期待は裏切られないのだが、そこに強力なノイズを加えたのがこのバンド。既に十分重たく遅いのになにもそこまでという無慈悲さはバンド名(Correctionsは監獄の意味だからHouseをつけて獄舎だと思う。)やアートワークにも如実に表れているが、シンガーだけではなく詩人としても活躍するボーカルのMike IX Williamsの感性が働いているのだろうか。(「鞭を運ぶ方法を知れ」というタイトルには一体どういう意味が込められているのだろう。)

基本的には前作を踏襲する音楽性で間違いないと思う。
このバンドを聴いてつくづく面白いなと思うのは無機質と有機質の強引とも言える融合感。スラッジというと色んなバンドがいるがどれもその音楽性は生々しい。嫌悪憎悪ドラッグ嗜好性、おもに負の感情がハードコアなアティチュードでもって吐き出されるのがその心情かと思うが、そこにインダストリアルの要素を持ち込んだのがこのバンド。ここでいうインダストリアルは例えばMinistryだったりGodfleshだったりを彷彿とさせる、一撃一撃が不自然なまでに重々しいマシンビートを基調に、ギリギリギチギチした比較的分かりやすいノイズを投入している。要するに無機質で野蛮さを投入するための音使いという感じで、繊細な芸術性とは無縁である(結果芸術性を獲得しているのは無論だが。)。
徹頭徹尾無慈悲な音世界かというとここからがこのバンドの変わったところで、例えば放心した様なアンビエントな楽曲だったり、アコースティックギターを基調とした土臭いカントリーな楽曲だったり、Bruceのなんとも哀愁のあるサキソフォンだったり、そういった感情豊かなアウトプットをインダストリアルの土台にさらにどっかとのせてくるスタイル。いわばアクの強い面々が個性的すぎる要素を掛け合わせる実験室としてのこのバンドは、結果見事にその独自性を獲得している。奇形の実験音楽としてではなく、このバンドにしか出来ない唯一無二の音を完成させているその秘訣は、たぶん元々負の方向性に舵を取っているもののスラッジの心情が根底にあるからなのかもしれないな、と思った。多様な音楽性を取り入れつつもスラッジというぶっとい軸で一本通してやるとこんなにも上手くまとまるのである。だから地獄の様な音像であっても血が通っていて、それがマシンビートを通じてキチンとこちらの血を踊らせるので。そういった意味ではラディカルななかにもベテランたちの凄まじさを感じ取ってしまうのである。職人気質というかいぶし銀でぶれてないなあ〜という感じ。
唯一いうとしたら前作はタイトル曲がドローンにMikeのポエトリーリーディングがのるという形で、ぽつぽつ語られるアメリカの荒廃した風景に何故か日本でぬくぬく生きている私が泣きそうになるという珍妙な出来事が出来して、それ以来超ヘヴィロテなんだけど今作では全編攻めの姿勢でその種の曲は入っていないんだよね。でも今作はラストでScottの歌声もたっぷり楽しめるし(超良い曲なんだこれが!)、全然良いですね。

2曲目聴いた時にやっぱりスゲエなと放心してしまった。なんだろうな、始めの印象よりずっと感情豊かだなあと聴くたびに思ってしまう素晴らしい音源。意外にあったかいんだよ〜是非どうぞ。

2015年11月3日火曜日

Dead Fader/Glass Underworld

イギリスはブライトン生まれで現在はドイツ・ベルリンにて活動するJohn Cohenによるインダストリアルテクノユニットのミニアルバム。
2015年にRobot Elephant Recordsからリリースされた。
タイトル通り焦土としかいいようがない無慈悲なインダストリアル世界を提示した2014年発表の「Scorched」は衝撃だった。ボーカルが無い電子音楽でここまで凶暴な音楽を帆湯減できるのかと打ちのめされたものだった。しかし同時に発売した「Blood Forest」では一転してドリーミーでアンビエントな世界観を模索するという思考の多様性を魅せていた。そんな彼が2015年になってからは同じくRobot Elephant Recordsから「HYP30」、「Sun Copter」というEPを立て続けにリリース。「Blood Forest」方面をさらに突き詰めるという音楽活動に今は熱中しているようだ。前述の2枚に続いてリリースされた本作もほぼ同じベクトル上にあり、さらにその音楽性を進めた内容になっている。

こちらにのしかかるような極端に歪められた重低音ノイズはいかにもDead Fader節なんだが、そこにのっかるうわものに関しては音数の少ない余韻はあるが澄んだ音であってこの前者と後者の対比が独特の音世界を作り上げている。
どの曲でも中心にあるのは微妙なメロディなんだがあまり饒舌ではなくて、かすかなフレーズがひたすら反復される。どれも残響が意識され、ある程度の広さのある空間に放り出された音が余韻を残して消えていく様な儚さがあって、ここが好きだ。
その脆弱なフレーズを囲うのがお得意のインダストリアル要素なんだが、こうなってくると彼の独壇場というか、元々ノイズが上手いので、ミニマルさの中でも微妙に変化し続ける変幻自在さ(というかちょっとの居心地の悪さと言うか不穏さというか)がどの曲でも非常に活きて来ている。たしかにドリーミーなんだか、微妙にしみ込んでくるノイズが曲の雰囲気を刻一刻と変容させている。
インダストリアルさとアンビエント性が混ざり合わずに一体化した、というと変な表現なんだがこの音の共生関係が大変面白い。周りを囲う音は音量抑えめにしてあるから自然に粗野な音に挟まれた、フレーズが生きてくるという構造でアンビエントというには正直なところ音の数は多めなのだが、ある程度数のあるからこそ沁みてくる寂しさもあるものだなと感心。
個人的には1曲目がその方向性を一番分かりやすく突き詰めたもので白眉の出来かなと。
Dead Fader好きなら是非どうぞ。
ちなみにほぼ同時にTouchin'BassというレーベルからはDosage EPというインダストリアル路線の音源を出していてこちらもすこぶるカッコいい。ハードな路線が好みの方はチェックしてみてください。

2015年2月28日土曜日

Prurient/Bermuda Drain

アメリカはカリフォルニア州ロサンジェルスのミュージシャンDominick Fernowによるノイズプロジェクト。
2011年に今はなき(?)Hydra Head Recordsからリリースされた。兎に角多作でこれが一体いくつ目のフルアルバムか分からなかった。
私はこのミュージシャンの音源は同じくHydra Headからリリースされたジャスティン先生のJK Fleshとのスプリットを持っている。当時この色目も鮮やかなジャケットをサイトで見て気になっていたのだが買う事は無かった。
今年になってバレンタインにTwitterでかのProfound Lore Recordsがバレンタインにこのアルバム収録の曲を呟いており、聴いてみたら良かったのでデジタルで購入。

wikiによるとマイクとアンプ、たまにドラムで曲を作っているらしい。
その音楽性はノイズというと一番手っ取り早そう。
ただ壁の様なハーシュノイズとは一線を画した独特の音楽性で、簡単に言うとハーシュというほどハーシュではない。音の厚さと数が少ない。こう書くとなんだかノイズを薄めたぬるい音楽に聴こえてしまうかもしれないがそこは誤解だ。まず強烈すぎるが故に曲のバリエーションをぐっと減らしてしまうハーシュノイズ(絵の具の黒みたいな)の使用を押さえる事で楽曲の幅が広がる。いわばハーシュに頼らない繊細さを獲得している訳で、そこにさらに空間性のあるシンセのまろやかな音をかぶせる事で一種独特の静謐性を楽曲に持ち込んでいる。音楽で静謐性というと矛盾しているようだが、逆に攻撃的なノイズの一音が意識されて映えるように思う。ポツリポツリと呟く様な本人の声が重ねられており、無機的というよりは有機的な音楽性を志向している事が伺える。
ある意味アートな音楽になって来たようだが、アート糞食らえと言わんばかりに妙に生々しいシャウトを入れてくるのがDominickスタイルの様で、一発取りのような臨場感のある妙に素人っぽいそのシャウトがあっという間に曲を地獄の様にしている。シャウトだけにとどまらずどこか煙に巻く様な底意地の悪さが素直に提示されているような印象で、折角丁寧に作った料理に生ゴミをぶちまけた様な様相。私が美食家なら何してんの!といきり立つ分けなんだが、あいにく悪食な私は良いじゃない!と親指を立てるのである。このぶちこわし感がたまらない。作品が気に入らなかったから気まぐれにぶちこわす芸術家というよりはぶちこわしにするのが彼の芸術なのだ、きっと。そういうこだわり好きです。
ガシャガシャしたインダストリアルなドラムビートが冷徹な曲だったり、妙に古くさいシンセロック然とした曲、模糊とした幻想に悪夢が侵入したみたいな一見穏やかな曲などかなりアイディアがある人らしく、このアルバムも曲によって結構触れ幅が大きくて、それゆえむしろややと掴みづらいアルバムになっている。ここをポジティブに受け取るか、ネガティブに受け取るかは聞き手次第か。私は全編本気を感じて、たまに卑怯なくらいな奇麗さを出してくるその音楽性結構気に入りました。

まあまあ人を選ぶ音楽性だと思うが意外にロックな要素があると思う。気になった人はどうぞ。
↓この曲は素直に美しいと思う。


2014年6月22日日曜日

Dead Fader/Blood Forest

イギリス生まれドイツ在住のインダストリアル/ノイズアーティストの2ndもしくは3rdアルバムのもう片方。
こちらの方はRobot Elephant Recordsから2014年にリリースされた。
この間紹介した「Scorched」は1stアルバムからさらに装飾を削ぎ落とした、ぶっといビートにノイズの塊を乗っけるというシンプルかつ破壊力抜群の焼け野原のようなアルバムだったが、同時にリリースされたこちらのアルバムはかなり様相が異なる。

土台となるビートは音が分厚く太いものだが、それほど歪められていない。音の数がまし、より細かく刻んでくる様なスタイル。シンバル、ハイハットの音も多くはないが入ってくるようになった。ブリブリしたDubい悪夢めいたベースラインもその鳴りを潜めている。
過剰な装飾性は皆無だが、やや分かりやすさの増したビートに空間的に広がりのあるシンセ音が乗っかる。音の境界が曖昧で反復性があり、聴いていると妙に夢見心地になってくる。まるで霧のの用に空間を埋め尽くす様なドローンめいた持続音も異界めいた雰囲気を曲に付与するのに一役買っている。
一見インダストリアル/ノイズというよりはかなり硬質なエレクトロニカと言ったところか。とはいえ過剰なドラムンベースな訳でもない、やはり持ち味であるシンプルさでもって、当たり前のように美麗なメロディは皆無。
しかしたまに入る怪獣の雄叫びのような歪んだベース。手数が多く軽快ながらもノイジーなビートは確かにDead Fader由来。
聴いているとこう思う。なるほどこれは確かに「Blood Forest」だ。「Blood Forest」って何だ?それは分からないが「Scorched」は悪夢のトンネルのようだった。Dead Faderはその音楽でもって聴いている人をどこかに連れて行こうとしている。つまり別の世界を作ってそこに没入させようとするのが彼の試みである。いわばもう一つの悪夢である「Blood Forest」はもう一つの世界に比べれば硬質ではない。暖かみすらある。ジャングルのように湿気がある。常にピンク色の霧に覆われている。見たことも無い植物が独特のリズムに合わせて踊っているように見える。視界が利かない。一人っきりの酔うなきもするし、たまに何か他の何かが霧の向こう側にいる気配がする。居心地が良いのか悪いのかは意見が分かれるところだろうが、私はとても楽しい。そう、楽しい。一見不穏で感情の振れ幅が狭いように思えるが、よくよく聴いてみるとこれは結構なダンスミュージックのように思えてくる。妙にずれた陽気さというのがあって、それは奇形的だが見た目で判断してはいけない。ぶっきらぼうな中の優しさみたいのがあって良い。

どうなるんだ?という期待と不安で聴いたもののこれはすごい良いじゃん。
大衆性といったらこっちの方に軍配あがるんじゃないかなと思う。
変名ではなくDead Fader名義で出すあたりに、彼のメッセージが込められているように思う。つまり結果があって筋道が沢山あるのがDead Faderなの、かもしれない。
面白いテクノ聴きたい人はどうぞ。

2014年6月8日日曜日

Dead Fader/Scorched

ドイツのベルリンを拠点に活動するインダストリアル/ノイズアーティストDead Faderの2ndもしくは3rdアルバム。(理由は後述。)
2014年にSmall But Hard Recordsからリリースされた。
Dead Faderのことははっきりと分かっている訳ではない。Discogsを見るとメンバーは2人でクレジットされているが、FBやインタビューをちょっと見る限り、最近はJohn Cohenという人が単独で活動しているようにも思う。(テクノアーティストはバンドに比べるとクリエイターが前に出てこない印象がある。)実はほぼ同時期に別のレーベルからもアルバム「Blood Forest」というアルバム(まだ聴いていないが近々レビューする予定。)を出しているため、どちらが2ndでどちらが3rdなのか分からないのだ。私に分かっているのはDead Faderの作り出す音楽はベラボウに格好いいということだけだ。私はなんで知ったのかはもう分からないが、1stアルバムとライブアルバム、それからシングルをもっている。全部の音源をもっている訳ではないが、結構好きなアーティストだ。ちなみにこのアルバムともう一つの新しいアルバムはレコードの形とデジタルでリリースされている。私は2つのアルバムプラスシングルのバンドルセットみたいのをオーダーしたが、まだ手元に届いていない。購入と同時にデジタル音源もダウンロードできるようになっており、その音源を聴いている。

Dead Faderはどんなアーティストなのかというと、クソ喧しいとしか言いようが無い。
極端に歪められた太いビートの上に、さらに歪んだベースがのり、その上にノイズとしかいえない様な硬質な音が乗るのだ。それだけだ、基本。ヒップホップよりは音の数は多いだろうが、結構いさぎの良いスタイルでそのかわり一音一音の主張がもの凄い激しい。勿論メロディなど皆無。インダストリアルと称されるのはその音質で、はっきり言ってノイズにしか聴こえない。金属音でひどく耳に痛い。巨大なアナログ機械が悲鳴を上げているか、ラジオの空電をブーストさせたか、あるいは工事現場の音をサンプリングしたのか、要するにそういった類いの音楽である。この間紹介したBen Frostもそうだが、最終的には面白いのはハーシュノイズではないということだ。ハーシュノイズはカオスであるが、Dead Faderはカオスに抑制を持ち込んでいる。それがドラムとベースである。簡単にいうと極太のビートである。つまり混沌状態にパターンを作ってある程度をコントロールしようという企みである。だが巨大な竜巻にもう一つ巨大な竜巻をぶつける様なこの試みは果たして成功しているのかどうか怪しい。喧しさはとにかく少なく見積もって2倍になった。ビートがあれば音楽かといわれれば怒る人もいるだろうが、要するにこういうことかもしれない。つまり音が鳴っていれば音楽なのだ。
1stアルバムはまだテクノ感があった。音の数も多かったように思える。お洒落とは全然いえない音楽性であったが、少なくともこのアルバムに比べればまだピカピカしていたと思う。一体前回のアルバムからどんな心境の変化があったのか。(ひょっとしたらメンバーが抜けた所為もあるかもしれないが、それも定かではない。)より無骨になった。より喧しく、そして気持ちが悪くなった。呵責がなくなった。音はゆがみ、殺気が満ちている。ノイズはその力を増した。ビートは整合性をもたらすどころかむしろ神経症的に鳴り響く、猛暑の二日酔いのような気持ちの悪さがある。音が分厚く偏頭痛のトンネルに放り込まれた様な感覚である。真夏の工事現場の五月蝿さである。ノイズの洪水で、この反復性は壊れたビデオを見ている様な不安感をあおる。さらに面白いのが、冷徹なビートでそのような音を構築してしまうそのセンスである。かねがねテクノというのは完全に機械で作るくせに、聴いてみると感情がこもっているのが面白いともっていたけど、Dead Faderの音楽もまさにそういった音楽である。未来の巨大な建設機械が発狂したうなり声にも聴こえる、この音楽性。とにかく格好いいのだ。

デカい音で聴くのが良い。みんな聴いた方が良い。きっと気に入るだろう、と思う。
因にもう一つのアルバムは音楽性が全く違うようだ。そちらも楽しみだ。

2014年6月1日日曜日

Ben Frost/A U R O R A

オーストラリア出身アイスランドはレイキャビク在住のアーティスト/プロデューサーの4thアルバム。
2014年に自身が参加するレーベルBedroom CommunityとMute Recordsからリリースされた。私がもっているのはボーナストラックが1曲追加された日本語版でこちらはTrafficというレーベルから発売された。
私がBen Frostの作品を買うのはこれが初めて。このCDを買ったのは先に紹介したVampilliaの1stアルバム「my beautiful twisted nightmares in aurora rainbow darkness」をプロデュースしたのがBen Frostだったからである。付属の解説を読むと実はこちらも以前紹介したTim Heckerの「Virgins」にピアノとそれからエンジニアとして参加していたらしい。他にもブライアン・イーノとコラボしたり、Swansのリミックスをしたりと結構売れっ子のプロデューサーのようだ。

曲の方はというと北欧に拠点を置くということも頷ける冷たい電子音が主体となったアンビエントミュージックなのだが、アンビエントというには少しノイジーかもしれない。インダストリアルとも紹介されているが、結構ビートがはっきりしていて、重ーい金属的なビートがどしゃ・どしゃと鳴り、ノイジーな高音がひゅんひゅん飛び交ったりもする。ドローン要素も多分に含むが、前述の通りビートが結構太いのでそこまで難解ではない印象。ただしビートがあるといっても踊れる様な音楽では勿論無い。不吉な機械が唸り上げる様な音、妙に震えて千切れたノイズ、チリチリしたほのかなノイズ、柔らかな鐘の音など音の使い方が幅広く、ミニマルな楽曲が1周するたびに少しずつその様相を変えていく。まるでこだまのような、奥行きのある空間的な音が放射状に展開されていくようだ。ノイズも相まって急に崩れる様なビートも不安な印象を倍加されていく。時に暴力的と評されるその音楽性も何となく納得がいく。暴力的といっても明確な攻撃性というよりは、ブリザードの向こうに霞む悪意をもった黒いタワーをかいま見る様な、そんな感じ。
個人的にはなんといってもしゃーーと堰を切って溢れ出し、空間を埋めていく様なホワイトノイズが格好よい。流れ出して来た水が静かに溜まっていく様なそんな清澄さとなにかしらの圧迫感をはらんだ焦燥感が相まってなんともいえない気持ちになってくる。

異常に研ぎすまされた冷たさだが、不思議と感情に富んでいる。それが安心を与えてくれはしないのだが。デカい音で聴くと気持ちよいことこの上なし!
とても良いアルバム。これはオススメ。

2013年9月15日日曜日

nine inch nails/Hesitation Marks

2009年に活動を休止したアメリカのバンドの復帰作となる8枚目のアルバム。
2013年にNull Corporationという耳慣れないレーベルからリリース。
私が買ったのは日本版ではなくて2枚組の本のように装丁されているデラックス版。
一貫した公式ナンバリングであるhaloは28である。

非常にビッグなバンドだからご存知の方も多いと思うが、業界のカリスマトレント・レズナー率いるバンド。今回は彼とアラン・モウルダー、アッティカス・ロスといったおなじみの面々に加えてダスティン・モズレー、ジュン・ムラカワ(音楽や映画のクレジットに日系人の名前を見つけると嬉しくなるのは私だけではないはず。)といった面子と組んで作ったようだ。ビルボードで初登場3位というからすごいね。

アルバムの発売に先立ちシングル「Come Back Haunted」が公開されたのが6月頃?恥ずかしながら公開されてから知って超吃驚した。iTunesで買って聴いた。

ここでちょっとした思い出話。
今でも覚えているのだが、中学生の頃友人と原宿に行って恐らくレコファンで「The Fragile」の輸入版を買った。当時Marilyn Mansonを聴いていてバンドのプロデューサーであったトレントのバンドということで興味を持って購入したんだと思う。
CDプレイヤーとMDプレイヤーでもって聴いたんだけど、始めは兎に角全然分かんなくて困った。全然よくねえな、と思ったのではなく、なんだか良く分からなかった。音の数が多すぎてなんだか分かんない。シングルカットもされた「We are in this Together」だけはかっこいいと思って繰り返し聞いていた。
で、何かきっかけがあった訳ではないのだが気づいたらどっぷりハマってた。全曲アホほど繰り返し聴いた。過去の音源も買ったりレンタルしたりして集めた。(「closure」を買いに西新宿のブート(も扱っているCD)屋にいったりもしたなー。)どれも好きだが、一番はやっぱり「The Fragile」。高校生になって、大学生になってもことあるごとに聴いてたし、今もたまに聴く。多分人生で一番沢山聴いたアルバムだと思う。
というわけで何がいいたいかというとnine inch nailsは私にとってちょっと特別なバンドなのである。思春期にドストライクだったから思い入れがあって、以来私は呪われたように暗い曲が詰まったCDやらレコードやらを今に至るまで集めるようになった。

だからまあ活動休止を経てリリースされた「Come Back Haunted」を聴いたときは吃驚したよね。その格好よさに痺れたよね。アルバムのリリースに「これはひょっとしてひょっとするんじゃねえの」と期待も高まった訳だ。(ちなみに「With Teeth」も「Year Zero」も好きであるよ。)

そして待ちに待った8枚目のアルバムは私の手元に届いた。
まずは今までとの音の違いに驚いた。
ninといえばインダストリアル。でロック。インダストリアル・ロックだ。特徴的な機械音。そしてギターを始めとするバンドアンサンブルの融合と。
今作もバンドアンサンブルは勿論ありあり。だが、使い方が前ほど派手じゃない。(曲のスタイルが)The ロックではない。
電子音が、それもビートがかなり前に出ている。具体的にいうとドラムとベースの音。
昔は生っぽかった(実際ドラムを叩いていたと思うし)けど、今回はもうこりゃ機械ですな。多分今の技術だったらデジタルでアナログの質感をほぼ再現できるはずなんだけど、トレントは意図的にデジタルだとはっきり分かるように使っている。ロックというよりはテクノっぽく聴こえる。一音一音が結構しっかりしているものの、細かく反復的である。ちょっとミニマルっぽいのかな?曲の展開はそんなことないんだけど。

ただよく聴くけどなるほどこれはどこまでもninだと気づく。何より歌が曲の中心にある。ストイックでいるけど聴きやすさを意識して作られている。ちょっと暗めの内省的な曲調。てこてこしたようなリズム。妙に金属的なギター音。どぅーむ!って感じの独特の音は健在で嬉しい。「Satellite」なんかはは特に作り方や音のそのものが昔ながらの彼らっぽいと思う。よくよく聴いていると音の数の豊富さに驚く、変な音がいっぱい入っている。妙に民族音楽用なステップや跳ねるようなリズム。ううむ、これは確かにnine inch nailsじゃないか。
聴けば聴くほど格好いいな!「Various Methods of Escape」「Running」「In Two」は本と素晴らしい。
音作りはかなりまじめ。かっちりしている。ninはかなり幻想的な音楽である反面酩酊的な音楽ではないのかもしれないと個人的には思う。トレントはまじめな性格なのかな。
しかしさすがに「Everything」は驚いた。なんじゃこれ!なんか私の中では「散歩行こう」ってイメージ。なんていうのだろうな。こういう雰囲気の曲聴いたことあるんだけどなんていったらいいのか分かんない。

久しぶりの、そしてもうでないんじゃないかという予想を裏切って発売された彼らのアルバムだが、私は素直に楽しめました。し、これからも聴くんだろうなと思います。
確かに「The Fragile」の徹底的な暗さはない。でも苦しくないのに苦しい振りをされるのも嫌だ。このアルバムは何となく素直さが見え隠れするようで、曲の持つ楽しさがすっと入ってくる。これが今のnine inch nailsなんだな、と思った。そしてそれが楽しめてよかったと思う。大好きなバンドの新作に素直に感動できて私はとても幸せだ。
素晴らしいアルバムなので音楽好きの皆様には是非聴いてほしいと思います。
いやー嬉しいな。