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2018年9月2日日曜日

Tirzah/devotion

イギリスはイングランド、サウスロンドンの女性シンガーの1stアルバム。
2018年にDomino Recordsからリリースされた。
詳細な来歴はわからないが2013年にはEPを発表している。
Twitterでたまたま好評を目にして聞いてみたらよかったので購入した。

完全にデジタルなトラックの上に割と自由な感じに歌が乗るというやり方で、全編ダウンテンポだがところどころポップである。ただしエレクトロポップというには歌が前面に出ているし、かというとR&Bというにはテンション低めでいかにも無愛想である。赤裸々なトラックの上に否が応でも実力が露わになる歌声を披露しているのだが、どこか体温が低くて真意がつかめないのが魅力。私が買ったCDには歌詞カードはついてない。どうも「Straight up Love Song」ということらしいのだが、情熱的に恋心を歌っているわけでもなさそう、かといって悪ぶっているわけでもない
ビートは控えめながらかなりはっきりしている。そこに乗っかる上物が模糊としているが、別に神秘性を演出しようというのでもない。(いったことないのだけれど)それこそロンドンの曇天のような憂鬱な感じ。またはバスのちょっと汚れた窓から差し込む午後の日光だろうか。
ふと思うのだけどこのローな感じ(最近あまり聞かない言葉だがオフビート?)は別に意識しているわけではないような気がする。このはっきりしない感じ。そこに乗る自由奔放なんだけど、ちょっと気の抜けた歌い方こそこのTirzahの日常なのだろう。もちろん気負ってないわけがないのだけど、どうしても日記のようなプライベート感/日常感がある。MVを見ると(予算の関係もあるだろうけど)スマートフォンで手で撮影した動画を繋ぎ合わせたような手作り感のあるもの。
肩の力が良い感じに抜けているんだけど、決してやる気がないわけじゃない。(よく考えるまでもなくこの音源を作るには彼女と周りの人たちの相当の時間と情熱がかかっているはずである。別にこの音源に限らないわけだけど。)これが彼女のリアルであって、このやや気だるい歌は彼女のまっすぐな恋心(前述のストレイトアップを訳すとこうなるかな?)だったり、迷いや葛藤が詰まっているはずなのだ。落ち着いた歌を聞いてみれば、いかにも堂々と彼女の本気具合がわかろうというもの。シンプルなトラックを足がかりにまっすぐに耳に飛び込んでくるではないか。それは全く情熱的だ。
よく聴いている。とても好き。

2017年1月22日日曜日

Ben Frost/The Wasp Factory

オーストラリア出身で今はアイスランドのレイキャビックで活動するミュージシャンのアルバム。(何枚目なのかわからない。)
2016年にBedroom Communityからリリースされた。
Vampillia経由で確かその名前を知って2014年作「A U R O R A」で衝撃を受け、その前作に当たる「By The Throat」を買って聞いたりしていた。美麗な轟音ノイズというとわりとありふれた表現でともすると陳腐だが、見事にその言葉に叶う音楽を演奏している。

Ben Frostの新作!ということで特に視聴せずに買ったのだけど結構内容がびっくり。
まずタイトルの「The Wasp Factory」だが、これはもともとイアン・バンクスという人の小説で1984年に同じタイトルで発表された。どうもサイコパス気質の少年を主人公に据えた物語らしく大変興味をそそらられる。日本でも「蜂工場」というタイトルで邦訳出版されているが、残念ながら絶版状態。ちなみにイアン・バンクスは「フィアサム・エンジン」というSFも書いていてこちらは漫画「BLAME!」の元ネタの一つになっているとか。こちらも読みたいが絶版。
おそらくBen Frostはこの物語に影響を受けて公式か非公式なのかはわからないが(ちなみに作者イアン・バンクスはすでに逝去。)、コンセプチュアルに作ったのが、もしくは架空のサウンドトラックとしてかもしれないが作ったのがこの作品ということになる。
Ben Frostといえば(少なくとも最近の2枚では)一聴したところ全く取りつく島もない(よく聞いてみると実はそんなことないんだけど)轟音で暴力的なのはもちろん、不穏な心の機微を保涌現したかのような不思議な繊細さを持ったノイズを作り出している人なんだが、今作はそんなノイズ成分・インダストリアル要素はなりを潜めている。そしてその主役たるノイズの代わりに女性ボーカルが大胆にフィーチャーされている。つまり歌詞があり、これはイギリスのプロの劇作家であるDave Pountenoyという人に依頼したらしい。つまりサントラというより声のみで構成された劇、ということになるのだろうか?
ほぼ全編女性ボーカル(二人の女性と一人の男性のようだ)が、どうも主人公による一人称で書かれている(らしい)小説に則り、主人公の少年の視点で歌っているようだ。
いわゆるポップソングのそれとは違う歌唱法、おそらくオペラの形式で歌っている。まずは声量がとんでもない。そして伴奏が非常にシンプルだ。シンプルというのは簡単というのではなく、レイキャビックのオーケストラを持ち込んでいるが、削ぎ落とされた演奏はほぼ小節や節なんかが判別できず、散発的なストリングス、そして地を這うようなドローン要素のみ。よくこんな無愛想な伴奏でこうも伸びやかに歌えるものだと感心する。
大仰だが、バックトラックは不穏でむしろ寂しい、空虚な感じがする。ボーカルはひたすら感情的だが、やはりどこかおかしい。言葉がわからないのにどこかおかしいと感じさせるのだからすごいものだ。筋はわからないがよくないことが起こっているのだということはわかる。主に独白、そして時に二つの声が葛藤するような喧嘩調になったりする。不気味で怖い。ねっとりとした暗い闇をモタモタ溺れているような魅力を備えている。全編を通して表現されているのは、発生された力強い声が漆黒の無辺の闇に吸い取られていくような寄る辺のなさ、虚無さ。

私は古本苦手なんだけどさすがに内容がきになるので「蜂工場」買ってみようかと。内容としては昨今のBen Frostを期待すると(ただ私は彼の古い音源を聴いていない。どうも音楽だけでなく劇の方にも接近している人のようだからちゃんと彼を追っている人からしたら別にこの作風驚くに当たらないのかもしれぬ。)、ちょっとビックリするだろうが、私はむしろ言語化されて(彼自身の言葉ではないのだが)わかりやすくなったBen Frostの音楽性が感じ取れて大変気に入った。そういった意味では前作が気に入っている人なら違和感なく聞けるのではないだろうか。音楽に暗さを求める人は是非どうぞ。音楽性は違うがドゥームバンドのSubrosa好きな人なんかもバッチリ刺さるのではと!非常にオススメです。

2016年10月22日土曜日

The Kilimanjaro Darkjazz Ensemble/Mutations

オランダはユトレヒトのダークジャズバンドのEP。
2009年にAd Noiseamからリリースされた。私はこのバンドが好きでいくつか音源を持っているのだが、すでに解散済みということもあってなかなか集めるのが大変。2016年にドイツのDenovali Recordsから再発されるということで購入した。手っ取り早く聞きたかったのでデジタル版を購入したが、CDでもアナログでもカセットでも良いのでマテリアルで欲しくなっている。

中心メンバーにBong-Raとしてブレイクコアのジャンルで活躍するJason Kohnenがいる。彼はベースとプログラミングを担当しているようだ。もともと彼きっかけでこのバンドを知ったんだっけな。もうおぼえていないが。このバンドにはブレイクコアらしさは皆無。バンド名がその音楽をよく表現しているが、暗いジャズを演奏するバンド。どのくらい暗いのかというと、ジャズといっても色々あるのだろうが、私の頭に浮かぶのは即興要素の強い、ドラム、ベース、ピアノ、あとはトランペットなどの管楽器でかなり激しくも楽しい音楽というイメージがあるけど、このバンドに関しては楽器のメンツというスタートラインは確かにジャズなのだろうが、その音の出し方は全然違う。全てが抑えられていて、静かだ。速度も極めてゆっくりしているし、曲によってはドラムがリズムを作っていなかったりする。ジャズというと踊れたりするイメージだけど、全然踊れる感じはしない。わかりやすく派手なメロディラインもない。オシャレというにはだいぶ陰鬱すぎる。内にこもったような音楽で、個人的には夜霧のようだ。明け方近くに足元にふわふわと巻きついてくる。思わず驚いて足をぶらぶら振ってしまうような小さい驚きと、それから別にじっとしててもいいじゃんととわかってリラックスする感じ。足を止めて目を閉じる。そうしていくと霧がその存在感を増していき、目を閉じている間にすっっぽりと全身を包んでしまっているような、そんな感じの音楽だ。暗い音楽というとメタルやハードコアなどの音楽だとその苛烈な攻撃性で持って「俺VSオマエ」という対立構造になってどんどん陰惨になっていくが(そういうの大好き)、このバンドは内向きにゆっくり沈んでいく、まさにダウンワードスパイラル。ninはひたすら自己嫌悪に落ち込んでいったのだが、こちらはもっとナチュラルだ。自然現象をバンドアンサンブルで持って写し取ろう試みにも感じられる。暗いというのはつまりその写しにかかるフィルターのようなものかもしれない。
Bong-Raらしさというわけではないが、比較的人造的なビートがオーガニックな上物と混じり合う2曲目「Munchen」。そしてラスト「Avian Lung」は「Seneca」(私が一番好きな曲)の別バージョンで初めて聞いたときは本当テンション上がってしまった。こちらは歌が排除されているのだが、その分曲自体の良さを存分に楽しむことができる。

儚いが非常に饒舌な音楽だ。ただそれを日常的な言葉で翻訳するのが大変難しい。あなたの気持ちを文字にすることは非常に困難だが、だからと言って存在しないわけではない。そういった意味では非常に感情的だ。今作も本当かっこいい。是非どうぞ。

2016年9月18日日曜日

ColdWorld/Autumn

ドイツはライプツィヒのブラックメタルバンドの2ndアルバム。
2016年にCold Dimentionsよりリリースされた。
アメリカのハードコアバンドCold Worldとは勿論別もの。
Georg Börnerという渋いおじさまがすべての楽器を演奏しているソロプロジェクトのようだ。このプロジェクトは2005年に開始されている。マイペースに活動しているようだ。
私は全然知らなかったのだが、アルバム発売前にみた動画が気に入って購入した。CDを購入。デジタルはあるのかちょっと分からない。
バンド名で検索すると1stのレビューが結構出てくる。なにげに日本では人気なのかもしれない。

「秋」というタイトルが良い。コールドなブラックメタルだと厳しい冬のイメージだが、ちょっとそこからは外して来ている。Panopticonも「Autumn Eternal」というアルバムをリリースしていたし、四季の中では秋が一番好きな私は期待があがる。
ジャケットの女性のアートワークが象徴するように「メランコリー」をテーマにしたバンドで(FBにもそう記してある)、ブラックメタルのフォーマットでそれを表現している。元々ブラックメタルは暗い音楽だから、メランコリーを表現しようとする試み自体は珍しくないが、どうしてもShiningのようなデプレッシブだったり、Tristのようなスーサイド系に走りがちだったりする中、血なまぐさくない幻想的な物語という音楽に舵を取るのは実は珍しいかもしれない。またデプレッシブにしても”メタル”なので(特に前述のShiningなんかも)たとえ自分に向けだとしても攻撃的(自殺も勿論自傷行為)な一面をもっているものがだが、このバンドに関してはあまり(イーヴィルなシャウトは入るのであまりと表現)それらも感じられない。美麗なブラックメタルというとAlcestをはじめとしたシューゲイザーに接近した(一部のバンドの)キラキラした感じはない。そこまでは洗練されてもあか抜けてもいなく、やっぱり鬱屈としている。適度にガリガリとしたプリミティブさを残しつつも中速くらいのスピードで多恵なるメロディを持つトレモロを奏でるギターが最大の特徴で、そこにバイオリンなどのストリングス(実際の楽器なのか打ち込みなのかは不明)や女性のボーカルを大胆に投入してくる。キーボードも勿論あり。アコースティックギターを始め、牧歌的な雰囲気も曲によってはかなりある。ボーカルはクリーンとイーヴィルなブラックメタルのシャウトの使い分けだが、前者の方が出番が多いかもしれない。こちらはかなり朗々とした威厳のある声だが、やはりその雄々しさの中にも陰鬱としたあきらめの様なものが感じられていて非常にバンドの表現する世界観を盛り上げてくる。ストリングスの導入などでドラマチックな雰囲気は横溢しているのだが、面白いのはメロディにしてもそこまでくどい(またはクサいとも評してもよいかも)訳ではなく、この手のジャンルにはない上品さが意識されている。「儚い」といってもいいかもしれない、この幻想的な景色には常に脆さがつきまとい、起きたら消える夢か、もしくは触ったら壊れそうな結晶に移った影絵のようだ。とかくなんでもやり過ぎてしまうメタルの世界ではこのようなバランス感覚はちょっと希有なのではなかろうか。比較的ブラックメタル然とした「Climax of Sorrow」はシャウトが強烈でなんならちょっとアルバムの中で異彩を放つくらいだ。

メタルは勿論様式美の世界だから基本的に強い物語性が魅力のジャンルだと思う。そんな中何とも言えない寂寞とした光景を冷たく、そして暖かく描き出しているという意味で非常にかっこ良いアルバム。幻想的、ということばが非常にしっくり来る何とも儚い虚構の世界、大変美しい。ブラックメタルにそこら辺の物語を求めてしまう貴方は是非どうぞ。オススメ。

2016年7月30日土曜日

SECRET BOYFRIEND/Memory Care Unit

アメリカはノースカロライナ州の音楽によるノイズ/ドローン音楽ユニットのアルバム。
2016年にBlackest Ever Black Recordsからリリースされた。
全然知らなかったがレーベルからのメールで視聴して良かったのでデジタル版を購入。
Ryan Martinという人が一人でやっているようだ。どうもこの手の界隈の人に良くある多作ぶりなのでいくつ目のアルバムなのかは分からない。

暗いアンビエントな音楽を演奏しているのだが、結構一つの作品の中でも音楽の幅が広い感じで面白い。
再生ボタンを押すと1曲目の「The Singing Bile」はドローン。無慈悲なノイズが威圧的に空間を埋めていき、リバーブのかかったシンセのフレーズがミニマルに乗ってくる。不安を駆り立てるその様にこれからの先行きがのっけから怪しい感じだが、2曲目「Little Jammy Center」ではのったりとしたベース音にこれまたのったりとしたドラムが乗っかり、合間にノイズがふわふわしている。なんともドリーミィなシンセがテーマを奏で始める。なんだかちょっと雰囲気が違う。暗い中にも暖かみが出てくる。音の作り方と雰囲気で言うとAphex Twinの作るアンビエントトラックに通じるものがあると思う。血の通った感じで、悪夢とは言えないけどちょっと奇妙な夢を見ている様な、あの感じ。そうこうすると反響のかかったボーカルがボソボソ歌い始める。なんともなよっとした感じ。
調べてみるとRyanの作る音楽は「気怠いニューウェーブ」や「ローファイ」という言葉で形容されている事が多く、なるほど確かにそんな面がある。感情の込め方がなんとも微妙なので非常に「あわい」(間)の音楽という印象。暗い、激しい、苦しいという音楽はもっとそれこそ色々・沢山世にあふれてのだが、この人の場合はもっと日記的な側面があって思いつきをノートに書き留める、フレーズをテープレコーダーに録音する、そんな雰囲気が漂う。(別に思いつきを一発取りしている、という訳ではない。)だから結構気分みたいに曲にも不利幅があるのだけど、当然毎日の生活の中で感情に幅があるのは当たり前なので、アルバムを通して聴いても一貫性があるといった風。
レーベルによると「孤立したマシンミュージック」と称されているが、バンドと違って一人で作っているからだいたいこういったユニットは個性が濃いイメージがあるが、この人の場合もそうで、ゆったりとした夢みがちな雰囲気は大分変わった人が見ている夢の世界に接続したみたいな趣がある。
個人的には美しいシンセのそこの方にじりじりとした低音ノイズがゆっくり侵入してくるラストの「Memoraize Them Well」が気に入った。コントラストが良いと思いきや、ノイズも美しさに加担している、そんな感じのクライマックスが大変良い。

暗いけどオーガニックな雰囲気がする不思議な音楽。暗い奇妙な夢に接続してみたい人は是非どうぞ。

2016年3月13日日曜日

MASAMI AKITA & EIKO ISHIBASHI/KOUEN KYOUDAI 公園兄弟

日本人2人組によるノイズユニットの1stアルバム。
2016年にEditions Megoよりリリースされた。私が買ったのはデジタル版。
秋田昌美さんは言わずもがなのノイズ界の巨匠Merzbowであるし、石橋英子さんは様々なアーティストと共演するマルチプレイヤー(七尾旅とサンと共演したりして気になっていたものの)。と偉そうに紹介したのだが実はお二人の音源は持っていない(Merzbowは単独音源持っていなくて他のアーティストとのコラボ音源のみ持っている)のでこれを良い機会に買ってみた。結局単独音源は買ってない事になるのだが。

レーベルのクレジットを見ると秋田さんがノイズ、エレクトロニクス、コンピューター(?)、ドラム担当。石橋さんがピアノ、ドラム、シンセサイザーを担当しているとのこと。Jim O'Rourkeがレコーディングとミックスを担当しているとの事。
Merzbowというとハーシュノイズな印象があって、私が持っているBorisやFull of Hellとのコラボでも容赦のない凶音ぶりを発揮しているので、おっかなびっくり聴いてみるとこれが中々どうして期待を裏切られる出来。ノイズというのは絵の具の黒色みたいなもので、個性が強い分他の音と混ぜてもノイズの音色にしかならない、というのは結構な誤解で、この音源を聴くとハーシュなノイズでも色々な表現があるのだと分かる。
「Slide」(アートワークにもなっている滑り台の事であろう)と「Junglegym」という2曲のみで構成されていて両方とも18分台である。ほぼインストゥルメンタル。多分溶けた様な声がたまに出てくる程度。
ノイズがその背骨を貫いているのは間違いないのだが、全体的には予想よりもっと複雑かつ繊細な音が鳴らされている。まずは音の数が非常に豊富だ。ノイズは刻一刻とその形と色と音を変えていくもの。このアルバムでは一口にノイズと言っても色々な表情を見る事が出来る。シャーシャーなるホワイトノイズ、暴力的なブラックノイズ、空電の様な高音、地鳴りの様な低音などなど、枚挙にいとまがない。それからノイズ以外の楽器も顔を出す。ドラムが全方位的に広がっていく混沌とした世界に秩序をもたらす事もある。ただし全編に出てくる訳ではないのがニクいところだ。例えばバスドラムの乱打はむしろ混沌の度合いを強めている様な気がする。霧の様に曲を覆うシンセサイザーの音は幻想的。透徹なピアノは暴力的なノイズと極めて対照的だが、両者の差異が明確になりつつも、曲自体ではきちんと調和がとれているから、単にボリューム以上の繊細なコントロールが徹底されているのだと思う。
一体どういう風に曲作りがされているのかは分からないが、曲がゆったりだがしかし確実にとその展開を変えていく様は不自然でないもののかなり先が読めないので、ひょっとしたらインプロゼーションなのかもしれない。
混沌としているが多分に感情的で、多様な色が渦を巻いているようで面白い。冷たい印象は皆無でノイズ以外の楽器が暖かみ(というか聴きやすさという要素なのか)を演出しているのでこの手の音の中ではかなり聴きやすい部類だと思う。

個人的にはバッキバキのハーシュなノイズよりもこういったメロウだったりメロディアスな要素の片鱗が感じ取れる音が大好物なので非常に気に入っております。非常にオススメ。

2016年3月6日日曜日

Subheim/Foray

ドイツはベルリン在住のアーティストの3rdアルバム。
2015年にDenovali Recordsからリリースされた。
Kostas Kなる人物によるユニットで私は1stアルバム「Approach」を持っていて結構よく聴いている。ジャンル的にはアンビエントになるのだろう。基本的に電子音を主体とした曲作りなのだろうけど、アコースティックな生音をのせてくるのが特徴で静謐ながらも感情的な曲を作るアーティストだと思う。私はiTunesでデジタル版を購入。

間の2ndアルバム「No Land Called Home」を聴いていないので何とも言えないのだが全体的な方針は変わっておらず。ただ今回はドローン的なアプローチが増している分1stとは少し違うかなと思う。かっちりさが抜けてより模糊としたイメージで、全体的には拡散しているというか漏れだしているというか。
割とカッチリしたビードを土台にしいて、そこに低音気味のドローンがゆったり侵入してくる。そのうえに生音をかぶせてくる、というのが基本的なスタイル。相変わらず生音の使い方は堂に入ったもので、作る楽曲は暗くて音の数も少ないものの、血の通った有機的なもの。曲によってはビートが規則性を発生させている事もあり、思ったほど敷居は高くないが、メロディ性は希薄。うわものにしてもでてくるのはフレーズくらいなので何ともとらえどころがないのだが、冷たくも暗い中に独特の暖かみがあって癖になるタイプ。(多分)フィールドレコーディングで録音した環境音を導入していたりして、スナップに音をのせた様な趣があるかもしれない。冗舌ではないが音像は豊か。全体的にしっとりとしていて雨の様なイメージ。今回は結構人の声をサンプリングした様な使い方が特徴的で、特に3曲目の表題作は加工の仕方で何となく歌っているようにすら聴こえる。
ピアノの使い方が個人的にはとても上手く、なので4曲目や9曲目は個人的にはとても良い。また8曲目は中音〜低音のしっとり湿った霧の様なドローンの上にホーンが入るという、Kilimanjaro Darkjazz Enesembleに共通点を見いだして一人でテンションあがってしまう。

たまには静かなのが聴きたい人は是非どうぞ。難解というのではなくただひっそりとしているという意味で思ったよりフレンドリーなヤツだなという感じでオススメです。

2016年2月7日日曜日

Prurient/Frozen Niagara Falls

アメリカはニューヨーク州ニューヨークを活動の拠点とするアーティストのアルバム。
2015年にProfound Lore Recordsからリリースされた。
一個前のアルバム「Bermuda Drain」を持っていてこちらも買わないとなと思っているうちに時間が経ってしまった。複数の人が2015年ベストに入れてもいたし、遅まきながら購入した次第。私が買ったのはデジタル版だがCDだと2枚組、全16曲で1時間半というなかなかの大作である。

Prurientは様々な変名やプロジェクトで活動する(私が音源を持っているのは多分Vatican Shadowくらいだと思う)Ian Dominick Fernowという人物(どうももの凄い多作なひとらしい。)がソロでやっているユニット。ジャンルとしてはパワーエレクトロ/ノイズなのだろうが、この人は独特の美学を持っているらしく、私もこのジャンルに明るい訳ではないがそれでも分かるくらい尖った音楽を作っている。
まずはその幅の広さ、凶悪なノイズを披露する事もあれば、ドローンめいたアンビエントなもの、アコースティックギターやピアノを取り入れた美麗なものなど。音数自体は決して多くない(ノイズの場合は音数分からないし、勿論音数が少なくても超五月蝿い曲も沢山あるのだ)がそのバリエーションは豊富だ。どれも質は高く、しかも散漫な印象は無い。Pruirientというのは懐の広さに共通して名状しがたい”暗さ”という太い軸を一本通す事で、完全にその楽曲群を統制している印象がある。後述する特徴もあってPrurient節みたいなのが全編を陰鬱に覆っている。いわば表現すべき風景があって、様々な道具や演奏法でもってその世界を構築しようと言う試みである、という姿勢を何となく感じさせる。虚無的な美というものがあって、ノイズの使い方もただ五月蝿いというのはほぼ無い。特にこのアルバムに関しては強くそう思った。垂れ流し感は皆無で全編に渡って良くコントロールされている印象。ノイズと対をなす様な浮遊感のあるアンビエントなシンセ音の使い方は堂に入ったもので、足下を這う霧のように聴いている人を異界に迷い込ませる作用がある。その静寂にノイズを忍ばせてくるあたりはコントラストが利いていて個人的には好きな手法である。
さてそんな五月蝿くも美しい世界をぶちこわさんばかりに本人の絶叫をいれてくるのがPrurientのやり方でこれがもの凄く怖い。バンドのボーカリストとはやはり違うのかよくも悪くも不安定で、極限にまで追いつめられた男の絶叫に他ならない。ある意味凶暴性のなかの美を一切取り去ったような原始的なもので、曲によっては演奏の対極にあるものである。いわば折角作った美というものをこの絶叫で持って台無しにぶっ壊してやろう、というもう歪みまくった底意地の悪さが感じられて、奇麗な曲が続いたりするとそろそろ包んじゃないかとドキドキしたりして、すっかりこの要素に見せられている自分を発見するのである。
一癖も二癖もある音楽性だが、今作は前述の通り、激しさは引き続き存在しつつも一枚ベールを噛ませた様なアンビエント性が全体を覆っている様な印象。より不穏になったというイメージで個人的には前作寄りはこちらの方が好きだと思う。より潜行し、内省的になっている。捻くれた音楽が好きな人は是非どうぞ。オススメ。

2016年1月1日金曜日

submerse/Stay Home

イギリス出身で今は日本の東京に在住のトラックメイカーの2ndアルバム。
2015年にProject: Mooncircleからリリースされた。レーベルのBandcampからデジタル版を購入。界隈では有名な人なのだろうが私は全く知らなかった。Ghzのブログでメチクロさん(ドロヘドロの単行本の装丁などを手がけるクリエイターの方)が2015年のオススメとして紹介していたのを切っ掛けに購入。

まだ若い人で音楽に限らずアニメやゲームなどの日本の文化に触れて興味を持ち、来日したそうだ。
ジャンルとしてはダウンテンポなアンビエントトラックを作っている。ほぼほぼインストになっている。ジャケットが秀逸で楽曲を良く表現している。つまり都会的だが暗くて、キラキラはしているものの内省的で孤独(メチクロさんは端的にこの音楽性を表現している)である。アンビエントの要素はあるもののビートがしっかりしているので非常に取っ付きやすい。この構造からもエレクトロニカの要素を持ちつつ、ヒップホップ(インタビューを読むに子供の頃はヒップホップ漬けだったそうだ。)が土台になっている事が分かる。ビートは分かりやすくシンプルだが、下品にならずに程よいバランスで曲の土台を支えている。メロディはあくまでもフレーズに上手く閉じ込められている。同じように声の要素は入っているがボーカルというほどではない。エフェクトがかけられていて”誰でも無い感”(匿名性?)が徹底的に演出されるので、曲が導くイメージがあくまでも聞き手にゆだねられている印象でここがとても良いなあと。日本語の公共の乗り物のアナウンスなんかもサンプリングされている。(割と聴くよね、この類いの。やはり特徴的なのかな?)
学生の時に買ったCauralにちょっと似ていると思った。ゆっくりしていてでもキラキラしている要素がある。全体的に夜という感じで夜のドライブに良く合うかもしれない。(私は免許取得以来何年も車を運転していないのでちょっと試せないが。)
1曲も短めでアルバムを通しても7曲しか無いのですっと聴ける。個人的にはもう少し(跡2曲くらいは)聴けても良いかなという気持ち。

お洒落な音楽である事には間違いないだろうが、真摯な作りで万人が聴けると思う。オシャレと揶揄しないでまずは視聴してみてはいかがでしょうか。私は普段あまり馴染みも無いジャンルなのでバランスを取る意味でもとても気に入った次第。

2015年11月23日月曜日

Oneohtrix Point Never/Garden of Delete

アメリカはニューヨーク州ブルックリンで活動しているアーティストのアルバム。(6枚目か7枚目だと思うのだが。)
2015年にWarp Recordsからリリースされた。
私が買ったのはボーナストラックが1曲追加された日本盤。
だいたいいつも乗り遅れるのが私だから、日本のみならず話題になっているこのアーティストの音源を購入するのはこれが初めて。
日本盤リリース元の前作のページを見ると
スティーヴ・ライヒ、フィリップ・グラス、ギャヴィン・ブライアーズ、ブライアン・イーノ、ハロルド・バッド、クリスチャン・フェネス、エイフェックス・ツイン…
そして間もなくのそのバトンはこの男の手に渡るだろう。
と書いてある。まあリリースする側は煽る訳だけど中々の力の入れ様なのでその人気のほどが伺えるという訳だ。トレント・レズナーのラブコールを受けてnine inch nailsのツアーにも同行したというのだから、ようやく私も聴かないとと慌てだしたという訳です。

さてこの「Garden of Delete」略してGoDと意味深なアルバムはアーティスト本人によると新作をレコーディングしている時に出会った皮膚病を患うエイリアンの非行少年Ezraと出会った事にその端を発しているらしい。
確かにイントロを挟んで始まる2曲目のタイトルは「Ezra」だ。音がぶつ切りに鳴った印象的な冒頭はCDに傷が!?と不安になる。が静かにEzraが進行していくに連れてエイリアンとの少年との物語に引き込まれていく事になる。よくよく聴いてみるとこの曲というのはなるほどこのアルバムを象徴している。意図的に聞き手を煙に巻く様な底意地の悪さがある反面、曲が進んでいくとすぐに意外に優しいメロディに包まれている事に気づくのだ。そして曲の終盤のシンセサウンドはちょっと意図されたチープ感があって確かに(嘘くさい)エイリアンを思わせる。
謎めいたインタールードにまたもや混乱させられるのだが、すぐに(32秒後に)シングルカットされた「Sticky Drama」が開始される。調子の外れたような人口の声がぎこちなくメロディを歌い上げる始めると私は唸らざるを得なかった。これは確かに確かに人を惹き付ける電子音楽だった。
全編を通じて思った以上に(もっとドローン色が強いのだと思ってた、過去作はたしかにそうらしいのだが)、メロディアスである。この人の曲というのはとにかくひねた諧謔というか意地悪さがあって、曲のぶつ切りやあえて曲の真ん中で曲をぐちゃっとさせたりして、コラージュ感を出してくる。こちらがこれが未来?と思っていると「HAHAHA、悪い悪い」見たいに美麗なメロディをすっと出してくる。始めっから出せや!というと最早彼ではなくなってしまうのである。そしてコラージュがあるからこそ、メロディとそれ未満の透徹なフレーズが生きてくるのではと思っている。
音の使い方は巧みでドローンとした音、ぶつぶつとしたノイズ、グリッチノイズ、たしかに異質なものを集めてひとつの異質なものとして凝集させれうるでは確かなもので、コラージュ感は当然彼がいとしたものだ。美しいパートを聴けば、多彩な音が鳴っているのにまとまっているという台風の目の様な状況にはっと気がつくだろう。

というわけで流行っているのがどんなものかみてやるか…俺はひっかからねえぞとばかりに聴いてみたのだが、すごい!天才!とまんまと騙されている私がいるのだ。うーん。これは気持ちのよい体験です。
まだ聴いてない人は是非どうぞ。私は過去作が気になるのでどれか買ってみようと思います。

2015年9月21日月曜日

The Thing With Five Eyes/كون

オランダのブレイクコアアーティストBong-RaことJason Kohnenの新しいダークジャズプロジェクトのライブ編終盤。
2015年にSvart Lavaからリリースされた。私は1stEPに引き続きBandcampで購入。

という訳で前回のブログから引き続きのThe Thing With Five Eyes。同時購入です。
タイトルの「كون」は今度はアラビア語みたいだ。先生いわく「母集団」とのこと。アートワークは前作と共通しているところがあると思う。黄色い半球はやはり太陽(光)をモチーフにしているように感じる。
今回はKosmosという1曲だけで構成されている。これは56分もあるんだけど、全部で一つの曲ではなくて13曲を次々と演奏したものをライブで録音しているもの。1stEPからの曲も全部含まれているのだがそれ以外の新曲もたっぷり入っている。ライブ音源と行っても録音状態は非常によろしいので普通のスタジオ音源とそんな遜色無く聴ける。(分かる人が聴いたら違うんだろうけど)
ライブだからか未発表曲がそうなのか分からないが、前作に比べるとドローン成分が増している。地のリズムトラック部分がまるまる存在しないアンビエントパートも結構あって、余韻のあるドローンが渦を巻いているように非常にゆったりとその流動的な体を伸縮されている。面白いのは不穏や不安という分かりやすい感情を超越している、ある種の超然とした感があってそこが何とも言えないのである。ここを言葉で表現できたら良いのだが私の語彙では無理だ。でも表現できないものが存在しないかと行ったらそんなことはないのだろう。ここは是非色んな人に聴いていただきたいところだ。Salemという曲名もあったりしてより中東感のあるフレーズが目立つ。このプロジェクトの魅力の一つにかなりソリッドなジャズの土台(ドラムとベースが作り出す低音部)にドローンを始めとする曖昧模糊としたうわものをのっけたその対比があると思う。地に足がついているのか、糸の切れた凧のようにふわふわと浮遊していくのか、どっち付かずで揺れ続ける危うさというのあってそれがたまらなく快感である。

NYPで公開されているのでまずは視聴してみてはいかがでしょうか。ちなみにお金を払うとどこかに寄付されるようですよ。私はやっぱりかなり好きです。

2015年8月9日日曜日

Locrian/Infinite Dissolution

アメリカはイリノイ州シカゴのエクスペリメンタルメタルバンドLocrianのアルバム(何枚目なのでしょうか)。
2015年にRelapse Recordsからリリースされた。私が買ったのはCD盤。
前作からあっという間での気がするが、2年の間隔は開いている。バンドの結成は2005年なので10年目という節目の年にリリースされてたアルバム。

前作から引き続きの3人体制で作成されている。ということもあり基本的にはよりロック方面に舵を取った前作の流れを踏襲している作りになっている。
ドラム/パーカッションがキッチリとしたリズムを刻む事で圧倒的にバンド感がまし、曲がしっかり締め付けられている印象。ただし霧が徐々に濃さを増していく様な奥行きがあるのは明白なのにその奥が全く見えない様な模糊としたサウンドを、シンセサイザーや音色の豊富なノイズサウンドを重ねる事で、はっきりしたバンドサウンド(ドラム+ギター)のその上に構築していく。よくよく考えると結構ややこしい事をしている。(こういったところも実験的と言えると思う。チャレンジング。)ブラックホールに引き込まれた様に引き延ばされたぎぃいいいやああああーと反響する絶叫は今作でも健在。
このバンド面白いのはアンビエント成分強めの癖して曲全体で見ると結構劇的。曲の広げ方が上手いのかも。アンビエントにしても徐々にノイズの勢力を増していき最後はハーシュ地獄で締める#3なんかは結構意地悪な作りでニヤリとする事請け合い。勇壮なオーケストラも微妙に劣化させた様な音質にして、ギリギリしたグリッチノイズを追加する事でなんとも嫌らしい仕上がりに。鳥の声も最早悪夢的である。(#6)知的ではあるし、一筋縄ではいかないのだが、全体的にメリハリがついているのでこういったジャンルの音を鳴らすバンドの中ではかなり聴きやすいと思う。

相変わらず恐怖だったり狂気だったりそのものというよりはその予兆とか予感とか、一歩前もしくは荒廃しきったその後を描き出そうとしている印象のある作風で、聴いているとこちらの想像力がかき立てられるようでそこが魅力。
ちょっと調べてみるとブラックメタル、ポストロック、ポストメタル、プログレッシブ、ノイズと色んなジャンルを引き合いに出されている。実験的(エクスペリメンタル)とは便利な言葉だが、やはりジャンルに拘泥しない独自の世界観を押し進めているバンドだと思う。悪夢の様に反響しまくる絶叫や、独特のやや霞がかかったような音楽的特徴でオリジナリティを確立しているところもさすがな感じ。
個人的には「Crystal World」の宙に浮いた様な完全悪夢的な浮遊感、前作「Return of Annihilation」の怪しい攻撃性の衝撃の度合いには劣るものの、敢えて別方向にチャレンジしている今作は結構気に入りました。#1#3#4#5あたりは素直にカッコいい。特に#5は結構なキラーチューンかと。欲を言えば後半もう少し盛り上がりが欲しかったかも。
難点を挙げるとするとジャケットは前作、前前作の方が好みです。(インナースリーブ内のアートワークは結構良いと思うんだが。)
前作までのファンの人は迷わず買って聴くでよろしいかと。今作もオススメです。

2015年6月14日日曜日

Mrtyu!/Witchfucker

ニュージーランドのノイズ/ドローン/アンビエントプロジェクトの2nd?アルバム。
2012年にAurora Borealis Recordingsからリリースされた。
Mrtyuとはサンスクリット語で死を意味する単語だそうな。Antony Miltonという人のソロプエジェクトでこの人はPseudo Auroraというレーベルのオーナーをやりつつ、本名を含めて様々な変名で活躍している。
私は切っ掛けはもう忘れたが、2009年に発売されたアルバム「Ornate Shroud」というアルバムを購入して大いに気に入って、20 Buck Spinから2006年にリリースされていた「Blood Tantra (Rituels De Sang Du Culte De Tantra)」を購入、一時期結構聴いていた。派手に活動するアーティストでもないのでそれぎりになってしまっていたが、この間記事に書いたSutekh Hexenの音源を探していたらレーベルのBandcampでこの音源を見つけてこっちをすっと買った次第。

このMrtyu!というプロジェクトの音楽はノイズを主体とした音楽性は酷く攻撃的なものだが、激しさを追求したハーシュノイズというよりは、バンド名の通り退廃的かつ荒廃的な暗い音楽である。いわば死んだ後の絶対的静寂を音楽的に再現するような(絶対的な無音状態を五月蝿い音楽で表現するというこの矛盾、好きです。)試みがあって、結果だいぶ前衛的な音楽が出来上がっている。
五月蝿いながらもどこかしら放心した様な空虚さを追求した音楽性で、聴いているとノイズならではの常に蠢く不定形な音の波の洪水に飲み込まれるようで大いに気持ちがよい。
こう書くと結構取っ付きにくい印象なのだが、おそらくロックの影響を結構取り入れていて、おぼろげながらもドラムがあるかなきかのリズムを刻んだり、うっすらとシンセ音のメロディらしくものがかすかにたどれたり、このアルバムではなかったけどアコースティックなギターが流麗なアルペジオを奏でたりする。いわば聴きやすいポイントが随所にちりばめられているので私の様な軽薄なロックファンでもすんなり聴ける。
不穏なアンビエントっぽさも一つの売りで、ゴーンという鐘の音がなんとなく和風な雰囲気を醸し出して夜の寺に侵入して墓地の真ん中で佇んでみました、という趣な曲もあったりする。
個人的にこのプロジェクトの真骨頂は五月蝿いノイズが喧しく鳴り響くのに、微妙なメロディを聴かせてくるというパターンであって、とにかくこれが泣ける(泣かないけど。)あざといくらいにぐっと来る。アルバムタイトルにもなっている「Witchfucker」がなんとも素晴らしい出来で、低音ながらも透明感のあるシンセ音にしみ出して来た様な細いノイズが被さるイントロから殺しにかかって来ている。ミニマルかつ冷徹なシンセと対照的ににノイズは悲鳴をあげつづけ、たまにデジタルっぽいバスドラムがリズムを刻む。霧のようにかすかなシンセ音が空間的な色づけをする。ノイズは悲鳴を上げ続ける。とにかくどの楽器でもアタックの後の残響の余韻に美しさを見いだすような人間ならこの音楽の素晴らしさを分かち合えるのではと思う。
ノイズをコントロールするのではなくむしろ思うままに放埒に任せて、曲全体に他の要素である程度の反復性だったり目立たないメロディだったりを付与する事で秩序らしきものをもたらすという面ではBen Frostに少し似ているかもしれない。

個人的にはタイトル曲だけで本当何回リピートでもいけるまさにトリップ盤。
興味ある人は是非どうぞ!!!
Bandcampで気軽に購入できますよ〜。

2014年8月3日日曜日

Wolves in the Throne Room/Celestite

アメリカのブラックメタルバンドの5thアルバム。
2014年にArtemisia Recordsからリリースされた。いつも通り日本版はDaymare Recordingsからリリースされているが、私がもっているのは海外版。
プロデューサーはRandall Dunnとバンドの共同で行ったようだ。因に今このバンドのメンバーはAaronとNathanのWeaver兄弟のみである。
バンド名の「Celestite」というのは天青石という鉱物のことらしい。調べていただけると分かると思うのだが、白と透明感のあるグラデーションが美しい宝石の画像が出てくる。アートワークもそんな言葉を模したように星をちりばめたようなもやーっとした荘厳な感じの青色で統一されている。
たしか2ndアルバム「Two Hunters」から「Black Cascade」を経て前作「Celestial Lineage」で三部作完結ということだったと思うのだが、今作は前作「Celestial Lineage」の延長線上にあるものらしい。
ところが前作の延長線上と言ってもあくまでも作り手側の信条というか、あくまでもコンセプトの上でということであって、聞き手が前作の延長線上だ〜というテンションでもってこの音源を聴くとちょっとビックリするのではなかろうか。
今作はアンビエントになるよ、というのはリリース前から発表されていて、発売前に公開された音源はまさしくアンビエントなものだった。それでもファンとしては幾らかのブラック目たる成分を期待してしまうのが心情なのだが、ふたを開けてみれば全5曲徹頭徹尾アンビエントに統一されており、ファンとしては椅子から転げ落ちること請け合いである。
曲によっては少しだけ出てくるが、基本ドラムのビートもなし。当然だがイーヴィルボイスどころかボイス自体が入ってない。あくまでもシンセサイザーを中心にした音作りであって、所謂真性ブラックメタル感は皆無である。4曲目でようやっとギターの音が出てくるといった有様。
基本パイプオルガンほど主張が強くないが、少し似通ったところのある重厚感のあるシンセ音で構成されていて、メロディ性にかけるかつびろーんと伸びてくる様は確かにドローンの要素があるが、例えばSunn O)))のような派手さは無い訳だし、かといって所謂ドローンアーティストの本気かつハードコアな音ではない。かなり色々な音が重ねられていて、それがシンセ由来なのか生の楽器の音なのかは素人の私には判別できないのだが勇壮なホーンのおとだったり、腹に響く様なバンド然としたベースだとか、スペイシーな浮遊感のあるシンセ音だったり、シャーシャーいうノイズだったりそれが実体をもたない幽霊のように入れ替わり立ち替わりふわーっと聞き手の前に現れるのであって、単調であって聴いていて本当に違いが分からないということは無いと思う。そういった意味ではアンビエントだがバンドっぽいアプローチでもって曲が制作されているのかもしれない。

言うまでもなくWolves in the Throne Roomというのはカスカディアンブラックメタルの大立物であって、一時期は雨後の筍のようにフォロワーが続出したものだった。カスカディアンブラックメタルというのは果たして何か、というと私にはちょっと即答できないのだが、それでもこのバンドが自然というものをとても大切にしてエレキギターを始め電気を使った音楽で自分たちを表現することの矛盾を認めつつ、彼らの大好きな自然を音楽という形で表現しようと言う試みを続けているのは有名な話だと思う。
この音源を聴いて彼らの主張が手に取るように分かるというのは残念ながら無いのだが、それでもアンビエントという形を取りつつ、またそしてブラックメタルという音楽がよく冷たいという言葉で形容されることを考えると、この音源のもつ妙に暖かみをもった音像というのは非常に面白い。地下室的な息苦しさというよりは、空間的に広がりをもって外に伸びていく様なスタイルであって、むしろ彼らの目指す音を作るにはバンドサウンドやシャウトが邪魔になってしまったのかなーと思う。

ブラックメタルというと元々アンビエントやシンセサイザーとは結構強い繋がりがあるので、驚く人は多くても結構しっかりとこの音源に向かい合えるブラックメタラーは多いのではなかろうか。問題作は問題作なので、最終的な評価は是非聴いてみて各々判断していただきたいのだが、私は音源としては普通に楽しんで聴けた。そういった評価も含めて気になるな、という方は悩んでいるより買ってしまった方が良いと思います。

2014年7月26日土曜日

Ben Frost/By The Throat

オーストラリア出身、現在はアイスランド在住の音楽家/プロデューサーのBen Frotsのアルバム。(何枚目かは分からん。)
2009年にBedroom Communityからリリースされた。
先日紹介した「A U R O R A」がとても良かったので、さかのぼる形でその前作を買ってみた次第。
強烈なライトに照らされた狼達が駐車場の様なところにたむろっているジャケットが何とも印象的だ。内面にもブックレットにも狼達がいっぱい。アイスランドには狼が沢山いるのかな?毛がもさもさしていて触ったら気持ちいいんじゃないだろうか。噛まれるだろうが。

前作の印象ではとにかく冷たいノイズの嵐の様な作風で、暴風にもにたそのノイズの合間に流麗なメロディが見え隠れする様なアルバムだった。その前作にあたる今作はちょっと趣が異なる。暴力的とも言えるインダストリアルな金属質ノイズは勿論こちらでも伺えるのだが、嵐の様な凄まじさは鳴りを潜めていて、より不安をじわりじわりとあおる様な使い方をされている。最新作ではノイズが音の壁の様なシューゲイズ要素が強めだったのに対し、今作ではよりドローン的な要素が強いようだ。従ってよりアンビエントよりで、
ノイズ以外の成分が前面に押し出されている。何かというと「A U R O R A」ではかいま見れるだけの様な、つかめそうでつかめなかったメロディの部分である。メロディといっても一般のポップスなどに比べたら儚く消えそうなもんだが、この手のジャンルだったら結構饒舌な方じゃかなかろうか。恐らくピアノ由来の何とも言えない儚げなメロディが美麗な旋律を奏でる。やり方と言ったらいかにも彼流のそれであって、必要以上に大仰でもメロディアスでもない。夢の効果音のように儚くはっきりしないのが、ふと気づくとなっていることに気づく様な、そんな感じでならされている。それにほれぼれと聞き込んでいると、静かに不協和音、つまりノイズが侵入してくる。つまり非常に対比が分かりやすく表現されたアルバムだといえる。ノイズというのは不穏、不安の象徴みたいなものであって、せっかくきれいだったものが、病魔におかされるようにゆっくりとその形を変えていくのは、妙に退廃的だ。
そして狼達の遠吠えが複数の曲でサンプリングされている。まさにハウリングである。妙に尾を引いて悲しげに伸びるそれは、何となく人間に対しては一種の恐れを抱かせる。原始の記憶だかなんだか分からんが、考えてほしい。一人で荒野で聴いたら結構恐いっすよ、これは。人の声を入れないで、あえて獣の声を入れるあたり、ジャケットのアートワークもそうだが、なにかしらのメッセージかもしれない。

「A U R O R A」が気に入った人は是非どうぞ。
こちらの方が曖昧模糊としているが、その分不穏でもある。
来日もするそうです。行きたいなー。これ大きい音で聴いたらたまらんだろうな。


2014年6月1日日曜日

Ben Frost/A U R O R A

オーストラリア出身アイスランドはレイキャビク在住のアーティスト/プロデューサーの4thアルバム。
2014年に自身が参加するレーベルBedroom CommunityとMute Recordsからリリースされた。私がもっているのはボーナストラックが1曲追加された日本語版でこちらはTrafficというレーベルから発売された。
私がBen Frostの作品を買うのはこれが初めて。このCDを買ったのは先に紹介したVampilliaの1stアルバム「my beautiful twisted nightmares in aurora rainbow darkness」をプロデュースしたのがBen Frostだったからである。付属の解説を読むと実はこちらも以前紹介したTim Heckerの「Virgins」にピアノとそれからエンジニアとして参加していたらしい。他にもブライアン・イーノとコラボしたり、Swansのリミックスをしたりと結構売れっ子のプロデューサーのようだ。

曲の方はというと北欧に拠点を置くということも頷ける冷たい電子音が主体となったアンビエントミュージックなのだが、アンビエントというには少しノイジーかもしれない。インダストリアルとも紹介されているが、結構ビートがはっきりしていて、重ーい金属的なビートがどしゃ・どしゃと鳴り、ノイジーな高音がひゅんひゅん飛び交ったりもする。ドローン要素も多分に含むが、前述の通りビートが結構太いのでそこまで難解ではない印象。ただしビートがあるといっても踊れる様な音楽では勿論無い。不吉な機械が唸り上げる様な音、妙に震えて千切れたノイズ、チリチリしたほのかなノイズ、柔らかな鐘の音など音の使い方が幅広く、ミニマルな楽曲が1周するたびに少しずつその様相を変えていく。まるでこだまのような、奥行きのある空間的な音が放射状に展開されていくようだ。ノイズも相まって急に崩れる様なビートも不安な印象を倍加されていく。時に暴力的と評されるその音楽性も何となく納得がいく。暴力的といっても明確な攻撃性というよりは、ブリザードの向こうに霞む悪意をもった黒いタワーをかいま見る様な、そんな感じ。
個人的にはなんといってもしゃーーと堰を切って溢れ出し、空間を埋めていく様なホワイトノイズが格好よい。流れ出して来た水が静かに溜まっていく様なそんな清澄さとなにかしらの圧迫感をはらんだ焦燥感が相まってなんともいえない気持ちになってくる。

異常に研ぎすまされた冷たさだが、不思議と感情に富んでいる。それが安心を与えてくれはしないのだが。デカい音で聴くと気持ちよいことこの上なし!
とても良いアルバム。これはオススメ。

2014年1月18日土曜日

Tim Hecker/Virgins

カナダはモントリオールを拠点に活動するミュージシャンの7枚目のアルバム。
2013年にKrankeyからリリースされた。
私が持っているのはライナーとボーナストラックが1曲追加された日本版。

Tim Heckerというとアンビエント界隈ではとても著名なミュージシャンだと思うが、私はNadjaのAidan Bakerとコラボしたアルバムしか持っていないのだった。
ネットで評判だったので買ってみた。というのも全体的にピアノが中心に据えられた音作りのようだったから。私はギターを前面に押し出したメタル音楽ばかり聴いていて、勿論暴力的にゆがめられたバンドサウンドがこの上なく好きなのだが、昔からピアノという楽器にあこがれがあるのである。なんと言っても澄み切ったような音と、鍵盤を叩いた後の音の余韻がたまらなく琴線に触れるのである。

基本はドローンということになるのであろうと思う。
重みのある太い音、か細い糸のような音、様々な音がすーっと後ろに伸びていく。コントラストのように少しずつ変わっていく音。ジリジリとしたノイズ。貼付けていくように多様な音が追加されて以外にもカラフルな音像が出来上がる。
アンビエントな静謐性に加えて潮が満ちてくるようなカタルシスがあって、ぐわーっと高まってきたかと思うとあっという間に引いていくような、そんな趣があって面白い。
ビートは極力排除されていて乗るというよりは、沈み込むような陶酔感がある。
そこにピアノが入ってくる訳だが、これがすごい。ピアノというのは兎に角雰囲気に幅のある楽器だと思う。このアルバムでは勿論楽しいようなピアノはないのだが、一口に暗いと言ってもその実かなり豊かなバリエーションがある。つま弾くように引かれるはかない感じ。妙に歪んであるフレーズが執拗に繰り返される病的な感じ。どれもさすがの表現力だが、やはりピアノ特有の空間に響くような透明な感じと、尾を引くような残響があってこれがたまらない。胸が締め付けられるような切なさである。

なるほど高評価を受けるのが納得の出来であった。是非どうぞ。
ちなみに日本版は少し割高になってしまうが、ダウンロード形式になっているボーナストラックがとても格好いいので、これから買おうという人には日本版をお勧めしたい。

2013年3月23日土曜日

Crisopa/Biodance

CrisopaことスペインはマドリードのSanti Lizónさんの1stアルバム。
リリースはn5MDより。
元々ネットレーベルからフリー配信という形で活動を続けていた方らしく、どうやら満を持してという形での1stアルバム。
ジャンルというとアンビエントなテクノになるのだろうか、Discogsによると加えてIDMとある。確かにわかりやすいビートとミニマルな展開の楽曲でとにかく踊れるというよりは、曲自体の構成が凝っていてクオリティが高い印象。
とはいえ必要以上にアバンギャルド・アグレッシブだったり、妙に奇をてらった変則性をことさらアピールするような作風でもない。
細かいビートに霞がかかったようなドローンめいた広がりのあるのびやかなシンセ、エフェクトのかかったシューゲイズなギター、エフェクトがかかったささやき声。全体的に程よくキラキラしたとてもドリーミーなアンビエントに仕上がっている。
曲によっては穏やかかつミニマルに始まった曲が、後半になって音の数が増えてきて盛り上がってくるような展開もあってグッドです。
普段あまり聞かないジャンルなのでなんとなく買ってみるか、とぼんやり買ったのですが、これがとてもかっこよかった。

上質なアンビエントが聞きたいぜ~、という方におすすめ。