2014年8月3日日曜日

Wolves in the Throne Room/Celestite

アメリカのブラックメタルバンドの5thアルバム。
2014年にArtemisia Recordsからリリースされた。いつも通り日本版はDaymare Recordingsからリリースされているが、私がもっているのは海外版。
プロデューサーはRandall Dunnとバンドの共同で行ったようだ。因に今このバンドのメンバーはAaronとNathanのWeaver兄弟のみである。
バンド名の「Celestite」というのは天青石という鉱物のことらしい。調べていただけると分かると思うのだが、白と透明感のあるグラデーションが美しい宝石の画像が出てくる。アートワークもそんな言葉を模したように星をちりばめたようなもやーっとした荘厳な感じの青色で統一されている。
たしか2ndアルバム「Two Hunters」から「Black Cascade」を経て前作「Celestial Lineage」で三部作完結ということだったと思うのだが、今作は前作「Celestial Lineage」の延長線上にあるものらしい。
ところが前作の延長線上と言ってもあくまでも作り手側の信条というか、あくまでもコンセプトの上でということであって、聞き手が前作の延長線上だ〜というテンションでもってこの音源を聴くとちょっとビックリするのではなかろうか。
今作はアンビエントになるよ、というのはリリース前から発表されていて、発売前に公開された音源はまさしくアンビエントなものだった。それでもファンとしては幾らかのブラック目たる成分を期待してしまうのが心情なのだが、ふたを開けてみれば全5曲徹頭徹尾アンビエントに統一されており、ファンとしては椅子から転げ落ちること請け合いである。
曲によっては少しだけ出てくるが、基本ドラムのビートもなし。当然だがイーヴィルボイスどころかボイス自体が入ってない。あくまでもシンセサイザーを中心にした音作りであって、所謂真性ブラックメタル感は皆無である。4曲目でようやっとギターの音が出てくるといった有様。
基本パイプオルガンほど主張が強くないが、少し似通ったところのある重厚感のあるシンセ音で構成されていて、メロディ性にかけるかつびろーんと伸びてくる様は確かにドローンの要素があるが、例えばSunn O)))のような派手さは無い訳だし、かといって所謂ドローンアーティストの本気かつハードコアな音ではない。かなり色々な音が重ねられていて、それがシンセ由来なのか生の楽器の音なのかは素人の私には判別できないのだが勇壮なホーンのおとだったり、腹に響く様なバンド然としたベースだとか、スペイシーな浮遊感のあるシンセ音だったり、シャーシャーいうノイズだったりそれが実体をもたない幽霊のように入れ替わり立ち替わりふわーっと聞き手の前に現れるのであって、単調であって聴いていて本当に違いが分からないということは無いと思う。そういった意味ではアンビエントだがバンドっぽいアプローチでもって曲が制作されているのかもしれない。

言うまでもなくWolves in the Throne Roomというのはカスカディアンブラックメタルの大立物であって、一時期は雨後の筍のようにフォロワーが続出したものだった。カスカディアンブラックメタルというのは果たして何か、というと私にはちょっと即答できないのだが、それでもこのバンドが自然というものをとても大切にしてエレキギターを始め電気を使った音楽で自分たちを表現することの矛盾を認めつつ、彼らの大好きな自然を音楽という形で表現しようと言う試みを続けているのは有名な話だと思う。
この音源を聴いて彼らの主張が手に取るように分かるというのは残念ながら無いのだが、それでもアンビエントという形を取りつつ、またそしてブラックメタルという音楽がよく冷たいという言葉で形容されることを考えると、この音源のもつ妙に暖かみをもった音像というのは非常に面白い。地下室的な息苦しさというよりは、空間的に広がりをもって外に伸びていく様なスタイルであって、むしろ彼らの目指す音を作るにはバンドサウンドやシャウトが邪魔になってしまったのかなーと思う。

ブラックメタルというと元々アンビエントやシンセサイザーとは結構強い繋がりがあるので、驚く人は多くても結構しっかりとこの音源に向かい合えるブラックメタラーは多いのではなかろうか。問題作は問題作なので、最終的な評価は是非聴いてみて各々判断していただきたいのだが、私は音源としては普通に楽しんで聴けた。そういった評価も含めて気になるな、という方は悩んでいるより買ってしまった方が良いと思います。

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