2017年1月29日日曜日

Recluse/Stillbirth in Bethlehem

アメリカとフランスの混成ブラックメタルバンドの1stアルバム。
2016年にカナダのVault of Dried Bones Recordsからリリースされた。
Recluseは2013年に結成されたバンドで今までにデモなどの複数の音源をリリース。その後メンバーを一人加え既存の楽曲を録音し直し、新曲を追加したのがこの音源。
バンドはPhil McSorleyによって始められた。彼は元Cobaltのボーカリストである。Cobalt結成後彼はアメリカ軍(陸軍だったかな?)に従軍、おそらくその後除隊したのだろうが(音楽活動を再開しているので少なくとも外国にはいないはず)、FBで人種差別的な発言(Ericの言。私はこの発言を読んでいない)を繰り返しCobaltのもう一人のメンバーEric Wunderと決別。McSorleyはCobaltを脱退。Ericは元Lord MantisのCharlie Fellを新ボーカリストに迎えて昨年新作「Slow Forever」をドロップした。一方のMcSorleyが始めたのがこのRecluse。バンド名は「隠者、世捨て人」を意味し、当初は彼一人でやっていたから彼の荒んだ心中がなんとなく察せられる。その後もとVlad TepesのWlad(この人はフランス在住)をボーカルに迎えた。このVlad Tepes(いうまでもなくドラキュラ公から取ったのだろう)はブラックメタル界隈では伝説的なバンド(インナーサークルに呼応するようなよろしくない活動がフランスであった)らしいが私は聴いたことがない。
「Slow Forever」はベストアルバムにあげられることもあり、確かに良いアルバムだったが個人的には正直バンドの前作「Gin」には及ばなかった。どうも私はCobaltのブラックメタルの枠を飛び出す楽曲とそれに乗っかるMcSorleyの声に魅力を覚えていたらしい。どうしてもMcSorleyの声が聴きたくなってRecluseの音源を入手することにした。「世捨て人」というバンド名通りとにかくアングラな活動しかしていないようだが、この音源はレーベルの流通に乗るようでネットを介して楽に購入できた。

悪趣味なライナーにはほぼ情報のないインナー、全部で12曲あるはずがまとめて1曲になっているトラック(分割して曲名つけるのがクソめんどい)という地獄仕様で嫌な予感しかないのだが、再生すると果たしてその思いは見事に裏切られない。「ベツレヘムの死産」という冒涜的なアルバムタイトル、そして「殺人聖歌」から始まる口に出すのも憚れる曲名が続く。だいたいわかると思うが、これ世に出しちゃいけない系のやつです。ブラックメタルの悪いところ全部集めました!っていう、あれです。ブラッケンド、そしてシューゲイザーへの接近、それらオーバーグランド化するブラックメタルに唾を吐きかける、唾どころかまさに「精液と血」(2曲めのタイトル)なのがRecluse。
こもって地下の小部屋で録音したような劣悪な音質。ボコボコ輪郭が曖昧なドラムがどたどたリズムを刻み、音圧のあまりないギターが汚いトレモロを奏ででいく。そこにエフェクト(低音とリバーブ、時にやまびこ的なエコー)を過剰にかけた忌まわしいボーカルが乗るスタイル。爽快感のあるブラストビートがあるわけでも、美麗なメロディがあるわけでもない真性ロウ・ブラックメタル。もちろん企図された汚さではあるわけだが、汚いことが美学であって、うまく生きられないおっさんの恨みで作られており、いわば恨み節であって破滅の美学なんて耽美なものは一切感じられない地獄仕様。ブラックメタルはブラックメタルなのでトレモロの中にメロディ性が感じられるのだが、それをかき消してあまりある汚濁がひどい。
まだロウ・ブラックメタルの体裁をとっていた前半から後半はさらにいやらしいことにノイズ成分が色濃くなっていく。もはや嫌がらせなのかというくらい。ボーカルも重ねてきたり、放心したような「うえええ〜」という高音を混ぜてきたり、ボーカルなのかノイズなのかわからないくらい混沌としてくる。
拡散していくブラックメタル界隈に本質を提示する、という高邁な精神を感じ取れるというよりも好き勝手に”俺ら”のブラックメタルやったらこうなってしまいました、という感じで非常に素晴らしい。

正直人にオススメできるものではないのだが、ロウなブラックメタルが好きなんだという人、ブラックメタルにはアングラ臭をひたすら求める人、世界に拒絶されていると思う人はどハマりするのではなかろうか。Cobaltの新作に興味を持った人にはオススメできない。視聴して気になったら買ってみるのも良いかもしれない。私は大好き。

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