2018年12月9日日曜日

Cult Leader/A Patient Man

ハードコアの何が面白いかというと人それぞれだろうが、わたし的には基本にハードコアがあるとあとは結構何を載せてもイケるってところだ。融通が効くなあというわけだ。ハードコアを出発点に色々なバンドが様々な要素をそこに追加していった。逆に言えば初めは表現力にやや難があったジャンルに対して、それを好むものたちがなんとかそれを自分が補填し完璧な音楽にしてやろう、という動きがなんとなくあったのだろう。
メタルからミュートリフを持ち込んだニュースクールやメタルコア、哀愁をメロディラインとギターソロで充填したジャパニーズ・ハードコア、どんどん遅くしたろうかなというスラッジコアに、いやー速いのがパンクよとばかりにファストコアやパワーバイオレンス、結果的に尖ったのが色々サブジャンルとして乱立してどれもハードコアなもんで面白い。

ユタ州ソルトレイクにGazaというバンドがいてこのバンドはグラインドコアばりの突進力にスラッジコアの要素を取り入れ、それもいい感じに混じり合わせるのではなく無理やりくっつけたようなヤケクソさがあって好きだった。ラストアルバムは歴史に残る傑作であると思っている。そんなGazaが終わり、残った3人で始めた(メンバーを一人追加している)のがこのCult Leaderだ。Deathwish INC.と契約し精力的に活動。今回が3枚目のアルバムだ。
Gazaで分裂してた別々の表現手法を融合させるというのが隠れたCult Leaderのテーマだったのかと思う。Gazaの放心したようなスラッジパートの空虚さ、そして物悲しい感情を今度は曲そのものに溶かし込んだ。前作「Lightless Walk」の「Sympathetic」でその方向性は極点に達し、そしてわたしは遂にCult LeaderはGazaを超えてその先に行ったんだと思い、感極まって泣いた。この曲に関しては私は日本における激情にたいするアメリカからの一つの回答でもあるなとひそかに思っている。

さて前作から3年が経ちリリースされたのが今作。アートワークから前作からの流れを組むものだと理解できる。さらに色が追加されているのが印象的だ。
聴いたら驚いた。やりやがった!このアルバムにあったのはまたもや露骨な分断だった。バラバラになった破片を集める修復作業がGazaを経てのCult Leaderだったとしたら、今作でまたそれを壊してしまったのだった。ただそのやり方は斬新で1曲の中で疾走パートとスラッジパートを同居させるようなやり方ではない。激しい曲とアコースティックなアンビエントな曲を分けたのだった。調和も何もあったものではない。二律背反の葛藤する心をもはやそのまま表現するような、穿った見方をすれば迷いのあるやり方だ。
前作同様1曲め「I Am Healed」からぶちかましそのままラストまで行くのかと思いきや、4曲目「To:Achlys」でダークなフォークで沈み込む。(2曲ともMVが作られていることからアルバム内でも露骨に重要な曲だということがわかる。)ディストーションもってのほかの生々しくダウナーな世界観をひきずり、「A World of Joy」のラストで再浮上する。普通のアルバムなら山があるのだろうが、「A Patient Man」には谷がある。一回沈み、そして死にきれずに戻ってくる。後半はいわば恨み節の二回戦であり(ジャケットの骸骨は泣いている。)、そこからまた突っ走っていく。
タイトルは「忍耐強い男」か、しかし冒頭が「私は癒やされる」だからおそらく「患者の人」だろう。3曲めのタイトルは「Isolation in the Land of Milk and Honey」で聖書に出てくるワードだったはずだ。つまりこの世の楽園ってことだろうが、そこで孤独。このアルバムは一つの物語であり、それ故中盤の露骨な沈降も納得できるだろう。ラスト手前の「A Patient Man」のアコースティックギターの響きのなんて空疎なことか。何もない空っぽが鳴っているようだ。

破壊と想像なんてこのジャンルではもはや聞き飽きたワードだが、このバンドはそれを地で行っているような気がする。しっかり根を持ちながらも新しい表現方法に挑戦していく。言うは易く行うは難し。現行でこんな大胆なことをやっているのは日本のSWARRRMくらいしか思い浮かばない。どちらも今年新作をリリースしたが、いずれもモニュメントや不気味なモノリスのように聳え立っている。
素晴らしいアルバムである。慟哭しながら地面をたたきたいほどに。こういうのが好きなんだ、私は。この雑念が混じり合い、もはや怨念となって渦巻いている感じが。そして如何ともし難い諦念が底流を這っている。狂乱と空虚だ。もはやそれしかない。「We Must Walk On」というリフレインが強烈なラストの「The Broken Right Hand of God」。決して癒やされることのない病を抱えてこの地上をさまよっていくのだ。それを呪いという人もいるだろう。

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