2016年3月5日土曜日

ジェイムズ・トンプソン/血の極点

アメリカ出身フィンランド在住の作家による警察小説第4弾にしてシリーズ最終作。
カリ・ヴァーラシリーズも気がつくと4冊目。毎回楽しく読ませていただいております。

全開の事件の後妻と別居しているフィンランド、ヘルシンキの非合法警察組織に所属しているカリ・ヴァーラは身も心もボロボロの状態。自宅が執拗な暴力行為にさらされる事になり、家族と仲間の安全を守るため、カリは自分たちの組織の上司も含めた権力と徹底的に交戦する事を決意する。

さてこのシリーズよそでも書かれている事だけどシリーズ中にその方向性を大きく転換している。始めはフィンランドの田舎町の警察署長を主人公に据えた比較的真っ当な警察小説だったのだが、何を思ったのか3作目から警察の枠を大きく越え、血と銃弾飛び交うノワール小説へと変貌。読書を驚かせたもの。
個人的にはこの変化は大歓迎で、元々1作目2作目も面白かったのだけど、全体的に男の美学的なマッチョさがあってそれが警察官という辛くしんどくも尊敬される仕事を描く警察小説という形に微妙にマッチしていないなという感じが正直あった。(ただこれは多分に私の感覚という過去のみだと言うのは自覚しています。)なんというか主人公のキャラクターと書き方が警察小説という枠で書くにはちょっと要領が足りてないかなという感じ。それが3作目から凄惨な暴力を主眼において国家権力中の権謀術数、ナチと北欧の忌まわしい結託など、いってしまえば求心力があり、かついい感じにうさん臭くきな臭い要素をぶち込み、そのバランスをとるため主人公カリを警察官から非合法の暴力組織の頭に据えた事で、濃すぎるカリの個性と生きるか死ぬか、血の美学的なマッチョさがばっちり物語の筋にハマる事になり、まさにジェットコースターのように破滅に突き進むノワール小説に変貌したのだった。
組織と足並みそろえる事無く独自に捜査が展開するから圧倒的にスピード感が増したし、尋問なんかも極めて即物的暴力的に成り下がった(褒めてますよ!)。大口径の銃弾が雨のように飛び交い、悪役は酷い死に方をするし、主人公たちの体もどんどんぼろぼろになっていく。
主人公カリはそんな劣悪な環境で輝いて見える。彼の強みはぶれない事で、最早作品全体の雰囲気に比較すると嘘くさくもあるが(そうして考えると真っ当な警察小説だった始めの2作もちゃんと機能しているのだが)、人の役に立ちたい、特に苦しんでいる女子供を助けたいという気持ちで立っている様なものだし、愛する妻は絶対に裏切らない。このぶれなさはひょっとするとそんな人いね〜という批判になりがちなんだけど、あえて人間くささを演出!みたいにカリが脇道にそれない事が、いわば暗黒の寓話とも言える男の美学的なノワール世界というフィクションをぎゅっと引き締めているように感じるのだ。
十分すぎる銃器やテクノロジーの説明も男の子の心を刺激して良い感じ。

非常に残念な事ながら作者のジェイムズ・トンプソンはこの物語を書き上げた後、2014年に亡くなってしまった。大きく転換したこの物語がさらに広がっていく様を是非読みたかった。非常に残念。楽しい読書体験をさせていただきました。ご冥福を御祈りいたします。
気になった人は1作目、もしくは3作目でもよいかも?から是非どうぞ。真っ白い雪上に熱い鮮血が飛び散る警察ノワールです。オススメ。

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