2014年12月27日土曜日

グレッグ・イーガン/プランク・ダイヴ

オーストラリアのSF作家の日本独自の短編集。
グレッグ・イーガンは元々短編集から入っている私としては新しい短編集という事で飛びついた訳なのだが、なかなかどうしてこれが困った事になってしまった。
イーガンの小説は滅茶難しい。ハードSFであって理系分野に大きく傾いており専門的な知識と用語がばんばん出てくる。作者含めて理系の人は起こるだろうが、文系の私としては正直改訂ある事を半分も理解できていない様な気がするが、変な話良く知らんけどかっこよさそうな専門用語、みたいな感じで読み進めていた訳である。雰囲気だけ汲み取って読んだ気になっている困ったファンであったのだ。
イーガンという人は頭が良いのだろうが、サービス精神というか配慮のできる人で私の様な軽薄な人間が読み事もふまえて、全部理解できなくても楽しく読める様な小説を書いてくれている。
ところがこの短編集に収められているのはハード中のハード(実際どのくらいハードなのかは分からないが。)と言った感じで私の読み方だといよいよ無理が出て来てしまった。当たり前に出てくる理論や単語は私の乏しい理解力をもの凄い高さと速さでもってあっという間に通り越していった。
今までは分からないところは何となく前後の文脈から当たりを付けてごまかしごまかし読めたものの、今度の小説群は科学の知識が深く物語りにくい込んでいる訳で、そこが理解できないとそもそも登場人物達が何に取り組んでいるのかが、つまり小説の核の部分の理解が追いつかなくなってしまう。これはつまらないという話では全くなくて、とにかく話の内容が致命的に分からない、という事に他ならない。間違って理系の授業の教室に紛れ込んでしまった様な後ろめたさを覚えてしまった訳である。これには困ったものだ。
勿論そんな状態ではちゃんとした感想なんて書けない訳なのだが、一応このブログを始めた動機として読んだもの、聴いたものをほとんど自分のために記録に残しておく、というのがあるもんで、あやふやながら記事にさせていただく次第です。

さてイーガンは先進的な科学マニアであると同時に大変優れた作家でもある事は彼の作品を読まれた方になら分かっていただけると思う。面白さの一つに私たちが常識と思っている事をあっさりひとっ飛びに超えて、私たちにとてつもない”未来”を提示する、というのがあると個人的には思っている。それを読んで技術が常識を覆すグロテスクさを感じるのか、それとも常識の儚さを実感するのかそれは読み手次第だが、結構そういう倫理観を問うてくる様な視点があるように思うのだ。
この短編集にもそんなイーガンらしい問いかけが作品に潜んでいる。
全部で7つの短編の中、私がある程度理解できて面白かった(基本理解できれば抜群に面白い。)作品を紹介。

「クリスタルの夜」
人工知能(AI)開発のため超性能コンピュータで走らせたプログラムの中で作られた疑似世界で疑似生命を進化させようとする男の話。
目的があるからいい感じに恣意的な進化をさせたり、神として疑似世界に降り立って介入したりするのだが、解説にも書かれている通り神様だとしても被造物に対するジェノサイドは許されるのか?という問題が直接的な言葉でなくて、取り憑かれた男の傲慢さから読み取れる。タイトルのネタは勿論クリスタル・ナハト。

「暗黒整数」
地球に古しているそれとは別の数学大系を持つ別世界との緊張〜戦争状態を描いた作品。別の短編集に収録されている「ルミナス」という作品の続編なんだが、もう内容を覚えていなかった…
科学オタクが地球の危機を密かに救う、という話はほらなんだか面白そうでしょ。主人公が奥さんに自分のやっているところを隠したりするところは如何にもハリウッド映画でありそうなド派手な地球の危機なんだけど、それをあくまでも古いコンピュータ上で終始進めさせるのはむしろ好感が持てた。

「伝播」
中国が世紀の代わりに目に打ち上げた「蘭の種子」。20光年離れた惑星に放たれたそれはナノマシンで構成され未開の惑星にロボットを組み立てるのだ。
それから120年後、打ち上げに関わったイカットはその惑星上のロボットに自分の意識を飛ばし、自分の目で惑星を見てみないかと誘われて…
本書の複数の作品に出てくる(イーガンのテーマでもあると思う)人間の意識を脳の軛から外して別の形にする、というテーマを扱う。主人公は脳を切り刻まれてデータ(ソフトウェア?)化され(本書の他の作品にも出てくるがデータ化された意識は情報の様々な形インプットを受けて引き続き成長することができる。)、ビームとなって宇宙空間を20年間飛んで地球から遥か離れた惑星のロボットの中に到着するのだ。すごい…
なんといっても後半の一転して落ち着いた抒情的な展開がたまらない。とてもロマンチックだ。

というわけでちょっと前代未聞に中身が理解できていないのに申し訳ないのだが、相変わらずなんか知らんがスゲエなと思わせる短編集であった。「ワンの絨毯」なんて意識隊になった人間達の仮想的な姿がアバンギャルド過ぎてグロテスクというかなんなのか不安になってくるところとかすごいんだけど、もう少し理系の頭があればなあ…
はじめてイーガンの小説を読むなら、同じハヤカワからでている別の短編集がよいのでは〜と思います。

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