2016年11月6日日曜日

The Dillinger Escape Plan/Dissociation

アメリカ合衆国ニュージャージー州モリスのマスコアバンドの6thアルバム。
2016年に自身のレーベルParty Smasherからリリースされた。
TDEPは1997年に結成されメンバーチェンジを繰り返しつつも、今までに5枚のアルバムを発表。6枚目のこのアルバムをリリースするタイミングでバンド側はアルバムの発売に伴うツアーの終了とともにバンドは解散することを明言しておりこのアルバムが最終作になる見込み。

一昔前にネット上で「私を構成する9枚」が流行り、私もチャレンジと思ったが思いの外絞るのがむずくしくて頓挫した。4枚は確実でそのうちの一枚がTDEPの2nd「Miss Maschine」。
ニューメタル小僧だった私が「カオティック・ハードコア」という言葉のかっこよさをきっかけに出会ったのがこのアルバムだった。今では大好きだが当時は声がニガテでConvergeを敬遠したため、TDEPが新しい音楽への扉になった。明らかにハードコアであるConvergeに対して、TDEPはカオティックのもう一つの可能性であり、メロディアスなパートを包括することで入門編としては最適だったのだろう。

TDEPは技巧によって自由を獲得したバンドだ。
ギターソロ、トレモロ、テクニカルなリフワーク、異常な速度で叩かれるドラム、人間外にはみ出すがごとくのスクリーム、ことエクストリームな音楽では超絶技巧を始めテクを極めることで先鋭化していくが、
このバンドはむしろ技巧で持って早くて強いハードコアの枠から逸脱、もしくはジャンルの幅自体を広げている。(フォロワーを生み出すほどの影響力があることを考えると個人的には後者を推したい。)
曲の速度が早くなくても良い(今作は中速くらいの曲が多い)、弦楽は低音に偏光し、重たいリフを引かなくても良い、クリーンボイスでメロディを歌っても良い、多様な表現力はむしろハードコアの可能性を広げていった。
終わりよければではないが、最終的にハードコアでまとめあげればよしなのだ。なるほどTDEPにジャズの要素があってもTDEPをジャズバンドだという人は少ないだろう。
マスコア、またはカオティック・ハードコアという文脈で「とっ散らかった」と表現される音源はこの最新作で最終作と言われる「Dissociation」でその要素を色濃く取り戻した。
前作、全前作では良くも悪くもまとまりが良い印象の楽曲がおおく並んだが、今作では曲中でのカオス度が上がっている。
曲間での展開が複雑であること、その展開がスムーズである一方頻度は増加し、混乱の度合いを強めている。
nine inch nailsに影響を受け、非常にエレクトロニックかつメロディアスなサイドプロジェクトThe Black QueenをスタートさせたGregはやはり良いボーカリストだ。
メンバーは変わっているもののテクノモーツアルトの異名を取るAphex Twinの人力カバーを披露しているくらい正確に複雑なバンドアンサンブルはともすると非人間的だが、
Gregのボーカリゼーションは吐き出す声の種類がクリーン/スクリームという二択以上に表現力が豊かだ。一つの曲の中で病的にその声色を変えていくGregは非常に人間的で感情的なカオスを作り出している。
前任ボーカリストのDimitriもハードコア的では非常に力強かったが、全方向的に混沌を広げていくバンドの方向性的にはGregに軍配が上がるのではなかろうか。
有機的なカオスと無機的なカオスがぶつかりあった火花が、爆発がTDEPというバンドなのだ。
異常なテンションで破裂する豊かな音色はさながら打ち上げ花火の乱発であって、黒いハードコアの夜空に打ち上がる花火に私たちは魅せられた。
最終曲「Dissociation」は全編非常にメロディアスでまさに終焉に相応しい落下しながら消え行く花火の残り火に感じられる。
幕が閉じた後、四囲に立ち込める火薬の匂いを嗅ぎながら私達の視線は地上に降りてくる。残るのは切なさだ。祭りは終わった。私たちは日常に帰っていくが、その胸には花火の残影が焼き付いている。私は密かに拍手するだろう。ありがとうTDEP。

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