2016年11月19日土曜日

Grief/Come to Grief

アメリカはマサチューセッツ州ボストンのスラッジコアバンドの2ndアルバム。
オリジナルは1994年にCentury Media Recordsからリリースされた。私が買ったのはWillowtip Recordsから2010年に再販されたものでボーナストラックが1曲追加されている。1991年に結成され5枚のオリジナルアルバムと何枚かのスプリット音源をリリースしたのち2001年に解散。その後再結成されたもののやはり解散している。スラッジ界隈では有名なバンドなのだろうが、音源がことごとく廃盤なので私はSouthern Lord Recordingsからリリースされた編集版「Turbulent Times」しか持っていない。確実にKhanateに影響を与えてであろう凄まじいトーチャー・スラッジが展開されており、全編通して聴くにはかなりしんどいのだが大変癖になる。「Depression」の長いイントロが終わったと思ったらさらに地獄でしたみたいな展開が大好き。Amazonでなんとなく検索したら普通に売っていたので購入した次第。

「Turbulent Times」がおしゃれな装丁なのに対してこちらは「ぼくのかんがえたさいきょうのじごく」的な世界観が表現されており、Iron Monkeyのアートワークを思わせるいやらしさ。嫌な予感しかしないが、果たして再生ボタンを押した瞬間、ノイズにまみれたスラッジーなイントロが撒き散らされる。叩きのめされた様に不自然に伸びたリフと引きずる様なフィードバックノイズが不快だ。たまらん。歪んだソロが展開されて悲鳴の様だ。やっとイントロが終わったかと思うとJeff Haywardの苦痛に満ちたボーカルが入る。ここでこのアルバムには救いがないとわかる。この人の様に歌うボーカルはちょっと思いつかない。フレーズごとに力が入りすぎて心配になってくる。ひどい二日酔いの時吐きまくっても楽にならず、便器を握りしめて無理やりげえげえ唸っている様な、そんな類の必死さと辛さがある。「Earthworm」は自尊心ゼロのボーカルが「俺はミミズにとってもよく似ている 俺をたち割ってくれ 俺は生まれ変わる」(ミミズを切断すると両方動いているところから来ているのだろう)と歌い上げる。Griefは悲嘆という意味だ。ここには失望と厭世観とそしてその中で育まれる憎悪がある。おおよそ嫉妬にまみれた見当違いのものであるかもしれない。光り輝く健康な世界で生きている人たちからしたらいわれのない、理解のできない感情だとしてもある特定の人たちにとっては共感できるのではなかろうか。喧嘩に負けたとか、麻薬にどっぷりとか、半分はあっているが本質的には自己嫌悪だったり自分の不甲斐なさに対する苛立ち、生来劣った自分という不公平に対する怒り、転じて他者への攻撃性と厭世観になっている様な気がする。だからこの文脈でいう攻撃的というのは、他者と自分に対しての二面性があって、トーチャーなのに気持ち良いというのは実はそこにその理由があるのかもしれない。
こうやって書くともう聞くのも苦痛でマニアックな音楽という印象を持たれてしまうかもしれないし、実際そんな一面もあるのだが(はじめの2曲はかなり酷い、私は2曲めの「Hate Grows Stronger」が好きすぎる)、実はこのアルバム後半にいくにつれて結構聴きやすくなる。ある程度早いパートが導入されているからだ。ドゥームのヴィンテージロックからの影響を割とストレートにスラッジなりに解釈したグルーヴィなリフも飛び出して来てかなり乗れる。

Eyehategodに代表される様にスラッジというとやっぱりこうダーティなイメージがある。私は酒もあまり飲めないのでそういった危険性とは無縁だが(Eyehategodはもちろん好きだけど)、Griefはもっと懐が広くてダメ人間の普遍的な感情を歌っていると思う。そういった意味では過激な音楽性に耐性があれば(ここがまああんまりいないんだろうけど)結構聴きやすいのではなかろうか。何かしらこの切実さがきっと胸に突き刺さるはずだと思う。やっぱりかっこいい。「明日は良い日だ」という歌に励まされない人はぜひどうぞ。非常にかっこいい。おすすめ。

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