2016年5月29日日曜日

nothing/Tired of Tomorrow

アメリカはペンシルバニア州フィラデルフィアのシューゲイザーバンドの2ndアルバム。
2016年にRelapse Recordsからリリースされた。
私が買ったのはボーナストラックが2曲追加されたデラックス版(のデジタル)。
2014年にリリースされた1stアルバム「Guilty of Everything」はシューゲイザーの手法に乗っ取りながらも、元ハードコアという出自をいかした不穏かつ、同ジャンルの文系かつ芸術的なそれとは一線を画す、完全に体育会系ヤンキー(というか前科者)節なフィジカルな暴力をにおわせるノイズを鳴らす希有な音楽スタイルで持って結構受けたのではなかろうか。かくいう私も未だに良く聴くお気に入り盤なので、この2ndも多大な期待を持って購入。

「明日に飽きた」という非常に厭世的なタイトルでニヤリとさせられるが、曲目の方も「死人に口無し」、「ウジ虫に喰われて」など退廃的というよりはやはり陰惨さを感じるタイトルが並んでいる。
聴いてみると大分メジャー感が増したように思った。端的に言うと曲調は明るくなり、地下臭さとノイズ分は減退した。代わりに王道なシューゲイザー成分が前面に押し出されている。ディストーションのかけられていないギターも結構使われているし、ピアノやストリングスも大胆かつ効果的に取り入れられている。楽器陣の音量が下がった訳ではないのだが、閉塞感がなくなり、大仰とはさすがに言えないけどぐっと広がりがでた印象。
ボーカルに関してもよりシューゲイザーっぽくなったのではなかろうか。喧しいバックの演奏と反比例するように儚さが増しているように思う。曲によってはそれこそMy Bloody Valentineぽいなと思う事もあったり。
真っ白いつなぎを着たメンバーが絵の具をぶちまけられるという、なんとなくありがち(具体的に思い浮かばない自分が悔しいのだが)な映像が衝撃的な先行シングル「Vertigo Flowers」はとくにこのメジャー化を象徴しているナンバーでなんとなくハッピーな感じすらする。

メジャー感は増しているのにインディー感漂うというのは変な話だけど、結構インディーロックな感じ(というのもインディーロックをあまり聴かないので。あっているかわからない)。ハードコアを通過した凶暴さと(ノイズなどの)装飾性は削ぎ落とされ、シンプルな中に生活感というか自然さが顔を出した。シューゲイザー独特の浮遊感がまし、余裕ができた隙間に詩情があると思う。
一方でこちらもMVが作られている「Eaten by Worms」は(そのビデオ映像もそうだが)、暗く陰鬱で暴力的なnothingを象徴した曲で、大胆に取り入れられたピアノは新境地だがぽつぽつ呟かれるように歌われる不穏な歌詞とざくざく刻まれていく分厚いギターリフ、静寂を挟んでノイズにまみれる後半など、このバンドの真骨頂の一つではなかろうか。この曲私はとても好きですね。

非常に良く出来たアルバムでこちらの方向転換も上手く行ったのだと思う。すっと聴けて気づくと結構リピートしている。
じゃあ素晴らしいアルバムかというとちょっと難しい。ここからは完全に好みの問題なのだろうが、個人的にはこのアルバムはとても好きだが、このままこの路線をつき進められたらちょっと厳しいかもしれない。私は(多分少数派なんだろうと思うが)個人的にはノイズとディストーションにまみれた黒いnothingの方が圧倒的に好きだ。(つまりこの2nd、バランスがとれた良いアルバムであることに異存はない。)だから「Eaten by Worms」の用な曲がこの先作られないのであるならそれは寂しい。nothingは挫折を経た、挫折を歌ったバンドじゃないだろうかと思う。1stアルバムでは白旗が掲げられていた。そしてタイトル曲では「俺は跪いている 俺は銃は持っていない なんならしらべてくれよ でも結局あんたは俺を撃つだろうな」とまさに警察に逮捕されるその時を歌った様な世界観であって、その挫折、その後悔、そんな負の感情をノイズにのせて押し出していた。1stと全く同じ音楽を求めるのはさすがにどうかと思うが、もうちょっとここら辺を突き詰めても欲しいものだと思う。
という訳で思い入れが強い分余計な事も書いてしまったが、期待を裏切る良いアルバムだった。CDかできるならアナログが欲しいな。このバンドが気になった人はまずこちらを買うのが良いかもしれない。

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