2015年3月29日日曜日

ヘレン・マクロイ/歌うダイアモンド

アメリカの女性推理作家の短編集。
Amazonに結構この人の本をお勧めされるので気になっていたもんで、丁度東京創元社から発売された短編集を買ってみた。
ちなみにヘレンなのでどう考えても女性なので、勝手に男性だと思っていた。多分他の本のあらすじとか読んでハードボイルドだなあと、ハードボイルドなら男だろうと、そう思っていたのかもしれない。
マクロイは1904年生まれの1994年没。この短編集は本国で「The Singing Daiamonds and Other Stories」という生で発表されたものに日本独自に一つ中編を足したもので、収録されているのは1946年から1968年の間の作品。40代という事でもっとも脂ののっていた時期なのかもしれない。推理小説作家として活躍しただけあって、カッチリとしたミステリー、突飛な状況を描いたSF、それから何とも詩情にあふれた物悲しい短編と結構色彩豊かな短編集になっている。
読んで思ったのは非常にアメリカ的だなという感じ。からっと乾いたところがある。例えば最近はイギリスの女流作家の短編集を読む事が何回かあったのだけど、そこに共通するしっとりとした繊細な感じはあまり無い。変な表現だがもっと男性的なイメージで、そこでは確固たる現実に置ける物的証拠が何よりも強固なモノリスとして屹立している様な、そんな世界観である。だから現実的であり、より生活感が漂うとも言える。なかでも「カーテンの向こう側」という短編があって、これは悪夢にまつわるホラー的な要素を活かしつつも、あくまでもミステリー的な解法に到達する面白い話なのだが、犯罪に巻き込まれた女性の心理を生々しく書く反面、一定の距離を保ち物語が個人的なものにならない、あくまでも”事件譚”として扱っているところが面白い。
ジャンル的にも暴力や犯罪は沢山出てくるのだが、残酷描写あくまでもさらりとしているところが女性的である。SF短編「ところかわれば」はユーモラスな作風だが、後半には強い男性批判が描かれている。ここら辺に作者の強い姿勢と主張が伺える。きっといまとは違う時代、女性の待遇も大きく違ったのだろうと思う。

「人生はいつも残酷」は盗みの汚名を着せられた挙げ句殺されかけた主人公が、別の人間になり因縁の地に戻って謎のを暴く話。男性作家なら復讐譚にするところを「それは燃え尽きた青春の後味だった」という悲しい詩情にあふれた物語にするところは流石。身勝手な真犯人の醜悪さも見事。
一番気に入ったのは「風のない場所」でわずか10ページ無いくらいのこの短編では一人の女性の視点で世界が破滅する様を淡々と描いている。大量死ですら膜を隔てたかのように冷徹に書かれているが、だからこそその恐ろしい以上今日がかえって生々しく感じられるものだ。人間中心的に考えれば無常感の漂うラストもなにかしら清澄なものに思えて島から面白い。

ヘレン・マクロイ入門編にはうってつけかもしれない。気になっている人は是非どうぞ。

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