2015年3月11日水曜日

ロバート・ルイス・スティーヴンスン/新アラビア夜話

イギリスの作家スティーヴンスンによるロンドンを舞台にした冒険小説。
発表されたのは1882年。スティーヴンスンは一番有名なのは「宝島」らしいのだが、私は読んだ事がない。「ジキルとハイド」は読んだ事あるので多分2冊目かな。
翻訳しているのは南条竹則さんと坂本あおいさん。南条さん翻訳ならば面白いはずと購入した次第。

大英帝国はロンドンに滞在しているボヘミアの若き王子フロリゼルは旺盛な好奇心を満足させるために夜な夜な部下のジェラルディーン大佐を伴い、身分を隠して事件を探しうさん臭い界隈を歩き回っている。ある日場末の居酒屋に腰を据えると、皿一杯のクリームタルトを持ち、他の客に振る舞う若い男性に遭遇。事件のにおいを嗅ぎ取ったフロリゼル王子は彼の後をついていく事に。その先に王子の想像を超える危険な事件が待ち受けている事を知らずに…

アラビアとついているものの舞台はロンドン。解説によると「千夜一夜物語」(「アラビアンナイト」とも)の中の物語の形式を踏襲しているからだそうな。とはいっても作者はアラビア人であるよ、という趣向が凝らされていて各章の末尾には〜というようにアラビア人の著者は語っているよ、という風な文がついている。要するに雰囲気の問題である。これを美学と取るか蛇足と取るかは読み手次第。私は断然前者。面白い物語ならどんなに荒唐無稽だろうが、無理があろうが乗るのが粋ってもんでしょう。
さてこの本の主人公はボヘミアの王子フロリゼル殿下が活躍する二つの中編がセットになって収められている。中編はそれぞれ3つの章に分かれていて、それぞれで主人公が違うのだ。これが面白い。中心には事件があって、登場人物達は色んな立場でそこに関わっているから、読み手は視点の移動によって多角的に事件をとらえる事が出来るし、別の章での謎が章の転換で判明したるする驚きを味わう事が出来る。
警察官でも探偵でもない王子様が好奇心から事件に首を突っ込み、解決に導くというスタイルなんだが、この主人公の王子がまた良いキャラクターをしている。金持ちであることをまったく隠さないし(身分を偽っている事は多々だが、必要があれば開けっぴろげに話すスタイル)、お洒落な身なり(下品ではない)金払いも相当よい。自分の判断に絶対の自信があり、勇気と決断力に優れる。ただ鷹揚であっても横柄なところは全くなく、下々のもの達との交流にもこだわるところが無い。記号化されたキャラクターが多い昨今で本当の王子様キャラを見た気がする。なんかこう喜んで御使えします〜と言いたくなる様な、そんな面倒見の良さがある。
敵役は悪の首魁的な大悪党も勿論出てくるのだが、脇役達がいかにも小市民的でちょっとの気の迷いや弱さで道を踏み外し、魔都ロンドンの暗がりに落ち込んでしまう、というのが面白い。小市民代表としては大いに共感できるところがある。そんな弱者達を時は励まし、時には叱咤しつつもぐっと闇から拾い上げるフロリゼルは本当カッコいいな。グラナダの「ホームズ」やITVの「ポアロ」が大好きな私としては、これ本当そのまま映像化したらすごく面白いものになるんじゃないかなと思う。

という訳でまさに「冒険譚」という感じで面白かった。古いからという理由で読まないのはもったいなさすぎるでしょう。読後感もさわやかでいうことなし。帯には「奇想・活劇・ダンディズム」と書いてある。この中の一つの単語でもおっと思った人は買って損なしでしょう。オススメ。

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