2015年3月21日土曜日

ロバート・ブロック/予期せぬ結末3 ハリウッドの恐怖

アメリカの作家による短編集。
井上雅彦さんによる「予期せぬ結末」という海外の異色の作家の短編をまとめたシリーズの第三弾。ジョン・コリアーとチャールズ・ボーモントが編集されているそうだが、そちらは読んだ事が無い。
この一個前の記事で紹介したダフネ・デュ・モーリアの「鳥」や「レベッカ」を原作とした映画を監督しているがアルフレッド・ヒッチコックだが、彼の一番有名な映画は「サイコ」ではなかろうか。その「サイコ」を書いたのが他ならぬロバート・ブロックである。(ちなみに続けて読んだのは偶然だ。)「サイコ」以外にも沢山のテレビや映画の脚本を書いたそうで「ハリウッドの恐怖」という題は同名の短編から取られている。映像作品に多く関わっていたブロックが、そこを題材にネタにしたのだろうと思う。
さてブロックには実はもう一つ顔があって、それがクトゥルー(クトゥルフ)神話の継承者であることだ。開祖ラブクラフトとの年の差はなんと27歳!だそうだが、熱心に文通して親交は厚く、クトゥルーファンに取っては御馴染みの禁断の書物「妖蛆の秘密」は彼の手によるものだそうな。私もラブクラフトの弟子といったらなんとかくブロックというイメージがある(他の年上の作家達は弟子というよりは同士とか仲間とか言ったイメージ)。そんなブロックは邦訳も色々出ているのだが、ほとんどは絶版状態(「サイコ」も絶版。)で私は色々なクトゥルーアンソロジーでしか彼の作品を読んでいない。(なんせ「アーカム計画」だって読んでないんだ。こんなんでファンと言えるのか…)で、そんな彼の短編が読めるって訳でこの本を買ったのだ。
残念ながらこの短編はクトゥルー作家としてのブロックというよりは、短編小説の名手としての彼に焦点が当てられていて、勿論コズミックホラーは一つも含まれていないのだが、それでもブロック流の怖さがぎゅっと詰まったホラーが目白押しだ。
デュ・モーリアと違ってこちらは恐怖そのものを書く作家だから、奇想そのものが面白く、狂気が香り血が滴る悪趣味の博覧会といっても言いだろう。勿論心理描写が無い訳ではないし、むしろ豊富でそこら辺が抒情的な物語とどの作品にも顔を出す人を食った様なブラックユーモアに良く現れている。
いくつか特に気に入った作品を紹介。

プロットが肝心
ロボトミー手術を受けた女性がなんかおかしい事に気づくという作品。映画に絡めた筋もいいんだけど、なんといってもロボトミー手術を受けた後のすっきり感の意外性、そして意識のブラックアウト(記憶と感覚が吹っ飛ぶ)が面白い。一瞬後には全然違う国にいたりして、ここの部分はさらっと流されているけど実はかなり怖い。

牧神の護符
牧神というとパンであるから、どうしてもマッケンの「パンの大神」が頭に浮かぶが、期待を裏切らず素晴らしいないようだった。この話が一番怪奇且つクトゥルー風味があるだろう。ギリシアの森の奥深く、忘れ去られた遺跡ではかつて人ならぬ神に生け贄が捧げられていたいう、そこで若い考古学者が目にしたのは…という内容でもうゾクゾクくるでしょ。

弔花
編者よるとジェントルストーリーと紹介されている。祖母に引き取られ墓で育ち幽霊と遊んだ少年が大人になる話。大人になるって色々な書き方があるなと実感。読み進めるとこうなるんだろうな〜読みたくないな〜と思うのだが、ページをめくる手が止まらない。人を感動させる話なんだけど、意外に捉え方は人によるのではないだろうか。私にはロマンティックに思えた。生きる事が傷つく事なら最後の痛みは主人公をどこに連れて行くのだろう。

なんせクトゥルーファンなんでもっとドロドロした奇想天外な物語が読みたいよーというのは正直あるのだが、それでも十二分に楽しめた。
面白くかつ、都会的な雰囲気の中におどろおどろしさを感じたい人は是非どうぞ。
各版元の皆様に置かれましては、他のブロック作品の重版を切に御願いする次第でございます。確実に一冊は売れるかと存じます。

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