2018年10月8日月曜日

Nothing/Dance On.The Backtop

アメリカ合衆国ペンシルベニア州はフィラデルフィアのシューゲイザーバンドの3rdアルバム。2018年に引き続きという形でRelapse Recordsからリリースされた。
前作リリース後にベーシストが交代。来日した時に見たのだが、色白の長髪で子供の落書きのような可愛いタトゥーが腕に入っているのが印象的なNickBassestt(この人はDeafheavenやWhirrのメンバーでもあった。あまり一つのところにじっとしていないタチなのかもしれないね。)に変わり、Jesus Pieceのフロントマン(ボーカル)のAaron Heardがその穴を埋めた。Jesus Pieceは同じくフィラデルフィアのバンドで私もデモ音源を聴いているがかなり強面なハードコアだ。ここら辺の人選は元々ハードコアバンドのメンバーとして活動していたDomenic Palermoによるものだろうか。

一聴したところどちらかというと前作「Tired of Tomorrow」を引き継ぐものかと思ったが、何回か聴いてみると音の作り的には1stの「Guilty of Everththing」に近い。というのもわかりやすく分厚い音に埋もれるようなシューゲイザーをやっている。ボーカルにリヴァーブのような空間系のエフェクターをかましているからか?と思ったが、2ndを聴いてみるとそちらでもかけていた。MVも作られた「Eaten By Worms」(私はこの曲がすごい好きだ)は轟音的な意味では確かにシューゲイザーだが、硬質な音の作り方はどちらかというとオルタナティブ/ハードコアを感じさせた。そこらへんの印象もあって「Tired of Tomorrow」は結構ソリッドなイメージ。対するこの新作は改めてサウンドプロダクションを1stの頃に立ち返らせた感じ。
ただし音の軽さ、というか音の抜き方というか、肉抜きの仕方は2nd的であの低音が重たくのしかかる1stとはやはり印象は異なる。シューゲイザーというそもそもからして陰気なジャンルで、暴行罪で前科アリという自らのハードコアな来歴をフルに使ったリアルな陰鬱さ(「俺は銃は持っていないし膝をついているがお前は俺を撃つだろうね」と警察官に対して思いを述べるタイトル曲)を構築してきたバンドがNothingだけど早くも2ndでは「Vertigo Flowers」なんかではそこにとどまらない世界観を出してきた。(前述の「Eaten By Worms」などでしっかり陰鬱さを表現しつつ。)今作でも特に苦しいふりはしないとばかりに陰鬱な曲のみを量産する内容ではない。「Hail on Pakace Pier」なんかは前述の開放感の次の作風だし、壁のような轟音にも拘泥を見せずに8曲目「The Carpenter's Son」などはむしろ音の数を究極に減らし、もったりとしたアルペジオで曲を引っ張っていく。ドラム以外のパートにはリヴァーブがかけられており、全てがスローモーションだ。轟音で眩惑する流行のゲイズ系とは明らかに一線を画す。シューゲイザーでは多用されるやり方なので、音楽的なもう一つ(もう一方は出自でもあるハードコア)のルーツである、そちらに接近しているのだと思う。

個人的にはどうしても「Dig」でやられたクチなのであの重たくのしかかるような、聴いていると音の波に浮かぶじゃなくて、むしろ実体を持ったそれに圧殺されるような、閉塞感を持った轟音がどうしても懐かしく思えてしまうが、それでも「Blue Line Baby」などの高揚感にはやられてしまう。好きなバンドだからしようがない。

0 件のコメント:

コメントを投稿