2018年3月25日日曜日

Jawbreaker/Unfun

アメリカ合衆国はニューヨーク州ニューヨーク・シティのハードコアパンクバンドの1stアルバム。1990年にShredder Recordsからリリースされた。Liveageの使用機材を推測するという記事で取り上げられており記事が面白かったので買ったみた。Bandcampで売っているリマスターされたてボーナストラックが追加されたバージョン。
Jawbreakerというのはアッパーカットのことかと思ったらどうもデカイ飴のことを指す言葉らしい。あごが外れるくらいデカイやつでJawbreaker。かわいいネーミングだ。

中学生の頃にメロコア(ここではメロディック・ハードコアとは異なるジャンルとして)が流行りだした。私は同時に隆盛を極めたニューメタルの方に没頭して青春パンクらへんに対して嫌悪感すらあったが、Hi-Standardの「Making the Road」はクラスメイトの三浦くんから借りてMDに録音してよく聴いていた。バンドやっている連中はこぞって「Stay Gold」のイントロを弾いてたりした。(そんな中Metallicaの「Battery」にチャレンジしている岩楯くんってやつもいた。三浦と岩楯はその後バンドを組んで文化祭でMetallicaの「Fuel」をカバーするのだがそれはまた別のお話。)Jawbreakerはジャンルとしてはポップ・パンクにカテゴライズされ、いわゆるメロコアの走りとされるバンドのようだ。ただいわゆる日本に根づいたメロコア・サウンドを期待するとちょっと裏切られるだろう。音の細さは発表された年を考えると仕方がないにしても、あまり早くないし、ストレートかつシンプルって感じでもない。何ならちょっとひねくれている。何より曲に哀愁の要素がある。思うんだけど後に多様な影響を与えたとしてもJawbreakerは紛れもないパンクバンドだ。ただ1曲めから「I want you」と歌うように、あらゆる権力に中指を立ててきた伝統的なパンクロックとは違い、取り扱うテーマはもっと個人的だ。つまり出発点はあくまでも音楽的な形式としてのパンクだったが、やり方的にはハードコア方面ではなく、エモ方面に舵をとった形。当然ジャンルとしてのエモなんて(確立されて)ない時代なのでそういった意味での先駆者なのだろう。ここでのエモ、エモーショナル、つまり感情の豊かさはジャンルが固まる前のもっと混沌として自由なもの。メロディが重要な役割を担っていることは共通しているが、そのメロディもくどいものではなくやっぱり出自を感じさせるぶっきらぼうなもの。
何よりボーカルの声質が良い。パンクってなにか?って言われた個人的には声が重要なジャンルだ。Sex PistorlsのJonny Rotten、RamonesのJoey Ramone、どれも個性的な声をしていた。後のハードコアのマッチョなボーカルとは違う、反抗心と同居する悪戯心というのがあった。攻撃的だがどこか憎めない、個人的にはある程度の幼さがある声に惹かれる。そういった意味ではJawbreakerのボーカルBlake Schwarzenbachの声質は抜群だ。幼さがありそしていくらかしゃがれた声をしており、その相反する要素がなんとも言えないノスタルジックさを醸し出している。
ノスタルジックとは郷愁のこと、音楽ではよく哀愁ということばで表現される。私は英語がわからないからJawbreakerの郷愁/哀愁はもっと曲の方にあるのだろう。(そして歌詞をよくよく読めばその感情はきっと増幅されるのあろう。)不思議なもので私は本当に起伏のない人生を歩んできたので、無駄に年をとった割にはキラキラ輝く思い出もないのだが、それでもこういった曲を聞くと何かしら胸が締め付けられるような気分になるから不思議だ。記憶喪失の人にJawbreakerを聞かせたら、果たしてどういう感想を持つのだろうか。

押し付けがましくない、でもなめらかなメロディがなんと言っても心地よい。そこには破壊や死ではなくて、葛藤や逡巡、照れ隠し、かっこつけ、毎日のくだらなさと楽しさが詰まっている。言葉を超えた感情が溶け込んでいて、そしてそれこそがまさに世界共通の言語なのだと思わせる。音楽とはバベルが崩壊した以降の人間の再度の神に対する挑戦だ。Jawbreakerを聞きながらそんなことを思ったってよいでしょう。

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