2017年12月3日日曜日

Gnaw/Cutting Pieces

アメリカ合衆国はニューヨーク州ニューヨークシティのドローン・ドゥーム/ノイズバンドの3rdアルバム。
2017年にTranslation Loss Recordsからりリリースされた。
私はすでに解散済みのKhanateというバンドが大好き。メンバーはギタリストにSunn O)))などで活躍中のStephen O'Malleyに、ベースとしてアーティストだけでなくエンジニアとしても活動するJames Plotkin、ドラム担当がPlotkinとO.L.D.というバンドを組んでいたTim Wyskida、そしてボーカルがAlan Dubinである。
Khanate解散後Alanが始めたのがこのGnaw。Khanateはトーチャースラッジとして始まり、初期はそれこそGriefを叩きのめしたようなサウンドにハードコアというよりはメタル的案猟奇的な世界観をぶち込んだバンドで、後期になるに従いドローンやフリー・ジャズのようなアバンギャルドな要素の色を濃く打ち出していった。Sunn O)))はドローンの要素を色濃くKhanateから引き継いでいるが結果的に世界観は結構違う。GnawはよりわかりやすくKhanateの要素を受け継ぐバンドというイメージ。

O'MalleyとPlotkinという重量級の弦楽隊はなくなったものの、その空隙をうまく活かし、代わりにいやらしく這い回るノイズ分を充当している。Khanateも1stからノイズの要素が強かったのでそこも含めて違和感のない移行といえる。バンドアンサンブルに加えて専門のマニュピュレイターもメンバーに数える力の入れよう。
そんな最新作、基本的に前作・全前作からの流れを踏襲するものだが後半に流れるにしたがい、少しずつ音の形を変えてきているように感じる。具体的には音の数が減らされてきているように思う。1stアルバムだととにかく「Vacant」が好きなのだがこの曲はノイズが実態の重量を持って這い回るどころか屍衣のように曲を覆い尽くす、まさに重たさの塊みたいだった。今回はノイズ成分をうまくコントロールし、偏執病的に空隙をノイズで埋めていく、という作業からは幾分開放されている。khanateも活動時期の後半でも重たさ、重苦しさを別の次元に求めていたから同じような動きがこのGnawでも辿られているようだ。khanateは強烈な個性のぶつかり合いがせめぎあうバンドだった。スラッジから始まってもその範疇にとどまらないくらい(つまり文脈的にはハードコアというよりはメタル的な物語を感じさせるように)陰湿だった。猟奇的だった。病んでいた。この手のジャンルでは生命線である、”強くあること”という衣を剥ぎ取り、ソフトかつ捻くれて醜い中身をさらけ出していた。(ただスラッジは自己評価が低く、自己卑下が強い傾向にあると思う。)高い声で絶叫するAlanは、卑屈に笑みを浮かべる一見無害なやつだが、その実シリアル・キラーという物語/個性を打ち出しており、khanateもその魅力の一つとしてをそこに頼むところが大きかったように思う。その世界観をAlanは変わらず持ち続け、このバンドでも打ち出してきている。ベッドの下にばらばらになった死体を隠し持つように、透明人間が誰にも見られず溺死するように、今度のバンドでも誰かをバラバラに刻もうとしている。Alanの声にはなんとも言えない”弱さ”がある。(念のため言っているがAlan Dubinが現実的に弱い男であるというのでは断じてない。)体力で勝てない弱さ、自分の暗い欲望に屈してしまう弱さ、そんな強い世界(音楽という仮面のために作られた偽りの世界でもあることも往々にある。)では唾棄すべき弱さ、病的な性質がここではたちの悪い粘菌類のようにはびこっており、私にようなじめじめといじけた卑屈な人間はそういった場所こそが居場所がいいのだった。
壁にもたれかかり、猟奇的な夢想にふけるように、耽美な腐敗(現実ではありえない)が妙に時間を引き伸ばされているように、ぐーっと視界と思考の奥に伸びていく、そんな風景があえて音の重さを引き抜くことでもたらされている。質の悪い悪夢に囚われたような無力感に抵抗するすべもないような、どこかしら投げやりな客観性が獲得されつつあるように思える。「This can't be the right」「This must be the wrong place」と歌うように、現実に対する絶望的な違和感と、そこに育まれる正しくない感情の萌芽がこのGnawのテーマの一つではなかろうか。

思春期にサイコパス、シリアル・キラーの文献、ネットを読み漁ったような人なら確実にこの世界観にハマるのではなかろうか。拗けて間違っているが、だからこそ居心地が良いのだ。やはりAlan Dubinはかっこいい。おすすめ。

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