2017年12月16日土曜日

Blut aus Nord/Deus Salutis Meae

フランスはノルマンディ地方モンドヴィルのブラックメタルバンドの12枚めのアルバム。
2017年にDebemur Morti Productionsからリリースされた。
1994年から活動しており2011年からコンセプチュアルな3枚のアルバムをリリースして話題になっていたバンド。当時はなんとなく横目で見ていただけだけど今回はじめて買ってみた。
タイトルはラテン語で翻訳すると「私の神」となるようだ。覆面被った三人組なのだが、日本のwikiにかなり情報があって、そちらによると意外にも悪魔崇拝が売りの典型的なブラックメタル・バンドとは違うんだよ、ということらしい。おどろおどろしいイメージや音を使っているが、どうも独自の世界観を作ろうというバンドらしい。

実際に聞いてみるとなるほどかなり尖った音の作りになっている。音質悪くも生々しいプリミティブ・ブラックメタルとも違うし、デスメタルと融合しつつある力強くモダンで攻撃的なブラックメタルとも異なる。陰湿な世界観をややノイズに接近した音の作りで、決して速くないもったりとした速度で瘴気が滞留するように垂れ流す不穏な音世界。低音からずるっと滑るように滑らかに耳障りな高音に移行するギターリフ。ぐしゃっと潰れた低音や朗々とした詠唱めいた呪術的なボーカルが特徴的で、なんとなくDeathspell Omegaっぽいな、というのがファースト・インプレッション。もちろんこちらのバンドのほうが活動歴は長いのだが。ブラックメタルの武器であるブリザードのように寒々しいトレモロの中にうっすら見える美メロ、というのはもう気前よく捨てて別の次元で勝負しようというアルバム。(どうもアルバムごとにだいぶ作風を変えてくるバンドらしい。)
このアルバムを聴いて思ったのはかなりテクノ的ではないか?ということ。中心となるリフがあってそれをもったーり執拗に反復していく。かなりミニマル。ボーカルが変幻自在に唸ったりするもので一見してわかりにくいのだが、ふと我に返ると同じところをぐるぐると迷っていことに気がつく。途中でツーバスを踏んできたり、なんとも名状しがたいリフがうねうねとその様相を変えていくさま(曲によってはオーストラリアのデスメタルバンドPortalにも通じるところがある、あそこまであからさまにテクニカルではないのだが。)など、微妙にその姿を変えていくのも面白い。かなり強靭なリズム(金属質でインダストリアル、といっても良いくらい。)が一本曲を貫いているのだが、メロディというわかりやすい取っ掛かりが一切排除されているため、全体的に茫洋とした音になっており、聴いている人がどこにいるのかがわかりにくい。昔のゲームだと画面がスクロールしても同じような景色が続く「迷いの森」的なステージがあったのだが(流石に今はないんだろうな〜)、ああい言う感じで執拗かつ陰湿に曲が練られており、聞き手は自分の居場所がわからなくなってしまうのだ。こういうふうに曲を作るバンドというのは実はあまりいないのではなかろうか。非常に面白い。「私たちには別の美意識がある。」と言い放つのもなかなかすごいが、有言実行なのはさらにすごい。
かなりわかりにくいアルバムなのだが10曲を34分弱にまとめており、気がつくと終わっている。この突き放したような感じが良い。悪夢のサントラみたいな感じ。

なかなか万人におすすめできるアルバムではないが、激しい音楽に攻撃性だけを求めるのではなく、もっと暗い世界観が好きなんだと言う人なら聴いてみると良いのではと。あとは実験的な音楽が好きな人はブラックメタルのフォーマットでやっているこのアルバムを聞いてどんな感想を持つか知りたいところ。

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