2017年9月10日日曜日

Dead Cross/Dead Cross

アメリカ合衆国はカリフォルニア州南カリフォルニアのハードコアバンドの1stアルバム。
2017年にIpecac Recordingsからリリースされた。
Dead Crossは2015年にSlayerの元ドラマーDave LombardoがカリフォルニアのハードコアバンドRetoxのメンバーといろいろな偶然が重なって始めたバンド。オリジナルメンバーだったボーカリストが脱退したため、2016年に様々なグループで活動するMike Pattonが加入した。新体制になって録音されたのがこの音源。プロデューサーはRoss Robinson。いわゆるスーパーグループなのだろうが、結果的にという感じで面白い。もともとDaveがやっていたバンドが急に解散してしまったがライブのブッキングは残っており、Rossとレコーディングを約束していたスタジオに居合わせたメンバーと結成。ボーカル脱退のため、Mikeに声をかけたと。DaveはFantomasでもドラムを叩いているからおそらくその流れでMikeを誘ったのだろう。

さてMike Pattonである。Faith No Moreのボーカリストとして有名なのだろうが、私はマスコアバンドThe Dillinger Escape Planとコラボした作品から知って、そこからMr Bungle、Fantomas、Tomahawk、Peeping Tom、Naked City(これはJohn ZornのバンドにMike Pattonが参加した感じかな?)なんかを聞いた。アヴァンギャルド・メタルというとこの人のイメージでとにかく型にはまらないボーカルワークが特徴。Bjorkの作品に声で参加したり、ラップをやったり、テクノとコラボしたりと声を武器に八面六臂の活躍をしている人だ。今度はハードコアと聞いておお?どんな?となるのが人情ってものだ。
RetoxにMike Pattonだからまあゴリゴリのハードコアにはならないだろうという事はわかる。このジャケットのアートワークは結構秀逸だと思うのだが、骸骨がバタバタ騒いでいるその軌道を描いているもので、中身の方もそうやってなんだかバタバタ騒いでいる。
イメージ的にはやはりMike PattonのプロジェクトでDaveも参加しているMelvinsのBuzらとのFantomasのごった煮グラインドコアに似ている。ただブラストビートという縛りもない中でよりPatton先生の多彩な声の魅力にあふれているのがDead Crossかな。さらに音も意図的に重さを幾分抜いてメタルの重々しさから見事に脱却している。The Dillinger Escape Planとのコラボはもっとマスマスしていたが、こちらはもっと妖しさにパラメータを振った感じ。
やはりMike Pattonの個性が凄まじく、がなりたてる早口、妙な擬音(ちゃんと歌詞があるのかも)、酔っ払ったような咆哮、金切り声、ハリとツヤのある美しくも怪しい歌声でのメロディアスな歌を歌い、オペラのように声量のあるボーカル、怪しいウィスパー、次々に飛び出してくる。それこそまるでおもちゃ箱をひっくり返したように、まるで息継ぎなしのように、違和感なく、そしてきちんと曲と調和して声だけでプログレッシブなパットン劇場を繰り広げていく。
Daveはじめとする演奏陣もそんな人間離れした個性に引けを取らずに負けじと短いスパンのなかでコロコロ変わる楽曲を提供。止まったりかと思ったら突進したり、低音かとおもったら高音に移動したり、うるさいと思ったら急に黙ったりと目まぐるしく動い気回る楽曲は次の展開が読めない。Daveのドラムは流石に手数が多くて、速度が乗っていないときでもむしろ回転しつつおかずを入れまくるように軽快かつグルーヴィ、そしてベースとギターに関しても相当変なことをやっていて1曲の中でもリフのバリエーションが非常に多彩。かなりノイジーなリフもあったりで、ボーカルが特異な分シンプルに抑えるのかと思いきや、かなりややこしいことをやっている。たまにでてくるメロディはPattonに任せているところもあって、多分ボーカル無しで聞いたらかなり演奏もすごいことになっているのではなかろうか。ふと思ったのだがひょっとしたらコロコロ展開を変えるブレイクコアもどきみたいに聞こえるかもしれない。昔のVenetian Snaresみたいな。
相当ややこしいことをやっているし、オペラっぽい雰囲気はその独特な歌唱法で演出しつつ、かったるいプログレッシブさは排除しているところがハードコアだろうか。相当異形のハードコアで、タフなそれとは全然趣が異なるが。よくPattonの関わる音楽は”変態”という言葉で語られることが多く、そういった意味ではこのDead Crossも変態的なのだが、この場合の変態的、もしくはイカれているという表現は病的とも言えるほどの表情の豊かさであろう。超高速で喜怒哀楽をコロコロ変えている人がいたらヤバイやつだが、まさにそういった感じ。それをきちんと表現できるスキルが有るのは本当すごい。

一つ不満があるとしたら音質かな。ちょっとこもっていて分離が悪い。私はあまり良い環境で音楽を聞いていないし、さらにBandcampでかったMP3形式なのでそこらへんの事情もあるかもしれない(ただこの形式でも分離が良いのはあるのでやっぱりちょっとこもっているとは思う。)が、かなりごたごたしているテクニカルなバンドなので、もっとクリアでも良かったような気もする。

さすがのクオリティは保証されているので、Mike Pattonの各種プロジェクト好きな人、FantomasとかThe Locust、Retoxとかちょっと変態的なエクストリームい音楽が好きな人は是非どうぞ。

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