2015年11月8日日曜日

Cult Leader/Lightless Wlak

アメリカはユタ州ソルトレイクシティのハードコアバンドの1stアルバム。
2015年にDeathwish Inc.からリリースされた。
個人的に今年最も楽しみにしていた2つのアルバムの1つ。(もう一つは本邦のBirushanahの新作でこちらも期待を上回る素晴らしさだった。)
故あって解散したメタルコア/スラッジコアバンドGazaのギター、ドラム、ベースのメンバーが2013年に結成したのがこのバンド。ベーシストがボーカルにシフトし、新しいベースプレイヤーを引き入れて4人組体制。ConvergeのJacobらが運営するDeathwishと契約し2014年に「Nothing for Us Here」、2015年に「Useless Animal」という2枚のEPをリリース。今回満を持してのフルアルバムを完成させた。自らの音楽性をしてProgressive Crustと称する苛烈な音楽性はGazaに比べるとより装飾性を排除し、ノイズとストレートさを増した荒々しいもの。

このアルバムがどんなアルバムかは本当に1曲目を再生した瞬間に分かる。1分23秒の曲にこのバンドのすべてが詰まっていると言っても過言ではない。ドラムの一撃、次いで鈍器の様にパーカッシブな弦楽隊による重たいリフが余韻を残す、ノイズを挟んでボーカルとともに疾走するパートが始まる。暗いリフが崩れた波頭のように襲ってくるが、混沌としていて何がなんだか分からない。かと思うとまたスラッジパートに突入している。あっけにとられていると曲はもう終わっている。私がこのバンドに求めていたものがほぼここに結実している訳で、この1曲目から前に進めなくなってしまうほどだ。
Cult Leaderはデビュー作から常軌を逸していた。しかしGazaの最終作が間違いなく自分史上特別なアルバムになるだろうと確信している私には、このメンバーの大半を引き継ぐ形で始まった新バンドはどうしてもGazaと比較してしまう。ほぼ文句の付け様の無い音楽性だが、強いて挙げるならボーカルの面ではどうしてもGazaに軍配が上がるかもしれない…と思っていた。それは優劣というよりは両者の個性と私の好みの問題かもしれないと感じていたが、その問題はこのフルアルバムで完全に払拭された。このボーカルの迫力はどうした事だろう。声質的にはそこまで低いものではないだろうが、感情を物理的な塊にして苦痛とともに吐き出す様な情念がこもったボーカリゼーションというのは中々無いのではなかろうか。獣めいた咆哮が売りだったGazaに比べてCult Leaderは半人半獣と言った趣で、その暴力性の中に人間特有の迷いや惑いといった憂いが詰まっているように思う。人間性を獲得するとそこには悩みが付きまとっていた、そんなアイロニーめいた後ろ暗さがある。
「Lightless Walk」暗闇の中を歩く。先が真っ黒いトンネルが描かれたアートワークが印象的なこのアルバムはまさにそんな自分の足すら見えない様な暗闇のなかに、自分の足で切り込んでいくアルバムであると言える。沢山のバンドが真の闇について歌い表現して来た。このバンドはそれそのものではなく、その闇への旅路を描いているという意味で大変興味深い。そこら辺にこのバンドの目指すところが何となく見える気がする。
Gazaでもそうだったが、このバンドも音楽性は荒廃しきっているが、不思議な郷愁がある。それは破壊的な郷愁を描いているのではなくて、徹底的に破壊された廃墟(の様な音楽)に私が郷愁を感じているだろうなとおもっていたし、このアルバムでもたしかにそうだ。しかし一方で3曲目「Sympathetic」(同情的な、思いやりのあるという意味)でのグルーミィで饒舌なフレーズや6曲目「A Good Life」やラスト「Lightless Walk」での放心した様な空虚さは徹底的な破壊と荒廃の”その後”を感情豊かに書き出し始めているのが新境地ではなかろうか。
音楽を聴いて感動するのが楽しみだ。何にも代え難い。このアルバムは私をほぼ物理的な衝撃を伴って打ちのめすようだ。素晴らしいアルバムだ。これがあるから音楽を聴くのをやめられないのだ。私が音楽と、それだけでない表現に求めているものの確実に大半がこの小さいCDに詰まっている。感謝である。少なくとも私は大好きなアルバムです。気になった方は是非聴いていただきたいと、そう思います。


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