2015年2月22日日曜日

レイ・ブラッドベリ/太陽の黄金の林檎

アメリカのSF作家による短編集。
ハヤカワ文庫からで私が買ったのは新装版。
さてレイ・ブラッドベリ!言わずと知れたアメリカSF/幻想文学界の巨匠。一番有名なのはやはり「華氏451度」でしょうか。私は「火星年代記」を読んでからのファンで膨大な著作もほとんど手つかずですが、折りをみて買っては読んでおります。
この短編集には全部で22の比較的短い短編が収められており、SFのテイストに色付けされながらも、どちらかという幻想作家としてのブラッドベリの手腕が存分に発揮されたなんとも”郷愁”や”怪奇味”を感じさせる不思議な作品が多めの印象。
なかでもいくつか特に楽しかった短編を紹介。

四月の魔女
恋に恋する魔女が精神を他の女子に飛ばして無理矢理恋させるおはなし。思春期の女子のわがままさを魔女という超常の存在に結実させた感じで、おいおいと思いつつもなにか微笑ましい。

人殺し
テクノロジーの発展により何時何時でも他人と連絡を取り合うのが普通となった社会。ある男がよそからの連絡を絶とうとし、身の回りの機械を破壊すると刑務所に入れられて…というディストピアを描いた短編。常日頃から電話が好きではない私は(他人に良いようにされるのが好きじゃない。)大いに共感したものだが、このディストピアって現代じゃん!

ぬいとり
三人の女がポーチに坐って一心不乱にぬいとりをしている。もうじき何かが起こるらしい。何かってなんだ…。当たり前だが世界が滅亡したとして、全世界の人間がそれに直面するはずで、その中から田舎の女性三人に焦点を当てた作者は流石だ。こうやって最後を迎える人も絶対いるだろう。世界が終わっていく様がなんとも恐ろしく、嘘のように(または虚構故に)美しい。

発電所
砂漠に棲む女性が母親の危篤を知り、夫ともに遠く離れた故郷を目指す。不安に教われた女性は無人の発電所で一夜を過ごす事になるが…
22個の短編の中でも異彩を放っている短編だと思う。正直この物語の意図するところが完全に理解できないし、勿論読んだ人によって感想は異なるのだが、なんだかすごいという事が分かる。女性が発電所の電気を通して世界と”接続”。そして自分が何者かを知って恐れが無くなる、という話。いわば電気の力を借りた強制的な悟りの境地なのか…彼女が何万もの彼女になって電気となってスイッチを押した家々に顕現する様は圧倒的過ぎて声も出ない。
今まで聖書に栞をはさんだことがないのは、この砂漠での生活に、恐ろしいものが何一つなかったからだろう。(中略)生活の危機はいつも脇を通り抜けていった。死は、いってみれば、遠くで吹き荒れる嵐の噂だった。
この一文のなんと素晴らしい事か。私がもやっと感じていた事をすっと簡潔な言葉で表現してくれる。

ごみ屋
トラックに乗って町のごみを集める男。辛い仕事ながらも自分の仕事に誇りを持っていたが、ある日来るべき危機に備えて有事の際には死体を回収するように市長から通達があり、男は…
これもそうなのだが、うまく言葉にできない人間の「尊厳」「品性」をみごとに物語に閉じ込めた寓話。説明できないからないと思っている効率主義者達はこれを読んだら良い。

なんだか最近面白くもややこしい小説ばかり読んでいた所為か、本当にあっという間に読んでしまった。ブレッドベリは優しい。その視点は冷静で辛辣だが、彼の紡ぎだす世界は残酷でありながらも美しい。それは夕焼けや夜の美しさかも知れません。アイディアと文体で真っ向勝負する素晴らしさ。心に来る物語が読みたい人は是非どうぞ。

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