2014年10月11日土曜日

夢枕獏 編著/鬼譚

作家の夢枕獏さんが自身がお気に入りの鬼にまつわる物語や書き物を集めて本にしたアンソロジー。元は1991年に天山出版から出版されたもので、1993年に立風書房から再販、このたび2014年に筑摩書房からさらに再販されたようだ。
夢枕獏さんといったら私は一時期野村萬斎さん主演で映画化もされた陰陽師シリーズを何冊か読んだことあるくらいなのだが、鬼のアンソロジーといったらかわないわけにはいかない。鬼といったら歴史的に見ても我々の社会とかなり長い付き合いで、現代でもフィクションでは引っ張りだこの存在である。中国の鬼や欧米のオーガなど世界的に見ても鬼的な存在は多いが、本書に出てくるのはどれも日本の鬼達である。
収録作品は下記の通り。
  • 桜の森の満開の下 坂口安吾
  • 赤いろうそくと人魚 小川未明
  • 安達ヶ原 手塚治虫
  • 夜叉御前 山岸涼子
  • 吉備津の釜 上田秋成
  • 僧の死にて後、舌残りて山に在りて法花を誦する語、第三十一 今昔物語集
  • 鬼、油瓶の形と現じて人を殺す語、第十九 今昔物語集
  • 近江国安義橋なる鬼、人を噉ふ語、第十三 今昔物語集
  • 日蔵上人吉野山にて鬼にあふ事 宇治拾遺物語
  • 鬼の誕生 馬場あき子
  • 魔境・京都 小松和彦・内藤正敏
  • 檜垣 --闇法師-- 夢枕獏
  • 死にかた 筒井康隆
  • 夕顔 倉橋由美子
  • 鬼の歌よみ 田辺聖子
(日本SF作家クラブ様のページからコピーさせていただきました。)
ご覧の通り手塚治虫さんと山岸凉子さんの漫画が入っていたりと中々自由なアンソロジーである。
坂口安吾、上田秋成の雨月物語は学生の頃読んだが今読んでもすごい。特に「桜の森の満開の下」は解説ででも述べられているがラストが凄まじい。この短編を読んで坂口安吾作品を色々読みあさったものだ。小説内の桜の森の描写は恐ろしいが不思議な魅力があって、この作品を読んだ人ならやはりその真ん中に一人きりで坐ってみたいという考えを抱くはずだ。誰もいない山中で、きっと桜の花が落ちる音も聞こえるくらいの静寂の中で。たまらない。
他に気に入ったものをいくつか紹介。

日蔵上人吉野山にて鬼にあふ事 宇治拾遺物語十一巻より
徳の高いお坊さんが吉野山の中で鬼に会う。曰く元は人間だったが恨みがあって鬼になり、恨みを晴らすように怨敵の一族郎党を皆殺しにしたもののちっとも思い晴れなく山中をさまよっているという。
人を恨む事と復讐の空しさを説いているのかもしれないが、恨みが消えず行く場もないと泣く鬼は悲しいと同時におぞましい。話しているうちに鬼火が燃えるくらい恨みが強いのだ。恐ろしいものだ。

安達が原
安達が原といったら鬼婆だが、漫画の神様がみごとに舞台をSFにリメイクした作品。手塚治虫は実はそこまで熱心に読んだ訳ではないのだが、漫画表現云々をぬきにして単純に物語を作る才能がずば抜けている。やっぱりすごいな〜と素直に感動。恋人達のすれ違いを相対性理論を使って描く手腕と、2人の邂逅に際しての心の動きを漫画の動きで表現する様が面白いんじゃないかと思うのだが…どうでしょうか。

魔都・京都
政治的な視点でもって京都という町の成り立ちにせまる対談形式の読み物。政治といっても対談形式という事で話し言葉で描かれているし、堅苦しい事なくスラスラ読める。
夢枕獏さんも解説で描いているが男ならわくわくする様なネタが満載で面白い。個人的には寺社の山門の上の部分はあがる方法がなく洞の空間に鳴っているところとか読んでゾクゾクした。

一口に鬼と言っても色々な鬼がいるものだ。人が成る鬼も入れば、生まれつきの鬼もいて面白いのは一人一人の鬼に背景というかストーリーがある。(筒井康隆さんの物語に出てくる鬼は理不尽な力の象徴みたいな存在なんだけど 最後にちょっと愛嬌があって良い。)ただ恐いというよりはその鬼なりの物語が人を魅了させる。
鬼好きな人にはたまらないアンソロジー。

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