2013年10月20日日曜日

Ulver/Messe I.X–VI.X

北欧はノルウェイの実験的バンドの10thアルバム(前作をカウントしなければ9thかもしれない)。
2013年にJester Recordsからリリース。
昨年60年代のサイケデリックロックバンドの楽曲(たしか1曲もオリジナルを知らなかったと思う。)をカバーしたアルバム「Childhood's End」(いうまでもなくアーサー・C・クラークSFの名作が元ネタかと。)をリリースして、オリジナルのアルバムはさらに一年前に出した「War of Rose」だから結構多作なバンドですね。
彼らがアルバムごとに大きく音楽性をかえてくるのは知られていることだけど、今回はなかなか厄介です。

さてTrickster G、またはGarmが率いるこのバンドを捕まえて今更ブラックメタルを期待する輩もいないだろう。というのも初期の3部作は閉塞した激しさと独特のメロディアスさが融合した寒々しいブラックメタルをやっていたが、その後エレクトロニクスを大胆に導入して実験的な方向性に舵を切ったのがこのバンドの特徴。いまや(少なくとも表層上は)ブラックメタルから大きく隔たり、出自を知らない人が近作を聴いたらブラックメタルの香りは底に見いだせないのではないだろうかというくらいの変わりっぷり。
ただすでにアルバムの数が10に届くというのだから、その変遷が多くの人には受け入れられていると解釈しても良いと思う。むしろそのあまりの変わりっぷりが既に彼らの魅力なのかもしれない。

さて今作は前作までの実験性をさらに増した。ロック性はさらに減退し、ボーカルの出番すらぐっと減った。はっきりロックじゃなくなったといっていい。
TROMSØ CHAMBER ORCHESTRAというオーケストラ集団とがっちりコラボをし、重厚なオーケストレーションを大胆に導入している。
ここで面白いのは所謂シンフォニックな音楽性は全くないことである。オーケストラというと重厚な音楽性、幅広い楽器群、良くも悪くもロックバンドにとっては抱えるには大きすぎる影響を与えることは免れないのだが、今作ではそんな大仰なことにはなっていない。まず楽曲の質に大きな特徴があって、実験的前衛的な分カテゴライズすることが難しいが、あえていうならばダークアンビエント性が強く、派手な音色は少ない。ひたすら沈み込むような雰囲気の中ひたすら静を目指すような(音楽を説明する際矛盾をはらむ形容詞であることを自覚しつつ敢えて)静謐な音楽性である。
エレクトロニクス由来のじりじりした電子音がベースになり、そこにゆったりした重厚な弦楽器を初めとするオーケストレーションがずっしりとしかし曲の静謐な雰囲気を壊さないように侵入してくる。
詳しくないので間違っているかもしれないが、いわゆるチェンバーロックという音楽性の影響が多きのかもしれない。チェンバーとは小部屋のことだから、なんとなくフルオーケストラの持つ壮大さとは一線を画す音楽性が想像される。
全6曲だが、1曲はそんなに長くない。潜行するようなノイズに合わせて予感をはらんだようなオーケストラが首をもたげる、そんな音楽性だから派手さはほとんどない。環境音楽とはいわないが、やはりダークアンビエントの質を持っていて、そこに分かりやすさを求めることは難しいと思う。
オーケストラとは不思議な物で、音は変わらないのに弾き方によって表情が豊かだ。6つの楽曲で時に恐ろしく、時に優しく訴えかけてくる。
初め聴いたときは正直むむむと思ったが、繰り返し聞いていると、色々な音になれてくるのかおよよと良さに気付くようだ。

ひとつ気になった事がある。ジャケットには十字架があしらわれている。よく見る逆十字ではない。下の部分が長い普遍的な十字架である。また、裏ジャケットには歌詞が書かれているのだが、なんだか天上の父に許しを請うような内容である。ブラックメタルといえばアンチキリスト的な考えが重要な意味を持つことが多い。しかし思い返してみても初期3部作はアンチキリストというよりはノルウェイの土着の物語にフォーカスを当てていたようだし、音楽性はともかくとしてはっきり反キリスト教を歌った物ではなかったのかもしれない。ひょっとしたらGarmさんになにかしらの考えの変化や啓示があったのかな?とも思ったが、それはよけいな詮索かも。形は変わっても意外に芯はぶれていないのかもしれない。まあ今回のデザインや楽曲を聴いてちょっと気になっただけです。

というわけで今回も大きく変化してきたノルウェイの狼ですが、私は気に入りました。
ギャップはありますが、今までのUlverを好んで聴いてきた人たちにはぶすりと刺さるんじゃないでしょうか。
実験的音楽マニアにもお勧め。

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