2019年1月20日日曜日

フォークナー/八月の光

アメリカの南部は泥濘のようにどろりとしている、知識としては知っている。時には知ったかぶって「南部はやべえよ」とか言ったりする。一度も行ったことがないのに。

小学生の頃、同級生にアメリカ人と日本人のハーフの男の子がいた。お母さんがアフリカ系のアメリカ人。彼は陽気でそして運動がものすごくうまかった。ある時放課後野球をすることになり、運動が苦手な私も何故か参加したのだった。その男の子はホームランを打った。相手チームには軽薄な(子供だし別に嫌な奴ではない)男の子がいて悔しかったのだろう、こういった。「黒人は大リーグに帰れ」。ハーフの子は泣いた。彼は明るい男だったから泣くだなんて私も含めて誰も思わなかったろう。

「八月の光」、嫌なタイトルである。私は夏が嫌いなのだ。この本が取り扱っている問題の一つに差別がある。(いろいろな要素から私が取り出したのはこの要素だ。つまり一番衝撃的だった。)
差別とは言い訳、大義名分であり、思考停止である。
主人公の一人クリスマスは白人と黒人の混血児だと噂される。見た目は完全に白人なのだが。でも彼が混血児だとすると、それはまあ密造酒も売るのも、白人女をレイプして殺すのも、そんなに愚かなのも説明がつくのだ。なぜなら彼は黒人だから。黒人の血が流れており、それは汚らしく、人を悪事に駆り立て、そして遺伝性だから。黒人なら殺しても仕方がない。彼らは悪いので。どうしようもなく悪いのだ。全員生まれつき犯罪者なのだ。彼らは無知で愚かなのだ。だから殺しても良い。
黒人である、ということがいいわけになり、大義名分になり、思考停止の白人たちは彼ら、つまり黒人に加えて彼らが黒人と判断した者たちを迫害していく。そしてその白人流の正しさは神が保証している。黒人といえば悪人であり、聖書といえば正しいのである。God Bless America。ここは白人の天国。
クリスマスは白人でもなかったし、黒人でもなかった。だからアメリカの土地はどこにいってもヨソで、彼は本当にもう行くところがなかった。God Bless America。ここは白人の天国。

アメリカでは差別が日常茶飯事だ。日本人はたまに言うことがある。「アメリカの白人はとんでもない差別主義者だ」と。言外に日本人は差別しない、という認識がありそうだ。
たしかにネイティブ・アメリカンを虐殺し、奴隷として使役するために海の向こうから黒人を拉致、こき使った挙げ句にその弱みがあるので彼らを弾圧(して殺害)するとはずいぶんな奴らだなと呆れ半分に思うことはある。しかし本当に彼らだけが差別だけなのだろうか。日本は島国だから割と外国人の流入が少ないのでは。アメリカは(原住民はほぼ皆殺しにされた)移民の国なので人種のるつぼだ。つまり人種のメッカであり、異なる人種が同じ土地に住んでいる。私は思うのがアメリカが一番異種交配と差別に関しては先進的だ。だって歴史が長いから。そのアメリカでさえ未だに差別がなくならないのだ。もし日本にたくさんの移民が暮せば、現状のアメリカよりひどい差別が横行するような気がする。日本人は差別を知らない。と思っているが、差別は知るものではなくてそこにあるものだ。この本を読んでアメリカの白人は無知で差別的だ、宗教は害悪だと思う人がいたら、残念ながら私は彼とは友だちになれない。
この本には嫌な奴しか出てこないが、それらは全部私達なのです。

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