2018年1月2日火曜日

Spectral Voice/Eroded Corridor of Unbeing

アメリカ合衆国コロラド州デンバーのデスメタルバンドの1stアルバム。
2017年にDark Descent Reocrdsカラリリースされた。
2012年に結成されたバンドで、メンバーのうち二人はダーティなデスパンクneklrofilthの元メンバーとのこと。結成以来デモ含めてそれなりの音源をリリースしているが聞くのはこの音源が初めて。

全部で5曲のアルバムだが、収録時間は44分。大体わかると思うがかなりドゥームの要素色濃い遅いデスメタルをプレイしている。バンド名は「奇妙な声」と訳せば良いだろうか、アルバムタイトルは「非存在の腐食した廊下」となるのかな…。
デスメタル界隈からするとやや婉曲的な表現を用いていることもあり、直球型の残虐デスとは一線を画すオカルティックな内容。そのサブカル的な文脈を音で表現しきっているのがこのバンドの持ち味で、オカルト風味をPortal風の不協和音めいたテクニカルリフとは別のアプローチで表現している。不安を掻き立てるのはブラックメタルならDeathspell Omegaのように、メタルの持ち味である低音リフに中音から高音の音をブレンドすることで違和感を演出するのがメタル流の確立された方法論だとすると、このバンドの場合は2本のギターで役割分担を明確に分けるオルタナティブな方法論を提示している。片方はひたすら低音に特化したリフのみを担当。ドゥーミィな遅さもあって名状しがたい存在、例えばラブクラフトの代表作「ダンウィッチの怪」におけるウィルバー・ウェイトリイのような不吉な巨体が、人間にはない触腕めいた器官をうごめかしているような音を演出。一方もう片方のギターはその低音にかぶせるように単音の中音〜高音を爪弾く。この両者の相乗効果が良い。徹頭徹尾容赦のない世界観(ちなみにボーカルは低音のみしか吐かない。)にその世界観を維持したまま圧倒的な負の叙情性を持ち込むことに成功している。いわばデスメタルの武骨な残虐さに奥行きを与えるような、アトモスフェリックと表しても良いようなアプローチを全く賢しげ(洒脱なポスト感は皆無)になることなく実現している。鈍足さもあって真っ先に頭に浮かんだのは同じくドゥーム・デスでフューネラルに片足を突っ込んだEvoken。ただSpectral Voiceはあくまでもデスメタルの原型を損なわずに保ち続けているのが素晴らしい。
何と言ってもボーカルレスの「Lurking Gloom」にこのバンドの魅力が詰まっている。無骨で無愛想かつ、ミニマルな前半を通して、単音ギターがのる後半の視界の広がりといったら、ビリビリ来るような感動である。

年間ベストが選定されるこの時期、随所で話題になっているこのバンドをまだ聞いていない人は是非どうぞ。デスメタルという殺伐としたジャンルで、このようにアプローチすると言うのは面白いし、単純に技巧や企図以上に出ている音が良く、芳醇にただれているという意味では間違いなくデスメタル的なデスメタル。
デスメタル愛好家はもちろん、デスメタルの無骨さが苦手だという人は豊かな表現がその苦手意識を良い感じに埋めてくれるのではと思う。おすすめ。

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