2015年12月19日土曜日

中村融・山岸真編/20世紀SF⑤1980年代 冬のマーケット

中村、山岸によるディケード毎に時代の潮流を意識して時代時代に影響を与えた、また象徴するSFを集めたアンソロジーの第5弾。とびとびなのは前の3弾の時にも書いたけどAmazonに在庫が無かったため。
80年代は一言で表現すると新しいSF(第3弾もニュー・ウェーブだったね、そういえば。SFが先進的なジャンルなのは未来を扱っている事に加えて定期的に現状を大きく打開する新機軸が生まれてくるからってのもひょっとしたらあるかもしれない。)である「サイバーパンク」ムーブメントが始まった事だそうな。この本はギブスンとスターリングの両名を押さえつつ、それでも単に80年代はサイバーパンクだけでしたーというのではなく、その範疇に入るものとはいらないものを選定し収録する事で、80年代という時代をなるべく公正な視点でもってまとめようと言う意図が見える。
解説で語られている通りサイエンスファンタジーの蔓延への反発としてロクデナシ達を主人公据えた、技術が世界だけでなく人間そのものをも変容させた新しい小説群が台頭して来た。個人的にはSFといっても技術そのものというよりはそれによって影響を受けた人の姿と感情に焦点を当てた物語が好きなので(というか極端な話感情を書くための舞台装置としてSFガジェットがあるのだろうと思っているふしもある)、いわばかたりの視点レベルが一般人に落とし込まれたこれらの小説群には親近感がまして、俺たちの物語的な感覚が強くなり、より感情移入できる気がするな。(全くの別世界を描いた様な作品も勿論好きです。)
そんな私の胸を打ったのがグレッグ・ベアの「姉妹たち」。デザインされた子供と、自然に生まれた子供が一緒に通う学校を舞台に描かれたこの話。私も劣等感にまみれた”イケてない”学生時代を過ごしたもんだから性別は違えど主人公の気持ちが想像できて読んでいるのが辛いほどだった。これは克服とそして友情の話だ。そしてまた差別に対して人間が対抗できる方法の一つ(ひょっとしたらこれが唯一無二の方法だと私は思う。)を描いている。私は学校に大して色々な感情を持っていたが牢獄だと思わなかったが、なんとなくこの本を読んでそんな要素もあるかもなと思った。(やっぱり最終的には牢獄とは思わないが)それは強制的であることがその理由の一つだろうが、それが良い時がある。そういった意味では主人公をこの年代の子供たちに据えた作者は流石のセンスだと思う。
先進的な科学技術で大きくその姿を変えた(この物語の場合は変えられた)国で、普通の生活を営む人を書いたのがラストを飾るジェフ・ライマンの「征たれざる国」。これは変わるものと変わらないものを書いている。この物語は普遍的な物語を書いている。いつでも起こっていてこれからも起こるだろう問題を扱っている。技術が陰影ととくにグロテスクさを増していることは確かにそうだが、燃え盛る太陽と流れる血はいつの時代も変わらないものである。だから科学技術が古き良きものを破壊する、という見方はちょっと違うだろうと思う。生き方を書いているので、文明サイドに属する私はこれを見て衝撃を受ける。どんな結論を下せば良いのか未だに分からないが、その衝撃がなにより私はすきなのだ。それに伴う混乱も。言葉にできないものは無い訳ではないし、あるものを言葉で正確に表す事は出来ないのかもしれない。

また私の様な素人には巻末の解説がとても面白かった。やはり残りの巻も読みたい。案外本屋に残っていたりするから注意深く見るようにします。
まだAmazonには在庫があるので手っ取り早く面白いSFを読みたい人は是非手に取っていただければと。とても良質なアンソロジーだと思いますよ。

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