2015年1月17日土曜日

チャイナ・ミエヴィル/ペルディード・ストリート・ステーション

イギリスの作家によるSF/ファンタジー小説。
2000年に発表された。
がっしりとした体躯にピアス、さらにスキンヘッド。不敵な顔で写る写真は作家というよりはパンクロッカーの様なミエヴィルの出世作。この本で彼はアーサー・C・クラーク賞と英国幻想文学賞というSFと幻想文学の賞を同時に獲得し、その名を巷間に知らしめた。
私は短編集「ジェイクをさがして」を弐瓶勉さん風の表紙に惹かれてジャケ買い、それから「都市と都市」、「クラーケン」と楽しく読み、いよいよこの本を手に取った訳だ。

異世界バス=ラグの都市国家ニュー・クロブゾン。蒸気機関が発達した猥雑な町はフリークスと危険に満ちあふれている。そんな町で大学を追われた異端の人間の科学者アイザックは自身の「統一場理論」を追求する毎日を恋人の虫人リンとマイペースに暮らしていた。ある日珍しい鳥人ガルーダ種族のヤガレクがアイザックを訪れ、金塊を差し出しとある依頼をした。罪を犯して失った翼を科学の力で復活させてほしいと。魅力的な報酬もあり引き受ける事に鳴ったアイザック。この依頼が彼とヤガレク、そしてその周囲の人々、さらにはニュー・クロブゾン全体の運命に激震を与える事になるとは気づかずに…

「クラーケン」にはかなり独特の体系を持った魔術が登場するし、ミエヴィルはフィクションを書くのにSFでもファンタジーでもあたかも作品を構成する上でのアイテムとしてとても器用にかつ重厚に描く。
この作品でも電気の代わりに蒸気が発達したスチームパンクの世界に、まるで違和感なく魔法の概念を取り込んでユニークな世界を描いている。「都市と都市」なんかは特にそうだが、ミエヴィルは都市国家(街と言っても良いかも)、つまりかなりデカい生物(本作には人間以外の生物が出てくるので)の生活と意識の集合体(つまり生きた文化?)を書くのを心情としているのかもしれない。ただあくまでもその街に棲む住人の視点で描くので、文字通り読者は主人公に習って異形の都市を見上げるように読む事ができる。その異世界探訪感がミエヴィルの魅力の一つと言っても過言ではないのでは。
上下巻でそれぞれが560ページくらいある大作だが、特に序盤は読者を案内するかのようにアイザックにその都市を歩き回らせて都市の姿をあらわにする。
蒸気にけぶる巨大なニュー・クロブゾンは人間の他にもロシア方面の水妖ヴォジャノーイ(本邦に置けるカッパみたいなものだが皿は無い。)、エジプト神話のケプリ(人間の女性の体に頭部はスカラベ。)、インド神話の鳥人ガルーダ、次元を渡り歩く巨大な蜘蛛ウィーバー、集合と偶然によって機械のガラクタに宿った知性、地獄を拠点にする悪魔、さらにはグロテスクに蒸気機械と融合した人間のリメイド(罪に対する罰として、または嗜好としてリメイドされる/する人がいるようだ)などなどのフリークス達が跋扈する街である。
体制側の民兵は姿勢にまぎれ反体制の人間とあれば暴力的に排除する。殺人鬼が跋扈し無惨な死体が腐った川に浮く、怪しげなドラッグが蔓延し、ギャング達が果てない抗争を続ける。そんな危なくも、生活感の活気と熱気があふれた町がニュー・クロブゾンである。曲がりくねった路地のひとつひとつに物語が詰まってそうな街である。この設定だけでもう興奮してくるではないか。今回はそんな街に詰まった物語の一つ、科学者アイザックは自分が発端になり、人の精神を食らう最悪の生物スレイク・モスと対決する事になる。
倒すべき悪役の登場で物語をまとめつつ、ごった煮の世界観で巻き起こる胸くそ悪い出来事をビジュアル感にあふれた生々しい描写と主人公達登場人物の心の機微によって書き出す筆致は流石で、物語が走り始めると同時に吐き気を催す展開が矢継ぎ早に展開されていく。特に苦い苦いラストはレビューを読むとなかなか色々な意見があるようだ。

かなりヤバい状況なのに妙に活気がある未来的な世界観は少し椎名誠さんの小説ににたところがあるなと。ただしこちらの方が何倍も悪趣味で悪夢感が強いのだが。
日暮雅通さんの翻訳もばっちり。年の初めからすごいの読んでしまったな〜。劇的に面白かった。重厚な世界観に圧倒されたい人は是非どうぞ。オススメっす。

ひとつ疑問だったのがアイザックの体型で、あるところではデカいが引き締まったからだと書かれたり、あるところではデブと書かれたり、結局どっちだったんだろう?

0 件のコメント:

コメントを投稿