2014年11月23日日曜日

上橋菜穂子/闇の守り人

守り人シリーズ第2弾。前作「精霊の守り人」がすごく面白かったのですぐさま次作を買った次第。

新ヨゴ皇国の皇子チャグムを守りきったバルサは自分の過去と決着を付けるため6歳の時に後にした祖国カンバル王国に25年ぶりに足を向ける。祖国では裏切り者の汚名を着せられている育ての親ジグロの無念を晴らすために。しかし貧しい山国カンバルでは恐ろしい陰謀が進行していた。否応無く陰謀に巻き込まれるバルサの運命やいかに。

という訳で今回は(結果的に)復讐譚という人を惹き付けるおはなしに、祖国の地下に住む謎の山の王というファンタジー的な要素がくっついてまた面白い話になっている。
この面白さの中心にいるのが、バルサの育ての親ジグロに汚名を着せて、さらにはカンバルの伝統をさらには国そのものを意のままにしようとする敵役であるユグロの存在。こいつは平気な顔で嘘をつくし、人の命なんてな〜んとも思わない現代風に言えばソシオパス。とにかく敵役が嫌な奴かつ魅力的(ここが重要)だと物語とは俄然面白くなる。いつコイツのツラに拳をめり込ませるのだ!とやきもきしながら読み進めるのも読書の醍醐味の一つではなかろうか。
通常ならば血なまぐさい復讐単になる訳なのだが、ここでもう一つの要素が利いてくる。ユグロの陰謀を止めるべく、バルサも否応無しにカッサという陰謀を止める鍵となる男の子の用心棒を引き受ける事になる。復讐するのに守っている暇など無いからコイツは足かせにしかならない訳だが、復讐にはやるバルサは無力なカッサを”守る”ことで冷静になれる。単に復讐は何も産まない!という押し付けがましい傍観者の論理ではなくて、むしろもっと実際的な理由で復讐者になることができないバルサ。守る、となると攻める事が難しい。ベルセルクではないがどっちかを選ばない事には…って感じ。そんなもやもやした気持ちがクライマックス”槍舞い”に結実、昇華されるわけだけど、やはり作者上橋さんは様々気持ちがぎゅっと凝縮した、そのなんとも言葉にできない塊の様な感情を描き出すのが抜群に上手い。言葉にできない感情だからそのままかけない訳で、ちょっとした仕草や動きにそれが投影されている訳だけどそれが嫌み無くすっと入ってくるよね。

ファンタジー的なギミックも利いていて、オコジョを駆る妖精や山の地下水脈に存在する謎の肉食魚。中でも選ばれた人しか姿を見た事が無い、歴史の闇に存在する山の王の正体。如何にも恐ろしい彼の宮殿とともに存在がほのめかされるだけで中々詳らかにされないあたりは流石。
あとは解説がついているけど相変わらず食べ物がおいしそう。

やはり文句無しに面白かった。ファンタジーって良いな。峻厳な山の国のごろごろとした岩肌を突き刺す様な風が吹き荒れる、そんな光景が頭に浮かぶようでした。
バルサが過去に決着を付ける因縁譚。前作を読んだ人は是非どうぞ。気になった人は是非前作からどうぞ。

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