2013年8月26日月曜日

ジェームズ・ロリンズ/アイス・ハント

元開業獣医(博士号も持っているそうな。)アメリカの作家によるスリラー小説。上下に分かれております。
この作者はシグマ・フォースシリーズという一連の続き物が日本でも刊行されている。
会社の人が面白さのあまり邦訳されているものは全部読んだといって気になっていた作家。本屋で目にしてあらすじを読んで購入。(どうでもいいが本屋はいいですね。偶然の出会いがあるので。)

魚類野生生物庁の監視員のマットは休暇でアラスカの奥地でグリズリーのDNAマッピングを行う行動に参加中。墜落したセスナ機から新聞記者クレイグを救出する。なぜか特殊部隊に命を狙われるはめになったマットは、成り行きでアメリカの北極探検の最前線基地オメガ・ドリフト(漂流の意)ステーションまで別れた妻とともにクレイグを送り届けることに。
一方オメガ基地では巨大な氷山の内部に建設されたロシアの研究施設グレンデル・アイスステーションに調査チームを送り込み内部を調査していた。
施設の深奥では忌まわしい研究が文字通り凍結されたように封印されていた。底で発見された謎の生物の痕跡。そこへ施設の破壊をもくろむロシアの原潜が接近し…

(どうでもいいが主人公の名前がマット・パイクである。元Sleepで今はドゥームメタルバンドHigh on Fireのギターボーカルを務めるあのマット・パイクと同姓同名。偶然かな〜と思ってちょっと面白い。)
とあらすじだけで既に盛りだくさんの様相を呈している。
まずは男の子なら北極に隠匿された研究施設という設定だけで心に響くものがあると思う。そこに特殊部隊である。謎の生物である。忌まわしい過去の研究である。深海での潜水艦戦である。魚雷にソナー。最先端の科学技術。さらにめくるめくアクション。爆発に次ぐ爆発。飛び散る血。元グリーンベレーの主人公は別れた女房に未練たらたらと来たらドラマが生まれないはずがない。
まずはこの舞台設定がすごい。ロマンと科学とスリラーとアクションをこれだけぶち込んで破綻していないのだから、素直にすげー。正直この本はどのジャンルにカテゴライズされるのか分からん。訳者のあとがきにも書いてあるが、場面の転換の多様とアクション二重きを置いた描写でかなり映画的である。頭の中で場面が視覚的に展開される感じで、これはもう作者の筆致のなすところだろう。
ジェットコースターというかページをめくったら最後、続きが気になってやめどころが分からないたぐいの本。

さて実はこの本私はとても楽しく読んでいたのだけど、途中でいくつか気になる点があって(核心に触れているので分かりにくく書くことをご容赦願いたい。)そこがどうしても納得できなかった。他は文句なしに面白いのに舞台装置を大切にするあまり、土台に不十分なところがあってちょっと作者は詰めが甘いな!と生意気にも思い上がって読み進めていたのだが、物語を最後まで進めるとどうだ。ううむと唸らざるを得なかった。作者は恐らくわざと意図しているのだろうけど、あえて物語に突っ込みどころを作って最後に読者を吃驚させるのだった。帆を読んでいるとたまーにこういうことがある。だまされたが、とても気持ちのいいものだ。兎に角人をおもしろがらせる話を書く作者であるな、と素直に感心しました。

私は恐怖を喚起するような小説を好んで読むけど、恐怖にも色々な種類がある。
この本の恐怖は一面白色の世界で繰り広げられるけど、とても派手で映画を見ているように楽しめた。
一流のエンターテインメント小説というのは俺のことだ!という自信に満ちた一冊。
面白い本を読みたいという人は是非手に取っていただきたい。
(版元の手違いで下巻の一章が丸ごと抜けている版があるとのことで、購入の際はご注意ください。)
シグマ・フォースシリーズも読んでみよう。

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