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2018年6月17日日曜日

City of Caterpillar/Complete Discography

アメリカ合衆国ヴァージニア州リッチモンドのポストハードコアバンドのディスコグラフィー。2018年に日本のLong Legs Long Arms Recordsからリリースされた。
City of Caterpillarは2000年に結成された4人組で、2002年に1stにして唯一のアルバム「City of Caterpillar」をLevel Plane Recordsからリリース。いくつかの音源を発売し、来日もしたが、2003年には早々に解散してしまう。その後メンバーはPg.99やDarkest Hour(!)などのバンドで活動。メンバーの居住地はバラバラになったが2017年に再結成し、いくつかのライブをこなした。2018年にはいよいよ日本に再来日を果たした。(私もライブを見に行った。)ただこの再結成は期間限定のものらしく、以降の活動は不明である。ひょっとしたら本当にもう活動はないのかもしれない。この音源はそんな再結成に合わせてリリースされたもので、音源をまとめたディスコグラフィーとデモ、ライブ音源を集めた音源の2枚組。影響を受けた日本のバンドメンバーによるCoCに関するインタビューや音源の紹介などが収録されたzineが同梱されている。

来日ライブで結構な衝撃を受けていて、言葉にしにくい激情ハードコアの全容といったらなんだが、その一端尻尾の先くらいは見えたのではと思った。(言葉で音楽のジャンルを完全に説明することはそもそもできないと思うが。)それは緊張感であった。ともすると凡百のポストハードコアバンドを聞いている時ならスキップしてしまうような長尺の曲の中の、すべてのパートに意味があるのがCoCなのだなと思った。単にそれ(思考停止したアート)っぽいアトモスフィアを演出するわけでも、その後の轟音展開への形式化した布石でもない。極限まで削ぎ落としたようなリフをシンプルに反復していくことが必要なのである。いわばトランスを導き出す前段階の儀式めいた。あくまでもバンドアンサンブルで、そして高尚になり過ぎないように統制したのがこのバンドなのではと思った。
音源を聞いてみると改めてライブの思い出が蘇ってくるとともに、あの時は気がつかなかった点にも目がいくようになった。まずは音が結構違う。ライブの時はまな板(みたいな板に2、3個張り付いている)エフェクターも驚いたがとにかくに音が生々しかった。音源だともう少しとっつきやすいハードコアサウンドになっている。逆に言うとライブはもっと音が狭く、鋭く、タイトである。
それから決して長い尺にこだわっているバンドではないこと。特にDisc2の名前すらないでも音源の曲を聴くと、いわゆるポスト的な展開は結構もうオミットされており、生々しくも荒々しいエモバイオレンスが展開されている。これがまた格好いい。そのストレートさはやはり瞬発的な攻撃力があり、やはりわかりやすさと言うのは(少なくとも私にとっては)大切な要素なんだと言うことがわかる。激情は思考する(もしくは懊悩する)ハードコアなのかな、と思っていたが、当たり前にストレートでシンプルなハードコアにだって悩みや葛藤はある。(Black Flagを聴くまでもない)形式的に言えばいわば挑戦するハードコアだろうか。デモがいつ頃(具体的に唯一のアルバムの後なのか前なのか、リリース自体はオリジナルアルバムと同じ2002年である)録音されたのかはわからないけど、彼らはこのストレートな音でも十二分の勝負ができたはずなのだ。でも正式な音源では異なるやり方でハードコアにアプローチした。彼らが劇場のオリジネイターではないだろうが、よりニッチな方向性を模索したのだった。(結果活動期間が3年しかないのに伝説になった。もちろんその短命さも物語としてそれを助長しただろうけど。)
形式化する事への反抗であり、それが世に受けて結果形式化してしまうと言うことは一つの悲劇であるかもしれない。(ただ後続のものがまず形から模倣するのは私は全然構わないと思う。と言うかそれしかできなくない?って思っちゃう。)今はジャンルが結構盛り上がっていて、ブラッケンドだ!テクニカルなアンビエントパートだ!ってなってそれらはやはり一つ一つが元は挑戦だったはずだから全然構わないのだが、ちょっとここで振り返ってみようか、と言う意味で再結成や今回のディスコグラフィーの発売は(特に私のような遅れてきたリスナーにとっては)非常に良かった。音楽を言葉で説明しようとするのはやる前から、そしてなされた後も失敗であることが確定である。だって音源やライブを聴いた方が早いんだもの。ライブを見たから特にそう思っているところはあるけど、まるで顔面に叩きつけられたかのようで、このリリースと来日は非常に面白い経験だった。
これ1枚で激情は十分!とは全く思わないけど、この手のジャンルが好きな人で聞いたことない人は是非どうぞ。

2018年4月28日土曜日

CITY OF CATERPILLAR (USA) & heaven in her arms Japan tour 2018@下北沢ERA

CITY OF CATERPILLARが来日するという。2000年に結成し2003年には早々に解散。2017年に再結成し、15年ぶりに日本に来るという。エモや激情と呼ばれるジャンルでは皇族に多大な影響を与えた偉大なバンドといわれている。正直私は名前はしっていたもののまともに聞いたことがなかった。来日に合わせて日本のレーベルからディスコグラフィー(フルアルバムは1枚しかリリースしていないようだ)も発売されて盛り上がる中完全にそれに乗っかる形でライブに足を運んだ。初日のデイタイムである。私は昼間のライブってすごく好きなんだよな。なんか1日の終わりにあるのも特別感あって良いけど、真ん中にあると非日常でありつつ(ライブではなくて)ライフ感があってよくないですか。

US:WE
一番手は台湾の台北からきたというUS:WE。名前聴くのも初めて。ギターがボーカルを兼任する3人組のバンドで、照明を客席に当てるのではなくステージの奥側に向けて、それから前面には白熱灯(なんだけど中の芯がオレンジによく見えるやつ、おしゃれ)をセットするというこだわり。出音がいきなりでかくて「これこれこれが聴きたくて」という感じが一気に満たされるからやはりライブは良い。なるほど激情というジャンルに属するバンドだが、必要最低限の人数ということもあって曲は結構タイトにまとめ上げていた印象。ボーカルも基本はずっと絶叫スタイル。分厚いギターの音に空間的なエフェクトを掛けて轟音でかき鳴らすというのが格好いい。
終演後の物販席にはメンバーの方以外の人もいて皆さん非常にスタイリッシュでした。

Joy Opposites
続いてはJoy Opposites。なにげに見るのは2回め。なんといっても高音で甘い声のボーカルが歌いまくるのが特徴。コーラスも多めで歌にフォーカスしている。音は分厚いながらも2本のギターが繊細なアンサンブルを奏でていて、芳醇なアイディアが短めの曲の中にギュッと詰め込まれている。芸達者をひけらかさずあくまでも無骨な楽曲にまとめ上げて、そこにボーカルが乗る。大雑把な歌ものヘヴィ・ロックというよりはハードコア含めていろんな音楽からの影響をロックという大きなくくりの中に巻き込んで、自分たちの音楽に再構築している感じ。音楽的背景の深さと練習量の多さを感じさせる。出している音的にはジャンル的にはオルタナティヴという感じで、前見たときはnothingの来日公演だったから結構しっくり来たのだけど、(激情)ハードコアに特化した今日この日だと結構アウェイな感じだったかもしれない。でも堂々とした立ち居振る舞いで格好良かった。

heaven in her arms
今回のツアーの企画者。heaven in her arms。全員黒い衣装で登場。よく見ると靴に個性が出て面白い。
3本のギターがブラックメタルから持ってきたトレモロリフでもって轟音の渦巻きを作り出す。真っ白い雪崩のようだ。真っ青な青空を背景に斜面を猛然と突進する奔流だ。本流も圧倒的だが、飛び散る飛沫もなんとも美しい。音の壁というのはこういう音楽ではよく聴く表現だけど、HIHAに関してはその壁の構成力がすごくて、3つのギターが別のことをしてそれがピッタリハマっている。だから壁の表面には凹凸というか、独特の肌触りがあってそれが素晴らしい。ハードコアには失われがちなメロディをギターリフで補完している印象があるのだが、主役になるのがトレモロそのものだったり、それに絡みつくように乗る単音リフだったり、非常にめまぐるしい。連続性を持ちながら常に変化していくような印象。突っ走るところは爽快だし、そうでないところもよくよく聴くとドラムとベースが超うねっていたりで単に直線的な動きで突っ走っていくだけじゃないことに気がつく。
目下最新作「白暈」も素晴らしい内容だったけど、ライブで見ると印象がぜんぜん違う。美麗だな〜という音源に対して、圧倒的な轟音で楽曲を発信するライブだと迫力が段違い。ビリビリする轟音の中でそれでもやはり楽曲の美しさがじんわりと染み込んでくるのでそこがすごい。基本的にライブってそういうものなのだが、演奏力の高さ故なのか個人的には「白暈」はライブを聞いて完全に完成した感じ。これか!という感じですごいしっくり来た。

CITY OF CATERPILLAR
ベースとギターがボーカルを兼任する4人編成。ギタリスト1人はエフェクター多めなのだが、それ以外の2人は凄くシンプル。(ギタリストはベニヤ板みたいなのにエフェクターを乗っけてた。エフェクターボードを使うと思う、普通は。)アンプも別に多めってわけでもない。ドラムの人もセットはシンプル。出で立ちもT-シャツでとにかく全体的にラフかつシンプルな印象。ライブが始まってみるとこれがすごかった。まず音が非常にソリッドだ。音の数は多くないのだが(少ないってことはないと思うがこの日のバンドと比べると)、どれも異常な存在感がある。ギターに関して言えばエフェクターを通しても生の音が残っていて、ジャギジャギしておりそして鋭い。全くぶれない。めちゃくちゃ安定している。非常にミニマルにリフを執拗に繰り返していく。振り下ろされるドラムにぴったりアンサンブルがあってきている。ハマっているという言葉がぴったりだ。この間ボーカルは入らないのでこれがずれたら正直お話にならないが、全然ずれずに続いてく。反復の中でドラムのプレイが徐々にフレーズをかえていき、ギターもそれに合わせて音の数を増やしていく。そしてあっという間に轟音が支配して、ボーカルが絶叫する。これがパターンといえばパターンだが、実際にはもっと自由で静かなパートでもボーカルが叫び出したりする。非常に整合性が統制されているのに同時にカオスだ。あまりに自由で形式的ではない。まず叫びたいという感情があって、そこから曲がついてきたような感じすらする。そう言いたいほど原始的で野蛮。なるほどカオティックという言葉で称されるのがよくよく分かる。ボーカルも取るギタリストの方はとにかくよく動く。エフェクトもどんどんかけていく。叫ぶときは常に前のめりだ。マイクがずれたって構わない。ボーカルの印象は強烈だが登場頻度は決して多くない。なるほど確かにアルペジオもよく使うけど、単に綺麗なだけだったり、轟音の「動」の前のただの前フリでは決してない。もっと無骨でソリッドで、かっちりしていて、むしろこのボーカルレスのパートこそCITY OF CATERPILLARの本質であることは、きっとこの場にいた人ならわかってもらえるのではないだろうか。激情の正体の一端は緊張感ではなかろうか。張り詰めた緊張感。何かが起こりそうな”予感”といっても良い。ボーカルの入る激速パートが一つの回答だとしても、そこに辿り着く前の逡巡が激情な気がした。だってこの緊張感の持続に普通は耐えられないんだけど、このバンドに関してはむしろずっとこれで良いなと思うくらいなのだもの。

Aに影響を受けてA'が作られ、さらにA''、A'''''''と際限なく進化する中で次第にAから離れて結果的にはもう全く別のBに接近していく(このときBが既存の場合もあれば、全く新しいこともある)としたら、今あらためてAを提示するということは単に再結成、リバイバルという以上に意味がある。これが激情だったのだ。これが。この圧倒的に統制されたカオスが。ほとばしる感情が。あとに続くものがこれを分解し、そしてその要素一つ一つ、たとえばこのジャンルなら反復的な要素、劇的な静と動の同居、複雑な曲展開、そしてほんの一瞬垣間見えるメロディックなリフを拡大解釈していった。その先にいるのがHIHAでもある。(当たり前なのだがこういった流れは進化そのものなのだから私はHIHAを始め、すべての現行のバンドを批判しているわけではない。)しかし黎明期の激情とはもっと混沌として芳醇で濃厚な原始的なスープのようなものだった。まさにここから何かが始まるというエネルギーに満ちたものだったのかもしれない。激情って未だによくわからないけど、ひょっとしたらその尻尾くらいは今日見えたのかもしれない。

あらためて同じステージでCITY OF CATERPILLARとheaven in hermsを同時に見れるというのはすごいことだぞ、と思った。繰り返しになるけど単に再結成の思い出ツアーでは絶対ないので、今CITY OF CATERPILLARを見るというのはどういうことなのかということは、機会と予定が合えばぜひ見て聞いて体験されるのが良いのではと思います。
US:WEのCDとheaven in her armsの新曲+zineを購入して下北沢の街をぶらついた。贅沢な連休初日でした。