2017年11月26日日曜日

Wolves in the Throne Room/Thrice Woven

アメリカ合衆国ワシントン州オリンピアのブラックメタルバンドの6枚目のアルバム。
2017年にArtemisia Recordsからリリースされた。
1stアルバム「Diadem of 12 Stars」を2006年にリリースするやカスカディアン・ブラックメタルというジャンルを圧倒今に打ち立てたブラックメタルバンド。カスカディアンといえば複雑な大作指向でまごうことなきアンダーグランドなジャンルだったが、アトモスフェリックな音作りはその後のブラックメタルとシューゲイザーの融合に影響を与えたのではと密かに思っている。2014年に発表された前作「Celestite」では前編ほぼシンセサイザーの音で構成された内容でファンの度肝を抜いた(おおよそネガティブな方に)バンドの3年ぶりの新作。もしやまた…というファンの不安を裏切り結論から言うと元の完全なブラックメタルなバンドサウンドに回帰している。中心となるのはNathanとAronのWeaver兄弟で、そこにKody Keyworthというメンバーが新しくギターと歌で参加している三人体制。プロデューサーにRundall Dunnを迎え自前のスタジオ(文字通り自分たちで建てたらしい。)で録音された。今でも多分そうだがWeaver兄弟はオーガニックな思想を持ち、そこに根ざすスタンスで活動している。農場で暮らし、電気を使うことに矛盾を感じつつ、ブラックメタルをやっている。

今作「Thrice Woven」は直訳すると「三回織」になる。おそらく織物の形式の一つではと思うが。バンド三人に加えてスウェーデンのシンガーAnna von Hausswolff、それから暗黒メタル界の巨人NeurosisのSteve von Tilがゲストとして参加している。
全5曲で42分。インタールード的な4曲目を除くとだいたい1曲あたり10分くらいだろうか。過去にはもっと長い曲があったが、「Celestial Lineage」から割りと(それまでに比べると)コンパクトに曲を纏める、という動きがあるように思う。そういった意味でも前前作を踏襲する流れなのだが、一通り何回か聞いた後に思うのはやはり問題作となった前作「Celestite」の影響はまだあるなと。確か前作の感想を書いた際に表現の際にブラックメタルという”やり方”がじゃまになったため、というかそのやり方だと表現しきれないため、ああいった別のアプローチを取ったのでは、と書いた。今作でもシンセサイザーは使われているが私が言いたいのはただ今作もシンセサイザーを使っているので、とか微妙にそういうことではなくて。まず今作を聞いて思ったのは曲に今までにない広がりがあることだ。大作指向だし大胆に女性ボーカルをゲストに招いたりしているが、実はこのバンド表現の幅は結構かっちりしている。どちらかと言うと多彩なのは展開であって、あくまでも愚直なまでのブラックメタル絵巻を展開してきたように思う。同じカスカディアンというジャンルに属するミネソタ州のPanopticonが「Kentucky」で大胆にバンジョーを取り入れたときは衝撃だったが(私はこのアルバムが非常に好きだ。)、実はWolves in the Throne Roomはそこまで柔軟にジャンルをまたいでいなかった。今作「Thrice Woven」ではさすがにバンジョーやその他の楽器を取り入れることはないものの、今までの彼らからするとかなり新しい要素を取り入れていると思う。女性ボーカルや複雑な構成という強靭な縦糸に、フォークの要素、シンセサイザーの浮遊感、アンビエントパートなどの横糸を噛まして、強靭かつ今までにない色彩豊かな織物を描き出した。それが今作だ。

ある意味相当アヴァンギャルドだった前作がマンネリからの脱却や、第一人者としての重圧からの逃げを打った失敗作とするのではなく、自分たちの本質がどこにあり、どこまで行けるか、ということを確かめる作品だったとすると、全くバンドサウンドを用いないという「Celestite」という作品を経て、改めてブラックメタルの形に回帰し、そしてその幅を大胆不敵に広げてきたのが今作「Thrice Woven」ではと思う。
複雑なバンドだが、私はやはりメロディの残滓の上を紙を引き裂くようなイヴィルなボーカルが疾駆する、ストレートなパートがWolves in the Throne Roomの醍醐味だと思うので(そういった意味ではEP「Malevolent Grain」はすごーく好きな音源。)、今作でもその鋭さが遺憾なく発揮されているのが嬉しい。やはり芯はぶれていない。普通のブラックメタルなら「冬は死につつある、太陽が戻ってきている」と春を称える歌を歌わない。これはやはり野菜を育て豊かな春の訪れの本当の豊穣さ、ありがたみを知っている人でなくてはつくりだせないだろう。崇高な何かに対する畏怖と畏敬の念が詰まっているように思う。そういった意味ではやはり、温かい、血の通ったブラックメタル、という稀有な音楽だ。

ひたすら風格を見せつける最新作。前作に否定的な感想を持った人にこそ聞いてほしいと思う。非常に格好良い。おすすめ。

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