2016年12月31日土曜日

SITHTER/CHAOTIC FIEND

日本は東京、東高円寺のデスソニックノイズスラッジバンドの2ndアルバム。
2016年に梵天レコードからリリースされた。
裏ジャケット(とおまけに着いているステッカー)がBlack SabbathのVol.4を彷彿とさせるものだったり、「混沌の悪鬼」という邦題(もちろん日本のバンドなのだが)、ドクロやぐるぐる模様、キノコをモチーフにあしらったアートワークも往年の(具体的には60年代なのか70年代なのか恥ずかしながらわからない)サイケデリックかつオカルティックな芸術へのリスペクトをとこだわりを感じさせるし、見た目からも音楽性がある程度想像できる。
現在は4人体制で2006年に前身のPSYCHOTOBLACKというバンドが改名する形で結成された。(この手のバンドにすると珍しくオフィシャルに結構きっちりしたバイオが書いてある。)ライナーノーツによるとバンド名の元ネタは最近番外編が公開されたスター・ウォーズの敵陣営、シス(ら)のマスターということ。シスマスターでシスター。

音の方はというと本人らも公言している通りNOLA(ニューオリンズ・ルイジアナ)シーン、そしてスラッジの大御所Eyehategodの影響下にある音を演奏している。
時代を経るとともに残虐化、轟音化しがちなメタル/ハードコアシーン(批判しているわけではないです)では結構珍しいかもしれないくらい、伝統に敬意を払ったオールドスクールな音楽を演奏している。悪い知らせを報道するニュースをカットアップしたような不吉なSEで幕を開け、耳障りなフィードバックノイズが垂れ流されれば否応無くテンションが上がってくるというもの。そして「泥濘」とも称されるスラッジサウンドが期待を裏切らずに飛び出してくる。腰にくる、うねりとコシの強いグルーヴィなリフはビンテージでサザンなテイストに溢れており、陰惨なアトモスフィアを瘴気のように撒き散らしながらも粘りの強いズンズンくるリズム(何と言ってもタメのあるリズム感が秀逸で”ズンズン”と言っても近年クラブで鳴りがちな明快なものとは明らかに一線を画す)で持って高揚感を煽ってくる。重さのための重さ、遅さのための遅さを追求する強さ自慢ではなくて気持ちの良いスピードと重量感がこれだ、という曲至上主義なのもオールドスクールならではのこだわりを感じる。重たい曲が一気にスピードを上げていくのも必殺技めいていて素晴らしい。
また何と言ってもEyehategodのMike Williamsを感じさせる世捨て人ボーカルがかっこいい。日本人ではちょっと類を見ないくらいの堂の入りようで、しゃがれて苦しげに吐き出すようなボーカルはおどろおどろしいスラッジサウンドによく合う。
このままだと和製Eyehategod、という感じの説明になってしまう。私はこの「和製」って形容詞が好きじゃないし、何よりSITHTERは単なるEyehategodのコピーバンドではない、もちろん。どこかEyehategodと異なるのかというと、これはタイトルにもなっている「Chaotic」=混沌に他ならない。カオティックハードコアとは全然異なるが、かなりワウを多用したギターリフは(アルコールや違法薬物の支配下にあるとしても)比較的ソリッドなイメージのあるスラッジというよりは例えばEarthlessのような空間的に広がりのあるサイケサウンドに似たところを感じる。より眩惑的だ。ラストを飾る大曲(16分ある)は特にそんなSITHTERのサイケデリアを存分に感じることができる。地獄のちょうど中間に配置された「Lost Flowers」でもせん妄状態で見る古き良き思い出めいたノスタルジアをノイズの中爪弾かれるギターサウンドに感じることができる。ピアノを用いた「Engrave The Misery」も伝統的なスラッジサウンドからすると異色かもしれない。いずれも頭でっかちに、過分にアート的にならない、持ち味である陰惨さを損なわない比重の登場頻度なのが良い。

懐古主義というか原理至上主義ではないのでモダンになっていくジャンルの中で伝統を維持しつつあるバンドというのが無条件で良いわけではないと思うけど、純粋に伝統に則った方法でかっこいい音楽をやられると「まだまだやりようがあるんだぜ」と言われているみたいで痛快であると思う。
EyehategodやBuzzov.enが好きなコアなスラッジャー(スラッジスト?)はもちろん、サイケな音楽が好きな人もハマると思う。

0 件のコメント:

コメントを投稿