2016年10月22日土曜日

S・クレイグ・ザラー/ノース・ガンソン・ストリートの虐殺

アメリカの作家による警察小説。
なんとなくAmazonにオススメされた買って見た。帯には「ブッ殺す!」と書かれていて期待感を煽ってくる。
作者のS・クレイグ・ザラーは多彩な人で小説家の他に脚本家としても活躍し、なんとその前にはブラックメタルバンドでドラムを叩いていたらしい。(ライターの済藤鉄腸さんのブログより。)

黒人の警察官、ジュールズ・ベティンガーはアリゾナ州の警察署に勤務する刑事。とても優秀なのだがとある事件により実質左遷されてしまう。転勤先はミズーリ州ヴィクトリー。南部に位置するアリゾナに比べると厳しく寒い田舎町で治安は最悪。広大なスラム街が広がり、一部は荒廃し切って実質無法地帯である。18歳から45歳までの住人の7割に犯罪歴がある。着任早々ひどく暴行され殺された女性の事件を担当するが、相棒も含めて所内の警察官にはどうも後ろ暗いことがあるらしく、ベティンガーに敵意を見せる。そんな中で署内の警察官が襲撃され殺される事件が発生、ヴィクトリーは暴力と死に満ちた危険地帯におちいっていく。

警察小説といってもミステリー的な要素はほぼない。徹底的な陰惨な暴力が描かれる。そういった意味ではノワール成分もあるのだが、例えばジェイムズ・エルロイのように権謀術数渦巻く中で垣間見える間違った男の美学的な要素は一切なし。ジム・トンプスンの暴力の背後にある圧倒的な虚無もなし。もう暴力と差別と悪意しかない。短絡的で表層的だし、あえていうなら低俗ですらある。こうやって書くと救いがないのだが、よりエンターテインメントとしてはわかりやすく、だから純粋に楽しみやすい。まるで石炭のような燃焼材でこれを摂取すると主人公ベティンガーと同じく怒りと破壊衝動で体がカッカしてくる。といっても緩急がつけられていてカタルシスというかヴィクトリーという町の状況が地獄の様相を呈してくるまでをスピーディかつ段階的に書いているから、ストーリーが進むにつれてどんどん引き込まれていく。
なにせ冒頭からホームレスを拷問するのだが、腐って崩れかけている鳩の死骸をその口に無理やり突っ込むのだから酷い。溶けた目玉が喉に落ちてくる、鳩の尖った足が舌を裂いて血が出るといった具合で突っ込まれているホームレス同様こっちも吐き気がしてくる。暴力というのは殴って殴られてそれで終わりというわけではない。殴られた方は痛いし、他人に恐怖を感じるだろう。酷い暴力を受けたら以前と同じように暮らすことができなくなることだって十二分ありえる。そういった意味では暴力というのは二重にひどいものだ。この小説では殴られた方に感情面でどんなことが起こりえるかということに関してもほぼほぼその極北のようなものを描いている。暴力はエンターテインメントだが「ひで〜」と浮かべた薄ら笑いが凍りつくような。そういった意味では決して暴力賛美の小説ではないだろう。この手法でしか書けない暴力の側面が書かれていると思う。
露悪的でやりすぎ感は否めないが、変に知的ぶったりカッコつけないところ、それから熱く陰惨な展開だが、描写は非常に淡々として冷徹であること(それ故ひどく痛そうだったり、辛そうだったりする)、登場人物の感情の揺れ動きを些細とも言える行動によって書いていること(これは個人的に非常に好きなんだ)などを鑑みると良く書けているという以上に非常に真摯に描かれている。少なくとも暴力を切って貼り付けた軽薄なものではない。低俗趣味を全力でやっているのであって、そういった意味では非常に(デス)メタル的な真面目さを感じる。
肉体的・精神的なゴア表現が好きな人は是非どうぞ。私はあっという間に読んでしまった。レオナルド・ディカプリオ氏が映画化するそうな。

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