2014年1月5日日曜日

デニス・ルヘイン/夜に生きる

明けましておめでとうございます。
2013年のベストとかまとめた方が良いのかなと思いつつ、しらっと今年一本目のご紹介です。

アメリカの作家デニス・ルヘインによる長編。
原題は「Live by Night」で2012年に発表され、本邦では2013年に翻訳され出版された。
実はこの話以前このブログで紹介した「運命の日」の続編なのだ。前作の脇役だったジョー(ジョゼフ・コグリン)が主役。前作の主人公でジョーの兄貴のダニー、それから父親のトマスも出てくる。
ただし作品の質は前作と結構異なっていて、一言でいうとこれはもうノワールである。犯罪小説といっても様々だが、本書はギャングものである。なんと警察一家に生を受けたジョーが無法者になってギャングとして成り上がる話になっている。

1920年代のボストン。警視を勤めるトマス・コグリンの末っ子ジョゼフことジョーは早々に家を出てギャングとしての道を歩んでいた。ある日闇酒場(禁酒法下では潜りの酒場以外は存在しないが。)に押し入ったジョーはそこで一人の女と出会い恋に落ちるが、彼女は対抗するギャングのボスの愛人だった。その女エマと出会ったことでジョーの運命は大きく動いていく…

前作「運命の日」ではコグリン家の末っ子のジョーは本当に家に降り掛かる様々な災難に翻弄するだけの子供だったのだけれど、今作ではもう立派な大人になっている。といっても当初はまだ未成年の若造なんだが。それでももうはっきりと俺は昼の世界で歯車になっていくのはごめんで、夜の世界で生きていくんだと固く決意している。ギャングの一員ではあるけど、ジョーは自分のことを無法者であってギャングではないと思っている。
コグリン一族は固い家柄だから家族とは絶縁状態。とはいえ母親は前作の後なくなり、長兄ダニーは家族と決別して家を出、次男のコンも前作の事件の後家を出てしまっているから、実質の凝っているのは父親のトマスだけなのだが、この小説では結構この父親との関係が大きなテーマの一つになっている。
トマスは荒い言葉で怒鳴りつける訳ではないが、暴力は必ず自分に跳ね返ってくると穏やかにジョーを諭すんだけど、若いトマスは聞き耳持たない。
トマスだって警視は警視だが、不法入国でアメリカに来て以来清廉潔白どころかかなり危ういこともやってきて今の地位がある訳だから、ただただ悪いことは悪いというのではなく人生の先輩として法律の外で生きることがどんなに難しいことなのかを言い聞かせる訳です。読んでて、おやこれは実は前作から本当の主人公はトマスなのかな?とちょっと思った。トマスの受難である。よく考えると彼は成功者なのに苦労ばかりでちっとも幸福そうじゃ無いぞ。そうこうしているとジョーはあっさり刑務所にぶち込まれる。(この刑務所のエピソードが相当えげつない。カマを掘られるとかそんなレベルじゃない。実際こんなもんだったのかはわからないが、小説内の監獄は文字通りとんでもない地獄であった。)ここでのトマスが兎に角格好いい。(2人ともすごい頑固で不器用。そして絶対に自分の中で譲れない自分に科したルールがある。)トマスも息子への対応に関して葛藤と後悔があって息子を危険な連中から守ろうとする。ちょっといじましいくらい。そんな中あっけなく退場するトマス。ジョーは何を感じたのか。決意は変わらず、出所後も夜の世界でルールを作ることに執着し、マフィアの世界でのし上がっていく。一方的に解消された親子関係はしかし、最後までジョーの心の中に影を落とし、決着がつかなかった分くすぶり続ける。
ジョーは単純なようで複雑な性格をしていて、この小説は基本彼の視点で書かれているのだが、かかれている言葉、特に心中の独白をそのまま額面通り受け取ると、ある行動が納得いかないように感じられる。つまり意図的に彼が無意識に矛盾していることが書かれていてそこが面白い。親子関係もそうなんだけど、ただただならず者で気づいたらマフィアに身を落としていた訳でもない。監獄で兄のダニーとの面会で彼は言う、他人のルールに縛られて老いさらばえるなんて真っ平だ!と。若さである青臭さである。だがだからといって誰しもが法の目をかいくぐってマフィアになる訳ではない。本人ですらなんで法に背いて、背き続けられるのかきっとわかっていないような、そんな感じがあって、だから一体彼がどこにたどり着くのかというのは、最後のページを読み終えるまできっとわからない。
監獄で去り際にダニーは言う「おまえも大人になったな」と。これは皮肉なのかと思ったけど、どうもそんなことは無いようだ。ジョーは修羅場をくぐって死線を越える一方、家族が出来る。夜を支配する一方で昼の暖かさも手に入れる訳である。運命の女エマと決着を付ける下りは読んでて本当にゾクゾクしたものだ。大人になった訳じゃないし、若かったときのすべてが間違いだった訳でもない。ただ今じゃこうなったのさ、というなんとも格好いい男っぷりであった。

私はどちらかというと(本質的に社会にとって悪い存在であるというよりは)自分の臆病さ故に、どうしてもマフィアとかやくざとかはたとえフィクションの中でもなかなか好きになれない。しかしこの本のジョーの言い訳しないまっすぐさ(まっすぐなマフィアである)には何かしらこう大いに引きつけられるものがあった。
前作の主人公ダニーはどうしたって猪突猛進型の愛すべき熱血漢であった。彼は自分のためというよりもむしろ大義や友情のために自分を投げ出すことが出来る男だった。一方ジョーはどこまでも身勝手な人間ということが出来ると思う。しかしその運命を自分の手で切り開くような潔さはやはり人を引きつける。彼が最終的に愛した物事を考えるとちょっと寂しい感じもする。彼は結局目の前で展開する出来事をなす術無く見守ることしか出来ない子供であったのだろうか。意見が分かれるところだと思うが、いろいろ考えさせられた。

非常に面白い本を読んだと思います。デニス・ルヘインはやっぱり時代を切り取ってじっくり人の成長を書くのが抜群にうまいと思う。
重厚な小説だが是非読んでほしいと思う一冊。
ちなみに本作、ベン・アフレック監督で映画化が決まっているそうですよ。

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