2017年2月19日日曜日

RORCAL/CREON

スイスはジュネーブのブラックメタル/スラッジメタルバンドの4thアルバム。
2016年にBleak Recordsingsからリリースされた。私が買ったのはLonglegslongarms Recordsからリリースされた日本盤でこれには歌詞の和訳や解説などが書かれた小冊子が付属する。2005年に結成されたバンドで今まで3枚のアルバムをリリースしている5人組。タイトルの「クレオン(または「クレオーン」)はギリシア神話の登場人物でテーバイの王のことだとか。

全4曲で収録時間は51分。どの曲も10分を超える大曲。ギリシャ神話を題材にとったコンセプチュアルなアルバムらしく、「劇的」という言葉がぴったりの荘厳なアルバム。音楽的には表現が難しいが、ブラックメタルを基調にして速度をぐっと落としたもの、ブラッケンドしたドゥーム/スラッジというとちょっと実は違うんじゃないかと思う。個人的には遅く、複雑なブラックメタルという印象で、どちらかというと世間でも言われている通りポストハードコアというのは結構しっくりくる。
トレモロリフは連続して音を出していくという性質上遅くするのは難しいのだけど、トレモロをトレモロたり得る速度まで落としそれからドラムは遅めのビートを刻めば、基本的にはRORCALの大まかな音がイメージできると思う。ドゥームがブラック化すればもっと音に隙間ができるはずなのだが、このバンドはトレモロに最大の比重を置くバンドらしく、ほとんど隙間を変えることをしない。どうなるかというととにかく重苦しくなる。トレモロが低音に特化していることもあって息苦しい。長い長い水中潜行のような息苦しさ。スラッジやドゥームは隙間があることでうねりや息継ぎの合間ができてリラックスできたんだなあ、と思うような音の密度だ。もちろん極端な反面、残響を意識したフィードバックノイズで引っ張るドローン的なパートもあるし、ドラムは結構実は手数が多く時に速度を増している。疾走パートだ!待ってました!となるはずがこのバンドの場合はなぜか速く聞こえないのである。不思議。砂漠でさまよってオアシスかと思ったら蜃気楼でした、という絶望感。逃げ場なし。一つはとにかくシャウトを引っ張るボーカルがあると思う。完全にブラックメタルなイーヴィルなシャウトなのだが、こいつがある意味ではストーリーテラーである。朗々とはしていないものの、噛んで含めるようなねっとりとしたボーカルには高速感が皆無なのだ。せっかくドラムが頑張って叩いているのに、ボーカルが亀さんなのだ。この感じ、どこかで…と思ったらkhanateにちょっと似ている。助けてくれ〜となるあの音楽性。ところで私はkhanateが大好きなのだ。そう考えると急にRORCALの曲もかっこよくなってくるから現金なもの。よくよく聞くとただの拷問ではなく、よくよく練られた曲だということが随所に散りばめられたパーツパーツに感じられる。一番印象的でわかりやすいのはメロディラインで、これはこのジャンル特有のトレモロリフに込める、という形で現れている。トレモロの牢獄も、よくよく聞くと潮の満ち引きの様なうねりのあるメロディを繊細な音に混ぜ込んでいるし、一人称が変わる歌詞におそらく合わせて曲の展開を変えていく。
音楽性でいうと最新作で楽曲をコンパクト化した以前のDownfall of Gaiaに通じるところがある。暗く、重く、そして劇的だ。ブラックで長い尺というとカスカディアンなブラックメタルバンドが思い浮かぶが、自然への数位牌と調和を意識した芳醇さはなく、代わりにスラッジ/ドゥームの手法を取り入れることでブラックメタルにない別種の黒さを獲得している。オルタナティブな黒ともいうべき、別の色としての黒。ギリシャ神話にはほぼ触れたことがないのだが、歌詞を読むと別世界に遊ぶ神々の華やかさは皆無で、むしろ難解な言葉綴られる物語は暗く重苦しい、人間界にはない暗さを神話に託したのか、それとも人間界の愛憎と悲哀を神話の暗黒で例えているのか、果たして真意はわからないものの、この世ならぬものを作ってやろうという並々ならぬ気概だけはしっかと伝わる。

Downfall of Gaia好きな人には刺さるだろうし、意外にkhanate好きな人とかは向いていると思う。速度の遅いブラックメタルの威力をまざまざと見せつけられる一枚。

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