2016年9月4日日曜日

キジ・ジョンスン/霧に橋を架ける

アメリカのSF作家による日本独自の短編集。
表題作は権威のあるSF文学賞であるヒューゴー賞とネビュラ賞を獲得している他、その他の短篇も色々な賞を獲得している。要するに今旬な作家という事だろうか。文庫になったタイミングで買ってみた。
世界幻想文学大賞も獲得している事から分かるのだが、ガチガチのハードSFではなく、現代には存在しない未来的なガジェットを使いつつ、不思議な世界を書いている。解説で書いてあって確かにと思ったのだが、どの物語も特定の人物を主人公をその中心に据え、全編に渡ってあくまでも個人的な視点で持って綴られている。そういった意味では非常に読みやすかった。
気に入ったのはやっぱり表題作「霧に橋を架ける」。
これは気体状の酸(のようなもの)の霧があり、その中には正体不明な”魚”が潜む、という一番超常的な時代設定(一番SF的なのは問題作「スパー」だろうか。)。その霧を渡る橋を造る男の姿が結構長いスパンで書かれている。色々な事件があるものの基本的には本当に主人公が実直に橋を架けていく様を、技術的な描写も交えつつ書いている。この物語から色々な意味や意図を抽出する事も出来るのだろうが、個人的にはそういったのを脇に置いていて一風変わった生活を書いているところが面白かった。そういった意味では椎名誠さんのSFに似ているかもしれない。(が椎名さんの物語にはもっと男の子的な冒険があるから似ているというのはその書き方くらい。)SFが思考実験だとすると、有害な霧が存在する世界で人間がどのように進歩していく(技術的には現代より幾らか昔の世界観)様を非常に非常に丁寧に書いているように思う。それゆえスケールは小さくなるのだが、前述した通りそこが魅力の作家だと思う。
難点を挙げるとするどの物語もちょっと奇麗にまとまりすぎているかな。暴力や流血が足りないとかいう意味ではないし、実際様々な感想を巻き起こしている「スパー」(エイリアンの脱出船で人間の女性宇宙飛行士がエイリアンに延々レイプされる話。)は十分すぎるにショッキングなんだけど、その他の物語に関しては物語にもし”お約束”があるとしたらわりとそれに沿っている様なイメージ。もうちょっとこう作者本人の濃い個性を出しても良いのでは…と思ってしまったりした。
ちなみにキジとは変わったお名前なのだが、これは本名をもじったもので本人は女性。私はその女性を知らずに読み始めたのだが、冒頭を飾る「26モンキーズ、そして時の裂け目」を読んで割とすぐにひょっとして書いているのは女性かな?と思った。多分私は普段男性作家の小説を読む事の方が多そうだ。特に作者の性別にこだわりはないので女性の作家の小説も楽しく読める、というか性別を気にすらしないのだが、たまーにこのキジ・ジョンスンのように作者が女性だな!と思う事があって不思議だ。(一つには恐らく男性の書き方があるように思う。同じように男性が書く女性も女性が読んだら「これ書いたの絶対男だな〜」と思うのだろうな。)「ストーリー・キット」は女性にしかかない話だと思うけど、その他の物語も特有の女性らしさ、というのがあってそこが面白かった。
SFって小難しいんでしょう?という方は是非どうぞ。

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