2015年7月11日土曜日

ポール・グリーヴ/殺人鬼ジョー

ニュージーランド出身・在住の作家による長編クライム・ノヴェル。
漫画チックな表紙が気になって購入。

ニュージーランドのクライストチャーチを騒がせた「切り裂き魔」こと連続強姦殺人犯ジョー・ミドルトンは遂に逮捕された。収監されたジョーは心神喪失を盾に無罪を主張するが、当然自分の弁護士も含め信じるものはいなかった。折しも死刑制度の復活の是非を問う国民投票で揺れるニュージーランド。このままでも死刑になってしまう…裁判開始がすぐそこに迫り焦るジョー。一方かつてのジョーの恋人メリッサは指名手配中。裁判で一時的に出獄するジョーを狙撃すべく動きを開始した。

この物語は実は同じジョーを主人公にした「清掃魔」という小説の続編。普通はこっちから読むべきなのだが、残念な事に絶版になっている。そっちとこっちだと版元が異なるんだよね…「清掃魔」ではジョーがクライストチャーチの切り裂き魔と呼ばれて逮捕されるまでの顛末を書いているようだ。
さて主人公が悪人という犯罪小説は少なくないだろう。ぱっとこの間読んだウェストレイクのドートマンダーシリーズだったり、ブロックの殺し屋ケラーシリーズだったり、トンプスンの様々な小説だったりと。そんな中でもこの本の主人公ジョー・ミドルトンは異彩を放っていると言える。まず前述の物語の主人公たちは危険さは勿論だが、彼ら特有の美学をもっており、それがアンビバレンスな魅力になって読者を惹き付けたものだが、一方ジョーはまず自分でも思っているほど頭が良くないし(ただし警察に出入りするのろまな清掃人を演じる事で彼らを欺くほどの頭とどちらかというと度胸はある。)、なにより彼はただただ自分の性欲と殺人欲によって強姦、拷問、殺人を繰り返しているのであって、まあ一言で言えば吐き気のするくらいのクソ野郎なのだ。この小説は彼の語りで進む部分がとっても多いのだが、全く反省の色が無いし、腕が立つ訳ではないし(刑務所では囚人や看守に結構良いようにされている。)、行き当たりばったりだし、とにかくどこかしら俺関係ないしくらいの能天気さがある。全く好きになれないタイプの男なのだが、しばらく読者はコイツと一緒に歩いていく事になる。(ほぼ監獄にいるから大して歩けるスペース華忌んだが)。一方ジョーを捕まえた本人シュローダーは実直な男だが、ジョーを逮捕後問題を起こして(作中では最後まではっきり言明されないが)警察を辞し、今では望まないテレビ業界で犯罪コンサルタントとしてインチキ霊能者の使いっ走りをされている始末。どう考えても読者はシュローダーに肩入れすべきなのだが、不思議と読み進めるとジョーに感情移入している自分を感じさせるから面白い。この小説の良いところは文字通りジューが最後の最後までクソ野郎である事だ。コイツに反省の二文字は無く、読者がいかに彼に感情移入しようともあっさりそれを裏切ってあまりある鼓動を重ねていく訳で最後読み切ってページを閉じた読者はこう思うだろう、なんてクソ野郎なんだと。そういった意味ではポップな装丁・文体(ジョーの軽口は結構良い)にも関わらず読者に迎合しないハードな小説であるといえる。
監獄にいるジョーは動けないから、反面恋人でやはり殺人鬼のメリッサが良く動く、スタンド使いでは無いのだが、やはりサイコ同士は惹かれ合うのかろくでなしばかりが集ってジョーの裁判をクライマックスにどんどんテンションを挙げていく展開は中々盛り上がりがあって面白かった。
不真面目で下品(相当きつい描写が何回もあるのでご注意されたし)なの大好物!って人はどうぞ。

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