2013年12月1日日曜日

西崎憲編訳/怪奇小説日和 黄金時代傑作選

筑摩書房から発売されたホラー短編小説のアンソロジー。
編集は西崎憲さんで以前このブログでも紹介した「短編小説日和」の第2弾である。
タイトル通りより怪奇小説に舵を切っている。国書刊行会から発売された「怪奇小説の世界」全3巻から13編、同じく国書刊行会「書物の王国15/奇跡」から1編が選ばれ、さらに新訳の4編を加えた全部で18編の短編小説がおさめられている。
怪奇小説好きなら読んだことのあるレ・ファニュやジェイコブス、さらにはシャーロックホームズ生みの親コナン・ドイルの短編もおさめられていて、まさに黄金時代というタイトルにふさわしいアンソロジー。一体いつが黄金時代なんだい?という疑問が当然あると思う。実はいろいろな定義があるらしく、詳しくは西崎さんの手になる紳士なあとがきを読んでいただきたい。

一口に怪奇小説と言ってもいろいろな形式があって、この本では怪奇という共通の大きなテーマに沿っていろいろな種類の恐ろしさに焦点をあわせた短編がおさめられている。
なかでも気に入ったものを何編かご紹介させていただく。

閉ざされた環境で過去の因縁がゆっくりと浮上していき、恐ろしい終末に結実する「フォローレンス・フラナリー」。著者はマージョリー・ボウエン。クトゥルーっぽさもちょっとあって(とはいえ描かれたのはラブクラフト以前だと思うけど)ジトジトした嫌らしさがある。何と言っても、没落した貴族と金に釣られて彼と結婚した婚期を逃した女との何ともいえない関係が良い。
ヴァーノン・リーによる「七短剣の聖女」は傲慢きわまりない貴族の冒険譚。幻想の美しさと貴族が見舞われる運命の残酷さの対比が良い。悪漢のくせにきわめて信心深い主人公は友達にはなりたくないが、なんか愛嬌があると思う。
ヒュー・シーモア・ウォルポールの「ターンヘルム」はたらい回しにされた少年が行き着いた叔父の家で怪異に教われる話。尊大で不気味な兄と人はいいが兄の言いなりになる気弱な弟の2人の叔父、孤独な主人公にとって唯一の友人である従僕のキャラクターがそれぞれ良い。怪しすぎる召使いや入ることが禁じられた塔など全体的に魔術的な怪しさがあって舞台装置がすばらしい。
なんといっても一番はトマス・バークの「がらんどうの男」。殺された男が蘇り、殺した男のもとを訪れる。男は復讐する訳でもなく、ただ殺した男の近くにぼんやり居座るだけ、というまさに悪夢のような物語。殺された男は確実に何かが欠落していて、その空疎な様が生者を苦悩させる。幽霊は恨みがましいものだが、こいつは何となく来ちゃったよ、という変に達観した趣があって面白い反面恐ろしい。

ゴーストストーリーから乗っ取りもの、ともするとコントのように見える喜劇調の作品。多種多様で面白いが、すべてが恐怖という糸でつなげられた首飾りのように絢爛豪華である。

私は恐らくだが「墓を愛した少年」以外はどれも読んだことがなかった。まだまだ知らない楽しい話がたくさんあってうれしい限りである。
怪奇小説を愛する人は手に取って損はないと思います。むしろ大変楽しい時間を過ごせるでしょう。

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