2013年2月17日日曜日

チャイナ・ミエヴィル/都市と都市


イギリスの作家チャイナ・ミエヴィルさんの2009年発表の、の、SF?け、警察小説?げ、幻想小説?
ヒューゴー賞、世界幻想文学大賞、ローカス賞、クラーク賞、英国SF協会賞というタイトルを取りまくり、日本だと2013年版このミステリーがすごいの海外編で堂々7位という、読む前からしてこのふてぶてしさである。格式高いぜ、うかつに手に取るんじゃねえぜ、感すら漂う大作です。
チャイナさんは以前「ジェイクを探して」という不思議な短編集を読んだことがあって大胆な筆致なのだが、全体的にうすぼんやりとした恐怖小説だなという印象でした。
エイヤとばかりに手に取ったこの「都市と都市」、これが結構厄介。

ヨーロッパの国「ベジェル」と「ウル・コーマ」。隣り合った2つの国家、その領土は部分的に互いに浸食しあいモザイク状に組み合わさっている。完全にどちらかの領土である「トータル」、2国間で共有している領土を「クロスハッチ」とする。片方の国に所属している市民は、もう片方の国に所属する、人、もの、出来事は一切認知しないという大前提があり、それを破った場合はどちらの国に所属する国民でも、どちらの国にも属さない第3の組織により裁かれることになる。
「ベジェル」の警察ティアドール・ボルルは自国で発生した殺人事件を捜査するうちに2つの国と第
3の組織の過去と謎に肉薄することになっていく。

 というお話。
よくわからんな、という感じでしょう。 まずこの特殊な状況を把握しなくてはなりません。
隣り合った2つの国ですが、重なり合っています。ある施設を通って越境することで隣の国に行けますが、施設を境にはっきり国境があって左が「ベジェル」で右が「ウル・コーマ」ってわけではないのです。越境行為は儀式みたいなもので、実際は隣の国に行こうと思えばすぐに行けます。それこそ2歩とか踏み出すと行けるレベル。重なってますので。ただし施設を通らないと、違法です。
さらにどちらかに所属している市民(正規の手順で越境していれば自国でなくてもOK)は、もう片方の国の事柄が見えません。向こうの人がいても見えません。クロスハッチでは向こうの車も同じ道路を走っているはずですが存在しません。建物もどんなに大きくても他方のものならば見えません。
無理じゃん!そんなの小説だからと言って納得できない!!
そうです。無理です。
この小説がなぜ面白いのか、それは無理を無理じゃない風にして強引に描き切っているのではなく、無理が原因になって引き起こされる歪みを描いているからです。
じゃあどうやって「見えない」の?
簡単です。実は見えないんじゃなくて、見えないことにしてみなかったことにしているのですね。
もちろん生まれた時から訓練しているのでどちらの国民も「まったく見えないよ」といって生活しているのですが、例えばクロスハッチにいるとき、前から歩いてくる人がいます。服装や歩き方を「見」ます。(ここでもう矛盾しているわけです。)一瞬で判断!同じ国に所属している人ならいます。「あ、あっちの奴!」となったら見ないようにするのです。面倒くさいでしょう。いやいやいや言いたくなる気持ちもわかります。繰り返しになりますが、実際こんなこと相当難しいので変なことが起きるわけです。そしてその奇妙さを見事に小説にしているのです。

無理!って限界をひょいって越えられるところに、私は読書のだいご味の一つがあるなと思っています。それはとてもSF的だし、この小説の「ただそうしようと思ってそうなった」(ちょっとここがうまく言葉にできない…)という説得力があって作られた世界は私たちの日常のちょっと先にあるような現実感があります。大きな歪みと矛盾を抱えた都市はそれだけで物語です。よくこの小説は都市が主人公といわれますが、なるほどその通りです。

かなーりややこしい小説です。おまけに意識して説明を省いて書かれている感があります。しかし読む進めて、この都市と都市に横たわる事情が見えてくると、もうページをめくる手が止まりません。気になった方は是非手に取ってください。おすすめです!

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