2020年2月16日日曜日

浅田次郎/あやしうらめしあなかなし

浅田次郎というと「鉄道員」のイメージ。
私が対して興味がない日本映画の原作、みたいな。
だからホラーのアンソロジーに短編が収録されている事自体が驚きだったし、読んだらおの物語の面白いことにびっくりした。

怪談の文章は呪文なのである程度の方式が必要な場合がある。(現代怪談なら不要だが、時代がかったものならそれなりの言葉を使ったほうが絶対怖い。)
浅田の分はここを抑えていて、しかもたただ難しい漢字や言葉を普通の分に当て込んだみたいな、知識というよりはPCの変換機能に頼ったような素人くさいものではなく、幅広く深い見識がかけないような美文だったのでそこが良かった。
で、買ったのがこの短編集。

フリークスが襲いかかってくるようなホラーの場合でも、異形の者達というのは明るい場所にいきなり出てくることはそんなにないものである。(つまり相当の筆の技が要求されるってこと。)
廃墟となった教会でも、苔むした墓場でも、忌まわしい儀式が行われた跡の残る隠匿された湿る地下室でも良い。あるいは提灯の明かりに照らされた柳の下でも。
幽霊や怪異に合うにはどこかに行くか、あるいは幽霊がどこかを通り抜けてくる。井戸とか。

浅田の場合は幽霊というのは過去にいる。
だから物語が進む、ということは誰かの過去に踏み入っていく、という深さの構造がある。
物語が真相に向けて潜っていくわけで、まずこの構造が息を止めることを要求してきて行く苦しい。恐怖としては上質である。

基本的な構造としては何も知らないまま生きている。
過去主人公の知らぬところで進行していた何かしらの出来事を知らされる。
その出来事が主人公の人生の気持ちに作用して人生が転回される。
物語の王道を抑えているわけでここらへんは流石にいわゆる”売れる”作品を書き続ける商業作家の面目躍如。
作者の世代的に先の大戦の話が入るのは全然構わないのだが、物語の構造と相まってやや説教臭くなるのは個人的にはちょっとかな、、、。

個人的にはやはり冒頭と最後に配置された神道系ホラーが一番好きなのでその数をもう少し増やしてほしいというのが正直なところ。
文の美しさもここが一番映えているように思う。

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