2017年6月18日日曜日

リチャード・スターク/悪党パーカー/人狩り

アメリカの作家による犯罪小説。
私が買ったカバーには若きメル・ギブソンが力の入った表情で銃を構えている。というのもこの作品メル・ギブソン主演で「ペイバック」というタイトルで1999年に映画化されている。実はこれより先んじて1967年に「ポイント・ブランク」というタイトルで映画化されている。要するに二度も映画化されるような人気作なわけだ。この物語の主人公はタイトル通りパーカーという悪党なのだが、2006年にも新作が発売されているくらいの人気シリーズになっている。作者のリチャード・スタークは又の名をドナルド・E・ウェストレイク。スマートとも悪党とも言えない犯罪者ドートマンダーたちの笑える活劇が人気だろうか。私も「ホット・ロック」のみ読んだ。とても面白かった。このパーカーのシリーズはそんなウェストレイクの面白さとは真逆の犯罪小説だというから興味を持って買ってみた。ちなみに「ペイバック」も子供の頃見たがもう内容は覚えてないな〜。

交通量の多いワシントン橋を強風の中朝8時に男が歩いている。彼の頭にあるのは貸しの取り立てである。武器の取引現場を襲い金を奪ったのは良かったが、妻と仲間に裏切られて重傷を負った。朦朧としているところを浮浪罪で逮捕され、監獄へ。看守を殺し脱獄し、1ヶ月かけてアメリカ大陸を横断。やっと彼を裏切ったやつらのもとにたどり着いた。男の名前はパーカー。

要するに仲間と妻に裏切られた男がやり返す話なのだが、大変面白いことに純粋な意味での復讐譚ではない。パーカー本人もいっている通り実は復讐というほど思い入れがあるわけではない。妻に裏切られたのもの別の女を探そうと思っているくらいだ。ただ彼は異常に貸し借りにこだわる。いわば取られすぎている状態だからおまけをつけてその借りを返してもらおう、というのがパーカーの論である。だから苦しめて殺してやる!じわじわ追い詰めてやる!とかいった湿っぽさとは無縁である。常に不敵に、そして乾いている。いわばこのパーカーという男がかっこいい物語である。彼は目標に沿って最短距離で歩く。復讐すべき男を追い詰めても金を取り戻さないと彼の旅は終わらない。だから裏切った男が所属するシンジケート(アウトフィットと呼ばれる)に手ぶらでいって自分の金を返せという。そんなことが通用するわけがないのだが。ドートマンダーはあの手この手を考え、そして苦労しながら実行する(大抵うまくいかないのが面白い)のだが、パーカーに計画はない。まっすぐ行く。この男のかっこいいのは、いきなりアウトフィットを襲撃して銃をぶっ放し、金を奪うというやりかたはしない。まずは知る限りの一番偉い奴のところに行き、「金くれ」というのである。不敵すぎる。もちろん障害となるのであれば殺しに対して一切の呵責や頓着がない。面倒だから普段は殺さないだけなのである。そもそも自分を裏切った男も、パーカーは最初っから臆病者だと思って自分が頃好きだったのだもの。妻に裏切られても泣くわけでもない。完全に悪党である。人間的な感情が多く欠落しているので、サイコパスといっても良いのかもしれない。彼の中には基本的には自分しかない。無鉄砲さもありがちな「死に場所を探している感」なんてセンチメンタリズムの出る隙がない。どんな危機も切り抜ける気でいるし、そうでないならその時考えるという不敵さ、傲慢さである。この非人間性がこせこせ生きている私たちを引き付けるのだ。結果的に構築された悪党のルールに魅了されるのである。
約250ページくらいの長さにパーカーの無駄のない行動がぎゅっと詰まっている。本当にこの短さによく収まったな!というくらいの濃密さで。無駄のない小説である。そして圧倒的に古びない。だからこそ30年以上経ってから映画化されても面白いわけである。多分現代に直して映画化しても面白いと思う。昔気質の犯罪小説が好きな人は是非どうぞ。

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