2013年3月10日日曜日

澁澤龍彦訳/幻想怪奇短編集


マルキ・ド・サドなどの翻訳家、また自身も小説家であった澁澤龍彦さんが訳した、フランスの幻想小説・怪奇小説のアンソロジー。解説は怪奇小説界隈随一のアンソロジストである東雅夫さん。オリジナル編集なので、収録作品も東さんが選んだのかもしれません。
澁澤龍彦さんというとサド裁判で有名な仏文学者でエッセイストとしても高名。私も「異端の肖像」や「黒魔術の手帖」など大変面白く読みました。なんて博学な人なんだろうと思ったものです。また私は澁澤さんが書いた小説が好き。特に「高丘親王航海記」という物語は素晴らしい幻想譚で、出会えたこと自体がとてもうれしく、またたくさんの人に読んでもらいたいと個人的に思っております。

さてこの本はそんな澁澤さんが訳した小説の中から、フランス製という大枠の中から特に怪奇の色の強い作品を集めたものです。
クラシックな怪奇小説というとやっぱりイギリスということになっているのだと思いますし、私もふと思い返してみるとフランスのホラー小説というと、アンソロジーに収録されている短編くらいしか読んだことがないように思います。
この本には8編がおさめられていますが、その中の1編「共同墓地 ふらんす怪談」はさらに細かく7編に分かれております。
マルキ・ド・サドの「呪縛の塔」をはじめどれも珠玉の短編ですが、共通しているのはどのお話も独特のユーモア(諧謔というのでしょうか)があって、ただ怖がらせるような正統派の恐怖小説とは一線を画しています。笑い話にしてしまうのでは断じてなく、怖い話、おどろおどろしい話の中にも一種の可笑しさが同時に存在しているのです。怖い話なのでもちろん怖さを強調するのですが、どんどん誇張していくと現実から離れてしまって、ちょっと白けてしまうこともあると思います。そこにユーモアを入れると怖い話がより一層生々しくなって、怖さも一層引き立つのかもしれないと思いました。

妙に色っぽい幽霊や、怖がりな幽霊、純愛ゆえに常軌を逸した解剖学者、妄想に取りつかれた男、数奇な運命に取りつかれた男、放蕩の限りを尽くした暴虐な統治者、いろいろな個性的な面々が出てきますが、彼らの人生には以外にも笑いや涙があって、ちょっと身近に感じられます。それこそフランスの暗い路地に今でもひょっと立ってこっちを見ているような、怖さといとおしさを同時に覚えてしまうような、そんな不思議なお話です。
変わった話を読みたい人は是非。

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