2013年6月8日土曜日

R・D・ウィングフィールド/フロスト日和

イギリスの架空の郊外デントンを舞台にむさ苦しい中年警部フロストが活躍する警察小説シリーズ第2弾。原題は「Touch of Frost」。
1997年の「このミステリーがすごい!」海外編で堂々第1位になった名作です。

連続婦女暴行魔が跋扈するイギリス郊外の町デントン。
市内のビクトリア時代にたてられた公衆便所に浮浪者の死体が浮かんだ。
さらに実業家の一人娘が失踪。議員の息子が運転していたと思われる車に老人が車に轢かれる。スツリップバーでは強盗に上がりを強奪される。
次から次に頻発する事件にデントン署の名物警部フロストが挑む。

このシリーズ他の警察小説と比べると面白い点があって、それは様々な事件が立て続けに起こること。もちろん一見関係ない事件が実は見えない糸でつながっていて〜というケースは結構ざらにある。要するに一つの事件が中心に据えられていて、主人公たちがそれの解決挑む訳で、本当に関係ない事件は発生するにしてもあまり詳しくは書かれないのが普通だけど、このフロストものではかなりいろいろな事件が起こる訳なんだけど、関連があるのもあるけど、関連がないのもあってかなり混沌とした状況になっている。事件の謎を追うという楽しみももちろんあるけれど、このシリーズはそれに加えて混沌とした捜査状況を描くこともテーマのひとつなんじゃないかと思った。
とにかく常に人員は足りないし、フロストとその相棒は本当に寝る暇なく働いている。そんじょそこらのブラック企業が裸足で逃げ出すレベルで。
フロストはそのむさ苦しいなりに鋭い観察眼と豊富な経験に基づく直感を備えている。下品な冗談を連発して、周囲を辟易させながらも見るべきところは決して見逃さない。そんなフロストのひらめきや仮説もことごとくうまくいかない。予想が外れる。証拠がない。部下は落胆する。相棒からは軽蔑される。上司からは説教される。それでもフロストはあきらめない。現場には必ず足を運ぶ。参考人のもとには足しげく通う。怪しいやつには食らいつく。フロスト警部はへこたれない。ここが警察官としての彼の本当の強さだと思う。鋭い直感や観察眼も実は彼の強さの本質的ではない気がする。
時にどぎつすぎる軽口をたたきながら、自分の足を使って難事件にがっぷり四つで立ち向かっていく。
前回のお話の感想でフロストは優しいと書いたけど、優しいという言葉だけでは表現しきれない彼の人となりが少しずつ明らかになるようでそこも楽しみの一つ。

またこのシリーズ脇役がとにかくいいキャラしている。
今度のフロストの相棒は元々警部だったけど、上司を殴って降格、デントン署に左遷されてきた若者でとにかく血気盛んで手が早い。ここまで書くと一見いいやつなんだけど、前作同様フロストの頭の切れには気づかず、終止彼のことを見下している。こういうキャラを脇に置くことで、フロストのだらしなさ(フロストは一見だらしないが、というのではなく本当にだらしない。)と、その背後にあるひらめき(本人は直感という。)と賢さが強調されるのかと思う。ただフロストはあまりにもへこまれされたりするので、もっと味方になるようなやつがそばにいたらなあと思って、結構やきもきする。

また署長で警視のマレットは1作目でも嫌なやつだったけど、回を重ねるごとに嫌らしさと小物感が増してきて実に腹が立つ。これがまた名脇役といえる。

う〜ん。面白かった。
前作を読んだ人には文句なしにおすすめです。
気になった人はやっぱり1作目から読んでね。

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