2013年2月23日土曜日

Gaza/No Absolutes in Human Suffering


始めにいってしまうとこのアルバム、買って聴いてください。
2004年結成のアメリカユタ州はソルトレイクシティのグラインドコアバンド、2012年発表3rdアルバム。

このバンドのアルバムはすべて持っているけど、1st「I Don't Care Where I Go When I Die」に出会ったときは衝撃だった。「死んだらどこに行こうが知ったこっちゃねえ」という破滅的に冒涜的なこのタイトル。壁にぶつかっても容赦なく激走する狂犬病を患った犬のようなグラインドコアなのだが、急にすべてを投げ出したようなスラッジパートに沈み込んだりする。いわば躁うつ病を患ったノイズコアで音楽性はちょっと違うがToday is the Day(ちなみにこちらも私は大好き)に通じる陰鬱さがある。ジャケット通り真っ黒であった。なかでも「Hospital Fat Bags」という曲は阿呆ほど聴きまくった。


その後2009年に2nd「He Is Never Coming Back」をリリース。
このアルバム決して悪くはないのだが、妙に整合性が取れてしまっており、曲のクオリティは高いのだけど、1stの異常なテンションが少なからず失われている感じが個人的にはした。聴きなおしてみると録音状態が少しおとなしいのかなあ、という気もする。

そしてこの3rdアルバム 「No Absolutes in Human Suffering」である。
あまり期待せずに買ったが、これがもう、これがもう大当たりである。
1stのぐちゃぐちゃ感が5割増しで戻ってきた!!カオスである!!こりゃあもう騒音である!!
爆音だが、次の瞬間にはどこに行っているのか全くわからない、予想がつかない。
このバンドの特徴的なこじるようなギターリフ、もはや打楽器かというほど暴力的である。
そしてボーカル、これはもう咆哮である、野獣である。誰にでも噛みつく病んだ狂犬だ。
そしてまた沈み込むようなスラッジパート。
ひょっとしたらこのバンドなにかから逃げているのかもしれない。こっちに向かっているのかと思ったら実は死に物狂いで逃げているのかもしれない。そうして巨大な影についに捕まってしまうのかもしれない。陰惨で狂暴なのだが、とにかくそのようなどうしようもない暗闇を抱えているような印象がある。どうしようもない、諦観に満ち溢れた、コールタールのような粘度の高い闇に取りつかれたような悲しさや寂しさといったらない。こんな音楽本当にあまりない。
「Mostly Hair And Bones Now」(なんとも恐ろしげなタイトルだ、死体なのか?)からジェットコースタのようにはじまり、最後「Routine And Then Death」(これまた悲哀に富んだタイトルだ)はじっくり地獄に着陸するようだ。
素晴らしいとしか言いようがない。
最後に繰り返すが、このアルバム是非買って聴いてみてください。
本当にお勧めです。

2013年2月17日日曜日

チャイナ・ミエヴィル/都市と都市


イギリスの作家チャイナ・ミエヴィルさんの2009年発表の、の、SF?け、警察小説?げ、幻想小説?
ヒューゴー賞、世界幻想文学大賞、ローカス賞、クラーク賞、英国SF協会賞というタイトルを取りまくり、日本だと2013年版このミステリーがすごいの海外編で堂々7位という、読む前からしてこのふてぶてしさである。格式高いぜ、うかつに手に取るんじゃねえぜ、感すら漂う大作です。
チャイナさんは以前「ジェイクを探して」という不思議な短編集を読んだことがあって大胆な筆致なのだが、全体的にうすぼんやりとした恐怖小説だなという印象でした。
エイヤとばかりに手に取ったこの「都市と都市」、これが結構厄介。

ヨーロッパの国「ベジェル」と「ウル・コーマ」。隣り合った2つの国家、その領土は部分的に互いに浸食しあいモザイク状に組み合わさっている。完全にどちらかの領土である「トータル」、2国間で共有している領土を「クロスハッチ」とする。片方の国に所属している市民は、もう片方の国に所属する、人、もの、出来事は一切認知しないという大前提があり、それを破った場合はどちらの国に所属する国民でも、どちらの国にも属さない第3の組織により裁かれることになる。
「ベジェル」の警察ティアドール・ボルルは自国で発生した殺人事件を捜査するうちに2つの国と第
3の組織の過去と謎に肉薄することになっていく。

 というお話。
よくわからんな、という感じでしょう。 まずこの特殊な状況を把握しなくてはなりません。
隣り合った2つの国ですが、重なり合っています。ある施設を通って越境することで隣の国に行けますが、施設を境にはっきり国境があって左が「ベジェル」で右が「ウル・コーマ」ってわけではないのです。越境行為は儀式みたいなもので、実際は隣の国に行こうと思えばすぐに行けます。それこそ2歩とか踏み出すと行けるレベル。重なってますので。ただし施設を通らないと、違法です。
さらにどちらかに所属している市民(正規の手順で越境していれば自国でなくてもOK)は、もう片方の国の事柄が見えません。向こうの人がいても見えません。クロスハッチでは向こうの車も同じ道路を走っているはずですが存在しません。建物もどんなに大きくても他方のものならば見えません。
無理じゃん!そんなの小説だからと言って納得できない!!
そうです。無理です。
この小説がなぜ面白いのか、それは無理を無理じゃない風にして強引に描き切っているのではなく、無理が原因になって引き起こされる歪みを描いているからです。
じゃあどうやって「見えない」の?
簡単です。実は見えないんじゃなくて、見えないことにしてみなかったことにしているのですね。
もちろん生まれた時から訓練しているのでどちらの国民も「まったく見えないよ」といって生活しているのですが、例えばクロスハッチにいるとき、前から歩いてくる人がいます。服装や歩き方を「見」ます。(ここでもう矛盾しているわけです。)一瞬で判断!同じ国に所属している人ならいます。「あ、あっちの奴!」となったら見ないようにするのです。面倒くさいでしょう。いやいやいや言いたくなる気持ちもわかります。繰り返しになりますが、実際こんなこと相当難しいので変なことが起きるわけです。そしてその奇妙さを見事に小説にしているのです。

無理!って限界をひょいって越えられるところに、私は読書のだいご味の一つがあるなと思っています。それはとてもSF的だし、この小説の「ただそうしようと思ってそうなった」(ちょっとここがうまく言葉にできない…)という説得力があって作られた世界は私たちの日常のちょっと先にあるような現実感があります。大きな歪みと矛盾を抱えた都市はそれだけで物語です。よくこの小説は都市が主人公といわれますが、なるほどその通りです。

かなーりややこしい小説です。おまけに意識して説明を省いて書かれている感があります。しかし読む進めて、この都市と都市に横たわる事情が見えてくると、もうページをめくる手が止まりません。気になった方は是非手に取ってください。おすすめです!

Hypomanie/Calm Down, You Weren't Set on Fire

前回に引き続きオランダのポストブラック、2012年発表3rdアルバムです。
ジャケットが有機的になりました。

基本的には前作の流れをくむ哀愁系ポストブラックです。
音の種類が豊富になった印象で、前回はちょっと閉じられた世界という感じで音も少し地味目でした。今作は明るくなったというのではないですが、前作に比べると世界が広がって聴きやすくなったと思います。シンセの音が結構前に出てきています。
一見クールなS.さんですが、今作でも内に秘めた激情家っぷりをいかんなく発揮。
静かに始まり、ある程度ミニマルに進み、音が次第に追加されていき、クライマックスに突入。乱打されるドラム、加速するトレモロリフ、相変わらず健在。
決して泣かしに来ているようなあざとさはないのですが、相変わらず訴えかけ度が半端ネエ。音を一つずつ見ると結構冷たく無機質だったりするんですが、曲としてまとまるとビシビシ突き刺さります。どちらかというと暗く陰鬱なんですが、温かさすら感じさせるS.さんならではなの優しさに満ち溢れたアルバム。
おすすめです。

2013年2月16日土曜日

Hypomanie/A City in Mono


オランダのS.さんなるひとによるブラックメタル/シューゲイザープロジェクトの2ndアルバム。
2011年発表。
ジャケットがかっこいいなあと思っていたのですが、ゼロ次元さんに入荷されていたので、ここぞとばかりに購入しました。

内容はというと全編インストのポストブラックというやつだろうか。
艶っぽいベース、回転の良い(結構手数が多いというか)ドラム。かすみがかった雰囲気のキーボード。そしてギターはシューゲイザーっぽいノイジーな音が売りなんだろうけど、乾いたアルペジオもあるし、ノイジーさも高音が強調されていたり、じりじりしていたりと芸が細かい。

なんといっても展開が素晴らしく、しずかにゆっくり始まる前半、突然ドラムが乱打され、ノイジーな(うるさいわけではない)トレモロリフが加速する。シューゲイザー色強めのポストブラックというとここ最近かなりの隆盛を見せるジャンルで、はいはいお洒落お洒落というバンドも少なくないのだけれど、このS.さん、クールでシャレオツに見えて実はアッツい激情家であることはもはや疑いなし。いったん火がつくともうトレモロリフの加速が止まらない止まらない。暗いのだがどこかしらノスタルジーを感じさせる美しいトレモロリフにただただ涙が止まりません。

全5曲でどの曲も捨て曲なしでかっこいいのだが、特に最後の2曲の破壊力が半端ない。
「A City in Mono」アルバムタイトルにもなってる9分弱の曲で、静かに始まり徐々に音が加わっていく感じ。中盤で加速して、いったんブレイク、再加速で一気にクライマックスに流れ込む。
「A City in Stereo」ラストを飾る10分20秒。アンビエントパートを挟んでの後半でもう滂沱の落涙。こんなに切ないのに、こんなに熱い展開があるだろうか。

My Bloody Valentine/ m b v


いわずと知れたシューゲイザーの大立者2013年発表の3rdアルバム。
なんと22年ぶりに、しかも急に発売されて世界を驚嘆の嵐に巻き込んだという噂のあれです。
メンバーも22年前と同じみたい。Black SabbathにしてもCarcassにしても久しぶりに再結成するとメンバーがそろわなかったりするものですが、すごいものですね。

私は昨年あたりにリマスターされた「Loveless」と「EPs」を買っただけのミーハーなファンだから、そこまで強い思い入れがあるわけじゃあないけど、これはいい音楽ですね。
唸るような轟音がずらーっと塗りつぶされていて、その隙間からケヴィンさんビリンダさんの甘いささやき声がメロディアスに聴こえてきます。全体的にゆったりして夢見がちという以前の音楽性を踏襲していて、大きく変更はないと思います。
轟音といってもいわゆるメタルだハードコアの轟音とは違いますよね。なんだかスローモーションにされた巨大な建設現場みたいな世界に放り込まれて、唖然としてたら歌声が聞こえてきたぞ、という感じ。音自体はデカくてはっきりしているんですけど、たどっていくとなんだか曖昧になっていて、全体的にというか結局というかぼんやりとした世界に連れ込まれちゃったなっているんですよね、不思議です。

というわけで、私がおすすめするまでもなくもうみんな聴いているんじゃあないかと思うけど、おすすめです。
ちなみに私はレコード+CD+デジタルダウンロードバージョンを買ったよ。音はもうすでに聴いているけどレコード届くのが楽しみだな~。


2013年2月11日月曜日

ジョージ・オーウェル/一九八四年[新訳版]

イギリスの作家ジョージ・オーウェルが1949年に出版した小説。

1984年、世界は、ユースタシア、イースタシア、オセアニアの3つの超大国に分かれ、終わることのない戦争に明け暮れていた。その中の一国オセアニアは「ビッグ・ブラザー」率いる「党」に統治され、全国民は相互通信機により日常背活のすべてを「党」によって監視されていた。旧イギリスに住む39歳の党員ウィンストン・スミスは真理省に努め、日夜「党」のため歴史の改ざん行っている。刻一刻と「党」の都合の良い方向に捻じ曲げらる歴史、あいまいな自分の過去。次第に「党」に疑問を持つようになったウィンストンは禁じられている「日記をつける」という行為に手を染める。ある日ウィンストンは完璧な党員ジュリアから「あなたが好きです。」と書かれた手紙を受け取るが…

とても有名な小説で、いわゆるディストピアについて書かれたもの。
何となく自分の中でディストピアものといったらこの本とブラッドベリの「華氏451」が代表選手と勝手に思っていた。この前「華氏451」を読んだので、さあ次はこれだとばかりに手を出したのだったけど、これがとんでもない話だった。
この本は真っ暗である。血が出る話、人が死ぬ話などいろいろ読んできたけど、この本はそれらよりずっと気分が悪い。

本の中のエピソードを引用してみます。
2+2は4で当然ある。あなたはそういう。しかし周りの人が全員2+2は5だという。当然あなたは反論する。石ころでもなんでも使って2+2は4である、と証明してみせるが、それは全く聞き入れられない。あなたは異端で、思考犯罪を犯しており、いずれ「党」によって処刑されるだろう。
「ありえない」というでしょう、なんならちょっとおかしくもあるでしょう。しかし本当に周りの人が全員2+2は5だといったら?あなたが主張する正しさは誰によって証明されるのでしょうか?あなた一人は絶対的な法則があってそれは常に2+2を4たらしめているという。しかし絶対的な法則を”認識”している時点で(仮に存在するなら)真実をそのままの形でとらえることは不可能では?
「詭弁だ」とあなたは言うでしょう。しかしあなたは異端で矯正されたのち殺されるのでした。

 この本は数の暴力と純粋な暴力について書いている。多数決がすべてを決める。そしてその多数決は常に「党」によって操作されている。多数決に従わないものは異端で、異端には純粋な暴力が振るわれる。普通の本では暴力が描かれても結果は痣ができたり、骨折したり、死んでしまったりというところまでだけど、この本は違う。純粋な暴力!それがこれほどの力を持っているとは!殴る、蹴る、それがこれほど人間から尊厳を奪い、徹底的に人間性を破壊しつくしてしまうとは!暴力に精神が屈したとき、人はその前とは全然違った人間になってしまうのです。

とにかく人間の尊厳の剥奪ということが全編にわたって書き込まれており、そうしてそれが有無を言わさない外的な力によって引き起こされているということに、言葉に言い尽くせないような無力感ややるせなさを感じました。崇高で清冽な意志、これ自体に力が備わっていると何となく信じ込んでいた私ですが、それがもろくも崩れ去る瞬間、いったい私たちには何が残されているのかと考え込まずにはいられませんでした。
中盤で主人公の過去がちょっとだけ書かれます。今ほど「党」の支配が確立されていない頃、しかい民は貧困にあえいでいました。そこで語られる主人公親子のエピソード。私は久しぶりに本を読むのが嫌だと感じさえしました。

この本を読んで気分がよくなることはないと思います。しかしそれでも私はたくさんの人にこの本を読んでもらいたいと思います。それは決して世界がいかに醜くなる可能性があり、いかに今の社会が恵まれているかを分かってもらいたいからではありません。私たちが信じているものが実際にはひどく頼りなく、力ないものであることを少し考えてもらいたいからかもしれません。この本を読んで結局どのように権力や隣人に接したらいいのか、私自身も明確な答えを出せずにいます。しかし私は駅で下を向いている人たちの手から携帯電話を叩き落としてでもこの本を押し付けたいと思ったのでした。
この記事を読んだあなたがまだ一九八四年[新訳版]を読んでいないなら、ぜひ読んでください。
これはあなたのために書かれた本です。(こういういい方は本当は嫌いなのですが)

最後に、この本の表紙、真っ暗闇かと思ったんですけど、実際には星が描かれています。

2013年2月10日日曜日

Antediluvian /Through the Cervix of Hawwah


カナダのブラッケンドデスメタルバンド(ブラックメタル要素のあるデスメタルということだと思いますが…)の1st。名門Profound Loreより。
バンド名Antediluvianはこんな意味だそうです。(weblio英和辞典より)
【形容詞】
1(Noah の)大洪水以前の (cf. deluge 1b).
2《戯言》 大昔の,旧式な,時代遅れの.
【名詞】【可算名詞】
1大洪水以前の人[動植物].
2非常な老人; ひどく時代遅れの人.
[ANTE‐+ラテン語 dīluvium 「洪水」]
バンドの写真がこれ。



なるほど、だから原始人っぽい恰好をしているんですね!納得!
まあ見るからにめんどくさそうなこの人たち音楽性も結構ややこしいことになっています。
基本的には結構速度速めのうるさいデスメタルです。(うるさくないデスメタルだってあるかもしれません。)音の密度が特濃で、やかましいったらないんですが、曲が全体的に最初っから最後まで低音主体で構成されているため派手な印象はないです。
ボーカルは低い。ちょっと聴き取りにくいくらい低いです。前に紹介したDismaのボーカルに一寸似てる。
演奏がかなり特徴的であえて言うならDeathspell Omegaに似ていると思いました。やたら音の数が多く、音の感覚が詰まっていて、うねうねスピードを変えて一秒一秒曲が変化していくような気持ち悪さ(もちろんほめ言葉です。)があります。全体的にオカルト色が強いのも似ているかもしれませんね。異界的な状況を表現したい!という気持ちがヒシヒシと伝わってきます。疾走感があるところは速く、落とすところは落として、かつ気持ち悪いSEが入っていたり盛りだくさん。そんなしつこい曲な割に曲の長さがむやみに長くないのがイイネ!と思います。だいたい3分から5分くらい。気軽に聴けるよ!
こりゃあかっこいいぜ!(今回は全体的に元気良い感じで書いてみました。)

2013年2月9日土曜日

Unsane/Wreck

アメリカはニューヨークのノイズロックバンドの2012年発表7thアルバム。
アートワークが生々しく恐ろしい。
1988年結成、中断を挟みつつ長いこと活動しジャンクの帝王と呼ばれてるらしいです。
バンド名はおそらくinsaneのもじりでしょうか。
その名の通りいかれている音楽性なわけですが、デスメタルやブラックメタルのそれとは趣を異にしております。後者の演出する狂気というのは、通常過激さを追求するあまりおおむね現実世界から逸脱していることが多いのですが、このバンドの狂気は日常の延長線上にあるようです。朝起きて、仕事に行って、帰って酒を飲んで寝るという生活のサイクル、これをずーっとくりかえしていたらいつの間にか狂気の世界に含みこんでいたような生々しさがあります。

ギター、ベース、ドラムスリーピースで全体的に乾いた音。がしゃがしゃじゃきじゃきしたギター、太く硬いベース、ぬけの良いドラム。がなり声のボーカルは結構特徴的で高めですね。
何かが飛びぬけているわけじゃないはずなんですよ。もちろん音が重くてでかくてノイジーなんですけど。曲がばかっぱやいわけでも、劇的に速いわけでも遅いわけもないです。 テクニックのひけらかしもなし。デス声もないです。小細工なし!なんですけど曲として聞くとやっぱりこれはどっか正気じゃねえぞ、という感じがするんです。なんですかね、酒場で酔っぱらいのおっさんと夢中になってしゃべって、ふっとおっさんの目を見たらどうにもこうにも普通じゃない。アルコールのせいも思えない。自分がおかしいのかなとも思えるけど、かといってじゃあ話をやめようとしたらこのおっさんに殺されるんじゃねえかと不安になるような。そんな音楽です。
こりゃーかっこいいです。

なかでも戦慄が走るくらい怖-くてかっこいい曲を。
Flipperというバンドのカバーとのこと。

2013年2月3日日曜日

BP./THE NEW BP.

BP.です。
日本のロックバンド。14年だか、15年だかぶりの新音源発表とのことです。
イチマキさんという人がギターとボーカルをやっています。
イチマキさんは私が中学生のころから今も大好きなバンドCOALTAR OF THE DEEPERSでギターとボーカルを担当していらっしゃたことがございました。私が初めて買ったCOTDのアルバムが「No Thank You」でした。イチマキさんが(COTDに)所属していて、BP.の「GIANT」というをCOTDが演奏・録音したものが収録されておりましたから、BP.というと結構思い入れのあるバンドです。前の記事のMournfulもそうですけど、ほしいと思った時には廃盤になっているんだもの。そりゃ気になる。
去年過去音源をまとめたCDが出たときはそれはうれしかったものです。内容的にも大満足でしたから、ただの再発じゃなくて活動再開だよー、とくれば当然新音源に期待が膨らむというのが人情というものです。
まあそんな感じで一人でテンションあがったBP.の新音源。これがまたかっこいー。
BP.というと荒々しい演奏に、透明感のあるイチマキさんのボーカルという対比構造が魅力の一つだと思うのですが、この新作でもそれがいかんなく発揮されています。個人的にうれしかったのが、演奏の荒々しさのバランス。何となく単純にすげー激しくなるのかな、と思っていたのですが、杞憂でした。曲全体の完成度というか目指すところを意識した程よい激しさ。過去の音源を踏襲するよう曲中で急に激しくなるギターや、スクリームも入っているのですけど、全体的に変なことになってるわけじゃない。なんていうかメタルバンドみたいになってないんですね。激しい音楽は大好きですけど、それはほかのバンドがうまくやるからさー、というか。ほんとこういうバランスってありそうでないかもしれない。とても気持ちい。でかいギターの音も素晴らしく気持ちいい。イチマキさんのボーカルはちょっと大人っぽくなったですかね。のびやかーで爽やか。
アルバムが早くも楽しみです。

この音源のがなかったわい。


Mournful/Monochrome

ドイツのエモバンドの1stアルバム、2003年(10年前だ!)発表。
バンドは2005年に解散。
内容的にはエモだ。エモい。スクリーモっぽい要素も結構ある。(なんていうか独特のスクリームだ。)
はっきり言って今好んで聞いている音楽とは一線を画す彼らの音楽性なのだが、これにはちょっと事情がある。だいぶ前彼らの「LHC」という曲をネットで耳にした。何の媒体経由だったのか、今はもう思い出せないのだけれど「いい曲だなー」と思いCDを探したところ、バンドは既に解散していてこのCDも廃盤になっており申した。泣く泣くあきらめたのですが、この間amazonのマーケットプレイスで見つけて「なんだよ」とばかりに購入したわけです。
エモなんだけど、何年か前のエモブームの前のバンドなんで、あそこらへんではやったバンドとはちょっと違います。曲によってはちょっと初期Deftonesぽいところもあると思った。ベース、ギター、ドラムどれをとってもこぎれいな印象で、基本的にはそんなに速度のない曲調で哀愁のあるメロディ。ポストロックとまでは言わないが、それっぽいアルペジオがあったり、サビで急に抒情的になったり結構しっかりしております。
なんといってもこのバンドボーカルが特徴的で、ものすごくなよなよしている。裏声というのかわからんが、やたら弱っているのだ。おいおいお前ちょっとナヨナヨしすぎじゃあないか、と。「LHC」でも「疲れたよー」とか泣き言をなよ~っとこう歌い上げるわけで、このナルキッソスめとちょっと笑っちゃうくらいなのだけど、曲全体が何とも丁寧にあざとく作っているため、「むう」といって納得しちゃうわけです。
たまにはこういう音楽もいいですね。

LHCがねえんだなー。

Old Man Gloom/NO

アメリカのスラッジメタルバンドの4thアルバム。
オリジナルはHydra Head Recordsからで、私の買ったのはボーナスディスクが追加されている日本版でリリースはDatmare Recordingsから。
その道で高名な方々が集まって組まれたスーパーバンドいうやつでして
Aaron Turner  元isis
Nate Newton   Converge
Caleb Scofield  Cave In
Santos Montano Zozobra(上のCalebのバンド)
という面々です。
上の3人が曲ごとにボーカルとっているそうです。
ちなみにみんな大好きPlotkinさんがマスタリングです。

内容的にいうと実験的な要素が強いスラッジメタルでノイズ成分多し、と書くととっつきにくそうですが、意外にメロディがキャッチーだったりしてそんな構えなくても楽しめます。
ノイズな曲、ストレートに疾走する曲、2つの要素を混ぜた曲、ちょっといかがわしいアコースティックな曲、という感じにバリエーションもあるのでこのジャンルにありがちな「いいんだけど曲の区別がつかねえな…」というのもあまりないです。個性の強いメンバーが曲によってそれぞれの持ち味をうまーく出しているのだと思います。
私メタルが好きなのですが、メタルといえば過剰なところが魅力!過剰にすればするほどソリッドになっていきますが、一方で現実から遊離していくのではたからみると滑稽に見えてしまうことも往々にしてあると思います。その過剰さと同居する面白さというのを本人たちが面白がって作っているような印象を受けました。(不真面目に作っているというわけではないです。)

ここでインタビューが読めます。
ふざけているんですけど面白いです。(ふざけているから面白いというのでもないと思います。)
http://www.daymarerecordings.com/extra/oldmangloom/interview_2012_1.htm

一番キャッチーな曲をば。



スティーブン・キング/1922

モダンホラーの帝王スティーブン・キングの第三中編集「Full Dark,No stars」からの2編を収録した日本版。残りの2編も近日刊行予定だとか。
現代から想像できる通り帝王の面目躍如の怖い話。

「1922」
1922年ネブラスカ州。相続した土地を工場に売って都会に移り住みたい妻、代々の土地を農夫として耕していきたい夫。妻は夫の主張に聞き耳を持たない。土地は彼女の両親のものだったから。静かに農夫を続けたい夫ウィルフレッドは息子ヘンリーと共謀して妻を殺害、使わなかった井戸に埋める。穏やかな生活が手に入るはずだったのに、ウィルフレッドとヘンリーの生活は少しずつ狂っていく。

「公正な取引」
余命わずかの銀行員ストリーター。ある日道で不気味な男に取引を持ちかけられる。公正な延長を。 悪魔めいた男はストリーターに代償として今後の収入の15%を要求し、さらにいう。「憎んでいる人はおありかな?」

2つの作品はともに胸糞の悪くなるような話で、また何の変哲もないどちらかというとおとなしい男が主人公。2人ともに人生の転機に魔に魅入られたことでその後の人生を大きく変えていく。
この2つの話共通点はいろいろ多い、でもそもそものテーマが同じじゃないかなと感じた。つまり罪の意識の問題が根底に据えられている。だからある意味「1922」のほうは救いはないけれどもまともな男の話で、「公正な取引」のほうは救いはあるけどひどい話になっている。これは文字通り皮肉な話で、良心の呵責を感じないような勝手な男のほうが幸せに生きられるということを示している。この本は嫌な話を描いていて、確かに嫌なエピソードてんこ盛りなのだが、本当に嫌なのは悪人が永らえて、善人が貧乏くじを引いているというある種の真理が読者に提示されているところかもしれない。まあ善人といってもひどい奴には変わりないのだけれども。

相変わらずキングは面白かった。

2013年2月2日土曜日

ドン・ウィンズロウ/ストリート・キッズ

昨年末からはまっているドン・ウィンズロウさんの本。
どうもこれが彼のデビュー作っぽい。
前の読んだ2作品とはちょっと気色が異なる。何って主人公が若い。若いってところが問題で、若いと大人とすんでいる世界が違うからおのずと物語も違ってくるんだと思った。
1,976年元ストリート・キッズのニール・ケアリーは大学院に通う傍ら探偵業を、いや探偵業を営む傍ら大学院に通っている。ある日彼が父と呼ぶジョーから仕事が舞い込む。次期副大統領候補の素行不良の娘アリーが家出をした。党の全国大会までに彼女を取り戻すのだ。期限は3か月弱。ニールは最後に彼女が目撃されたのはロンドンに飛ぶ。
というお話。
ジャンルは一応ハードボイルドということになるのだろうか。
ストリート・キッズというのはホームレスの子らしい。主人公ニールは父親がいなく(ジョーは父親代わり)で、母親は麻薬中毒の売春婦だった。若くして犯罪行為に手を染めていたニールはジョーと出会うことでたくましく明るく成長することができた(とはいえもちろん幸せいっぱいに順風満帆に育ったわけはない)けど、やっぱり自分の家族の問題が人格の形成に暗い影を落としているようだ。
ニールはジョーに仕込まれただけでなく生まれ持った才覚もあってか若くして探偵としての技術は一流だけど、まだ大人になりきれていないから仕事にどうしても若さが出てしまう。個人的な問題と今の仕事を切り離すことができないし、孤独感を抱え込んでいて恋人との間にも一枚壁のようなものを作ってしまう癖に敵でも味方でも探偵として付き合うことができない。頭がいいのに馬鹿にされるとついかっとなって言い返してしまう。
要するに不器用な青い奴なのだが、そこがいい。引き受けた仕事は”自分”の仕事になってしまう。
一方与えられた仕事はまったくもって大人の事情で動いている。情報には裏があるし、まったく真実でない場合もある。ニールは探偵業を自分で選んでやっているわけではない。否が応でも巨大な意志の手先になって動かなければならない。
この対立がドラマになる。犬の力のケラーやフランキーマシーンの冬のフランキーとは違う。完全な汚れ仕事を任務達成のため平然とやってのける冷酷さや、清濁併せのんだ老獪さがニールにはない。過酷な仕事に真っ正直に体当たりで血だらけでボロボロになっても食いついていく。ここの書き方が巧みで、読んでいるこちらとしては主人公を応援したくなってしまう。失敗すらいとおしい。何やってるんだよーともうこれはサポータのようだ。

そしてやはりこの本にも麻薬が出てくる。変な順番で読んでるけどこの著者の本には今のところ必ず麻薬が出てくる。僕は麻薬をやったことがないので詳しくは知らないが、かなり生々しく描写されているように感じる。はっきりと明言されているわけではないので印象だけどウィンズロウさんは麻薬がとても嫌いなのだろうと思う。嫌いというか激しく憎んでいるのではないだろうか。麻薬の持つある種の華々しさを描く一方、必ず仮借のない麻薬の持つ負の面を欠いて売る人、買う人、使う人麻薬に巻き込まれた人々の悲惨さを執念深く書き込んでいるからだ。

前にも書いたけど大人の世界で奮闘する子供の話、なんでも素手で触るからすぐに傷ついてしまう。ラストはとても切ない。
面白かった。
ニール・ケアリーシリーズといってこの後も何冊が出ているようだから読んでみようと思っています。

swaraga/Kataka

日本のロックバンドのファーストアルバム。2012年発表。
川上さんという日本のインディーズ界で著名な方を中心に結成されたバンド。
ジャンルはプログレッシブなギターロックでしょうか。 「プログレッシヴ・ロック、ポスト・ロック、マス・ロック、ドリーム・ポップなどに近接しつつ、女性ヴォーカルの美麗な歌メロを全面に押し出した、ジャンル分け不可能な独自の音世界を繰り広げる~」とのことです。
全体的に程よく乾いたクリアな音質でまとめられていて、パスパスよくたたくドラムに、うねうね動くベース、ギターは変幻自在な感じという感じで派手さはないけど機知に富んだ感じでフレーズフレーズに面白みがあります。
ここに女性のボーカルが乗るのですけれども、この声がとてもいいです。ハイトーンで透明感のある澄んだ感じです。幼い感じなのですがちょっと妖艶な感じ。能天気な馬鹿っぽさと張りつめた真剣さがあって同じ曲の中でもその2極端をさっさっとめまぐるしく移動するような、そんなちょっとアンバランスがあるような印象です。
歌詞は日本語と英語両方、曲によって分けられてます。
全10曲でおほーと聴いているとふわっと終わっちゃいます。聞き惚れているんですね。いいアルバムです。

Disma/Towards the Megalith

アメリカのデスメタルバンドのファーストアルバム。
2011年にProfound Loreからリリース。
派手さはないがかっちりしたオールドスクールデスメタルで、このジャンルでは結構あるけどかなりドゥーム要素が強い。曲の中で疾走したり、逆に落とし込んだりして緩急がつけられている。
演奏もいかにもオールドスクールといった体で 手数が多いが一撃が重いドラム、もこもこしたベース、金属質なギター(結構しめりっけのあるじゃりっとした音質でおもしろい)のアンサンブル。
さてこのバンド特筆すべきはボーカル。一絡げにデス声といっても実際はかなーり質に違いがある。このバンドはグロウルというのだろうか、ひたすら重く、地を這うように低い。これがたまらない。絞り出すような凄味のある唸り声とでもいうか、これがまた声量があるので迫力が凄まじく、この魅力的な声が曲全体にジャケットの絵のようなおどろおどろしさを増加させている一因になっている。
おすすめ。

Seirom/1973

オランダのモーリスさんのプロジェクト。2012年発表。2枚組み。
実はこのモーリスさんGnaw Their Tonguesやその他の変名で碌でもないブラックメタルノイズ作品を沢山リリースしている変態なんです。私も何枚か持ってますが、それはもう酷い(この界隈では褒め言葉)音楽で露悪的かつ(たちの悪いことに)荘厳なまるで聳え立つくその山だといわんばかりの(Gnaw Their Tonguesの目下の最新作のタイトルはEschatological Scatology)作風なのです。
さてそのモーリスさんの新プロジェクトといえばもういい予感がまったくしないわけで、なんだかきれいめなジャケットにしているようだが騙さんぞとばかりに購入したのですが、 まあ度肝を抜かれたわけで。
一言で言うと美しいアルバムに仕上がっております。再生すればあなたの目の前にドリーミィで幻想的な風景が浮かび上がるわけです。
浮遊感のあるドローンぽいシンセ、音も厚く確かにノイジーなのですが繊細な雰囲気に見事に調和したギター、どっしりとして時には早く時にはゆったりとしたドラム、コラージュされたような男女のボイスサンプル、鳥の鳴き声、波の音、鐘の音、これらが渾然一体となりまるで夢のような、それでいて重厚な音が洪水のようにあふれ出てきます。
ジャンルでいえばノイジーなシューゲイザーでしょうか。ぶあつい音圧などはNadjaと通じるところがありますが、あっちほど運命を感じされるような重々しさや孤高といった感じもしないです。
ジャケットの写真のような、実際には決して存在しない過去の輝かしい日々をフィルター越しに眺めているようで、もうため息しか出ないです。

めちゃすばらしいアルバムなのですが、モーリスさんが作りました。なんだか悔しいですね。モーリスさんのしたり顔が目に浮かぶようです。
まあとにかく本当お勧め。