モダンホラーの帝王スティーブン・キングの第三中編集「Full Dark,No stars」からの2編を収録した日本版。残りの2編も近日刊行予定だとか。
現代から想像できる通り帝王の面目躍如の怖い話。
「1922」
1922年ネブラスカ州。相続した土地を工場に売って都会に移り住みたい妻、代々の土地を農夫として耕していきたい夫。妻は夫の主張に聞き耳を持たない。土地は彼女の両親のものだったから。静かに農夫を続けたい夫ウィルフレッドは息子ヘンリーと共謀して妻を殺害、使わなかった井戸に埋める。穏やかな生活が手に入るはずだったのに、ウィルフレッドとヘンリーの生活は少しずつ狂っていく。
「公正な取引」
余命わずかの銀行員ストリーター。ある日道で不気味な男に取引を持ちかけられる。公正な延長を。 悪魔めいた男はストリーターに代償として今後の収入の15%を要求し、さらにいう。「憎んでいる人はおありかな?」
2つの作品はともに胸糞の悪くなるような話で、また何の変哲もないどちらかというとおとなしい男が主人公。2人ともに人生の転機に魔に魅入られたことでその後の人生を大きく変えていく。
この2つの話共通点はいろいろ多い、でもそもそものテーマが同じじゃないかなと感じた。つまり罪の意識の問題が根底に据えられている。だからある意味「1922」のほうは救いはないけれどもまともな男の話で、「公正な取引」のほうは救いはあるけどひどい話になっている。これは文字通り皮肉な話で、良心の呵責を感じないような勝手な男のほうが幸せに生きられるということを示している。この本は嫌な話を描いていて、確かに嫌なエピソードてんこ盛りなのだが、本当に嫌なのは悪人が永らえて、善人が貧乏くじを引いているというある種の真理が読者に提示されているところかもしれない。まあ善人といってもひどい奴には変わりないのだけれども。
相変わらずキングは面白かった。
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