2018年7月15日日曜日

【HANK WOOD AND THE HAMMERHEADS Rock 'n' Roll Salvation(ロックンロールの救世) Japan Tour 2018】@新宿Antiknock

猛暑の真夏、炎天下の三連休初日はこのライブに行くことに決めた。新作が素晴らしかったStruggle for Prideをもう一度見たかったし、韓国のSLANTも気になっていた。HANK WOOD AND THE HAMMERHEADSは今まであまり通ってきたことのない感じのバンドだな、というくらいの気持ちで。

The SLOWMOTIONS
一番手は東京のハードコア・パンクバンドThe SLOWMOTIONS。調べてみると結構長いこと活動しているバンドのようだ。メンバーチェンジとともに音楽性にも変化があったみたいでyoutubeで視聴した音楽と結構違って驚いた。今はドラム、ベース、ギターにボーカルの4人組。シンプルで荒々しいハードコア・パンクだ。低音でゴリゴリくるタイプではなくて、メロディのある歌を歌うタイプの。しっかりとしたドラムの上で、かなり縦横無尽にベースが暴れ、さらにその上に生音をしっかりと残した厚みと色気のあるギターが乗る。こういう音の作り方だと私は今までジャパニーズ・スタイルのハードコアばっかり聞いてきたけど、The SLOWMOTIONS含めてこの日のバンドはそれとは明確に異なっていた。もっとパンクの初期衝動という感じ。重さや速さがないけど、その分メロディと時間を使った贅沢な表現力がある。よく動くベースに、哀愁のあるソロを弾くギター、そして叫びながらもメロディのあるボーカルがなんといってもよかった。歌詞は日本語で力強いが押し付けがましくはない。短い坊主頭のボーカリストは強面で迫力があり、ビールをゴクゴク飲む。

ORdER
続いては名古屋のバンド、ORdER。がっちり強面ドラム、上背のあるベースはちょっとヤンキーっぽい。ギタリストはモヒカン。ボーカリストは目の周りを黒く塗って吸血鬼みたい。スタイルはバラバラなのにみんなキャラが立ってて不思議な統一感があるのが面白い。曲が始まってみるとこれがよかった。ハードコアというよりパンクで、それも初期衝動に満ちたもの。こういう時に音楽的な語彙が貧弱なので困るのだが、初期パンクにあるひねくれた反抗心を装飾性(音と見た目)で表現した、とでも言おうか。weirdで肉体的でありながら精神世界に片足突っ込んだポストパンクの香りもする。音楽的にはあぶらだこの初期(ADK盤の頃)を彷彿とさせる。ストレートなんだけどフックのある感じ。k曲はシンプルな方だと思うが、これに強靭なドラム(楽器の上手下手はわからないのだけどこのバンドのドラムはすごかった。)が加わるとすごい。単純に楽しい。体が縦に横に動き出す。客席もかなり盛り上がっていた。お祭りめいたリズムがあると思う。音的には低音というよりは高音によっていて、ノイズコアっぽい雰囲気も少しあり。ベースはガチガチに硬質な音だったけど、この人がノイズを出していたような気がするんだよな。音を同時に二つ出せるものなのだろうか。格好良かった。

SKIZOPHRENIA
続いては岡山県は津山のハードコアバンド。ボーカルの人はこんな猛暑の日なのに革ジャンをバッチリ着込んでいる。最後まで脱がなかった。つまりどうかしている人なわけで、格好良くないわけがなかった。今日はパンクの日だな!と鈍い私でも気付き始めたのだけど、ここまでの3バンドでも全然個性が違っているから面白い。SKIZOPHRENIAは曲構成的には今日一番シンプルなバンドだった思う。そして一番勢いがあった。パンクとは初期衝動だ!と言わんばかりに矢継ぎ早に曲を演奏していく。そしてドラマー。ドラムは顔で叩くんだと言わんばかりのパワフルかつエモーショナルプレイ。
速い、でもファストコアとかじゃないんだよ、パンクなんだよ。パンクってなんだって、とても私なんかは言えないけどSKIZOPHRENIA含めてこの日のバンドはどれも攻撃性のために削られがちな雑味のような感情が混じり合って、なんとも言えないエモーションを爆発させていた。言葉にできないなんとも言えない悲しい気持ち、誰にぶつけて良いのかわからない怒り、そして即効性のある高揚感と楽しさ、そんな感情を洗練せずにそのままぶつける乱暴なミキサーがパンクなんじゃないのか。そんなことを思った。

SLANT
続いて韓国はソウルのSLANT。少し前にSNSで話題になったこともあり、見たかったバンドの一つ。事前になんとか音源をデジタルで購入しており、また前述のyoutubeの印象からかなりゴリゴリしたモダンなハードコアと思っていたのだが、実際眼前で見てみるとかなり印象も違って驚いた。より生々しい。強烈にダウンチューニングして重低音に特化しているわけではない。ギターの音はかなりソリッドで元の雰囲気が残っているほど。(音源を改めて聞き返してみるとやはりかなり印象が違って面白い。)
このバンドもベビーフェイスの(The Dillinger Escape PlanのGregにちょっと似ている。)ドラマーが強い。途中スティックを飛ばしちゃったり、曲の冒頭で間違えたりして曲が止まってしまう場面もあったけど、軌道に乗ればバッチリ曲を支配していた。やはり皇室のベース、ギターはかなり1曲の中でリフのバリエーションがありメタル的なミュートを使ったリフはほどんと使わない。ジャギジャギしていてときにFugaziを感じさせする。出てくる音はとにかく荒々しいが、全体的にきっちりしておりかなりの練習量を感じた。あくまでもロウであることにこだわる初期ハードコアだ。音がソリッドなのでとにかくボーカルが映える。全編叫びっぱなしで、逆巻く感情を怒りにとぎすまして吐き出すようで恐ろしい。この日一番攻撃的だったのではなかろうか。ハードコア・パンクだからどのバンドも怒りが重要なファクターだが、教唆物をそぎ落とし、ストレートに表現するという意味で一番怒っていたし、どんな国どんな場所でも芯のぶれないタフさを感じてこちらも勇気が出た。格好良かった。

STRUGGLE FOR PRIDE
そして短くない休止の期間を経て新作をリリースしたSTRUGGLE FOR PRIDE。再始動後、新作リリース前に小岩Bushbashで彼らを見たことがあるのだけど、ぎゅうぎゅう詰めで見れたというよりはたまに覗けた、聴けた、という感じだったのでそういった意味でも今日はリベンジ。ギターはもはやノイズ発生機と化し、弦を弾かなくてもひどいノイズを発している。ビリビリする空気の中でテンションが上がる。おそらくこの日のラインナップの中で一番浮いているバンドだろうと思っていた。なるほどいわゆるハードコア・パンクの音とは一線を画すようなノイズの衝撃である。
それでも曲が始まればリフはそれと判別できる。アンサンブル全体でノイズに突き進むという形ではないということに気がつく。ドラムはソリッドで力強いがフリーキーではない。しっかりとリズムを刻んでいく。ベースもパワーがあるがあくまでもソリッドな音だ。そしてボーカル。極端に音量を下げた、という表現がされるボーカルである。確かにこの手のバンドにしては音量は小さいだろう。でも全く聞こえないというわけではない。というか私のいた位置もあるかもしれないが、結構聞こえる!!ボーカルはたまにマイクを通さずに叫んでいる。演奏全体がメッセージなんだと思う、きっと。SFPの音源には歌詞カードはないけど、メッセージ性がないわけではない。むしろ結構個人的とも言えるメッセージはわかりやすく込められていると思う。ノイズに接近しているが、抽象的で芸術的なノイズに接近しているわけではない。あくまでもハードコア・パンクとしての一表現としてノイズを選んだだけだ。ノイズの重たい幕に隠れるようなことはしない。最新アルバムでは多彩なゲストを招いた彼らだが、この日はメンバーだけでの真剣勝負。思っていたよりずっとパンクバンドだった。この日幼い女の子が転換の時からドラムセットのところにいて(銃を撃つときに使うような防音ヘッドセットをしている)、なんとライブが始まっても彼女が楽しそうにシンバルを叩いていた。メンバーのたまに見せる笑顔もよかった。彼らは日常に根ざしたパンクパンドだった。

HANK WOOD AND THE HAMMERHEADS
続いてはこの日トリ。アメリカ合衆国はニューヨーク州ニューヨークシティのハードコアバンド。この日他のバンドは全て、ドラム、ギター、ベース、ボーカルという4人組だったが、HANK WOOD AND THE HAMMERHEADSはこれにキーボード奏者を加えた5人組。
ガレージパンクとは聞いていたがこれほどととは、というくらい生音を残した楽器陣。そこに明らかにガレージのテンションではないボーカルが乗るというミスマッチ。いわばハードコアで発狂したブーストガレージみたいになっており、キーボードが良い雰囲気のリフを奏でる、楽器陣がぶち壊す、みたいなイントロの曲が何個かあってもはやずるくて毎回笑ってしまう。演奏に関していえばハードコア的というよりはもっと芳醇で表現力に幅があるロックンロール的なもの。性急なジャパコアとは異なり、チョーキングもエモーショナルなガレージスタイル。単音リフ、カッティングなどなど曲自体は短いのにこれでもかというくらいアイディアとリフを打ち込んでいく。ギタリストは佇まいもあって華があるが、ベースも負けてはいない。こちらも短い小節の中に可能な限りの動きを詰め込んでくるようだ。キャンキャンやかましいサウンドに痙攣的なボーカルが乗る。一見フリーキーでアヴァンギャルドな印象だが、なかなかどうしてアンサンブルがまとまると、性急でありながらも堂々としてコシのあるのロックンロールになるのだ。早回しでロックンロール・ショウを見ているようだ。どうかしている。楽しくないわけがない。客席はわちゃわちゃである。みんなでステージに押し寄せて、体をぶつけ合うのだ。
クールだが実はホットなギタリストと、明らかに多動的なボーカルのキャラクターが立っていて特にボーカルは動きが独特(芝居がかっているが洗練されていない、コミカルだけど不思議と格好良く思えてくる)だし、何かに追われているようなシャウトとも歌とも取れる歌い方が最高である。ステージにはバケツが据えられており、中には(多分)水が入っている。暑くなったメンバーがバケツの水を頭にかけたり、タオルをひたして汗を拭いたりしている。客席も半端ない暴動具合だったがステージの方も負けてない。どんどんテンションが上がってくる。一体感というのだろうか、ステージと客席の相乗効果でライブにおける理想の状態に近づいていくような感覚がある。徐々に上がっていくこの感じ。The Dillinger Escape Planのラストライブみたいな高揚感。楽しかった。


SLANTの物販でPhoto Zineが売られていたので購入した。一体どういう内容だろうか。どんなメッセージが込められているのだろうか。きっと文字が多いのだろうな。と思って家に帰って見てみるとお酒を飲んでいる、または酔いつぶれているパンクスたち(メンバー含む)の写真集だった。意表を突かれたけど意外な一面を見るようでとても面白かった。
あとはやはりHANK WOOD AND THE HAMMERHEADSのT-シャツとディスコグラフィーのCDを購入した。ディスコグラフィーは歌詞やインタビューが載っており、彼らのことを知るにはうってつけだと思う。紙の封筒というフォーマットも独自性があって楽しい。
なんとなくいったイベントでほとんどのバンドが初見だったが、非常に楽しかった。どのバンドも良かったが、やはりHANK WOOD AND THE HAMMERHEADSはちょっと頭いくつか分飛びぬけているので、迷ってい人はこれからのツアーぜひどうぞ。

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