アメリカの作家の短編小説集。
人類補完計画の元ネタ(と言っても名前だけ)人類補完機構シリーズの全短編を集めたシリーズの最後の一冊。前作からだいぶ時間が空いてしまったがやっとこ読んだ。
前述のエヴァンゲリオンもそうだし、日本のSF系フィクションにおける猫(耳)の女の子の造形に多大な影響を与えた、というより原型になったのがこのスミスの生み出したクメルというキャラクターらしい。(ただしスミスの描写ではクメルには猫耳は付いていない。)クメルは下級民とよばれる、動物を人間の形態に改造し、合わせて知的レベルもそれ並みに引き上げた種族の一員であり(ただし社会的な地位は著しく低く、ほとんど雑用に従事する奴隷といったところである)、今作でもそんな下級民がたくさん出てくる。
SFの良いところはたくさんあるけど、一つに同時期に全く別の世界を同居させることができるということがある。もはや地球上人の住むところには概ね幻想の入り込む隙がなくなってしまったため、たとえフィクションの中でも黄金郷、理想郷、地下世界そんな異世界はなかなか説得力を持って存在できなくなってしまった。ところが未知なるフロンティアである宇宙はそんなことがない。なんせ信じられないような環境があるわけでそれに合わせて様々な世界が考えられるわけだ。今作でもスミスは、宝石でできた惑星(そのため土が非常な貴重品になっている)、常に尋常じゃない風が吹き荒れる嵐の星などの魅惑的な環境を作り上げ、それに合わせた異常な生態系や社会性を構築し、そこにキャラクターを配置することで独特な物語を編み出している。人類を導く補完機構は監視するが統治はしないので基本的には異様な文化でも容認されている。ある意味統一性がない世界では異世界が星の数だけ奇妙に育つのである。今作では魔女が登場し、生まれ故郷を独裁者に乗っ取られた主人公のことを導いてくる。
個人的に面白かったのは人類補完機構以外の短編で、こちらは地球を舞台にしたコメディもあれば、異世界にたどり着く前の長い宇宙旅行を取り扱ったシリアスなものもある。特に後者ではそもそも絶対的な孤独を強いられる宇宙空間で長時間人間が生き残れるのか?という問いがテーマになっている短編が二つあって面白かった。社会的な動物である人間は本質的に単体で生きることができないのだ。「三人、約束の地へ」でもスミスの考える人間の本質について書かれている。つまり人体をいくら改造、改変しても人間の本質的な幸福とは他社とつながりの間にしかないという。
作者の逝去により人類補完機構シリーズは未完のままである。ただはっきりとした筋があるわけではないから消化不良感はない。
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