アメリカ合衆国はオレゴン州ユージーンのドゥームメタルバンドの8枚目のアルバム。
2018年にRelapse Recordsからリリースされた。
YOBは1996年に結成されたバンドでギター/ボーカルのMike Scheidtが唯一のオリジナルメンバー。メンバーの変遷はあるものの一貫してトリオ編成を保っているようだ。2006年に一回解散し2008年に再結成してからはメンバーは変わっていない。
バンド名はもちろんキリスト教のヨブからとったのだろう。ヨブは厚い神への忠誠をサタンに試されていろいろな苦痛を与えられた人だ。(その後忠誠は本物だと認められ神から贈り物をもらってもいる。)
2014年に発売された「Clearing the Path to Ascend」はいくつかの媒体でその年のベストアルバムに選ばれていたと記憶している。私ももちろん良いな~と思ったんだけどあとから数えてみると一つ前の「Atma」(2011)の方がよく聴いていた。
今回はどうしようかな?と思っていたのだけどyoutubeで全曲公開されている冒頭1曲め「Ablaze」を聴いたら良かったのでそのままデジタル版を購入した。
ドゥームメタルをプレイするバンドだが、重さ、暗さ至上主義ではなく、ストーナー・ロックの延長線上にある埃っぽくも温かみのあるふくよかな音で長い尺の曲をマイペースに演奏していく。重たさのための重たさ、遅さのための遅さ、いわば形式化したジャンルの中で無計画に産み落とされた音楽というよりは、自然にこの長さに落ち着いたという印象。というのも無駄な反復や冗長な展開はほぼないからだ。
Mike Scheidtは年季の入ったヒッピーか仙人のような風貌だが、声もかなり独特でかなり高い。低音も時として用いるけど基本的にはややもこっとした高音ボーカルを多用する。ただし清涼はかなりあって迫力がある。ちなみに「Atma」の1曲めを聴いたときは女性が歌っているのかと思った。
前作はやや宗教的というか高尚で難解な作りだったように思うが、今回は内容が個人的に柔らかくなっている。曲は相変わらず長いし、遅いのだがサイケデリックさ、プログレッシブさは鳴りを潜め、代わりに歌が大胆に充填されている。どの曲にも静かなパートが織込められ、楽器陣の音の作りもあって非常にオーガニックな印象がある。元々コード感のある弾き方を多用するバンドだったと思う(今作でもフレーズ終わりに高音要素強いキャーンって感じのコードびきを入れるやり方は踏襲されている)けど、今作ではそのコードの運び方が大変メロディアスだ。5曲め「Beauty in Falling Leaves」(落葉の美しさ)という曲名も非常に印象的だ。(曲もゆったりとしたアルペジオを背景にクリーンで歌い上げるというエクストリーム性とは真逆にある。)どの曲も明るいというのではもちろんないのだが、うちに強くエネルギーを秘めており、それがゆっくりと体動していくようだ。フロントマンのMike Scheidtは2016年の暮れに大病を患い死にかけたことが少なからず影響しているのではないだろうか。落ち葉のような極小の中に、宇宙の生命の神秘がそのまま閉じ込めれているのを見る、まさにそんな感じでで内なる宇宙が爆発的に拡大していくような壮大さが余すことなく表現されているラストの3曲は素晴らしい。(2曲め、3曲めはヘヴィかつミニマルなリフが持ち込まれていて対比があって面白い。)ただ個人的にはやっぱりちょっと呪術めいた1曲め「Ablaze」がとても好きだ。
「Atma」以降では一番好きかな、というかここ最近ではとても素晴らしいアルバムだと思う。是非どうぞ。
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